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第1章 機械仕掛けの神
第3話(5)
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「おまえ……」
「所有権がシリル・ヴァーノンに帰属する空陸両用機、イーグルワンの機体情報を確認しました。私を、王都まで運んでください」
「――なに?」
「私は、デウス・エクス・マキナ=プロトタイプHC。私を、王都エリュシオンに届けることが今回のあなたの任務です」
ヒューマノイド――
愕然と瞠目する男を、人ではないと言われてなお、生命の存在を否定することが難しい、精巧な造りの人工生命体がじっと見つめる。訊きたいことは山のようにあった。だが次の瞬間、シリルはふたたび緊張を濃くして周囲に注意を向けると、華奢な造りの肩を抱く手に力を籠めた。
「とりあえず、くわしい話はあとだ。ここから離れるぞ」
低く囁いた男は、鋭い視線で周囲の気配を探った。
「俺が合図したら、全速で走れ」
シリルの指示に、腕の中におさまっているヒューマノイドの艶やかなブロンドがかすかに頷きを返すように揺れ動いた。こんな状況であっても、取り乱すことなく淡然と指示を受け容れる従順さは、かえって生身の人間でなくてよかったかもしれない。
全身の神経を研ぎ澄ませた男の背後で、崩落した建物の一部から爆音があがる。同時に、火柱が噴き上がった。刹那――
「走れ!」
短いゴーサインとともに、ふたりは走り出した。
爆音や爆風、飛来物にまぎれて銃弾やレーザー光がふたりを狙う。ヒューマノイドを先に走らせつつ、シリルは右手と左前方、後背、それぞれに向けて腰のホルダーから引き抜いたハンドガンのトリガーを引き絞った。
シリルの生体反応を受信したイーグルワンが、運転席側のドアを開く。先行したヒューマノイドがそこへ飛びこみ、シリルもまた、飛び乗って叩きつけるように手動でドアを閉めた。防弾処理が施されている機体の表面で、無数の弾が驟雨のように叩きつけられ、弾き返される。操縦桿を握ったシリルは、エアカー仕様のままの機体を滑走なしで浮かせると、一気に加速してビルの谷間へと飛びこませた。
「うわ、すげ…っ」
その様子を眺めていた見物人たちのあいだから、たちまち大きなどよめきが湧き起こった。ホバリング機能のない機体を滑走なしで浮かせることも、浮いた直後にフルパワーで急加速することも、高度な技術力を誇るベテラン・パイロットでさえ、してのけられる者は皆無に等しい。試みたところで、いずれの場合もたちまちバランスを崩して制御を失い、墜落するかつっこむかするのが関の山である。ましてやその勢いを保ったまま、狭い建物の隙間に機体を飛びこませるなど、自殺行為としか思えなかった。
正体不明の人物が突如見せた神業ともいえる操縦技術を目の当たりにして、地上にいた人々はしばし呆気にとられ、避難はおろか、救護活動も忘れて声もなく立ち尽くした。
「所有権がシリル・ヴァーノンに帰属する空陸両用機、イーグルワンの機体情報を確認しました。私を、王都まで運んでください」
「――なに?」
「私は、デウス・エクス・マキナ=プロトタイプHC。私を、王都エリュシオンに届けることが今回のあなたの任務です」
ヒューマノイド――
愕然と瞠目する男を、人ではないと言われてなお、生命の存在を否定することが難しい、精巧な造りの人工生命体がじっと見つめる。訊きたいことは山のようにあった。だが次の瞬間、シリルはふたたび緊張を濃くして周囲に注意を向けると、華奢な造りの肩を抱く手に力を籠めた。
「とりあえず、くわしい話はあとだ。ここから離れるぞ」
低く囁いた男は、鋭い視線で周囲の気配を探った。
「俺が合図したら、全速で走れ」
シリルの指示に、腕の中におさまっているヒューマノイドの艶やかなブロンドがかすかに頷きを返すように揺れ動いた。こんな状況であっても、取り乱すことなく淡然と指示を受け容れる従順さは、かえって生身の人間でなくてよかったかもしれない。
全身の神経を研ぎ澄ませた男の背後で、崩落した建物の一部から爆音があがる。同時に、火柱が噴き上がった。刹那――
「走れ!」
短いゴーサインとともに、ふたりは走り出した。
爆音や爆風、飛来物にまぎれて銃弾やレーザー光がふたりを狙う。ヒューマノイドを先に走らせつつ、シリルは右手と左前方、後背、それぞれに向けて腰のホルダーから引き抜いたハンドガンのトリガーを引き絞った。
シリルの生体反応を受信したイーグルワンが、運転席側のドアを開く。先行したヒューマノイドがそこへ飛びこみ、シリルもまた、飛び乗って叩きつけるように手動でドアを閉めた。防弾処理が施されている機体の表面で、無数の弾が驟雨のように叩きつけられ、弾き返される。操縦桿を握ったシリルは、エアカー仕様のままの機体を滑走なしで浮かせると、一気に加速してビルの谷間へと飛びこませた。
「うわ、すげ…っ」
その様子を眺めていた見物人たちのあいだから、たちまち大きなどよめきが湧き起こった。ホバリング機能のない機体を滑走なしで浮かせることも、浮いた直後にフルパワーで急加速することも、高度な技術力を誇るベテラン・パイロットでさえ、してのけられる者は皆無に等しい。試みたところで、いずれの場合もたちまちバランスを崩して制御を失い、墜落するかつっこむかするのが関の山である。ましてやその勢いを保ったまま、狭い建物の隙間に機体を飛びこませるなど、自殺行為としか思えなかった。
正体不明の人物が突如見せた神業ともいえる操縦技術を目の当たりにして、地上にいた人々はしばし呆気にとられ、避難はおろか、救護活動も忘れて声もなく立ち尽くした。
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