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第8章 急襲
第3話(7)
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「シリルッ! シリル……ッ!」
苦痛に顔を歪めながらも、シリルは自分に取り縋るリュークの手を握りかえした。
「だ…、じょぶ、だ。おまえ、は?」
シリルの手を両手で包み、その躰に縋りつきながらリュークは無言でかぶりを振った。
「あーらら、さすがの隊長もボロッボロだねえ。けど、安心しろよ。ちゃんと急所ははずしてやったからよ。あと今回は、弾にヤバいヤクは仕込んでねえから。とりあえず少しのあいだ身動きとれねえように、弱ぁい麻酔仕込んだだけ」
「ラ…ザ、き…さま……っ」
「悪ィねえ、隊長。あんた結構頑丈だからさ、こうでもしないと、こっちの身が危なくってよ。俺も一応任務なのよ、この可愛いお人形さんを生け捕りにしてこいってさ。王室管理局のお偉いさんもムチャ言うよなあ。あんたみてえなおっかねえの相手にして、無傷で連れてこいとか言うんだからよ。簡単に言ってくれちゃって参るぜ」
せせら笑った男は、ふたたびリュークの腕を乱暴に掴んで引きずり起こした。シリルから引き離されたリュークは懸命に抗う。だが、ラーザは死に物狂いのその抵抗を、ものともしなかった。
「いやです! 放してください!! 早く手当てを……っ! シリルッ……シリル!!」
「リュークッ! ……よせっ、ラーザ! そいつを放せっ」
暴れるリュークを軽々と押さえこんで抱きかかえたラーザは、愉しげに嗤った。
「はいは~い、おとなしくしててちょうだいね。おまえは俺がイイトコに連れてってやるから」
「いやですっ、放してっ! 早くシリルをっ」
かよわい獲物が腕の中で暴れる感覚を楽しみながら、ラーザは片方の手をリュークの口許に持っていった。
「シリルッ…シリ……ッ―――」
口許に翳した右手のリングから、なにかが噴霧される。直後、リュークの躰は力をなくしてラーザの腕の中に崩れ落ちた。
「リュークッ!」
叫んだシリルは起き上がろうとした。だが、全身にまわりはじめた薬のせいで次第に意識が朦朧とし、力が抜けていった。
「き、さまっ、そいつ、に、なに、を……っ」
「ダァイジョブダイジョブ。殺しゃしねえから安心してちょうだいよ。うるせーから、ちょいとおとなしくしてもらうのにクスリ嗅がせただけだから」
「く、すり……?」
「ま、ちょっとしたドラッグの一種だが、まさかこんなお人形にも効くとはね」
クククッと嗤いながら、ラーザは腕の中でぐったりとするその痩身を肩に担ぎ上げた。
「待っ……!」
「嬉しいよ、隊長。あんたのそんなボロ雑巾みてえな無様な姿が見れるなんてよ」
ラーザは口唇の両端を大きく吊り上げ、ベロリと舐め上げた。
「けど、こんなんじゃまだ、全然足んねえなあ」
シリルを見下ろす残忍な瞳に、喜悦の色が浮かんだ。
「あんたにはよ、隊長、そのすましかえったスカした面、メチャクチャに歪めて、この世で俺と出会っちまったことを心の底から後悔してもらわねえとよ」
「ラー、ザ…ッ」
「少しくらいはダメージになるかと思ったが、あの女程度じゃモノの役にも立たなかったな。だからとりあえず、コイツ、もらってくわ。こっちのが、あんたには大事みてえだもんなあ?」
「待て……ラーザッ! 待てっ!」
「悔しかったら取り戻しに来いよ。決着は、そんときにつけようぜ。ま、それまでこいつが無事って保障はどこにもねえけどな。王室管理局の変態オヤジにバラバラに切り刻まれてるか、もしくはあんたのカワイコちゃんってことで、あんたのかわりに俺が嬲り殺しちまってるか……。ともかく待ってるぜ、ヴァーノン隊長」
霞む視界の向こうでラーザは背を向ける。リュークを担いだ男は、悠然と立ち去っていった。
地面に這いずったシリルは、ラーザに向かって手を伸ばそう懸命に足掻いた。だが、呼び止めようとした声すら、もはや喉の奥から搾り出すことがかなわかった。
シリルの意識は、そのまま途切れた。
苦痛に顔を歪めながらも、シリルは自分に取り縋るリュークの手を握りかえした。
「だ…、じょぶ、だ。おまえ、は?」
シリルの手を両手で包み、その躰に縋りつきながらリュークは無言でかぶりを振った。
「あーらら、さすがの隊長もボロッボロだねえ。けど、安心しろよ。ちゃんと急所ははずしてやったからよ。あと今回は、弾にヤバいヤクは仕込んでねえから。とりあえず少しのあいだ身動きとれねえように、弱ぁい麻酔仕込んだだけ」
「ラ…ザ、き…さま……っ」
「悪ィねえ、隊長。あんた結構頑丈だからさ、こうでもしないと、こっちの身が危なくってよ。俺も一応任務なのよ、この可愛いお人形さんを生け捕りにしてこいってさ。王室管理局のお偉いさんもムチャ言うよなあ。あんたみてえなおっかねえの相手にして、無傷で連れてこいとか言うんだからよ。簡単に言ってくれちゃって参るぜ」
せせら笑った男は、ふたたびリュークの腕を乱暴に掴んで引きずり起こした。シリルから引き離されたリュークは懸命に抗う。だが、ラーザは死に物狂いのその抵抗を、ものともしなかった。
「いやです! 放してください!! 早く手当てを……っ! シリルッ……シリル!!」
「リュークッ! ……よせっ、ラーザ! そいつを放せっ」
暴れるリュークを軽々と押さえこんで抱きかかえたラーザは、愉しげに嗤った。
「はいは~い、おとなしくしててちょうだいね。おまえは俺がイイトコに連れてってやるから」
「いやですっ、放してっ! 早くシリルをっ」
かよわい獲物が腕の中で暴れる感覚を楽しみながら、ラーザは片方の手をリュークの口許に持っていった。
「シリルッ…シリ……ッ―――」
口許に翳した右手のリングから、なにかが噴霧される。直後、リュークの躰は力をなくしてラーザの腕の中に崩れ落ちた。
「リュークッ!」
叫んだシリルは起き上がろうとした。だが、全身にまわりはじめた薬のせいで次第に意識が朦朧とし、力が抜けていった。
「き、さまっ、そいつ、に、なに、を……っ」
「ダァイジョブダイジョブ。殺しゃしねえから安心してちょうだいよ。うるせーから、ちょいとおとなしくしてもらうのにクスリ嗅がせただけだから」
「く、すり……?」
「ま、ちょっとしたドラッグの一種だが、まさかこんなお人形にも効くとはね」
クククッと嗤いながら、ラーザは腕の中でぐったりとするその痩身を肩に担ぎ上げた。
「待っ……!」
「嬉しいよ、隊長。あんたのそんなボロ雑巾みてえな無様な姿が見れるなんてよ」
ラーザは口唇の両端を大きく吊り上げ、ベロリと舐め上げた。
「けど、こんなんじゃまだ、全然足んねえなあ」
シリルを見下ろす残忍な瞳に、喜悦の色が浮かんだ。
「あんたにはよ、隊長、そのすましかえったスカした面、メチャクチャに歪めて、この世で俺と出会っちまったことを心の底から後悔してもらわねえとよ」
「ラー、ザ…ッ」
「少しくらいはダメージになるかと思ったが、あの女程度じゃモノの役にも立たなかったな。だからとりあえず、コイツ、もらってくわ。こっちのが、あんたには大事みてえだもんなあ?」
「待て……ラーザッ! 待てっ!」
「悔しかったら取り戻しに来いよ。決着は、そんときにつけようぜ。ま、それまでこいつが無事って保障はどこにもねえけどな。王室管理局の変態オヤジにバラバラに切り刻まれてるか、もしくはあんたのカワイコちゃんってことで、あんたのかわりに俺が嬲り殺しちまってるか……。ともかく待ってるぜ、ヴァーノン隊長」
霞む視界の向こうでラーザは背を向ける。リュークを担いだ男は、悠然と立ち去っていった。
地面に這いずったシリルは、ラーザに向かって手を伸ばそう懸命に足掻いた。だが、呼び止めようとした声すら、もはや喉の奥から搾り出すことがかなわかった。
シリルの意識は、そのまま途切れた。
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