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第12章 洗脳
第4話(3)
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「だからあ、王室師団のお偉い団長さんが下ろしちゃった邪魔な柵、ぜぇんぶ取っ払っちゃった。ついでにエレベーターも動かして、建物の出入り口も全部開放済み~」
耳障りなけたたましい嗤い声が、イヤホンから漏れ聞こえてくる。ブツリと通話を切ったシリルは、猛然と走り出した。
「兄ィッ!」
通話からわずか2分。到着した南棟12階のエレベーターホールは、すでに目を覆うような惨状がひろがっていた。一面血の海の中、ヒューマノイドの追いこみ役を担当していた15名の近衛兵のうち、人の形を保っていたのは半数にも満たなかった。
「げえっ」
あまりの情景と強烈な血腥い臭気に、口許を覆ったマティアスがホールの端まですっとんでいく。ざっと見渡した中で、シリルはふと目を留め、床に倒れ伏すひとりの近衛兵の傍らに膝をついた。
「追いこんだヒューマノイドたちはどうした?」
「あ……、下、に……」
「外だな?」
シリルの問いに、血まみれの顔を苦痛に歪めながら若い近衛兵は頷いた。
「わかった。あとは任せろ」
シリルの言葉を聞くと、近衛兵は安心したようにがっくりと頭を床に落とした。立ち上がったシリルは、ホールの端を顧みた。
「マティアス、悪いがまた、ブラック・バードを借りるぞ」
声をかけられた巨漢は、かろうじて吐くのを堪えつつも、柱に手をついて息も絶え絶えといった様子を見せていたが、あわてて蒼い顔を振り向けた。
「殺人鬼が7体、街に放たれる。被害が最小限で済むうちに、必ず仕留める」
「オレも行きます!」
身を翻したシリルのあとに、マティアスは必死の様子で従った。
制御室をラーザが占拠している以上、エレベーターは使えない。非常階段に向かったシリルは、階段を駆け下りている最中にふたたびインカムに別回線からの通信を受けた。
「ミスター・ヴァーノン、私です」
聞こえてきたのは、イヴェールの声だった。
「どうした?」
「おとりこみ中かと思いますので、手短に申し上げます。こちらの独断で、回収したあなたの所有機を王都に運ばせました。王室管理局本部の正面玄関前に待機させてあります」
全速で階下に向かっていたシリルの目がわずかに見開かれ、直後に口唇の両端が吊り上がった。
「いいタイミングだ。助かった」
「ついでと申し上げてはなんですが、客人もひとり、同行させております」
「客?」
「人工知能のエキスパートです。なにかのお役に立てるかと」
「文句なしに、いい判断だ。あとで必ず礼ははずむ」
「恐れ入ります」
通話が切れるとともに、半瞬遅れてブツリという雑音が混じった。いまのやりとりをラーザが傍受していたことは間違いない。ふたつの情報のうち、どちらに反応するかは考えるまでもないことだった。
前方を見据えるシリルの瞳に、勁い光が宿った。
耳障りなけたたましい嗤い声が、イヤホンから漏れ聞こえてくる。ブツリと通話を切ったシリルは、猛然と走り出した。
「兄ィッ!」
通話からわずか2分。到着した南棟12階のエレベーターホールは、すでに目を覆うような惨状がひろがっていた。一面血の海の中、ヒューマノイドの追いこみ役を担当していた15名の近衛兵のうち、人の形を保っていたのは半数にも満たなかった。
「げえっ」
あまりの情景と強烈な血腥い臭気に、口許を覆ったマティアスがホールの端まですっとんでいく。ざっと見渡した中で、シリルはふと目を留め、床に倒れ伏すひとりの近衛兵の傍らに膝をついた。
「追いこんだヒューマノイドたちはどうした?」
「あ……、下、に……」
「外だな?」
シリルの問いに、血まみれの顔を苦痛に歪めながら若い近衛兵は頷いた。
「わかった。あとは任せろ」
シリルの言葉を聞くと、近衛兵は安心したようにがっくりと頭を床に落とした。立ち上がったシリルは、ホールの端を顧みた。
「マティアス、悪いがまた、ブラック・バードを借りるぞ」
声をかけられた巨漢は、かろうじて吐くのを堪えつつも、柱に手をついて息も絶え絶えといった様子を見せていたが、あわてて蒼い顔を振り向けた。
「殺人鬼が7体、街に放たれる。被害が最小限で済むうちに、必ず仕留める」
「オレも行きます!」
身を翻したシリルのあとに、マティアスは必死の様子で従った。
制御室をラーザが占拠している以上、エレベーターは使えない。非常階段に向かったシリルは、階段を駆け下りている最中にふたたびインカムに別回線からの通信を受けた。
「ミスター・ヴァーノン、私です」
聞こえてきたのは、イヴェールの声だった。
「どうした?」
「おとりこみ中かと思いますので、手短に申し上げます。こちらの独断で、回収したあなたの所有機を王都に運ばせました。王室管理局本部の正面玄関前に待機させてあります」
全速で階下に向かっていたシリルの目がわずかに見開かれ、直後に口唇の両端が吊り上がった。
「いいタイミングだ。助かった」
「ついでと申し上げてはなんですが、客人もひとり、同行させております」
「客?」
「人工知能のエキスパートです。なにかのお役に立てるかと」
「文句なしに、いい判断だ。あとで必ず礼ははずむ」
「恐れ入ります」
通話が切れるとともに、半瞬遅れてブツリという雑音が混じった。いまのやりとりをラーザが傍受していたことは間違いない。ふたつの情報のうち、どちらに反応するかは考えるまでもないことだった。
前方を見据えるシリルの瞳に、勁い光が宿った。
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