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第1章
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「考えたら俺は、自分の立場を利用して、はじめからずっとやりたい放題やってる」
シリルは呟いて、低く喉を鳴らした。
「天然水の利権放棄の問題だけでなく、多忙を理由に宮廷内の面倒な決まりごとや慣例を片っ端から排除して、簡略化してきたからな。格式や伝統を重んじて大切に守ってきた連中からすれば、到底許しがたく、耐えがたいことだっただろう」
「あなたは充分すぎるほどご自身の責任を果たされた。ベルンシュタイン侍従長は、そのように評価しておいででした」
「俺が好き勝手できたのは、あいつのおかげだな。あいつが全面的に俺の味方になって、フォローしてくれた。だからこそ俺は、自由にやってくることができた」
細かなことに目が行き届く侍従長は、王宮の決まりごとに関する知識を持たないシリルをつねに補佐し、取り組むべき案件に専念できるよう、居心地のいい環境を整えてくれていた。穏やかな老人が見せる控えめで慎ましやかな厚意と忠誠が、とてもありがたかった。
「俺は自分の意に添わない境遇を、無理やり押しつけられたとは思ってない。決めたのは俺自身で、自分のしたことにも充分納得してる」
はじめから『鍵』としての役目を強いられ、その目的のためだけに生み出された存在であるリュークとはわけが違う。だからこそ、そのしがらみがなくなったいま、リュークには自分の望む人生を存分に生きてほしいと願わずにはいられなかった。そのためにしてやれることがあるなら、いくらでも手を貸すつもりだった。
「ところでおまえ、独りで寝られるようになったか?」
唐突な話題転換に、クリスタル・ブルーの瞳が不思議そうに瞬く。それでも素直に頷いた。
「怖い夢に悩まされることはなくなったか?」
「はい」
「そうか、ならよかった。話なら、この先いくらでもできる。花火も終わったことだし、長旅で疲れただろう。つづきはまた明日だ。そろそろ休むとしよう。先に横になってろ」
「あなたは?」
問われて、シリルは笑った。
「部屋着に着替えてくる。風呂上がりに、そのままおまえに引っ張ってこられたからな」
軽く両手をひろげてバスローブ姿を強調してみせると、「あ……」と呟いたリュークはたちまち頬を紅潮させた。
「すみません。ちょうど打ち上げがはじまる時間だったので」
「ずっと楽しみにしてたからな。気にするな」
言って、シリルはドレッシングルームに向かおうとする。その袖口を、遠慮がちに引かれた。
「あの……」
振り返ったシリルを見て、美貌のヒューマノイドは口籠もった。
「なんだ? ベッドなら好きなほうを選んでいいぞ。窓際でも壁際でも、寝やすいほうを使え」
言われて、ますます所在なげに言いよどむ。そんな様子をしばし眺めやったシリルは、やがてその頭に軽く手を置いた。
「先にベッドに入ってろ。すぐに行く」
言われたことに驚いたように、伏せられていた目線が上がる。シリルの表情から言葉の意味を理解したリュークの口許に、たちまち嬉しそうな笑みが浮かんだ。
「明日は好きなだけ付き合うから、どこをまわりたいか考えておけよ」
「はい」
明るく応えるその様子に、シリルは目もとをなごませた。
シリルは呟いて、低く喉を鳴らした。
「天然水の利権放棄の問題だけでなく、多忙を理由に宮廷内の面倒な決まりごとや慣例を片っ端から排除して、簡略化してきたからな。格式や伝統を重んじて大切に守ってきた連中からすれば、到底許しがたく、耐えがたいことだっただろう」
「あなたは充分すぎるほどご自身の責任を果たされた。ベルンシュタイン侍従長は、そのように評価しておいででした」
「俺が好き勝手できたのは、あいつのおかげだな。あいつが全面的に俺の味方になって、フォローしてくれた。だからこそ俺は、自由にやってくることができた」
細かなことに目が行き届く侍従長は、王宮の決まりごとに関する知識を持たないシリルをつねに補佐し、取り組むべき案件に専念できるよう、居心地のいい環境を整えてくれていた。穏やかな老人が見せる控えめで慎ましやかな厚意と忠誠が、とてもありがたかった。
「俺は自分の意に添わない境遇を、無理やり押しつけられたとは思ってない。決めたのは俺自身で、自分のしたことにも充分納得してる」
はじめから『鍵』としての役目を強いられ、その目的のためだけに生み出された存在であるリュークとはわけが違う。だからこそ、そのしがらみがなくなったいま、リュークには自分の望む人生を存分に生きてほしいと願わずにはいられなかった。そのためにしてやれることがあるなら、いくらでも手を貸すつもりだった。
「ところでおまえ、独りで寝られるようになったか?」
唐突な話題転換に、クリスタル・ブルーの瞳が不思議そうに瞬く。それでも素直に頷いた。
「怖い夢に悩まされることはなくなったか?」
「はい」
「そうか、ならよかった。話なら、この先いくらでもできる。花火も終わったことだし、長旅で疲れただろう。つづきはまた明日だ。そろそろ休むとしよう。先に横になってろ」
「あなたは?」
問われて、シリルは笑った。
「部屋着に着替えてくる。風呂上がりに、そのままおまえに引っ張ってこられたからな」
軽く両手をひろげてバスローブ姿を強調してみせると、「あ……」と呟いたリュークはたちまち頬を紅潮させた。
「すみません。ちょうど打ち上げがはじまる時間だったので」
「ずっと楽しみにしてたからな。気にするな」
言って、シリルはドレッシングルームに向かおうとする。その袖口を、遠慮がちに引かれた。
「あの……」
振り返ったシリルを見て、美貌のヒューマノイドは口籠もった。
「なんだ? ベッドなら好きなほうを選んでいいぞ。窓際でも壁際でも、寝やすいほうを使え」
言われて、ますます所在なげに言いよどむ。そんな様子をしばし眺めやったシリルは、やがてその頭に軽く手を置いた。
「先にベッドに入ってろ。すぐに行く」
言われたことに驚いたように、伏せられていた目線が上がる。シリルの表情から言葉の意味を理解したリュークの口許に、たちまち嬉しそうな笑みが浮かんだ。
「明日は好きなだけ付き合うから、どこをまわりたいか考えておけよ」
「はい」
明るく応えるその様子に、シリルは目もとをなごませた。
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