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第4章
第1話(3)
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「おい、再会を喜ぶのはいいが、俺の大事な相棒を抱き潰すなよ?」
苦笑まじりの忠告に、マティアスはパッと腕を放して大袈裟に飛び退く。それからあたふたと、リュークとシリルを交互に見やって弁解した。
「すっ、すすすっ、すいやせんっ!! オオオ、オレとしたことが、ついっ。あんまり嬉しかったもんで、その、うっかり兄ィの大事な御方にっ。た、他意はありませんので、全然!」
真っ赤になる強面の大男に、シリルは涼しい顔で肩を竦める。リュークもまた、微笑んでいた。
「ところでいまさらだが、俺たちも加わっていいか?」
あらためて確認されて、マティアスを筆頭に顔相の悪い面々がいっせいにあわてふためきだした。
男たちは大急ぎですぐ横のテーブルから椅子をふたつ調達すると、大量の酒瓶やグラス、食べかけの料理が載ったいくつもの大皿で溢れかえったテーブルを手早く片付ける。そして、調理場から無理やり強奪してきた布巾でテーブルの一角を丁寧に拭くと、並べた椅子を引いてVIPを迎える準備を整えた。
「こ、こ、こんな小汚い店で恐縮ですが、こちらでよろしければどうぞっ!」
裏返った声で、椅子を引くひとりが席を勧める。シリルはやりすぎだと苦笑を深くした。
「兄ィ、ほんとにオレらと一緒でかまわないんで?」
「そのつもりで来てると言っただろう? 食事もこれからだし、ちょうどいい」
「いや、けど、こんなとこの食事、お口に合わないんじゃ……」
「なにを言ってる。おまえたちとはじめて会った場所も、似たような店だったろう? 俺はもともと、こういう店にこそ馴染みが深い」
リュークにメニューをひろげて見せながら、シリルは平然と応えた。
マティアスが傍らに陣取るように着座したのを機に、他の連中も遠慮がちに席に着いていく。その視線は、遙か雲の上の存在であるはずの現国王と、この世のものとも思えぬ艶麗な容姿の連れ合いに注がれつづけた。
「好きなのを選んでいいぞ」
「はい。あの、でも、よくわからなくて……」
「この店のオススメはなんだ、マティアス?」
「あ~、そうですね、つまみ系メインで、どれも手頃で味もそこそこですが、腹持ちするようなのだと煮込み系はそれなりかと」
「そうか。それじゃメインは子牛肉の赤ワイン煮にするか。前菜の盛り合わせとシーフードサラダ。トマトとチーズのブルスケッタ、オムレツとこのあたりのタパスはどうだ?」
「それでいいです」
「あとは飲み物だな。リューク、そういやおまえ、アルコールは?」
「わかりません。飲んだことがないので」
「サングリア程度なら、いけるんじゃないか? とりあえず注文するから、ダメだったら無理しなくていい。あとはマティアス、おまえたちも酒と料理を好きなだけ追加しろ。今夜は俺の奢りだ」
「あ、いや、兄ィ、そんなわけにはっ。オレらは大丈夫ですんで」
「いいから遠慮するな。運び屋時代に稼いだ金がそれなりにある。こういうときは、ゲストに花を持たせるもんだ」
「はあ……、いや、でも……」
やりとりをボケッと眺めていた――というより、ほぼほぼ珍客ふたりに目を奪われていた男たちは、そのうちのひとり、シリルに視線を向けられていっせいに飛び上がった。
「いま言ったとおりだ。好きなだけ飲み食いしていいぞ」
「は、はははっ、はいっ。こっ、こっ、光栄でありますっ!」
「シリル、でもお酒は」
遠慮がちに袖を引く美貌のヒューマノイドを顧みて、シリルは口の端を上げる。
「わかってるよ。飲酒運転は法律で禁じられてるんだろ? けど、1杯ぐらいは見逃してくれるよな?」
言って、店の人間を呼び立てる。やってきた店員に向かって、シリルは上機嫌で酒と料理を次々に注文していった。
苦笑まじりの忠告に、マティアスはパッと腕を放して大袈裟に飛び退く。それからあたふたと、リュークとシリルを交互に見やって弁解した。
「すっ、すすすっ、すいやせんっ!! オオオ、オレとしたことが、ついっ。あんまり嬉しかったもんで、その、うっかり兄ィの大事な御方にっ。た、他意はありませんので、全然!」
真っ赤になる強面の大男に、シリルは涼しい顔で肩を竦める。リュークもまた、微笑んでいた。
「ところでいまさらだが、俺たちも加わっていいか?」
あらためて確認されて、マティアスを筆頭に顔相の悪い面々がいっせいにあわてふためきだした。
男たちは大急ぎですぐ横のテーブルから椅子をふたつ調達すると、大量の酒瓶やグラス、食べかけの料理が載ったいくつもの大皿で溢れかえったテーブルを手早く片付ける。そして、調理場から無理やり強奪してきた布巾でテーブルの一角を丁寧に拭くと、並べた椅子を引いてVIPを迎える準備を整えた。
「こ、こ、こんな小汚い店で恐縮ですが、こちらでよろしければどうぞっ!」
裏返った声で、椅子を引くひとりが席を勧める。シリルはやりすぎだと苦笑を深くした。
「兄ィ、ほんとにオレらと一緒でかまわないんで?」
「そのつもりで来てると言っただろう? 食事もこれからだし、ちょうどいい」
「いや、けど、こんなとこの食事、お口に合わないんじゃ……」
「なにを言ってる。おまえたちとはじめて会った場所も、似たような店だったろう? 俺はもともと、こういう店にこそ馴染みが深い」
リュークにメニューをひろげて見せながら、シリルは平然と応えた。
マティアスが傍らに陣取るように着座したのを機に、他の連中も遠慮がちに席に着いていく。その視線は、遙か雲の上の存在であるはずの現国王と、この世のものとも思えぬ艶麗な容姿の連れ合いに注がれつづけた。
「好きなのを選んでいいぞ」
「はい。あの、でも、よくわからなくて……」
「この店のオススメはなんだ、マティアス?」
「あ~、そうですね、つまみ系メインで、どれも手頃で味もそこそこですが、腹持ちするようなのだと煮込み系はそれなりかと」
「そうか。それじゃメインは子牛肉の赤ワイン煮にするか。前菜の盛り合わせとシーフードサラダ。トマトとチーズのブルスケッタ、オムレツとこのあたりのタパスはどうだ?」
「それでいいです」
「あとは飲み物だな。リューク、そういやおまえ、アルコールは?」
「わかりません。飲んだことがないので」
「サングリア程度なら、いけるんじゃないか? とりあえず注文するから、ダメだったら無理しなくていい。あとはマティアス、おまえたちも酒と料理を好きなだけ追加しろ。今夜は俺の奢りだ」
「あ、いや、兄ィ、そんなわけにはっ。オレらは大丈夫ですんで」
「いいから遠慮するな。運び屋時代に稼いだ金がそれなりにある。こういうときは、ゲストに花を持たせるもんだ」
「はあ……、いや、でも……」
やりとりをボケッと眺めていた――というより、ほぼほぼ珍客ふたりに目を奪われていた男たちは、そのうちのひとり、シリルに視線を向けられていっせいに飛び上がった。
「いま言ったとおりだ。好きなだけ飲み食いしていいぞ」
「は、はははっ、はいっ。こっ、こっ、光栄でありますっ!」
「シリル、でもお酒は」
遠慮がちに袖を引く美貌のヒューマノイドを顧みて、シリルは口の端を上げる。
「わかってるよ。飲酒運転は法律で禁じられてるんだろ? けど、1杯ぐらいは見逃してくれるよな?」
言って、店の人間を呼び立てる。やってきた店員に向かって、シリルは上機嫌で酒と料理を次々に注文していった。
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