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第十三章
第348話 過去に縛られた光
しおりを挟む「おおおっとおお、忘れてたぁ!」
中央館を出て、三人が拠点の西門にたどり着いた辺りで、北条が突然大きな声を上げる。
その突然の大声に、アリッサは平然としていたがマデリーネはビクッとしている。
「な、なんだホージョー? 何か忘れ物か!?」
「大切な事を尋ね忘れていたぁ。ギルドに行く前にまずこの事を確認しておきたい」
「大事な事……。いいだろう、何でも言ってくれ」
「それはだなぁ、うちのクランに加入するには契約をしてもらう必要があるという事だぁ」
「契約……? 騎士の誓いのようなものか?」
「んー、それとは少し違うが誓ってもらうという点は変わらん」
「いいだろう、私はホージョーに誓うぞ」
「ちょっと待て、まずは契約内容を伝えてからだぁ」
そして北条は、何度目になるか分からない、秘密厳守などの契約内容を二人に告げる。
「なるほど。確かにお前たち……特にホージョーが普通とは違うという事は、私も薄々理解している」
「この秘密厳守の誓いは片側だけでなく、双方向になる。あまり貴族的な秘密をアレコレと口にされるのは困るがぁ、万が一耳にしても俺達が外部に漏らしたりすることもなくなる」
「うむ、分かった。私もその契約内容には賛成だ。アリッサはどうする?」
「もちろん、契約するよぉ?」
「ではさっさと済ませよう」
早速北条は"契約魔法"の発動に入る。
契約を専門に仕事してる人でない限り、"契約魔法"は使用する機会が少ないので、熟練度が上げにくい。
しかし最近は使用頻度も増えたので、北条としても満足だった。
「これは……。まさか、"契約魔法"まで使えるとはな。秘密厳守をするのも納得だ」
「だよねぇ? 普通は『転職の儀』で"契約魔法"持ちなんて発覚したら、国や貴族が取り込んじゃうからねぇ」
「この契約をすると大抵みんな同じような反応を見せるなぁ」
「それはそうだ。希少な魔法の使い手というのは、貴族にとっては大事な切り札となる事もあるのだ」
「切り札、ねえ。そんな事にされるんだったら、俺ぁ全力で逃げ出すだろうなぁ」
「ふぅぅ、つくづく変わった男だな」
「そんな所がいいんでしょぉ? マディちゃぁん」
「だ、か、らっ! 妙な事を口走るなって言ってるでしょ!」
「ふぁぁぁん、ふぁにふるふぉお~」
アリッサの揶揄うような言葉に、マデリーネはアリッサの頬を両端から掴んで、グニグニと動かしている。
「……ほら、じゃれてないで、今度こそギルドに向かうぞぉ」
「ほはあぁ~はでぃいはあぁあぁん」
「むうぅ……。いい? アリッサ。余計なことは言わないでよ!?」
「ふぁぁぁい」
なんとも気が抜ける返事をアリッサが返すと、三人は《ジャガー町》へと向けて歩き始めた。
▽△▽△
北条らがギルドを尋ねたのは、八の刻を少し回った頃……地球時間でいえば午前十時少し前といった所だ。
この時間は冒険者ギルドでも、最も空いている時間帯の一つと言える。
一時期に比べ大分落ち着いたとはいえ、いまだにこの地を訪れる冒険者の数は多い。
最初の頃から数えて三回ほど改装されたギルドの建物は、すでに《鉱山都市グリーク》のギルドの規模を超えているかもしれない。
いつもだったら、カウンターに行く前に依頼掲示板を見ていく北条だったが、今日は連れもいるのでまっすぐにカウンターの方へと向か……おうとしてた所に声を掛けられる。
「ホージョーさん! 珍しいのね、一人でギルドにく……そちらはどなたかしら?」
北条に声を掛けてきたのは、まだ若い女性だった。
その特徴的な服装から、神官系であることが窺える。杖も持っているので、"神聖魔法"以外の魔法も使えるのかもしれない。
「ホージョー……。この女性は何者なのだ?」
神官の女性に反応したマデリーネが、少し重い口調で北条に問い詰めた。
背後では、「うわぁ、修羅場ぁ?」というアリッサの小さな声が聞こえてくる。
「シャンティア、彼女らはアウラのお供の従士だった者達だぁ。そして、マデリーネ。こちらは悪魔討伐でも一緒だった、『光の道標』のシャンティアだぁ」
「『光の道標』……、その名は私も耳にしたことがあった。私は、アウラ様よりお暇を頂き、冒険者として活動を始める予定のマデリーネだ。同じくこいつはアリッサだ」
「ちょっとぉ、こいつって言い方はないんじゃなぁいのぉ?」
「そうだったの……。私はシャンティア、ただのシャンティアです。もう『光の道標』は解散されてしまったので……」
「あ、そ、そうであったか」
悲し気なシャンティアの様子に、マデリーネも悪魔事件についての顛末を思い出していた。
あの戦闘では、冒険者が幾人も亡くなっている。詳細は思い出せなかったが、そういえば確か『光の道標』にも被害が出ていたハズ。
マデリーネの知っている情報はそれ位であったが、『光の道標』は悪魔事件の後は衰退が著しかった。
何せメンバー六人の内三人は悪魔に殺され、一人は悪魔に唆されて仲間を裏切ったのだ。
それでもその後の戦闘でライオットが、戦闘終了後にはシャンティアが精力的に【リリースチャーム】で魅了を解除し、"神聖魔法"でみんなの傷を癒していた。
その事を知っている悪魔戦の参加者たちは、二人を悪く言う事もなく、裏切り者についての情報も敢えて漏らしたりすることはなかった。
しかし残念な事に、全員が全員そうだった訳でもなく、少しすると悪魔側に寝返った男がいた、という事で、『光の道標』に対する風当たりが悪くなっていく。
ギルド側としても、やんわりと事態を収めようとしてはいたのだが、余り大っぴらに対処すると、逆に誹謗中傷の声が高まる恐れがあった。
そして致命的だったのは、リーダーであるライオットが、あれ以降すっかり覇気を失ってしまい、宿に引きこもるような生活を送る事になってしまった事だ。
かつて高ランクの少ない《鉱山都市グリーク》で、Bランク目前と言われ最も期待されていた『光の道標』。その末路は、惨めなものであった。
しかし、そんな状態でもシャンティアは押しつぶされはしなかった。
彼女は裏切られた仲間から、直接刃物で刺された被害者であるにも関わらず、すっかり意気消沈していたライオットをどうにかしようと必死だった。
そのシャンティアの想いによって、今では野良の二人組コンビとして簡単な依頼を受けたり、他の野良PTに混じって活動するまでに復帰している。
しかし、あれだけリーダー気質を発揮させていたライオットは、今では先頭に立つことに怯えを感じるようにまでなり、『光の道標』の再結成は、実現できそうにない。
「シャンティアは依頼を受けにきたのかぁ? それにしちゃあ大分遅い時間だがぁ」
少し気まずい暗い空気が流れた事で、適当な話題を振って話を変えようとする北条。シャンティアもその案に乗るようだ。
「いいえ、違います。特に予定というのはないのだけれど、ここにいると色々情報も入ってきますから。ホージョーさんこそどうしたんですか? ダンジョンの帰り以外で、ここに寄る事って少ないですよね?」
「まあ、ちょいと用事があってなぁ」
「用事、ですか?」
「ああ、クランの登録をしに来たぁ」
「クランですか? そういえばホージョーさんの所は人数が多かったですけど……」
そう言ってシャンティアは、マデリーネらの方へと視線を向ける。
その視線の意図を理解した北条が、説明を捕捉する。
「……まだ他のパーティーリーダーに確認をとってないがぁ、この二人も加入予定でなぁ」
「へぇ、それで……」
シャンティアはどこか値踏みをするような視線を送る。
それから小さな唸り声を上げ、何か考え事を始めたようだ。
そして結論が出たのか、シャンティアが口を開く。
「それなら……、私とライオットも貴方のクランに加えてもらえないかしら?」
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