203 / 398
第八章
第174話 昨今のジャガー村事情
しおりを挟む▽△▽△▽
ツヴァイと共に、ギルドの奥へと入っていく北条を見送る咲良達。
既にギルドでの要件を済ませていた彼女達は、ギルドを出てブラブラと村の内をぶらついていた。
サルカディアへと潜り、村に帰ってくる頃には新しい建物が何件も増えている。
咲良達は村をうろついてそういった違いを探す事が最近の楽しみになっていた。
自分で作っている訳ではないし、昔からの住人という訳でもないのだが、徐々に変化し大きくなっていく村の姿はなかなかに乙なものなのだ。
「なんっか……。もう村ってより普通に町よね、これ」
それは陽子だけでなくメンバー全員……すらも通り越して、現在この村にいる多くの人が思い始めてる事でもある。
『ロディニア王国』では、村から町になるには幾つかの条件が定められているのだが、すでにその内幾つかは達成できている。
気になる点といえば、町を囲う外壁が存在していない事だろうか。
だが、まだまだ拡張を続ける《ジャガー村》では、どこに壁を作るかも定まらないし、建物を建てるだけで今は忙しい。
街となると外壁の存在が必須となってくるが、村や町程度ならその必要はない。
といっても、まったくの無防備では心もとないので、簡単な壁位は今後作られていくだろうが。
「そーっすね。あと、なんか、最近獣人の人が増えたような?」
由里香の言うように、ここ最近は獣人の姿を見かけるようになっていた。
最初は獣人の冒険者をちょっと見かける位だったのだが、今では明らかに冒険者には見えない獣人も増えた。
「獣人たちは北のバルトロン領から流れてきているらしいぞ」
その声は咲良達から少し離れた場所から聞こえてくる。
周囲を見渡した由里香が声の発生源を辿ると、そこには二人の女性の姿があった。
「すまない。そちらの話が聞こえてきたものでつい割り込んでしまった」
「あ、こ、これは、その……どうも?」
咲良が少しテンパった様子で女性に答える。
そのような態度になってしまうのも仕方ない。由里香達に話しかけてきたのは、現在この村で村長補佐として派遣されてきた、グリーク領領主の娘。アウラ・グリークその人であったからだ。
「そう気を張らずともよい。あの男のようにある程度の節度を持って接するなら私も気にしない」
前回アウラと会った時に、北条が気負いすることなく話していたことを咲良は思い出したが、本人が許可を出したからといって、咲良はそう簡単に切り替えられる性格ではなかった。
「わかったっす! それでアウラさんはここで何してたんっすか?」
由里香の方は咲良とは違い、アウラの言葉を素直に受け止めたようで、彼女なりの敬語でもって話しかけていた。
そんな由里香にアウラも少し肩の力が抜けたようだ。
「む、私か? 少し冒険者ギルドに用があってな。これから向かうところだったのだ」
「そーなんっすか。アタシ達は丁度ギルドから出てきたとこっすよ」
「ほおう、ダンジョン帰りということか。……にしては、あの男の姿がないようだが、別行動をしているのか?」
パーティーリーダーである北条の姿がない事に疑問を持ったアウラ。
「あー、なんかあの人はギルドに用があるみたいで、残ったままよ」
由里香が妙な事を言い出す前に先に答える陽子。
「ほう。では向こうで鉢合うかもしれんな」
アウラとしては、あの防壁を作り出す北条という男には関心を持っていた。
前回軽く話した時は、自分の陣営に引き込む事は難しいと判断したが、関係を築いていけば手助けを頼める位にはなるかもしれない。
またそういった打算的な面とは別に、領主の娘であるアウラに物怖じしない北条に対して、興味も覚えていた。
「あの、アウラ様。そろそろ……」
「ん? ああ、そうだったな。では私達はギルドに向かう事にする。さらばだ」
アウラのお付きの小柄な女性が小声で話しかけると、アウラは挨拶の言葉を述べてギルドへと向かっていく。
その姿を見送ったっていた咲良は、
「……ふぃいい。やっぱお偉いさんと話すのは緊張するなあ」
と大きく息をつきながら、先ほどの感想を漏らす。
「だいじょーぶっす! あたしみたいに敬語で話せば向こうも許してくれるっすよ!」
「敬語……ねえ」
由里香の言葉に苦笑いを浮かべる咲良。
「んー、そういえば前にも言ったけど私には敬語はいらないのよ?」
「うー、でも、やっぱとしさかの人はうやまうべきっす! 申し訳ないっすけど、やっぱこの話し方でお願いするっす!」
「由里香ちゃん。"としさか"じゃなくて~、"としかさ"だよ~」
「えっ! う、うん。"とかしさ"ね」
人の話を聞いていないのか、素なのか判別つきにくいが、ふざけてる訳ではなさそうな由里香。
そんな姦しい三人に向けて、新しく開発が進んだエリアを見に行こうと声をかける陽子。
特にこれといって気になる店舗が出来ていた訳ではなかったが、新しい建物と人々の賑わいを感じながら練り歩いていく。
やがて、村の散策を終えた彼女達は、いつもの集合場所――拠点予定地へ向けて、歩を進めはじめた。
▽△▽△
「おおきくなあれ~」
異邦人達の拠点の一角。
咲良達は、西門の入口からほど近い場所にある、花壇の傍に集まっていた。
花壇といっても、そこに植えられているのは花ではなく若木だ。
以前サルカディアの宝箱から見つけてきた謎の種子――のちに鑑定で〈魔林檎の種子〉と判明した――が等間隔に植えられている。
まだ葉が数枚程度の小さな小さな若木だが、一つだけ一回り大きい若木もあった。
それは試しに最初に一つだけ寮の周りに植えた魔林檎で、今はそこから根本の土ごと植え替えてある。
魔林檎は魔力を吸収することでよく育ち、甘い実を実らせるという事なので、先ほど芽衣がやっていたように、皆で魔力を与えながら育てている。
そのお陰か、土壌を特に弄っていないというのに、スクスクと成長を続けていた。
「あたしもーっ! ちょっとだけだけど、大きくなれー!」
前衛職でMPが高くない由里香だが、この世界の前衛も闘技を使う際にはMPを消費するので、全くのゼロという訳ではない。
「それじゃあ私はお水をあげるね。【クリエイトウォーター】……からの、【水操作】」
【クリエイトウォーター】で作り出した水を、器用に【水操作】で均一になるようにシャワー状にして花壇に撒く咲良。
他の属性魔法でも同じ事だが、攻撃用途に用いられる"水魔法"の水、"火魔法"の火などは、魔力が変質して作られた一時的なものだ。
その為、【水弾】などを畑に打ち込んでも、少しすると水は消えてしまう。
継続的に利用するためには、きちんと魔力を物質化する必要がある。
初級という簡単な部類に分類される【クリエイトウォーター】であるが、そのせいで消費魔力は【水弾】などより断然上だった。
火の場合は、一時的とはいえ高熱を発する火を生み出すので、"火魔法"で木の枝を引火させれせば、魔法の効果が切れても木の枝は燃え続ける。
……こうした特性がある為、ダンジョンなどの閉鎖空間で大規模な"火魔法"を用いても酸欠になったりする事はない。
"火魔法"の火が燃えているのは、酸素が供給されているからではなく、魔力が供給されているからだ。
酸素濃度の高い場所だろうが、"火魔法"の効果が上がることはないし逆もまた然り。
これは耐性スキルにも関係していて、"火耐性"があるからといって、焚火に手を突っ込んでも大丈夫という訳ではなく、普通に焼けどをする。
"火耐性"で耐えられるのは火属性の魔法やスキルに対してのみ。
自然の火などに対する耐性は、別途"高温耐性"などのスキルが存在している。
「私もちょっと魔力あげとこ」
別段植物が好きだとか盆栽が趣味だとかいう事はないが、日に日に魔力をやる内に愛着が湧いてきた陽子。
咲良の魔法で潤って、心なしか嬉しそうな若木達に、一本ずつ魔力を注いでいく。
「ふう、こんなとこね。それじゃあ私は、この間覚えたばかりの"空間魔法"の練習でもしますか」
そう言っていつもの練習場所へと移動する陽子。
「ん~、わたしも"槍術"の練習をしよ~っと」
そう言って〈魔法の小袋〉から北条のおさがりの、ゴブリンランスを取り出す芽衣。
転職で『ランダ・ヌイ』という職業についてから"槍術"のスキルを覚えた芽衣は、最近は杖よりも槍による戦闘訓練を始めている。
表に出す事はないが、猿の魔物との闘いは芽衣の心境にも変化を与えていた。
「え、んーとじゃああたしはー……」
「わ、私と模擬戦……どう?」
「あ、楓さん! うん、いいよ! じゃ早速いこ?」
「ワフッ! ワフッ!」
由里香と楓が移動し始めると、自分も自分も! といったようにマンジュウが二人の周りを駆け始める。
「マンジュウも模擬戦したいの? じゃあ、順番だね!」
「ヴァフゥ!」
元気よく返事するマンジュウも一緒に、いつもの場所で各々が特訓に励む。
それから一、二時間ほどが経過した頃。西門の扉が開き中から二人の男が姿を現した。
「あ、北条さん」
特訓していた咲良達のもとにやってきたのは、あの時ギルドの奥へと消えていった北条とツヴァイの二人だった。
咲良の発した声で二人がやってくるのに気づいた陽子は、自らも近寄りながら声を掛けた。
「あら、もう用事はいいの?」
「ん、ああぁ……」
陽子の問いに判然としない言葉を返す北条。
「ん? 何かあったの? ……そういえばアウラさ……んがギルドに用事あるって言ってたけど、まさか彼女と何か問題起こしたりはしてないわよね?」
「いや、そんなんじゃあないがぁ……、ちょっとお前たち全員に話があるぅ」
そう言って北条は、模擬戦の真っ最中の由里香らも全員呼び寄せ、話を始めるのだった。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした
御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。
異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。
女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。
――しかし、彼は知らなかった。
転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる!
孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。
授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。
どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。
途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた!
ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕!
※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
転生王子の異世界無双
海凪
ファンタジー
幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。
特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……
魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!
それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる