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第11章 心の在処
第2話(3)
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だが、差し伸べた手を、ユリウスは掴まないどころか振り払いさえした。
『なんという恐ろしいことをお考えなのです』
美しい貌に嫌悪を浮かべ、真っ向から異を唱えて全霊で自分の申し出を拒んだ。
聞かなかったことにする。だから心をあらためよ。そう、賢しらに意見までして、決して受け容れることをしなかった。
なにが悪いというのだ。天然水という利権の上に胡座をかき、栄華を得る国王に、いったいどれほどの価値があるという。ローレンシアというあらたな世界で、人類を導く先駆者として登りつめたことを笠に着て、もっとも貴重な資源である生命の源を専有する暴挙に出た悪辣な男の血筋、子孫。それこそが国王と呼ばれる者であるにすぎないというのに。
ユリウス、おまえはこの国の玉座に座るという、ただそれだけの理由で、そこまで盲目的に国王を支持し、忠誠を誓うというのか。おまえほどに賢き者が、なぜ――
「今度こそ拒むことは許さん。おまえの力で私を玉座へ押し上げろ」
「いやですっ! 放してっ」
抗うヒューマノイドを、ケネスは苛立たしげに押さえこんだ。
「たかが人形の分際で人間の意に逆らうとは、いったいなにを勘違いしている。精巧に造られすぎたことで、己の立場すらわからぬほどに増長したか」
そのケネスの顔を、リュークは怒りをこめて睨み返した。
――笑えよ、リューク。気に入らないことがあれば、怒ったっていい。
シリルの言葉が脳裡に浮かぶ。おまえは人形なんかじゃない。人間に造られた部分があったとしても、自分の頭で考え、感じることができる『心』を持つ者だ。もっと素直になっていい。
自分を導いてくれた、唯一の存在。
「私が何者であろうと、私にも感じる心があり、意思があります。仮に私の中にあるデータが王位を決定づけるために必須のものであったとしても、私はそれを、あなたのために解き放つことはしません。絶対に!」
断言した途端、その頬が容赦なく張られ、リュークの躰は数メートル飛んで床に叩きつけられた。
「おいおい、怪我させちゃマズいんじゃなかったのかよ」
入り口付近に佇んだままだったラーザの口から揶揄が飛んだ。大きく肩を喘がせたケネスは、憎悪と怒りを孕んだ眼差しを倒れ伏すヒューマノイドに向けたまま、押し殺した声でそれに応じた。
「身の程を弁えぬ以上、躰に教えこませるしかあるまい」
「無駄だと思うぜ。仮に手足を削がれようと、あんたにゃ尻尾を振るまいよ。そいつの『心』とやらを占めてるのは、旅のあいだにそいつを人間らしく仕込んだ運び屋だからな」
「なにっ!?」
リュークはハッとして全身を硬張らせ、ラーザを顧みた。
『なんという恐ろしいことをお考えなのです』
美しい貌に嫌悪を浮かべ、真っ向から異を唱えて全霊で自分の申し出を拒んだ。
聞かなかったことにする。だから心をあらためよ。そう、賢しらに意見までして、決して受け容れることをしなかった。
なにが悪いというのだ。天然水という利権の上に胡座をかき、栄華を得る国王に、いったいどれほどの価値があるという。ローレンシアというあらたな世界で、人類を導く先駆者として登りつめたことを笠に着て、もっとも貴重な資源である生命の源を専有する暴挙に出た悪辣な男の血筋、子孫。それこそが国王と呼ばれる者であるにすぎないというのに。
ユリウス、おまえはこの国の玉座に座るという、ただそれだけの理由で、そこまで盲目的に国王を支持し、忠誠を誓うというのか。おまえほどに賢き者が、なぜ――
「今度こそ拒むことは許さん。おまえの力で私を玉座へ押し上げろ」
「いやですっ! 放してっ」
抗うヒューマノイドを、ケネスは苛立たしげに押さえこんだ。
「たかが人形の分際で人間の意に逆らうとは、いったいなにを勘違いしている。精巧に造られすぎたことで、己の立場すらわからぬほどに増長したか」
そのケネスの顔を、リュークは怒りをこめて睨み返した。
――笑えよ、リューク。気に入らないことがあれば、怒ったっていい。
シリルの言葉が脳裡に浮かぶ。おまえは人形なんかじゃない。人間に造られた部分があったとしても、自分の頭で考え、感じることができる『心』を持つ者だ。もっと素直になっていい。
自分を導いてくれた、唯一の存在。
「私が何者であろうと、私にも感じる心があり、意思があります。仮に私の中にあるデータが王位を決定づけるために必須のものであったとしても、私はそれを、あなたのために解き放つことはしません。絶対に!」
断言した途端、その頬が容赦なく張られ、リュークの躰は数メートル飛んで床に叩きつけられた。
「おいおい、怪我させちゃマズいんじゃなかったのかよ」
入り口付近に佇んだままだったラーザの口から揶揄が飛んだ。大きく肩を喘がせたケネスは、憎悪と怒りを孕んだ眼差しを倒れ伏すヒューマノイドに向けたまま、押し殺した声でそれに応じた。
「身の程を弁えぬ以上、躰に教えこませるしかあるまい」
「無駄だと思うぜ。仮に手足を削がれようと、あんたにゃ尻尾を振るまいよ。そいつの『心』とやらを占めてるのは、旅のあいだにそいつを人間らしく仕込んだ運び屋だからな」
「なにっ!?」
リュークはハッとして全身を硬張らせ、ラーザを顧みた。
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