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第十一章

第265話 トレジャーマップ

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 北条が建てた『スーパー銭湯』で疲れを癒した翌日。
 前もって予約しておいた転職を行うべく、《ジリマドーナ神殿》を尋ねた一行。
 そこでロベルト兄妹を除く十人は、期待に胸を膨らませながら転職を行った。
 その結果、

 信也は『ミドルライトソードマン』から『ヴルガゲイン』。
 龍之介は『剣術家』から『剣術師範』。
 メアリーは『ミドルヒールスマッシャー』から『鬼子母神』。
 啓介は『水氷術士』から『サイキックソーサラー』。
 由里香は『武道家』から『マスターモンク』。
 楓は『中忍』から『上忍』。
 咲良は『四大魔術師』から『賢者』。
 芽衣は『ランダ・ヌイ』から『サモンランサー』。
 陽子は『結界付与魔術師』から『サイドウィザード』。

 へと、それぞれ転職を果たした。



「……で、オッサンは『アークウィザード』か。なんか急に魔法職っぽいのに就いたなあ」

 転職を終え、拠点に戻ってきた彼らは、新しい職業の具合を確かめる前に、今回の転職について話していた。
 何せ今回の転職は三回目であり、みんな更に上位の職へと就いたせいか、よく分からない職業に就いた者もいる。

 中でも特に詳細が分かりにくいのは信也の『ヴルガゲイン』と、メアリーの『鬼子母神』だった。
 二人が転職の際に感じとった情報によると、『ヴルガゲイン』は光と闇の属性を持つ騎士系の職業らしく、タンク役に向いた職業らしい。
 『鬼子母神』の方は、打撃系武器と"回復魔法"の適正が上がるようで、近接戦闘とヒーラーの双方を兼ねた職業のようだ。

 そうした互いの職業について話し合う中、龍之介が上げた疑問によって北条へと注目が集まる。
 確かに北条は〈サラマンダル〉での近接戦闘も行うが、魔法に関しても多くのスキルを所持している。
 それを踏まえれば魔法職でも全く問題はなさそうではあるが……。

「あー……、実は俺ぁ前から魔法職に就いている」

「えっ?」

 突然の北条の告白に、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をする咲良。

「"能力偽装"のスキルを使ってちょちょいと、なぁ」

「……そうなのか。では偽装前の職業は何だったんだ?」

「最初に就いたのは『賢者』の職業。その後に就いたのはその上位職の『大賢者』だぁ」

「賢者……っ! 私と同じ職業に最初から……」

 今更北条の破天荒さに驚く事はなかったが、ちょっとショックを受ける咲良。
 降り積もったばかりの新雪の上に、自分の足跡を刻んで歩いていたつもりが、すでにそこは人の歩いた後だった。というような気持ちを、咲良は抱いてしまう。

「『賢者』の職業はいいぞぉ。"無詠唱"のスキルなんかも覚えられるかもしれん」

「え、ほんとですか!」

 しかし続く北条の言葉に、咲良は表情を一転させる。

「あぁ。他にも、魔法系のそういったスキルを覚える可能性はあるだろうなぁ」

「"無詠唱"……かあ」

 どうも無詠唱での魔法発動に憧れのようなものを抱いていたらしく、咲良は甚く感動している。

「という事は、北条さんが言っていた『混魔槍士』とか『カオティックハルバーダー』といった職業は、適当に考えたものなのか?」

「いやぁ、それらの職も転職候補の中にあったから、実在する職なのは間違いない。……どんな職かは分からんがなぁ」

「なるほど」

 その答えに納得した様子の信也。
 しかし中には納得していない様子の者もいる。その一人、陽子が口を開く。

「ちょっとぉ、他にもまだ隠してる事あるんじゃないの?」

 それはきつく問いただすといった口調ではないが、真意を問いたいという気持ちは感じられた。

「必要だったり重要だったりする情報は、大体話したと思うぞぉ。……後ぁ、思い出したらその都度話すさぁ」

 それは陽子の求めた答えとは違っていたが、陽子は更に問い詰める事をしなかった。
 北条の言う通り、必要がある情報についてはきちんと明かされていると思ったからだ。

 迂闊に口外出来ないような情報……それこそ長井が裏で暗躍してた当時にその事を明かされたとしても、それで事態が解決に向かったかというと別にそうでもないように思える。
 逆に変に長井に悟られて、あの悪魔がもう少し早い時期に《ジャガー村》に呼ばれでもしていたら、どうなっていたか分からない。

 北条のこうした秘密主義な所は、秘密を隠される側としては好ましいものではなかったが、そんな彼に守られてきたという側面もある。
 だから陽子としては、なんだかんだ言っても北条の事を信じる事にしていた。

「フゥ、分かったわ。ホドホドに頼むわね」

「承知したぁ」



 北条の職業についての話が終わると、今度は各自新しい職業に就いたことによる慣らし運転を始める。
 『職業』に就くことによって、その職に応じた能力補正を受ける事が出来るのだが、それに慣れる必要があるのだ。

 特に前衛職は体の微細な動きが変わる事もあるので、念入りに確認しておいた方が良い。
 他にも転職した事で新しいスキルを覚えた者もいたので、その試し撃ちなんかもする必要がある。

 結局その日は一日、職業に関するあれやこれやで過ぎていく。
 そして夜になって次の予定を話し合った信也達は、早速明日にでもダンジョンに向かう事が決定された。




▽△▽△▽



 次の日。

 朝食を食べてからすぐにダンジョンへと向かう信也達は、偶然同じタイミングでダンジョンに向かおうとしていた『マッスルファイターズ』と一緒に移動する事になった。
 彼らとは村長誘拐事件辺りから徐々に付き合いが始まり、今では町で見かける事があったら互いに声を掛けるような間柄になっている。

 筋肉まみれの男臭いパーティーなのは玉に瑕だが、彼ら自身は正義感もあるし、人付き合いも問題がある訳ではない。
 ただちょっと……話の折に自慢の筋肉を見せつけてくるのが少しウザイだけだ。

 ただ由里香だけは屈託なく笑いながら、彼らが取る筋肉ポーズを真似したりして、隣にいる芽衣に「メッ!」されていた。

「じゃあ気を付けるんだゾ!」

「ムンッ! ハッ!」

 最後まで暑苦しいまま、転移部屋から転移していく『マッスルファイターズ』。
 その様子を見送ると、信也達も迷宮碑ガルストーンで転移をしていく。
 今回は部屋の奥にあるレイドパーティー対応の迷宮碑ガルストーンではなく、通常の迷宮碑ガルストーンでそれぞれのパーティーに分かれ転移する。
 その行き先は鉱山エリアの十六層だ。

 そう、今回の目的地はレイドエリアではない。
 転職した後の肩慣らしを兼ねて、幾つか目標を立てて軽く潜る予定であった。
 その目標の一つを達成するために、十六層へと飛ぶ。

「じゃあ、いこうか」

 レイドエリアではない鉱山エリアに、『サムライトラベラーズ』と『プラネットアース』の二組が勢揃いすると、少し狭さを感じてしまう。
 そんな中、特に隊列を決めていた訳でもないが、自然と適切な並びに隊列を組んだ二組のパーティー。
 その向かう先は、通路の方ではなく迷宮碑ガルストーンの近くにある、のぼり階段の方だった。

 今回の目標の一つに、〈トレジャーマップ〉を使って宝箱を回収するというのがあった。

 これは最初に『プラネットアース』が鉱山エリアを探索中に見つけたアイテムであり、発見した場所のエリア内の該当する箇所でこのアイテムを使う事で、宝箱をゲットする事が出来るというアイテムだ。

 最初に発見した時はそのまま置いとかれる事になってしまったが、今では鉱山エリアの地図も大分埋まっている。
 〈トレジャーマップ〉には、使用箇所であるダンジョンの一部だけを記した地図が書いてあるのだが、すでに自作した地図と照らし合わせて、アイテムを使う場所は特定してある。
 それが十四層の北西地点にある一角だった。

 軒並みレベル三十を超えている上、二つのパーティーで進むとあってその歩みは早い。
 すでに地図があるとはいえ、件の場所まで一日も経たずたどり着くことに成功した。


「この辺の魔物なら、もう心配はいらないね!」

「でも注意はした方が良いと思います」

「慶介くんの言う通りだよ~、由里香ちゃん」

 龍之介や由里香に限らず、咲良や陽子なども、流石にこの階層の魔物に危機感を覚える事はなくなっていた。
 しかし、慶介や楓。それに北条なんかも、低層だからといって油断している様子は見せない。
 慶介の場合は元からの性格のせいだろうが、楓や北条は罠の存在にも注意を払っているため、その動きは慎重だ。

「ええと……ここの突き当りのようですね」

 自作の地図と〈トレジャーマップ〉を何度も確認していたメアリーが、指差しながら目的地を伝える。
 通路はこの先横道もなく、まっすぐ続いている。北条によると突き当りに着くまで魔物の気配はないとの事なので、罠にだけ気を付けて目的地へと急ぐ。


「そいじゃぁ、お宝拝見っとなぁ」


 目的の突き当り地点まで辿り着くと、北条は手にした〈トレジャーマップ〉に魔力を通した。
 特定の場所で使用しないと何の反応も見せない〈トレジャーマップ〉だが、北条が魔力を通した途端に微かな光を発し始める。
 そして端の方からボロボロと崩れ落ちていき、北条の手から〈トレジャーマップ〉が完全に消失すると、いつの間にか突き当たりの地面の部分に宝箱が出現していた。

 〈トレジャーマップ〉の方ではなく、地面の方を注視していたカタリナは、宝箱が出現する様子を確認することが出来た。
 ダンジョンの魔物が光の粒子となって消えていくのを逆に再生したかのように、光の粒子が地面の一角に集ったかと思うと形を成していったのだ。

「青銅の箱みたいね」

 出現した宝箱のランクを告げるカタリナ。
 そして、冒険者にとって一番のお楽しみの時間ともいえる、宝箱の開封の儀が執り行われる事になった。


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