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プロローグ

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「運び屋としても傭兵としても超一流。あんただからこそ頼める仕事だ」

 断言したあとで、髭面の熊男は告げた。

「あるものを、エリュシオンまで運んでもらいたい」
「王都に?」
 ああ、と頷いたあとで、テッドはすぐさま付け加えた。

「ただし、ブツについては現場に着くまで明かせないそうだ」
「なんだそりゃ」

 話にもならないと、男は途端に関心をなくして鼻哂びしんを放った。そんな胡散臭い依頼に飛びつくほど、金にも仕事にも不自由していなかった。だが、テッドはまあ待てと、早々に見切りをつけようとしたシリルを押しとどめた。

「それだけ機密性の高い、極秘案件ってことだ」
「依頼人はだれだ」
「ローレンシア連邦科学開発技術省」

 仲介人の言葉に、さすがの男も絶句した。銜えたままの煙草の先から、灰の塊がまとめて床に落ちた。

「……政府じきじきの依頼だってのか?」
「ああ、そうだ」
「なんだっておまえみたいなちんけな仲介屋なんぞに、国の上層部から声がかかる?」
 失礼な物言いに、テッドは「おいっ」と語気を強めた。しかし、すぐさまトーンを落とすと、深々と嘆息した。

「まったく、口の悪さも天下一品だな。だが、お察しのとおりだよ。向こうはオレがあんたと繋がりがあることを重々承知のうえで、今回の話を持ちかけてきたって寸法だ」
「胡散臭ェ話だな。国家ぐるみで非合法の依頼か?」

 男は鼻を鳴らした。彫りの深い精悍な貌立かおだちの中で、野性味を帯びた漆黒の双眸に皮肉が宿った。馴染みの仲介屋は、そんな男に懇願の眼差しを向けた。

「頼むから断るなんて言ってくれるなよ? こんなウマい話、ひょっとすると、この先一生だってありつけねえかもしれねえからな」
「断らねえよ」
 どこまでも気のない様子で、それでも男は応えた。

「おまえっていう闇業者を中継にしてる以上、公にするにはマズい内容なんだろう。だが結局のところ、俺を特定してご指名がかかってる。なら、受けるしかあるまいよ」
「ありがてえ。頼むぜ、相棒!」

 おまえなんぞと手を組んだおぼえはねえよ。男は画面越しに擦り寄る髭面をすげなく撥ね除けたが、相手は意に介さなかった。
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