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第十三章

第345話 『ムスカの熱き血潮』 加入

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「なんだ? また誰か来たみてーだけど」

「数が多いから農民の人たちかな?」

 龍之介と咲良がそんな事を話していると、予想に反して姿を現したのは町に出かけていた陽子だった。


「あ、あらら既に団体さんのお着きだったのね」

 失敗したなあといった感じで言う陽子の背後からは、見知った顔がいくつも飛び込んできた。

「よう、リューノスケ。話は聞いたぜ……って、人多いな!」

 このリビングルームは大分広く作られてはいるのだが、流石にこれだけ人数が入ると、大分手狭になる。
 とはいえ、入りきらないという訳でもない辺り、この部屋の広さが窺える。

「どうやら君たちも話を持ち掛けられたようだな」

「ん? ああ。ということはあんた達もか」

「そうだ。俺たちもつい先ほど契約をしたばかりの所なんだ」

「へえ! よし、そんならさっそくおれらとも契約しようぜ!」

「ちょっと、ムルーダ! まずは話を聞いてからでしょ!?」

「そーだっけか?」

 相変わらずのムルーダの様子だが、シィラの方は以前とは少し変わった印象があった。
 最初出会ったころはもう少し大人しい印象があったのだが、今はムルーダにも強くものを言えている感じだ。

「そうだぜ、ムルーダ。ちゃんと話を聞いてたのかあ?」

「何ぃ? シクルム。おめーこそ本当に話を聞いてたのか?」

「ふ、二人とも、そんな事で言い争ってないでさ……」

 入ってくるなりギャーギャーと騒ぎ始めるムルーダらを、仲間のディランが宥める。
 そんな悪ガキのような連中を横目に、異邦人であるツヴァイが挨拶をしてくる。

「やあ……久しぶりだね。厄介な奴に狙われたって聞いたけど、無事で何よりだよ」

「ああ、おかげさんでなぁ。そっちも元気そうで何よりだぁ」

 以前はどこか陰を感じたツヴァイも、少しはマシになってきているようだ。
 北条の言葉に、微かにはにかんだ笑顔を浮かべる。

「でー、ここにこいつらを連れてきたった事は、すでに話は通してあるのかぁ?」

「ええ、一通りの事は話したと思うけど、抜けがあるかもしれないから、北条さんからもお願い」

「いいぞぉ。んじゃあ、少し長くなるからお前たちはその辺に適当に座ってくれぃ」

 北条の言葉に、ムルーダと始めとする『ムスカの熱き血潮』のメンバーは、互いにまとまった位置に腰を下ろす。
 そして繰り返される、北条によるクラン加入への条件や契約の内容に関する話。


 一応リーダーであるムルーダなのだが、何も考えずにOKサインを出そうとしちゃってるので、他のメンバーが代わりにしっかりと話を聞くような状況になっている。
 中でもツヴァイは『ムスカの熱き血潮』の中では、一番北条の謎について詳しい立場にいるので、あれだけ念押しされて情報を伏せようとする理由も察しがついていた。

 それとは別に、家さえ自腹で建てればこの拠点内で暮らせるなど、利点だけを見てもこの話は彼らにとって悪くない内容だった。
 ムルーダらは、時折この拠点内で龍之介たちと訓練を行っている。
 その際に、拠点内のトイレだとか水が出る魔法道具だとかを利用していた。

 身近に訓練相手がいるというのも好ましいし、施設の充実っぷりにも文句はない。
 何より気心が知れた相手であるので、ムルーダとしては拒否する理由が全くなかった。

 北条からの説明を受けた後、ほとんど形だけのパーティーでの話し合いが行われた後、『ムスカの熱き血潮』のクラン加入が決定した。
 そして即座に契約についても結ばれ、晴れて仲間として加わる事になるのだった。




▽△▽



「自分で連れてきておいてなんだけど、なんか……トントン拍子に話が進んだわね」

「まあいいんじゃないかぁ? メンバーが増えるのはこちらとしても助かるしなぁ」

 陽子と話している北条の視線の先には、龍之介が仲介役のようになって、ムルーダらとキカンスらの顔合わせが行われていた。
 両パーティーは互いに相手の事を知らなかったようで、若干ぎこちなさがあるようだ。

 ちなみにジャドゥジェムはこの場にはいない。
 彼女はお気に入りのポカポカ環境の農業エリアで、"植物魔法"を使って〈ウージャ〉の育成を頑張っていた。

「しかし、まさかこういった展開になるとは思わなかったな」

 陽子と北条の話に加わってきたのは、一人顔合わせの場から外れてきたツヴァイだ。

「そうかぁ? 俺はなんとなくこうなる気がしてたぞぉ。それより、向こうに加わらなくてもいいのかぁ?」

「ははは、彼らとはこの先何度も顔を合わすだろうからね。……ところで、例の帰還の手がかりの方はどうなんだい?」

「そーだなぁ。あの鏡張りのエリアは怪しいと睨んでるんだがぁ、まだ実力が足りん感じだぁ」

「北条さんの実力で力不足!? それってとんでもない所なんじゃあ……」

「いや、俺だけ飛びぬけていても限界はあるぞぉ。ただ、Bランクの魔物を確認したから、確かに難度は高いのかもしれん」

「Bランクッ! それは厳しいね」

 あれからBランクの鏡の魔物――デーモンミラーが出てくる直前の階層でレベル上げを行ったり、途中の階層のマップを埋めていったりしている『サムライトラベラーズ』。
 しかし最初の頃ほどレベルの上がりが良くないので、まだエリア制覇の見通しは立っていない。



「なあ、オッサン! どうだ?」

 北条がツヴァイらと話をしていると、突然龍之介が北条に尋ねてきた。
 声の大きい龍之介やムルーダがよく聞こえる声で話していたので、北条も聞き返すまでもなく何について尋ねてきてるのかを把握していた。

「俺たちと新規クラン加入者達とで、合同のレイドエリア探索、ねえ」

 どうやらムルーダもキカンスもレイドエリアには挑戦した事がないらしく、龍之介の提案に興味を示している。
 現在『ムスカの熱き血潮』の面々はEランクで、『獣の爪』はジャドゥジェムを除いてDランク下位といったレベルだ。

 レイドエリアに向かうには、五層の南西にある魔法陣から無灯火エリアを通っていく必要がある。
 そのエリアは出現する魔物のランクがF~Eランクなので、彼らだけで迷宮碑ガルストーンに登録しに行くことも十分可能だ。
 流石にあのブラックオイリッシュのいる階層を案内する気は、龍之介にもないらしい。

「まぁ……いいんじゃないかぁ? あっちにいる和泉にも確認してきなぁ?」

「分かった!」

「なんだか賑やかな事になりそうね」

「レイドエリアかあ。一周目でも行った事がない所だから、ちょっとワクワクしてきたよ」

「あのエリアは、なんというか今の俺たちには丁度良さそうだなぁ。レベル差が開いていても、大量に魔物を倒していけば差も少しずつ縮まっていくんじゃないかぁ?」

「そうねえ。RPGだとそんなイメージあるわね」

「あの場所なら、属性ウルフの皮がまだそれなりの価格で売れるし、金稼ぎにも良さそうだぁ」

 この度クラン加入が決定した『獣の爪』と『ムスカの熱き血潮』だが、両者ともDランク以下のパーティーのため、拠点内に建てる家の建築費を捻出することが出来ない。

 龍之介たちのように個人宅を持つのではなく、パーティーで一つの家を建てるにしても、ちょっと厳しいような状況だ。
 しかしそれも、このレイドエリア探索で大分補える可能性はある。

「へぇ、それはいい。これでもうちはパーティーバランスがいいから、ポーション代なんかの支出はそこまででもないんだけど、まだEランクだからね」

「ふふっ、ツヴァイも北条式レイドエリアブートキャンプを何度もさせられたら、そんな事言ってられなくなるかもよ?」

「えっ、何、どういうこと……?」

 ほとんど休憩も挟まずに何度も魔物の大群を相手にする、北条主導のレイドエリア探索はなかなかにハードなものだ。
 無理が出ないほどに調整されてはいるのだが、数多の魔物を屠っていると、次第に工場の流れ作業をやっているかのような気分になってくる。

「ま、それは実際行ってみれば分かるわよ。それにしても、なんか北条さん楽しそうね?」

「んー? ああ……。俺ぁこの世界に来て、最初の方はダンジョンRPGをやってるイメージだったんだがぁ、最近は拠点拡張型SLGをやってるような感じがしていてなぁ。じわじわと拠点や仲間が強化されていくのが、楽しいと感じてるのかもしれん」

「拠点の拡張をしている時は楽しそうにしてるものね」

「そうかぁ? ……そうなのかぁ?」

 北条自身としては、その辺余り自覚症状はなかったらしい。

「まぁ、何にせよ今後が楽しみだぁ」

 そう呟く北条の表情は、どこか満足気だ。



 この日、特に予定のなかったキカンスらとムルーダらは、夕食まで拠点で取っていくことになり、せっかくだからと北条が調理した料理を、掻っ込むようにして食べていた。

 それは日本にいた頃に、色々美味しいものを食べた事のあったツヴァイも同様で、「一周目に北条さんが料理人になったのも分かります」と感想を漏らしていた。

 夕食後は拠点には泊まらず、町へと戻っていったキカンスとムルーダ達。
 次の日には、せっかくだからと『獣の爪』と『ムスカの熱き血潮』の両パーティー合同で、レイドエリアの迷宮碑ガルストーン登録に向けて、出発していく事となった。


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