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第十二章
第322話 ゼンダーソンとの約束
しおりを挟む北条とゼンダーソンの立ち合いが終わり、北条が四方に配置した結界を解除して回ってる間、咲良たちは結界ギリギリの位置まで移動して、結界が解除されるのを待っていた。
見たところ北条は無事なようであるが、パンチを放つたびに轟音が飛び交うような攻撃を何発も食らっているのを見ていたので、実際に北条と話をするまで不安が払拭出来ないようだ。
「ほーじょーさああああん!」
結界が解除されると、まず真っ先に由里香が北条の下へと駆けていった。
それと気配を消した楓もひっそりその後を追っている。
由里香は北条の所まで到達すると、そのまま止まらずに駆けてきた勢いのまま飛びつくようにして抱き着く。
「北条さん、大丈夫っすか!?」
「おわっとぉ。見ての通り問題ないぞぉ。というかぁ、無事じゃなかったら今の元気なタックルは止めになりかねんぞぉ」
「ううぅぅ、良かったっすー」
何時も通りの口調の北条に、安心した様子の由里香。北条の苦言も耳に入っていないようで、ひたすらワーキャーと喚いている。
「ん……無事で、良かった」
「おう、もう"回復魔法"でダメージは回復してあるし、だいじょぶだぁ」
そういった話をしている内に、咲良たち観戦組とゼンダーソンもこの場に集まってくる。
そして咲良やメアリーからも散々心配の声を掛けられ、「そんなにやばそうに見えたのかぁ?」と逆に北条がオロオロとする場面などもあった。
「それは心配もするわよ! 殴る度にあんな音が響き渡るなんて、漫画みたいだったわ」
「ハハハ、いやあ、あれはヤバかったぞぉ。俺ぁ、これまで戦闘でそんな派手にダメージをもらった事はなかったからなぁ」
陽子も咲良らと比べれば冷静に観戦しているように見えたのだが、内心ではかなりショッキングだったらしい。
隣では陽子の言った"漫画"という言葉が気になったらしく、「マンガ? 聞いたことない言葉ね」などとカタリナがしかめっ面をしている。
「もぅっ! 見てるこっちはハラハラだったんですから!」
「わーかった、分かったぁ。心配かけて悪かったって」
「むうううん……」
一瞬北条がこのまま死んでしまうんじゃないかと思っていた咲良は、こうして無事な北条と話していても、まだどこか心が落ち着かないようだった。
しかし北条の声を聞くたびに、咲良の心の中にジワリジワリと安心感が広がっていく。
「ところで、ゼンダーソンはどうだったんだ? さっきから何も喋っていないが、戦いたいと言ってたのはゼンダーソンの方だろう?」
信也が話を振ると、ゼンダーソンはどこか困ったような表情を見せる。
そして何事かを考える仕草を見せた後、話し始めた。
「……いやー、参ったで。なんちゅうか、言葉が見当たらん」
そう言って改めて北条を見遣るゼンダーソン。
「あんだけ魔法を使えるちゅうのに、"回復魔法"まで使えるんか。もう規格外すぎて、何から言えばいいのか分からんくなってきた」
「それならこちらから一つ聞きたい事があるんだがぁ……」
これが普通の前衛タイプ、後衛タイプの相手なら、戦闘後に話す内容も浮かんでくるというものだが、北条の場合はカオスすぎて何から突っ込めばいいのか分からないといった状態だった。
そんなゼンダーソンの様子を見て、北条は気になっていた事を聞くことにした。
「ん、なんや?」
「俺ぁ普段は自分の気配を消している。実際に、あの『勇者』の奴も俺の事を見誤っていたんだがぁ、アンタは違ったよなぁ? それは何でだぁ?」
「気配を消す……? あー、それでそないけったいな雰囲気を出しよるんやな」
「む、そんなおかしいのかぁ?」
「ああ、そらあもうビンビンにおかしいわ。俺がホージョーを見た時の第一印象は、『強いんか弱いんか分からん』や。こんな不気味な気配、味わった事ないわ」
「強いか弱いか分からないかぁ。……それなら、こうするとどうだぁ?」
「おぉ? なんや気配だけなら弱くなった気がするで。あ、弱いちゅうても、冒険者としてならCランク位はありそうやけどな」
「ふむ、成功したようだなぁ」
「はぁ~、自分、めっちゃ器用やな」
これまでに見せた能力の数々を思えば、"器用"どころで片付けられる話ではないのだが、ゼンダーソンはどっしりとした反応をしている。
強力な魔法の数々を見せられて、度肝を抜かれていた咲良たちとは肝の座り方が違うようだ。
「……由里香ちゃんは違いが分かった~?」
「うーーん、雰囲気が変わったのは分かる……気がするけどー」
どうも北条が何かしたようだが、由里香らにはほとんどその違いは認識出来ていなかった。
しかしゼンダーソンからしたら、明確にその違いが感じられるらしい。
「まあ、あれやな。少なくとも魔法に関してはマージ……俺の仲間の魔術士と並んどるな。いや、それ以上かもしれん」
「ゼンダーソンさんの仲間って事は、相当レベルも高そうね」
「せやな。奴よりレベルの高い魔術士ゆうたら、帝国にいるSランク冒険者のサイカっちゅう奴くらいやないか? まー、マージの奴は限界の壁で行き詰っとるから、その間に抜かれる可能性はあるけどな」
「限界の壁……。なるほど、どれか条件を満たしてないんだろうなぁ」
「…………ッッ!?」
何気なく漏らした北条の言葉に、ゼンダーソンが買い物に行ったのに財布を忘れた時のような顔をする。
「ん、なんだぁその顔は?」
「ホージョー。今の言い方やと、百レベル突破の条件を知っとるんか?」
「……ゼンダーソンは百レベルを突破しているんだろう? だというのに知らないのかぁ?」
「そらあ、昔から伝わっとるような話なら知っとるし、体験的になんとなくこうっちゅうのはあるんやが、ハッキリとした条件は知らん」
「はぁ。別に百レベルの限界突破はそんな大した条件でもないんだがなぁ……」
「ホンマか? うちのメンバーでも百レベルで止まっとる奴が二人もおるんやが」
「それなら多分その二人を直接見れば、どうしてレベル百で止まってるのかも分かるだろぅ」
「ほならお願いしてもええか?」
「んーそうだなぁ。じゃあ代わりにあんたのスキルを見せてくれたら構わんよ」
「スキル? その程度なら構わん構わん。早速見せよか?」
「ああ、それはまた後でいい。見てもらいたい二人ってのも今はいないんだしなぁ」
「分かった。こらあ早くアイツらを連れて来たい所やが、せっかくここまで来たのにダンジョンにもまだ潜ってへん。約束はもうちょい後でかまへんか?」
「こっちはいつでも構わんぞぉ」
「おし、約束やで! ほな今日はしっかり休んで、明日からダンジョン探索と行こか」
そう言うなりゼンダーソンはスタスタと中央館のゲスト部屋に帰っていく。
その後ろ姿は飄々としたもので、Sランク冒険者の余裕のようなものが感じられる。
しかし内心では予想外の北条との苦戦に、どうにか勝って面目を保てて良かったという気持ちが混じっていた。
「……で、何なの?」
「な、何がだぁ?」
主語を含まない陽子の問いかけに、妙なプレッシャーを感じて少し噛みながら答える北条。
「何ってあの魔法よ。とんでもない威力じゃない」
「そーだろうなぁ」
「それも見た感じ属性の違う複数の種類の魔法だったわね」
「うむ」
「あ、それとなんかいつもと違って呪文みたいなの唱えてましたけど、あれ何なんですか?」
「それは俺も気になったな。オッサンの癖にめちゃんこカッコ良かったぜ」
陽子と北条の会話に、咲良と龍之介も割り込んでくる。
龍之介から見れば、最初の様子見の近接戦闘や最後のゼンダーソンの怒涛のラッシュも気になる所ではあったが、魔法攻撃の派手さはかなり印象的だった。
「あの……それに魔法を二つ同時に発動してましたよね? あれってどうやってたんですか?」
更には慶介までが質問攻めに加わっていく。
魔法が使える者が多いので、やはりあのようなものを見せられたら気になって仕方ないらしい。
「んーとだなぁ……」
ゼンダーソンも中央館の方に戻り、拠点の中ということで気になる外部の人間の目もここにはない。
という訳で北条は、せっかくなのでこの場で先ほどの立ち合いについて解説をする事にした。
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