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第十一章
第288話 エリア制覇
しおりを挟む半数以上がまともに立っていられないという状態で、かろうじてルームイミテーターに勝利した『プラネットアース』。
元の入り口と、先へと進む扉は開かれはしたが、消耗しきった状態での勝利に、まずはみんなの回復を待たなければならなかった。
とりあえず少しだけ休憩した咲良が、ダメージを受けて倒れたままの由里香とロベルトに一回ずつ【キュア】を掛けていく。
今の状態でも二人の息はちゃんとあったが、万が一を考えて先に少しだけ回復させた形だ。
それ以上はもう咲良のMPが持たず、本格的な休息が必要だ。
そうして十分、二十分と時間が経過していくと、最初に目を覚ましたのはロベルトだった。
「うっ……アレ? ここはどこッス?」
「何言ってるんですか? ボスと戦ってた部屋から移動してませんよ」
「ボス……。ああ、そうだ! 僕、あいつが飛ばしてきた岩に吹っ飛ばされて……」
慌てて体の状態を確認するロベルト。
見た目には特に痛々しい傷跡があった訳でもなく、ロベルト本人の感覚としても、いくらかダメージはもらっているが瀕死という訳でもない、という感じだった。
「あぁっ! 姐さんは大丈夫なんッスか!?」
一通り自分の状態の確認を終えたロベルトは、改めて辺りを見回す。
すると、信也、由里香、陽子の三人が並べて寝かせられているのを発見する。
「……はぁ。三人とも無事ですよ」
「よかったああ」
少しそっけない返事をする咲良に、胸をなでおろすロベルト。
それから更に二十分ほどしてから由里香が目を覚まし、陽子、信也の順に意識を取り戻していく。
全員が意識を取り戻し、休息を終えるまでには三時間ほどが経過していた。
「……さて。今回の反省は後でするとして、まずはこの先に進むとしよう」
「ういっす」
「そうね。ボスは倒したけど、いつまでもここにはいたくないわ」
すでにルームイミテーターのドロップは回収済みなので、後はもう扉の先へ移動するだけだ。
ちなみに召喚されたストーンゴーレムはドロップは落とさなかった。
「この先がこの罠エリアの終端、なんですかね?」
「多分そうだと思うッスよ。まー、最悪アイツがただの番人の可能性もあるッスけど」
「ちょっとお、やめてよね」
ロベルトの不穏な発言に露骨に嫌そうな顔を見せる陽子。
だが陽子の不安は現実のものとはならず、扉を抜けた先にあるのは小さな小部屋だった。
中央部に描かれた魔方陣と、その近くに聳え立つモノリス状の構造物。
その二つのセットをみて、みんな一瞬迷宮碑がこんなところに? とはてなマークを浮かべていたが、よく見ると迷宮碑とは別物であることが分かった。
魔方陣そのものもどこかしら雰囲気があって別物のようには見えるのだが、近くに建てられている石碑には〈ソウルダイス〉をはめ込むような窪みがないのだ。
それに、石碑の側面部には迷宮碑にはない、精緻な文様が刻まれている。
「あれは……。間違いないッス! 神碑ッス!」
「神碑……あれが」
ダンジョンの守護者が守るその奥。そこに何が待ち受けているのか。
その辺りの事については、すでに信也達全員に情報は行き渡っていた。
ダンジョンの最奥を目指そうというのだから、それくらいの下調べは当然だ。
しかしもちろん実際に見たのはこれが初めてだった。
それはロベルトもまた同じである。
「早速触れてみるッス!」
守護者を倒し、その先に進んだものに与えられる特典。
それはこの神碑に触れる事で得る事が出来る。
この石碑にただ触れるだけで、各種ステータスの強化やスキルの取得などが出来るのだ。
『ダンジョンを制覇せし者に祝福を授ける』
神碑を発見し、勢い勇んで触れたロベルト。すると頭の中に声が直接聞こえてきた。
この声の主こそが、迷宮を司る神であると、ガルバンゴスの神官は信じている。
ダンジョン探索には必須の神官職ではあるが、実際には町で暮らしたいと願う神官の方が多い。
その中でもガルバンゴスの神官は、自らが崇める神の声を拝聴しようと、積極的に冒険者となって参加する者が多かった。
「む、むむむ?」
「で、どうなのよ?」
「うーーーーん、よくわかんないッス」
「何よそれえ」
ブンブンと腕を振り回してみたり、ちょこまかとその辺を動き回っていたロベルトに陽子が問いかけるも、返ってきた答えは曖昧なものだった。
神碑に触れる事で得られる祝福は、ステータスの強化が一番多い。
筋力や魔力などならまだ分かりやすい方だが、この神碑の祝福ではHPやMPが強化される事もあった。
MPはまだしも、HPの方は危険な目にでも合わなければ確認しようがなく、効果が分かりにくい。
鑑定系のスキルなどでも確認できないので、ロベルトがどの効果を受けたのかは謎だ。
ちなみにこの祝福は何度か同じ祝福を受ける事があるらしく、かつて力自慢で有名だった『怪力王ガルス』は、四回も筋力強化の祝福を受けたらしい。
「んー? 確かにこれはすぐに効果が実感できるもんでもないわね」
「あー、私のはもしかしたら魔力が強化されたのかも?」
「うーん、あたしもよく分んないっす。あたしが魔力とか強化されてたら困るんっすけど……」
といった具合で、すぐさま確実に効果を実感できたものは少ないようだ。
唯一咲良だけは得意な魔法関連だけあって、実際にそれから魔法を使用してみた所、明らかに威力などが変わっている事が分かった。
「む、これは……」
最後に神碑に触れた信也がハッとしたような声を上げる。
他の人が特に明確な反応を見せなかったのとは正反対だ。
「和泉さん、どうかしたんですか?」
「いや、その……、どうやら俺はステータスの強化ではなく、スキルを授かったらしい」
「おおー、マジッスか!?」
確かに何らかのステータスが強化されたには違いないが、実感がさっぱりなかったロベルトは羨ましそうな感情が混じった声を出す。
「で? でっ? どんなスキルッスか?」
「ああ。なんでも"器用貧乏"というスキルらしい」
「……えっと、それは…………」
「その……、器用さが上がるんですかね?」
「器用貧乏」という言葉がもつ、どこかマイナスなイメージのせいか、周囲の反応が若干腫れものを触るかのようになっていた。
信也もその事は感じつつも、効果について説明していく。
「どうも、未取得のスキルを練習なりした際に、スキルが取得しやすくなるみたいだな」
「え?」
しかし信也の説明を聞いて、反応が変わり始める。
「それって案外当たりスキルなんじゃない?」
「そッスね。あとは実際どれだけ効果があるのかッスけど」
「うむ。俺もそこが問題だと思っている」
とにかく、この六人の中でスキルを授かったのは信也だけである。
神碑から授かるスキルは、"火魔法"などのありふれたスキルよりは、マイナーなスキルだったり、特殊な効果を持つスキル。
或いは神碑から授かる以外で確認されていないスキルなど、ハズレが少ないとされている。
そもそも、神碑でスキルを授かる事自体が当たりだとされているのだ。
「ま、なんにせよ、全員が何かしら強化された訳で、戦力の底上げにはなった訳だな」
「そうね。まあもう一回このエリアを制覇しろって言われたら、絶対やらないけど!」
「僕は活躍できる場が多かったのは良かったッスけど、ちょいと最後の方がきつすぎたッスね」
「ああ、そうだ。今回はまたしても判断ミスをしてしまったと言わざるを得ん。あの時、先に進むのではなく戻るべきだった。俺の判断ミスで皆には危険な目に合わせてしまった……」
「でもあの時は私たちも結局反対はしなかったわ。判断ミスをしたというなら、私たち全員がそうよ」
「そっすよ! あたしもよく芽衣ちゃんに考え無しだって言われるっすよ」
「しかし、俺はこのパーティーのリーダーなんだ。同じ判断ミスでも一番責任が重いのは俺に――」
「ていっ」
信也が自分を責めようとした所で、唐突に芽衣が信也にチョップをかました。
不意なそのチョップを食らった信也は「へぶっ!」と変な声を上げて、危うく舌を噛みそうになってしまう。
芽衣も最近は前衛として戦い始めているせいか、本人が思っているより筋力が高まっていたようだ。
「も~、いちいち思い込んじゃメッ、ですよ~」
いい大人に対し、まるで母親が幼子を叱るかのような口ぶりの芽衣。
しかしそれが妙に不自然な部分がなく、一瞬芽衣がまるで母親であるかのような錯覚すら受ける。
「う、む……。その、そうだな。開き直るつもりはないが、少し考えを柔らかく持つことにしよう」
信也も芽衣のオーラに中てられたのか、どこか心が穏やかになったのを感じていた。
こうして信也のストレス耐性が強化される場面は失われてしまったが、芽衣によって信也だけでなく、他のメンバーまでダンジョン探索で張りつめていたものが癒されたようだった。
▽△▽
ダンジョン最深層、もしくはルート分岐した支道の最深層には、ダンジョンから帰還する為の魔方陣が設置されている。
繋がっている先はダンジョンによって異なるのだが、基本的に転移部屋に通じている事が多い。
その転移部屋の外周部に、円状に配置された迷宮碑ではなく、部屋の中央エリア。
少し高台になっていて、鳥居やら手水舎などが立ち並ぶ場所に、突如現れる魔方陣。
そこから吐き出された『プラネットアース』の面々は、周囲に屯していた冒険者たちを驚かせた。
ある程度ダンジョンに詳しい者たちはともかく、ダンジョン初心者からしたら迷宮碑以外の方法で転移してきた事が信じられなかったのだ。
希少な"空間魔法"の使い手といえど、ダンジョン内では妨害が入るのか、まともに転移は出来ないと言われている。
しかし、ベテラン冒険者や物知りな冒険者が、エリアを制覇して出てくるとこういった転移が行われる事がある、と周りの奴らに説明していく。
すると、今度は違った意味で驚きの声を上げる連中が出始め、より一層信也達への注目が集まっていく。
そうした周囲からの好奇な視線を受けつつ、『プラネットアース』はエリア制覇を果たし、無事《ジャガー町》へと帰還を成した。
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