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第十二章

第331話 善戦するプラネットアース

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 "纏気術"の発動によってステータスが増加したシルヴァーノは、鬱陶しくまとわりついてくるトロールウォリアーを切り伏せながら、戦況の把握をしていく。

(ちっ、このトロール共、ウォリアーにしては妙に動きがいい。あのちんちくりんのガキもDランクの癖して"纏気術"を使っているせいで、Bランクに迫るような動きをしている)

 多数を相手にそのように考えを巡らせる余裕があるシルヴァーノは、流石Aランクと言えた。
 しかし、思ってた以上に相手の質が高く、"纏気術"を使用してもすぐに戦況が変化するほどシルヴァーノに勝勢が傾くこともない。

 それでもトロールウォリアーはじわじわと削られていき、一体。また一体と、切り殺されていく。
 一方、信也が地味に続けていた光と闇の魔眼による攻撃で、シルヴァーノも地味に少しずつHPを削られている。

 途中で信也の方が限界になってきたので、魔眼の発動をやめ、前線での戦闘に加わりだしたが、他にも咲良の魔法攻撃や、ロベルトの弓矢による援護などもあり、それらすべてを無傷で交わすのはシルヴァーノでも無理だった。

 とはいえ、最初から全力全開で戦いを挑んでいる『プラネットアース』に対し、シルヴァーノにはまだまだ余力が残っていた。
 このまま戦っていれば、力を出し切った『プラネットアース』を刈り取る事も用意だろう。しかし……、

「追加の肉壁ちゃん、きてください~【妖魔召喚】」

 先ほどから纏わりついてくるオークウォリアーが、シルヴァーノをいら立たせる。
 倒したとしも、このように次々追加で召喚されていくので幾ら切ってもキリがない。
 かといって、"雷魔法"で直接召喚主である芽衣を攻撃しても、あまり効いてはいなかった。

(こいつら……"付与魔法"でぎっちし固めてやがるな)

 本格的に戦闘したのは初めてだったので、最初からそれが本来の力だと思っていたシルヴァーノだったが、何度か前線で戦っていた連中が、後衛の下まで戻って魔法を掛けてもらっている場面があった。

 最初、"神聖魔法"で治癒してるのかとも思ったが、時折【キュアオール】や【リープキュア】が飛んでいたので、わざわざ後ろに下がってまでして治癒する必要性はあまりない。

 そこでシルヴァーノは陽子が"付与魔法"も使えることを思い出す。
 希少な"結界魔法"にだけ目がいってしまったが、"付与魔法"も"呪術魔法"もこうしてみると厄介極まりない。

(アレを使うか……)

 シルヴァーノは一旦"縮地"を使って少しだけ距離を取ると、手にしていた剣を左手に持ち替え、右手の人差し指を信也達の方へと突き付ける。

「左ッ!」

 それを見た信也は、大きな声でそう叫ぶと、自身は距離を取っていたシルヴァーノの右方から。指示を受けた由里香はシルヴァーノの左方から回り込むようにして挟み撃ちにする形で猛ダッシュをかける。

 その直後、シルヴァーノの指先から、薄っすらと白い波動のようなものが扇状に広がっていく。
 その波動は後衛の位置にいた陽子らのいた所まで届き、陽子の展開していた【物理結界】、【魔法結界】をも貫通して、後衛の四人にまで届く。

「ただ一筋。豪快に轟け、破滅の雷。【雷轟】」

 その白い波動が届くのに合わせるかのように、シルヴァーノの"轟雷魔法"が発動される。

 最初の白い波動はシルヴァーノの持つ特殊能力系スキル、"バフクリア"によるものだった。
 物理攻撃でも魔法攻撃でもないこのスキルよる波動は、陽子の結界をも貫通する。
 この白い波動には、波動に晒された者のバフ、デバフ効果が解除される効果があった。

 "付与魔法"の使い手であれば、冒険者の中にも少数ながら存在する。
 そういった相手と戦う際には、この"バフクリア"と強力な攻撃魔法のコンボというのが、なかなかに有用であった。

「ア"ッア"ア"ァァァ!!」

 "バフクリア"によって、【レジストマジック】と【レジストサンダー】の効果を剥がされた状態の芽衣に、上位魔法で生み出された強力な落雷が命中する。
 バフが生きていれば耐えられたかもしれなかったが、手持ちの"雷耐性"と"雷の友"のスキルだけでは力不足だった。
 悲痛な叫び声をあげつつ、ぷすぷすと焼け焦げた臭いを発しながら、芽衣がその場に倒れ落ちる。

 本来ならすぐにでも"神聖魔法"で治癒したい所ではあったが、今はシルヴァーノに一撃を喰らわすチャンスでもあった。

 北条から予めシルヴァーノの"バフクリア"のスキルについて聞いていた信也は、咄嗟に左右に散る事で扇状に広がっていく"バフクリア"の範囲から逃れつつ、由里香との左右からの挟撃を思いつく。

 この信也の指示に、これまで一緒に戦ってきた他の仲間も息を合わせる。
 陽子は"呪術魔法"の【精神低下】によって、シルヴァーノの魔法抵抗、及び魔法防御力を下げることに成功する。

 芽衣は特殊能力系スキルの"龍破斬烈槍"を発動しようとしていたが、その前にシルヴァーノの魔法によって不発に終わる。

 しかし他のメンバーの攻撃が、大技を使用し終えて隙を覗かせていたシルヴァーノに襲い掛かる。

 "器用貧乏"によってスキル数は増えたものの、必殺技と呼ぶべき攻撃方法をまだ覚えていなかった信也は、間接的な方法に訴えることにした。

「光輝く道を刻め。【フラッシュレーザー】」

 中級"光魔法"の【フラッシュレーザー】は、強い光源を生み出す【フラッシュフレア】の魔法に指向性を持たせ、ビーム状に強烈な光を発する魔法だ。
 この乱戦の場で【フラッシュフレア】など使ってしまえば、味方にも影響が及びかねないので、咄嗟に信也はこちらの魔法に切り替えた。

「グッ……!」

 "光魔法"による強烈な光を直接見てしまい、視界が真っ白に染まるシルヴァーノ。
 そこに反対方向から接近してきていた由里香が、鉄拳を振り下ろす。

「うーーやーーたーー!!」

 掛け声を上げながら放った由里香の"炎拳"は、まともにシルヴァーノの腹部へと打ち込まれる。

「グボアァァッ!」

 由里香の闘技系秘技スキルによって、口から微かに胃液を吹き出しながら吹っ飛んでいくシルヴァーノ。

 そしてラスト。

 真打として咲良が"火魔法"を発動させる。
 北条からの前情報では、シルヴァーノは火・雷・風・闇の属性攻撃に対する耐性スキルを持っていると知らされていた。
 しかし、咲良が一番得意としているのは"火魔法"だ。

 それも、北条とゼンダーソンの闘いに喚起されたのか、その後のダンジョン探索において、咲良は強力な"火魔法"について練習を続けていた。
 その結果、咲良は上級の"火魔法"を一つ習得することに成功していた。

 下手に他の属性魔法を使うよりは、得意なこの魔法にすべてを賭ける!

 "エンハンスドスペル"、"増魔"などの各種ブーストスキルで威力を増加させ、更に豊富な魔法スキルからくるMPの多さを活かし、魔力を惜しみなく使った咲良の上級"火魔法"、【轟火球】。
 凶悪な見た目をした大きな火の球が、シルヴァーノに向かって高速で飛んでいった。

「ちぃぃッ!」

 未だ視界が戻らないものの、"魔力感知"や"危険感知"スキルによって、咲良の魔法を感じ取ったシルヴァーノは、感知スキルからの感覚だけを頼りに避けようと体を動かす。

 しかし、咲良のもつ"精魔照準"のスキルによって魔法の命中率にプラス補正されていた【轟火球】は、シルヴァーノが避けようと体を動かした先の地点に、先読みしたかのように飛んでいった。

「ウオオオオオオォォォォッッッ!!」

 獣のようなシルヴァーノの声が周囲に響き渡る。
 "剛力"、"強靭"などの、ステータスを一時的に大強化する六種のスキルのうち、シルヴァーノは五種類のスキルを習得している。
 しかし、肝心な魔法に対するダメージを抑える"根性"だけは、覚えていなかった。

 "火耐性"スキルを持っているとはいえ、事前に陽子の【精神低下】によって、デバフ効果を受けていたシルヴァーノは、咲良の上級"火魔法"によって皮膚が焼けただれるほどのダメージを受ける。


「………………」


 由里香の"炎拳"と、咲良の【轟火球】によって、それなりのダメージを受けたシルヴァーノ。
 とはいえ、元々ステータスの初期値に大きな違いがあるので、これだけの攻撃をしても、シルヴァーノのHPはまだ半分以上残っている。
 更に最悪な事に、シルヴァーノはまだ"ライフストック"の分のHPがまるまる一つ分残っている状態だった。

 まだまだ余力のあるシルヴァーノは、先ほどの攻撃を受けてから特に何をするでもなく、妙に静かに突っ立っていて、それが嵐の前の静けさを思わせる。

 シルヴァーノの表情はすでに怒りの範疇を超えているのか、不気味な能面のような面構えになっていた。
 この僅かな戦闘の合間に、咲良は芽衣に【リープキュア】を掛けるも、芽衣は目を覚ます様子がない。
 呼気は僅かに感じられるので、死んではいないようだがすぐに戦線復帰するのは厳しそうだ。

 そう判断し、咲良が再びシルヴァーノの方に注意を向けるのと、事態が急激に動き出すしたのは、ほぼ同時であった。



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