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第12章 洗脳

第3話(2)

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「では、あらためて命じる」

 コンピュータの稼働音のみが響く室内で、ケネスは口を開いた。

「おまえの中にある『鍵』を、私に差し出せ」
「『鍵』……」
「そうだ。デウス・エクス・マキナ=プロトタイプHC――別称クラヴィス。ローレンシア王家は第8代国王、クリストファー・ガブリエルの代で途絶えた。空席の玉座には、次なる君主の存在が必要だ。おまえの内に在る、新王即位に必要となる『王の資格』を私によこせ」

 これでようやく、決着がつく。

『心』の存在を消去された人形の顔を見やりながら、ケネスは思った。
 王の承認なしには操作することさえままならない、王室管理局唯一のシステム。

 天然水の専売、利権に関する管理を一括しておこなうこのシステムは、通常、算出されるデータを記録し、参照することしかできないようプログラムされていた。管制室勤務のオペレーターはもちろん、ケネスですらそれは例外ではなかった。中央制御室の中にこのシステムが存在することによって、王室の財政を管理する部署の長という地位にありながら、ケネスはつねに王の下位に置かれ、隷従れいじゅうを強いられていることを思い知らされつづけてきた。
 それはすなわち、子供時代に味わった辛酸と悲哀、怨恨へと繋がっていった。

 人類の頂点に立ちたかったわけではない。栄華を極め、すべての人間をひざまずかせる権力を欲したわけではない。ただ、ゆるせなかった。国の在りかたも、王の存在も。すべて――

 自分をまっすぐに見据える従順な操り人形が口を開く。長い悪夢が、これで終わる。

「できません」

 ケネスの琥珀の瞳が、ゆっくりと見開かれた。

「――なんだと?」
「その命令に、従うことができません」
「なぜだっ!?」

 無意識のうちにヒューマノイドの両肩を掴んだケネスは、乱暴に揺さぶりながら怒声を発した。だが、眼前の無表情は動かなかった。

「その命令を実行するためには、ある特定の条件をクリアしてロック解除をおこなう必要があります」
「ある、特定の条件……? なんだそれは?」
「私自身にも情報がもたらされていないため、お答えすることができません」
「この……っ」
「長官!」

 思わずカッとして手を振り上げたが、ハロネンの制止の声でケネスはなんとか思いとどまった。たったいまチップを埋めこむ処置を施したばかりである。これで不具合が発生しては元も子もない。舌打ちしたケネスは、ヒューマノイドの躰を邪険に突き飛ばした。

「もう一度医療班を呼べ。ここまで来たら切り刻んでもかまわん。なんとしてでもデータを析出せきしゅつさせろ。今日中にだ!」

 ケネスの剣幕に恐れをなしたハロネンは、ただちに医療スタッフを呼び寄せるべく部屋の外へ飛び出していった。

 ――おのれ、ユリウス……ッ。

 琥珀の双眸に、憎悪と怒りが燃えさかる。ドア向こうで、廊下を走る複数のあわただしい足音と男たちの緊迫した怒声のようなものが聞こえてきた。その様子に、どこか不穏な気配を感じとる。と、次の瞬間、室内にいた護衛の者たちがいっせいに身構えた。直後、近づいてきた喧噪とともに蹴破るようにして扉が開かれる。正面に立っていたのは、鞭のようにしなやかな体躯の、黒髪の若い男だった。
 シュミット研究所爆破直後の映像で、幾度となく目にした姿――
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