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第八章

第172話 パーティーDEレイド雑魚バトル その1

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▽△▽


「今んとこ敵はでてこないっすね」

「え、だってまだ十分も経ってないじゃない」

「でも、敵がわんさか出てくる場所なんっすよね?」

「んー、それは……」

 あれからフォーメーションを組んでレイドエリアの探索を始めたが、今の所魔物の姿が見当たらない。
 咲良と由里香は少し離れた場所にいるので、話し声も少し大きめだ。

「ちょっと、余り大きな声を出すと魔物に気づかれる――」

「すでに手遅れだったようだぞぉ」

 陽子が注意の言葉を発しようとした所に北条が割って入った。

「ええっと、敵は前方から……いや、前方と右斜め前方からも迫ってきてるなぁ」

 人が何人も並んで歩けるほどの、広い通路を歩いていた『サムライトラベラーズ』。
 北条が感知した感覚によると、恐らくこの先はT字路のようになっていて、その分かれ道双方から魔物が押し寄せてきているらしい。

「うえぇ、いきなり挟み撃ち……とはちょっと違うかもしんないけど、なんかやばそうね」

 早速のレイドエリアの洗礼に眉をしかめる咲良。

「いやぁ、そうでもないだろぉ。寧ろチャンスじゃないかぁ?」

 しかし北条には何か考えがあるようで、ニヤリと口角を僅かに上げる。

「何かいい作戦でも浮かんだの?」

「ああ。だがぁ、少し急がんといかんなぁ。走りながら作戦を説明するー」

 そう言って北条はさっさと先へ……魔物が押し寄せてくるという方向へと走り出す。

「え、ちょ……待ってよ!」

 慌てた他のメンバーも、召喚した魔物共々ドタバタと後を追って駆け出す。
 北条の突飛な行動に既に慣れ始めていた他のメンバーは、突然の指示にも関わらず、動揺などは見せていない。

「……で、どんな、作戦、なの?」

 途切れ途切れに訪ねてくる咲良に、北条は全員に聞こえるよう少し大きめな声で作戦を説明する。

「なぁに、簡単なことだぁ。この先のT字路……その合流地点で合流したばかりの魔物たちを、範囲攻撃で一掃するっ!」

 レイドエリアは確かに魔物の数の多さが問題点でもあったが、それは逆に範囲攻撃、範囲魔法が大きく戦況を左右するという事でもある。
 特に魔術士の多い北条達パーティーにとっては、カモがネギ背負ってくるようなものだ。

「なるっ……ほどっ……」

 作戦を聞いた咲良は、ここは自分の出番だと戦意を高まらせる。
 しかし、範囲攻撃の術を持たない由里香などは少し残念そうな顔をしていた。


 やがて、T字路の合流地点少し前の位置にたどり着いた一行は、ダッシュ移動によって乱れたフォーメーションを改めて構築しなおす。
 それも最初に組んでいたものとは違い、敵の来る方面が判明しているので、前面に肉盾となるオーガを多めに配置している。

 視線や魔法の射線が通るように配置されたオーガ達の後ろでは、魔法組が魔法詠唱をスタンバっていた。

「みんな、集まって! …………。【魔力強化】」

 いわれるまでもなく魔法組はすでに陽子の元に集まっており、彼女から"付与魔法"の魔力強化をかけてもらう。
 効果は魔法名そのままで、魔力を強化することによって魔法の威力を上げることができる魔法だ。

「ッッ、くるぞぉ! 初手は火属性に合わせろ! 芽衣とマンジュウは"雷魔法"を頼んだぁ」

 まだ全員分の"魔力強化"を掛け終わっていなかったが、既に足の速い魔物がT字路に差し掛かっているところだった。
 姿を現したのは、主にケイブホブゴブリンとその職業持ち種族のようだが、ダークウルフやダークスライムなどの姿も僅かに混じっているようだ。
 その数は流石レイドエリアというべきか、ざっと数えただけでも三十体位はいるのではないかと思われた。

「よし、撃てぇぇい!! 【ファイアーボール】」

 最後に芽衣に【魔力強化】がかかったのを確認した北条が、号令の声を上げる。

「紅蓮の炎に燃え尽きなさいっ! 【ファイアーボール】」

「……燃えて、ください。 【火遁の術】」

「マンジュウも~、いっくよ~ 【ライトニングボール】」

「ワフワフウゥゥッッ!」

 こうして北条の掛け声に合わせて放たれた魔法の群れは、合流地点で少しまごついた様子を見せている魔物たちへ向かって飛んでいく。
 魔法組が放ったボール系の魔法は、着弾点を中心に広がる範囲攻撃魔法であり、それを各人が複数同時に放っている。
 十を超える炎や雷の球と、扇状に広がっていく楓の【火遁の術】は、その無慈悲な破壊の力をむざむざと見せつける。

「GU)NMKS!!」 「NMKDMNNJ??」 「H(DBBKKX)A!?」

 魔物たちは阿鼻叫喚の声を上げるも、破壊がもたらす爆音に邪魔され、ほとんど聞き取る事も出来ない。
 ダンジョンに現れる魔物は、人間に対しての敵意が非常に高い事で知られているが、それでもある程度知性のある魔物なら戸惑いや迷いを見せることもある。

 初撃の一斉魔法掃射は、ケイブホブゴブリン達に大きな被害と混乱をもたらした。
 しかし、数は少ないものの魔法の直撃を免れたダークウルフや、フライングシザーズなどが、北条達の方へと移動を開始し始める。
 その様子を確認した北条が次の指示を出す。

「里見ぃ、加速頼むっ! 魔法組はあと一回範囲魔法を撃ったら、後は適宜状況に応じて魔法を撃てぇ。由里香、楓は範囲魔法の後は魔物を各個撃破だぁ。行くぞぉ! 【光槍】」

 魔物のバリエーションからして、この階層もひとつ前の無灯火エリアと大差ないと判断した北条は、厄介な特性を持つシャドウを除外しようと、中級"光魔法"の【光槍】を放つ。
 すると、北条の頭上に二メートル程もある、光輝く槍が二本、形作られていったかと思うと、魔物の群れへと飛んでいく。

 そして、その光輝く槍の後に続くように、魔法組の範囲魔法の第二射が放たれる。
 この二回目の範囲攻撃によって、かなりの魔物の息の根を仕留める事は出来たが、撃ち漏らしたいくつかの魔物は大分距離を詰めていた。

「OGRRRRRRッ!」

 だが、そうした数少ない魔物も、配置されていたオーガによって足止めを倒されたり、足止めを食らってしまっていた。

「準備できた、いくわよ! 【加速領域】」

 更に陽子の"結界魔法"が発動した事によって、更に趨勢が北条達の方へと傾いていく。
 【加速領域】は、中級"結界魔法"であり、フィールド系魔法の一種だ。
 指定された領域内にいる仲間に対し、魔法に応じた特殊効果を付与することができる。

 【加速領域】ならば無論敏捷性を、【パワーフィールド】なら筋力を上げてくれる。しかも、この魔法はパーティーメンバー全員に効果が及び、領域内にいる他の相手や魔物には効果が出ない。
 それでいて、芽衣の召喚した魔物にはきちんと効果が現れるし、効果範囲ももう少し広くできるので、長時間の戦闘や大規模な戦闘には打ってつけの魔法と言えた。

 問題点としては、発動までに時間がかかる点と消費魔力の多さが挙げられる。
 そのため、格下相手の戦闘ではいちいち使う事もなかった魔法だったが、レイドエリアなら存分に活躍の機会はあるだろう。

「後は掃討戦だぁ! だが油断はするなよぉ!」

 そう言って前衛もこなせる北条は、陽子を中心に張り巡らせれていた、【物理結界】と【魔法結界】を潜り抜けて外の敵に向かい始める。
 その後を「待ってました!」と言わんばかりに、由里香も後に続く。
 二人は手前まで近づいていた魔物から優先的に倒していくが、そこに風を切るような音が聞こえてきた。

「うぁっっとぉおお」

 それは態勢を立て直した、生き残りのケイブホブゴブリンアーチャーが放った矢による攻撃だった。
 他にも僅かに生き残っていたメイジ種や、ダークウルフらからも魔法が飛んでくる。

「のわっ! おわっ! とわっ!」

 それら遠距離攻撃を、奇声を上げながら躱していく北条。
 【加速領域】で敏捷性が強化された事も理由のひとつだが、余り狙いを絞って放たれていない攻撃は、北条にとってさほど脅威ではない。

「行くっすよおお」

 北条が曲芸じみた動きで的になっている間、【機敏】で素早さを増した由里香が、次々と魔物を血祭に上げていく。
 芽衣の呼び出したオーガ達も、守勢から攻勢へと変わり、その怪力を遺憾なく披露した。

 元々パワータイプで速度はイマイチのオーガだったが、陽子の【加速領域】と、芽衣の"従属強化"によって、ある程度その弱点も抑えられている。
 更には咲良たちが背後から魔法で援護をしてくれた事もあって、魔物の大群との戦闘は僅か二十分ほどで終了した。



「これ位なら、なんとかなりそうですね」

 周囲に散らばっている魔石やドロップを集めている咲良は、そう感想を漏らした。
 確かにこれまでにない規模――魔物罠部屋でも、あれほどの数の魔物を同時に相手にしたことはなかったというのに、割とサクッと初戦を制した感はあった。

「そうねえ……。それに、経験値的にも割と美味しいかも?」

 ホクホク顔で咲良の話に答える陽子。
 だが、そんな陽子に対して北条が魔法の指示を出し始めた。
 どうやら、今倒した集団は第一陣だったらしい。

 三十人の、フルレイドパーティーよりも、下手すれば早く魔物の集団を倒す事が出来たせいか、次の団体さんがお付きになるまで、若干の猶予は稼げた。
 その間にドロップの回収や、バフ系魔法で味方を強化したり、オーガ達を再召喚しなおしたりして、準備を万端に整える。


「さっきのが小手調べってとこかぁ?」

 挑発的な声を上げながら、第二陣の到達を待つ北条。
 その声に答えるように、先ほどよりも数を増した魔物たちが波のように打ち寄せてくるのだった。






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