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第12章 洗脳
第3話(3)
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ケネスを庇うように立った護衛の男たちが、侵入者に銃口を向ける。だが、男の反応は彼らより半瞬早かった。銃声が響いたときには護衛のひとりが倒れ、いまひとりは一瞬にして顎を蹴り上げられて数メートルの彼方へ吹っ飛んでいた。最後のひとりは背後をとられ、銃を構える右肩の関節を瞬く間にはずされて蹲る。その間、わずか数秒。
扉の入り口に、山賊のような風体の巨漢に羽交い締めにされるハロネンの姿があった。
首筋に手刀を叩きこんで3人目の護衛を床に転がした男は、息ひとつ乱すことなく間合いを詰め、ケネスの目の前に立った。あまりのことに息を呑んだケネスは、しかしすぐさま己を取り戻してニタリと嗤った。
「思いのほか早かったな。どうやってここまで何重ものセキュリティを突破してきた、シリル・ヴァーノン」
「外には王室師団の連中が待機している。観念しろ、ケネス」
シリルの言葉で、背後に控える王室府の存在を嗅ぎとったケネスは、浮かべた薄ら笑いに毒を滲ませた。
「近衛兵を従えて、すでに国王気取りか。いい気なものだな」
「そんなもん気取ったおぼえはねえよ。俺はおまえが横からかっさらっていきやがった人質を取り返しにきただけだ」
「そうか。それはまた仕事熱心で感心なことだ。だが、ひと足遅かったな」
「なにっ?」
「おまえが親切心で感情などという余計なオプションを付け加えたヒューマノイドは、すでにリセット済みだ」
言って、半歩わきによけたケネスは、背後に佇むヒューマノイドを顧みた。
「リュークッ」
その姿を目にしたシリルが鋭く呼ばわる。だが、白皙の麗容をコーティングする無表情に、変化はあらわれなかった。
琥珀の瞳に愉悦の色が浮かび上がる。
「この男がシリル・ヴァーノンだ。知っているか?」
「いいえ、マスター」
「リューク! おい、リュークッ! しっかりしろっ」
近づいて腕をとったシリルが、軽く揺さぶりながら正気づかせようと頬を叩いた。しかし、ビスクドールめいた無表情が崩れることはなかった。白い頬にはすでに、強く叩かれた痕がくっきりと印されていた。
ガラス玉のようなブルー・アイが、シリルを通り越した虚空を見つめる。
リュークの腕をとったまま、シリルはケネスを顧みた。その目に、激しい怒りが浮かび上がった。
「貴様…っ、こいつにいったいなにをしたっ!?」
「なにをしたか、だと? 聞いていなかったのか? おまえがした余計なことをリセットした。そう説明したはずだ」
ケネスはクッと喉を鳴らした。
「ヒューマノイドごときが人間とおなじように思考し、感情やら心やらを振り翳して命令に背いたうえに反抗的な態度をとるなど言語道断。おまえのせいでその人形は、人間と対等だなどと思い上がっていたようなのでな。余計な記憶ごと排除して、従順になるよう設定しなおした。新しい主を私と認識させたうえでな」
「ケネスッ、き、さま……っ」
シリルの全身から瞋恚が噴き上がった。
「なにを怒る必要がある。もともとそれの役割は、王位継承者なきこの時代における次代の王を定めること。情に訴えることと力尽くで言いなりにすること。おまえがしたことと私がしたこととのあいだに、どんな違いがあるというのだ」
「やかましいっ! だれが王位の話なんぞしてるっ。そんなに座りたきゃ、空いた椅子にとっとと勝手に座れっ!」
激昂するシリルを、ケネスは冷然と見やった。
「それができるならば、とうにしている。だが、玉座を得るためには天然水の利権をモノにしなければならない。そのための『鍵』が、それの中に仕込まれている」
「だからなんだ」
シリルは低く言い放った。
扉の入り口に、山賊のような風体の巨漢に羽交い締めにされるハロネンの姿があった。
首筋に手刀を叩きこんで3人目の護衛を床に転がした男は、息ひとつ乱すことなく間合いを詰め、ケネスの目の前に立った。あまりのことに息を呑んだケネスは、しかしすぐさま己を取り戻してニタリと嗤った。
「思いのほか早かったな。どうやってここまで何重ものセキュリティを突破してきた、シリル・ヴァーノン」
「外には王室師団の連中が待機している。観念しろ、ケネス」
シリルの言葉で、背後に控える王室府の存在を嗅ぎとったケネスは、浮かべた薄ら笑いに毒を滲ませた。
「近衛兵を従えて、すでに国王気取りか。いい気なものだな」
「そんなもん気取ったおぼえはねえよ。俺はおまえが横からかっさらっていきやがった人質を取り返しにきただけだ」
「そうか。それはまた仕事熱心で感心なことだ。だが、ひと足遅かったな」
「なにっ?」
「おまえが親切心で感情などという余計なオプションを付け加えたヒューマノイドは、すでにリセット済みだ」
言って、半歩わきによけたケネスは、背後に佇むヒューマノイドを顧みた。
「リュークッ」
その姿を目にしたシリルが鋭く呼ばわる。だが、白皙の麗容をコーティングする無表情に、変化はあらわれなかった。
琥珀の瞳に愉悦の色が浮かび上がる。
「この男がシリル・ヴァーノンだ。知っているか?」
「いいえ、マスター」
「リューク! おい、リュークッ! しっかりしろっ」
近づいて腕をとったシリルが、軽く揺さぶりながら正気づかせようと頬を叩いた。しかし、ビスクドールめいた無表情が崩れることはなかった。白い頬にはすでに、強く叩かれた痕がくっきりと印されていた。
ガラス玉のようなブルー・アイが、シリルを通り越した虚空を見つめる。
リュークの腕をとったまま、シリルはケネスを顧みた。その目に、激しい怒りが浮かび上がった。
「貴様…っ、こいつにいったいなにをしたっ!?」
「なにをしたか、だと? 聞いていなかったのか? おまえがした余計なことをリセットした。そう説明したはずだ」
ケネスはクッと喉を鳴らした。
「ヒューマノイドごときが人間とおなじように思考し、感情やら心やらを振り翳して命令に背いたうえに反抗的な態度をとるなど言語道断。おまえのせいでその人形は、人間と対等だなどと思い上がっていたようなのでな。余計な記憶ごと排除して、従順になるよう設定しなおした。新しい主を私と認識させたうえでな」
「ケネスッ、き、さま……っ」
シリルの全身から瞋恚が噴き上がった。
「なにを怒る必要がある。もともとそれの役割は、王位継承者なきこの時代における次代の王を定めること。情に訴えることと力尽くで言いなりにすること。おまえがしたことと私がしたこととのあいだに、どんな違いがあるというのだ」
「やかましいっ! だれが王位の話なんぞしてるっ。そんなに座りたきゃ、空いた椅子にとっとと勝手に座れっ!」
激昂するシリルを、ケネスは冷然と見やった。
「それができるならば、とうにしている。だが、玉座を得るためには天然水の利権をモノにしなければならない。そのための『鍵』が、それの中に仕込まれている」
「だからなんだ」
シリルは低く言い放った。
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