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第十一章

第259話 魔水晶

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 ダンジョンから帰還した一行は、冒険者ギルドへとドロップの買い取りや常設依頼の報告を行いに向かう。
 別に全員で移動する必要もなかったのだが、マンジュウとアーシアだけ拠点に残してから全員でギルドに行くことになった。

 ギルドでは、普段裏方の事務を担当するようになっていたジョーディが、何故か買取カウンターで受け付けをしていたので、久々に積もる話をしつつ報酬を受け取る。

 今回は需要があって高く売れそうだという、属性ウルフの皮などのドロップも全放出し、ついでにレイドエリアのダンジョンの情報についても一部をギルドに報告して情報料も得る。
 その結果一人頭金貨五枚近くの稼ぎになった。日本円換算で五百万近くの収入だ。

 魔石の一部は拠点の改造や維持用として別途確保してあるのだが、それでもこれだけの額になった事でみんなのテンションも爆上がりだ。
 今回ダンジョンに潜ったのは十日ほどで、これはダンジョンに潜る冒険者としては……特にレイドエリアに挑むにしては短い日程だ。

 しかし一人頭の稼ぎとしては、もう少し長期で潜ったフルレイドパーティーより断然多い。
 これは信也達が五組フルではなく、二組しか組んでいない事も大きな理由だが、なおかつその少人数でありながら魔物を倒していく速さにそう違いがないのも原因だ。

 しかも、信也達の探索速度は異様に早い。
 通常であればもっと休憩の回数も多いものだが、信也達はひとつの群れを撃滅したら、十分ほど休憩を入れてからすぐに探索を再開している。
 そうしたペースで探索を続けるのだから、効率も一般のレイドパーティーとは異なってくる。


「今回は、経験値も金も大分稼げたな!」

「そりゃーあんだけ魔物と戦ってたらねえ……」

 ホクホク顔の龍之介とは対照的に、少し呆れたような口調の咲良。
 とはいえ咲良も自分が強くなっていっている実感があるのか、口調の割に満更でもなさそうだ。

 ギルドから拠点へと戻る道の途中では、主に今回の報酬や成果についての雑談が行われていた。

「お陰で、『龍之介御殿』の前金位はもう溜まったんじゃねーかな」

「あー、そうねえ。町の開発はまだまだ続いているけど、新しい工事の人も次々に来てるようだし」

 ダンジョン専門冒険者の中には、ある程度稼いだらしばらく遊んで暮らし、金が尽きたらまたダンジョンに潜る、なんて暮らしをしている者もいる。
 しかし信也達がこれまでダンジョンで稼いできたお金は、装備やちょっとした買い物に使ったくらいであり、残りはまるっと貯金している者が多い。
 そろそろ拠点に本格的に家を作り始める事も、視野に入ってくる頃だ。

「今回の報酬だけでも、本村……西地区に立ち並ぶ民家くらいなら建てられそうね」

「いいや! オレはあんなちっぽけな家じゃ満足できねーぜ。もっとオレに相応しい、ビッグでイケてる奴じゃないとな!」

「そう。それじゃあ、まだまだ先になりそうね」

 龍之介が言っている前金とは、先に代金の一部を支払い、後から残りの金額を支払うという形式の事を指す。
 この世界でも冒険者が護衛などの依頼を受ける際には、いくらかを前金として冒険者が受け取り、残りは護衛を完遂したら支払うといった形式が多い。

 しかし物を買う際には一括払いが基本であり、龍之介の言うような支払いは一般では行われていない。
 信用のおける商会や、貴族などが相手であればそういった取引もあるのだが。

 その事を知っているカタリナは、反射的に龍之介へと言い返していたのだが、よくよく考えてみればこのペースでお金が入るなら、確かにそう遠くない日に龍之介の目標が達せられるかもしれない、と思い直す。
 そしてそれは自分にも当てはまる事だった。
 そこでチラッと横にいる双子の兄の方を見遣る。

「ま、私は兄さんと折半すればいいから、リューノスケの二倍は早く家を建てられそうね」

「ぬぬぬっ」

「えっ? カティは同じ家に住むつもりなの?」

「当然でしょ。兄さん一人でまともに生活できると思ってるの?」

 カタリナの事を愛称で呼ぶロベルトは、妹相手に対しては「~ッス」といういつもの口調ではなく、タメ口で話をする。
 家は一人で建てようと思っていたロベルトと、一緒に住もうと考えていたカタリナの会話の中では、仲のいい家族の遠慮のない言葉が交わされている。

「あー、お前たちぃ。家を建てる事が決まって手配が済んだら、俺に報告をしておいてくれぃ。大工たちとは予め排水設備について話し合う必要があるんでなぁ」

 強引に後から魔法で改造する事もできるだろうが、あらかじめ排水管などの位置を決めておいた方が楽になる。

「北条さんがせっせと作ってたアレッスね」

「そうだぁ」

 一応メンバーには大雑把に下水道を作った事は話していたが、凝り性の北条は下水道にも工夫を凝らしていた。
 たとえば排水を綺麗にしたり、換気のために風の流れを作り出したり。

 そういった仕組みの原動力は"刻印魔法"で刻まれた魔方陣となるのだが、それらを作動させるには魔力の供給源が必要だ。
 基本的には下水道を九つのブロックに分けて、それぞれにエネルギー源となる魔石を置く事で対応している。

 しかしそれ以外にも、北条が"砂魔法"で作り出した〈魔水晶〉が各箇所に設置されていた。
 これは"刻印魔法"と同じレベルか、それ以上の争乱の種になる事が予想されるので、全員にきつく箝口令が敷かれている。

 元々〈水晶〉には魔力を蓄えられる性質が備えられているのだが、〈魔水晶〉は更に多くの魔力を蓄えておける、大容量のバッテリーみたいな代物だ。
 〈魔水晶〉クラスとなると自然環境で極稀に採掘されるか、ダンジョンから持ち帰ってこられる以外に、入手手段がほとんど存在しない。

 上級"砂魔法"の【クリエイトクリスタル】でも〈水晶〉を作ることは可能だが、この魔法で〈魔水晶〉を作るには、相当なMPが必要になる。
 それにそもそもこの魔法は上級クラスであり、更に魔法発動の難度も高いため、使用できる魔術師がまず皆無だ。

 対策をしてあるとはいえ、そういった貴重な〈魔水晶〉がぽんと置かれている下水道に、工事の人を入れる訳にはいかない。
 なので、排水管の接続などは北条が自ら担当する必要があった。

「りょーかいッス。でもその前にまずはお金を稼がないといけないッスね」

「そうだな。それで次の予定だが……」

 雑談しながら歩いていた彼らは、いつの間にか拠点へと到着していた。
 拠点に着いてからも、次の予定についての話に変わり、この先の予定なども話し合われる。
 その結果、一日の休日を挟んだあとは、再び十七階層から二十二階層を回ることが決定した。

 前回は先へ進むことが目的の一つであったが、次回はマップの穴埋めと魔物のドロップ収集やレベル上げがメインとなる。
 こうして予定も決まったところで、その日はお開きとなった。
 ロベルトや陽子は町の方に用があるらしく、その後はそのまま家に帰るようだ。

 北条はまた何か新しい建物を作ろうと目論んでおり、場所の選定や建物の造りについてウンウン唸りながら考えている。
 そんな北条に追い払われたアーシアは、咲良や慶介らの魔法の訓練に付き合っていた。

 訓練場に設けられた専用の場所で、自ら的となってアーシアは魔法を食らいまくる。
 より実戦に近いので、魔法を撃つ側のスキルも上がりやすいし、アーシアも更に耐性スキルに磨きをかけられる。
 ただアーシアは、魔法の威力の差も理由ではあるが、北条の魔法を受けた時ほど喜んではいないようだった。
 アーシアの愛は重い……。




 休日となった翌日も、こんな調子で何か問題が起こる事もなく過ぎていく。
 何やら北条が東門の近くに建物を建設し始めていたが、完成にはまだ時間がかかるようだ。
 「完成を楽しみにしててくれぃ」と自信有り気だったことが、陽子辺りにそこはかとない不安を与えていたりもしたが、一度こうなった北条は止められそうにはない。


 こうして休日はあっという間に過ぎ、レイドエリアへのアタックが再び始まるのだった。


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