上 下
392 / 398
第十三章

第343話 クラン

しおりを挟む

「クランかあ。そういえばゼンダーソンさんも言ってたよね」

「ああ、俺たちみたいに二つのパーティーで行動してるなら、クランを組んでおいたほうがいいみたいだな」

「さっきの話だと金貨一枚で登録できるみたいだし、次ギルドに寄った時にでも登録します?」

「俺ぁそうするつもりでいる。そしてメンバーを追加していきたい」

「メンバーを追加って……。すでにうちは十二人でフルパーティーが二つ出来てるけど」

 北条の提案に陽子が疑問の声を上げる。
 そんな陽子の疑問に、北条は今後の展望について語りだした。

「俺のこれまでの行動指針の一つに、なるべく目立たず、能力についても隠蔽していく、というものがあったぁ。しかし、今では俺らは大分目立ってしまっているし、俺の能力についても一部知られてしまっている」

 それらは大体が悪魔事件の時が原因ではあるが、冒険者として活躍していく以上、遠からず同じような事態にはなっていただろう。

「そこで、考え方を少し変える。そもそもさっき上げた行動指針は、自分の身を守るためのものだぁ。しかし、それがすでに機能しなくなってきている以上、大っぴらに動いて戦力を増強したい」

「戦力って……。一体相手は誰を想定してるのよ?」

「……こないだのシルヴァーノのような奴がまた現れないとは言い切れん。なので、この世界のあらゆる理不尽を排除できるような、そんな戦力を築き上げる」

「な、なんかソーダイな話になってきたッス」

 そうは言いつつも、ロベルトとしても味方が増えるのは悪くない事だと思っている。
 由里香や信也など、シルヴァーノに直接襲撃された者たちは特にそうした思いが強い。

「俺もゴーレムを配置したり、契約した魔物を森に放ってレベル上げをさせてるがぁ、それでは数が足りん。あの拠点には戦えない者もいるし、防衛力をもっと上げておきたい」

 今のところ冒険者や盗賊による被害はないが、何分目立つ建物なので、よからぬことを企むものも今後出てくるかもしれない。
 そうなるとツィリルやロアナ、それとゴーレムなどだけでは広い拠点の範囲をカバーすることが出来ない。

「でも冒険者をメンバーに加えても、普段はダンジョンに潜っちゃうんじゃないかな?」

「咲良の言う通りだがぁ、冒険者パーティーが四つとか五つとかになってくればぁ、どっかしらのパーティーが拠点に駐留する可能性は高まる。それと、メンバーを増やすのは、今後のレイドパーティーの事も考慮しての事だぁ」

 今の所、『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』。それから北条と芽衣の召喚した魔物で探索できているレイドエリアだが、今後もそう上手くいくとは限らない。

「なるほど。俺としても仲間が増えるのなら心強い。拠点はまだまだ空き地があるしな。だが、肝心なのは人選だと思うのだが……」

「その辺は、今後話し合って決めていくしかないなぁ。加入条件として、お互いに情報を漏らさないという、例の"契約"を受け入れられる者。加えて……まずは俺らとも付き合いのある連中に誘いを掛けてみるのがいいんじゃないかぁ?」

「っつーと、ムルーダやキカンスとかか?」

「そうだなぁ。この際レベルなどは考慮しないでいいだろう。いざとなれば、レイドエリアに連れて行って、パワーレベリングするという方法がいけるかもしれんし」

「あの~、それって大分前に話してましたけど~、確かそれだと貢献度が得られないとか言ってませんでしたか~?」

 芽衣が言っているのは、まだダンジョンに本格的に潜る前の事。
 ジョーディと一緒にダンジョンの確認に来た時の事だ。

「あー、そうだったなぁ。そうなると数をこなすべきかぁ? あとはー……」

 芽衣の指摘に考え事を始めた北条の視線が、陽子を捕らえた瞬間、小さく「あっ」と声を上げる。

「え、な、何?」

「そうだぁ。陽子の使ってる〈雷鳴の書〉。あれならレベルの低い奴を後衛に下げても、戦力になるなぁ」

「ちょ、私のアレを貸し出すの?」

「ああ、いやぁ。そこは俺がちょちょいと作ればいい。魔石とちょっとした素材があれば、使い捨ての攻撃魔法の魔法道具くらい作れるだろう」

 魔法道具を作るための"刻印魔法"と、発動させる魔法の効果を刻むための、大元となる"火魔法"などの魔法。
 北条のスキルチートと豊富なMPがあれば、魔法道具を量産する事も可能だ。

 そして、それは北条の"刻印魔法"や"魔法道具創造"のスキル訓練にもなるし、そうして作られた魔法道具を使う事で、使用した者の魔法の熟練度が加算され、ムルーダらに魔法スキルが生えてくる事もあるかもしれない。

 これは金持ちの貴族や、大商人の子供などが時折用いる魔法の修行方法だが、この方法ではかなりの資金が必要になる。
 しかし、表沙汰に出来ない北条のチートスキルを活用すれば、資金的な問題はほとんどない。


「へー、確かに悪くなさそうね」

 最初は自分のとっておきを貸し出すのかと用心していた陽子も、話を聞くうちに理解の色が広まっていく。

「オレとしても、あいつらと組むのは望むところだぜ! ……あっ、待てよ。そーなると、ルーの奴も拠点に居座る可能性があんのか!?」

 『獣の爪』の猫獣人ルーティアは、あれからも変わりなく龍之介への猛アタックを続けていた。
 お互いに冒険者活動をしているので、なかなか出会う機会も少ないのだが、その分偶然出会った時はその想いが暴発しがちだ。

 この間もキカンスらと飲んでいた龍之介は、ルーティアと熱烈なベロチューを交わしてしまっていた。
 この調子だと、朴念仁であった龍之介が陥落する日もそう遠くないかもしれない。

「ま、その辺は奴らが誘いに乗った場合の事だぁ」

「うーーむ、俺もそろそろ覚悟を決めるべきか? でもこんな感じで決めちまっていいのか?」

 何やら龍之介が将来設計について考え初め、ブツブツと独り言を言いだし始める中、クランに関する話が終息していく。

「分かった。では俺の方からも、彼らと出会った時に声を掛けてみるとしよう。細かい条件の打ち合わせも必要になるだろうが、基本的に加入した者を拠点に迎えるので構わないか?」

「ああ、その辺は任せるぞぉ。最終的には俺の"契約魔法"の出番なので、こちらでも再度相手の意思や条件の確認は出来るからなぁ」

「じゃあ、まずはクランを作るところからですね!」

「うむ。まあ、今回の探索を終えてからでもいいだろう」


 話の着地点が見つかり、クランの話についての話題はここで終了する。
 そうして歩きながら話している間にも、すでにサルカディアまで後少しという所まで到達していた。
 その辺りで新たに出た話題は、芽衣のちょっとした疑問から始まった。

「そういえば~。北条さんは先ほど、契約した魔物を森に放ってると言ってましたが~、それっとどんな魔物なんですか~?」

 同じ"召喚魔法"を使用する者として、ぽろっと北条の口から洩れた事を気に留めていた芽衣。
 召喚出来る最大数は北条の方が多いというのに、契約して連れ歩いているのがアーシアだけというのが、気になっていたらしい。

「あー、それは色々だなぁ。どうも魔物の召喚は一度戦った相手……もしくは一度目にした魔物しか呼び出せんからぁ、新種と出会った後は時折その魔物を呼び出して契約してたぞぉ」

「えっ? でも~、最初にレイドエリアを探索した時は、十体位まで呼び出せるって言ってませんでした~? そんな次々と契約していたら、十体も呼び出せないんじゃ~?」

「ああ。確かそん時は、契約していた魔物がすでに何体もいたはずだがぁ、それを含めて更に十体位は召喚出来たって事だぁ。契約済のを合わせれば、同時召喚出来る数は二十体以上はいくと思うぞぉ」

「に、二十体……」

 未だにマンジュウらを含めて最大同時召喚数が七体の芽衣からすると、三倍以上も召喚出来るという事になる。
 そのことに軽いショックを受ける芽衣。

「その辺に放ってるって、この森の中をうろついてんのか? それって冒険者に出会ったら狩られちまうんじゃね?」

「一応連中には冒険者を見かけたら逃げろって言ってあるし、ダンジョンへの通り道であるこの道付近には、なるべく近づかないようにさせてある」

 そういった命令を与えつつも、森にいるフィールドの魔物を狩ってレベルを上げるようにも命令していた北条。
 最近では北条の契約した魔物の影響か、森から魔物の数が減少していた。
 ダンジョンの魔物とは異なり、フィールドの魔物は危険があったらわざわざそこに近寄ろうとはしないものだ。

「そのせいで、最近はちょっと遠くまで出張ってるみたいだなぁ。あ、そういえば以前ルカナルが襲われてたのを、ストライクホークが助けた事もあったなぁ」

 あの時は丁度北条も拠点にいたので、"召喚魔法"の【視覚共有】で状況を知った北条が、慌てて彼らの方へと助けに向かった。

「まあルカナルを襲ってた魔物は、ストライクホークが倒してくれたけどな。あれは丁度俺が防具の製作を依頼してた頃だったがぁ、思えばあれからルカナル製品に鷹のマークが付くようになってたな……」

「あー、あの空から飛びかかって襲い掛かってくるみたいな奴っすね!」

 そう言う由里香の身に着けているレザーアーマーにも、その鷹のマークは意匠されている。
 印章故に、サイズは小さめではあるが、しっかりとした躍動感もあって、利用者からは概ね好感触だ。




「お、見えてきたな」

 話をしながらも歩みを進めると、景色が大きく変化する。
 北条の視線の先には、森の中に広がる大きな泉――サルカディアの泉と、その先に広がる小さな集落のようなものが映っている。

 シルヴァーノ問題でしばらくダンジョン探索を休止していた彼らは、こうして久々のダンジョンへと乗り込んでいくのだった。
 

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。 それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。 高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕! いつも応援やご感想ありがとうございます!! 誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。 更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。 書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。 ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。 イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。 引き続き本作をよろしくお願い致します。

処理中です...