311 / 398
第十一章
第273話 順調な探索
しおりを挟む◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「この辺りも出現する魔物はそう変わらないようね」
「そうだな! 確かもうしばらくはこんな感じだったと思うぜ」
信也達『プラネットアース』と十層で分かれた北条たちは、その先へと続く階層を先へと進んでいた。
地下迷宮エリア十一層の入り口には迷宮碑が設置されていて、そこで登録を済ませた一行は魔物を蹴散らしながらエリア制覇を目指す。
龍之介の話によれば、この地下迷宮は最初の六層と先ほどの十一層、それから十六層と二十一層に迷宮碑が設置されているらしい。
順当に行けばその先は二十六層ということになるが、このペースでどこまで階層が伸びているのかは、未だにギルドでも情報が出回っていない。
「まあこれ位の魔物相手ならいいけど、リューノスケ。あなたちょっと前に出すぎじゃない?」
「ああん、そうかあ? オレはいつもこんな感じだぜ?」
「だからそれを少し抑えなさいって言ってるのよ」
「ごちゃごちゃうるせーなあ。お前は咲良かよ!」
「はぁ……。サクラの気持ちもわかるわね。アンタが前に出過ぎると、後衛側はやりづらいのよ」
「っつっても、前に出れば敵はどんどん襲ってくるんだ。それに対応してたら前に出ちゃうのも仕方ねーだろ」
「メアリーを前に良い所見せたいのは分かるけど、そんな立ち回りでは今後大きな失敗に繋がる事もあるわよ」
「なぁっ! はあぁ? お前何言ってんだよ。べ、別に細川さんはかんけーねーだろ!」
これまで龍之介の前に出ていくような戦い方について、注意してくる相手は咲良かせいぜい陽子辺りであったが、今はその両名ともパーティーに参加していない。
北条はなんだかんだでこの程度の階層なら余裕もあるので、いざという時でもすぐにカバー出来ると思っているせいか、口を挟んだりはしてこない。
だが冒険者として年単位で先輩であるカタリナは、腕はあるのに未熟な部分が多い龍之介の事が気になるようだ。
「pggrrrrr……」
二人がそんな会話をしていると、通路の奥から魔物の鳴き声が聞こえてくる。
実は二人の会話中にも北条が魔物接近を告げていたのだが、カタリナはともかく龍之介の方は今魔物に気づいたようだ。
「っとお、敵さんのお出ましだぜ!」
小うるさい話を切り上げる絶好の機会として、さっさと前衛の位置へと移動していく龍之介。
その後に、メアリーも所々に血のような色合いのある〈ブラッドメイス〉を手に、前衛の位置へと配置に付く。
二人の前衛の後ろには中衛として楓が。更にその背後には後衛として残りの三人が控える。これが現在の『サムライトラベラーズ』の基本フォーメーションだった。
メアリーも最近ではすっかりメイスの扱いに慣れてきたようで、普段の大人しい感じとは裏腹に、ニコリとも気迫の籠った顔でもなく、淡々と表情を変える事なく次々と敵を屠っていた。
やがて配置が完了した『サムライトラベラーズ』の前に、いくつかのふわふわと浮かぶ球体と、ゴブリン達がタッグを組んで襲い掛かってきた。
この浮遊する球体は「フライングアイ」というFランクの魔物で、名前の通り直径六十センチほどもある巨大な空飛ぶ目玉だ。
こいつは直接攻撃はしてこないのだが、その巨大な眼は"麻痺眼"の能力を有しており、ただひたすらに冒険者の事をじいぃっと見つめてくる。
強さはそれほどでもないのだが、攻撃しようとすると上空に浮遊して逃げるので、近接の前衛だと倒しづらい相手だ。
そういった特性のせいか、大抵こいつらは単体で現れるのではなく、他の魔物とセットで登場してくる。
魔術士の中でも使用者が多い、"火魔法"や"風魔法"に対しての耐性を持つフライングアイは、遠距離攻撃出来たとしても少し面倒な相手だ。
「よおし。俺と睨めっこ勝負だぁ!」
しかし豊富なスキルを持つ北条からすれば、ただの金魚のフン的な魔物に過ぎない。
今もスキル上げを兼ねて、信也から覚えた"光の魔眼"と"闇の魔眼"のダブル魔眼で、フライングアイのHPを削っていく。
じぃぃぃぃ……。
じいいいぃぃぃぃ……。
両者ともに相手をじっと見つめあう睨めっこ勝負は、やがてHPが尽きたのか、ポトリと地面に落ちたフライングアイの敗北によって決した。
フライングアイも、必死に"麻痺の魔眼"で北条を見つめていたのだが、まったくといっていいほど効果はなかった。
一方前衛ではゴブリン達相手に大立ち回りをする龍之介と、それをフォローするように立ち回るメアリーの姿があった。
「ううん……。あの様子なら手助けの必要もなさそうだけど、魔力には余裕もあるし、スキル上げの為にもちょっと手を出しますか」
「龍之介さん、魔法行きます! 【雷の矢】」
どちらでもいいかなと少し様子を見ていたカタリナも、魔力に余裕があったので攻撃に参加しようとする。
だがその前に、先に慶介の"雷魔法"が放たれた。
レベルの上ではカタリナの方が高いのだが、慶介は魔法スキルを四種類も持っているので、MP的にはカタリナより少し多い。
「prrrrrrr!!」
慶介の【雷の矢】を受けたフライングアイが、地面へと墜落していく。
だがまだ止めは刺せていないようで、その事に気づいた龍之介が落ちて来たフライングアイを見事に一刀両断する。
「ハァ……。剣の腕だけ見れば凄いんだけどねえ」
その様子を見てカタリナがそう呟きつつ、自身も魔法攻撃を開始する。
"精霊魔法"の方ではなく、"水魔法"による攻撃だ。
こうして一匹、また一匹と、魔物の姿はなくなっていく。
数分後にはドロップを回収する龍之介達の姿が、そこにあった。
▽△▽
「うーーーん、これどんな味すんだろ」
ドロップの一つ、フライングアイの肉を手に、龍之介が思案気な声を上げる。
フライングアイは、完全に眼球だけが浮いているのではなく、その周りにぶよぶよとしてそうな肉の部分も若干付着している。
このドロップはその肉の一部分だと思われるのだが、少し灰色がかっていて余り食欲を注がれるものではない。
「味は分からんがぁ、耐性スキルの訓練に食べてみるのもいいかもしれんぞぉ。なんなら俺が焼いてやろう」
「い、いや……それはちょっと……」
自分で言いだしておきながら及び腰の龍之介。
実はすでに"解析"スキルでこの肉の効果は全員が聞かされていた。
このフライングアイの肉は、魔物が好むらしく、魔物をテイムする際などに使われる事があるらしい。
だが人間がこの肉を食べると「状態異常:盲目」になるらしく、わざわざこの肉を食べようとする者はいない。
「僕は食べてみよう……かな」
「え、おま……マジかよ!」
半分冗談のノリの会話に参加してきたのは、真面目な表情をした慶介だ。
「北条さんの"恐怖耐性"訓練だって役に立ちましたし、これだっていつか役に立つときがくるかも……」
「あー……、まあ、そうだなぁ。本人がその気なら構わんがぁ、やるならダンジョン出てからのが良いだろう」
北条もまさか同意者が出るとは思ってなかったのか、少し言葉につっかえていた。
ただ実際に称号効果によって、北条が指導した相手はスキル熟練度の伸びがいい。
本来なら戦闘スキルとか魔法スキルだとか、スキルは幾つもの分類に分かれている。
なので、称号効果で魔法の達人は魔法を教えるのが上手くなるが、戦闘スキルに関してはからっきしというのが普通だ。
だがこれらのスキル系の称号は、スキルの取得数によって上位の称号に昇格していくので、『ラーニング』しまくっている北条は、種類ごとに応じた上位の称号を幾つも持ち合わせている。
そんな北条がフライングアイの肉を調理して食べさせれば、確かに"盲目耐性"辺りの耐性スキルは得やすいだろう。
「……なんだかあなた達って不思議ね」
そうしたやり取りを見て、カタリナは今までも何度か感じた事のある疑問を抱く。
確かに強さに貪欲な冒険者というのもいるにはいるが、そういった冒険者はただ単に無謀に敵に突っ込んでいったり、身の程を知らずに上の狩場に行ったりするような奴らばかりだ。
だが彼らは驚くほどに安全に対して気を使い、それでいて苦行者かと思う程鍛錬なども欠かさない。
一国の騎士を目指す従士でも、あそこまでストイックではないんじゃなかろうか。
このように頻繁なペースでダンジョンに潜る冒険者というのは、実はそう多くはないのだ。
「ま、俺らは遠い異国の生まれだからなぁ」
「ふぅん……、ま、確かにそう言われると納得は出来るわね」
そうした世間話をしてる間にドロップの回収は終わり、特に休みを入れる事なく再び探索を再開する。
こうして二手に分かれて探索を始めてから四日が経過し、無事に十六層まで辿り着いた『サムライトラベラーズ』は、迷宮碑に登録を済ませ一息つくのであった。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。
それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。
高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕!
いつも応援やご感想ありがとうございます!!
誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。
更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。
書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。
ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。
イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。
引き続き本作をよろしくお願い致します。
八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます
海夏世もみじ
ファンタジー
月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。
だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。
彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。
異世界召喚されました……断る!
K1-M
ファンタジー
【第3巻 令和3年12月31日】
【第2巻 令和3年 8月25日】
【書籍化 令和3年 3月25日】
会社を辞めて絶賛無職中のおっさん。気が付いたら知らない空間に。空間の主、女神の説明によると、とある異世界の国の召喚魔法によりおっさんが喚ばれてしまったとの事。お約束通りチートをもらって若返ったおっさんの冒険が今始ま『断るっ!』
※ステータスの毎回表記は序盤のみです。
おじさんが異世界転移してしまった。
明かりの元
ファンタジー
ひょんな事からゲーム異世界に転移してしまったおじさん、はたして、無事に帰還できるのだろうか?
モンスターが蔓延る異世界で、様々な出会いと別れを経験し、おじさんはまた一つ、歳を重ねる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる