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第七章

第161話 気になる声

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 今回の探索でいくつか進展があった北条達が、ダンジョンの探索を終えて村に戻ってくると、拠点予定地の中から何か物音が聞こえてきた。

「なんか、金属の打ち合う音が聞こえるっす。和泉さん達っすかね?」

 "聴覚強化"のスキルを持つ由里香がいち早く報告してくる。

「多分そうだと思うけど……、人も大分増えたようだし誰かが勝手に入ってきてるのかも?」

 今回迷宮碑ガルストーンで転移部屋から戻った際にも、入り口付近で屯している冒険者らしき人が幾人か見受けられた。
 パーティーで固まってると思しき人たちもいたが、野良で組むパーティーを募集している人もいた。
 拠点予定地はガワは凄いことになっているが、守衛などがいる訳でもないので、咲良は気になっているようだ。

「まー、勝手に入ってる奴らがいたら追い出せばいいだろぅ。さ、いくぞぉ」

 そう言って北条はさして気にした様子もなく中へと入っていく。

 実際のところは、建物が余りに立派すぎて、これを一介の冒険者グループが建てたものだという認識を持つ者は皆無だった。
 つまり、領主のテコ入れでもって建造されたものという認識であったので、恐れ知らずの冒険者であってもちょっかいをかけようとする者は今のところいなかった。


 北条を先頭に中へと入っていくと、建築途中の共同施設の向こう側に人の集団が見えてきた。
 人数が六人以上なのはすぐ見て取れたので、一瞬咲良の言った通りの展開になったのかと思ったが、よくよく見てみると皆見覚えのある顔たちだという事が、近づくにつれ明らかになる。


「たっだいまーー!!」


 由里香が元気な声で挨拶をすると、模擬戦の途中だった龍之介達も動きを止めて由里香たちの方へと振り返る。

「おかえり。無事なようで何よりだ」

 心持ち力ない笑顔を浮かべて信也が挨拶を返し、無事再会できたことを喜び合う異邦人たち。
 挨拶が一頻り終わると、今度は『ムスカの熱き血潮』の面々とも軽く挨拶を交わしていく。
 シクルムやディランなどとは、ゴブリン村殲滅作戦で一緒に参加した同士なので、最低限の面識はあり挨拶はすぐに終わった。

 それから、シクルムが何かに気を取られているようなツヴァイに向けて、新しく表れた北条たち六人の名前を紹介していく。
 紹介された者は、それぞれ一言二言ツヴァイに挨拶を返す。
 そのシクルムの紹介の中で、チビっ子呼ばわりされていた由里香が「へー。どうやらあたしと模擬戦。もっかい、やりたくて仕方ないみたいっすね?」と答えると、シクルムが慌てふためいてしまった場面や、紹介した相手に見惚れてしまったような様子を見せたツヴァイを、皆でからかうような場面もみられた。

 そして、最後にリーダーである北条の紹介に入ったのだが、

「……おい。聞ーてたのか? さっきの挨拶の中でも名前は出てたけど、あのオッサンがこの要塞を作ったっちゅう奴だ」

「……あ、えっと。は、初めまして。俺の名前はツヴァイ、です。……その、この要塞を作ったって聞いたんだけど、ハルバードも扱うんですか?」

 と北条が背負う炎の魔力を秘めた〈サラマンダル〉を見遣るツヴァイ。

「ああ、こちらこそどーも初めまして。要塞っていっても、ここは別にそんなんでもなくてただの拠点のつもりなんだがなぁ。まあ、俺とそこの咲良で地道に作っていってるんだよ」

 もっと小規模なものならいざ知らず、この規模のものを地道・・に作り上げるには、膨大な時間が必要となるだろう。
 しかし、"土魔法"を試してみたら意外と上手くいけちゃった北条は、いまいちそこら辺のこの世界での常識が見えていない。

「んで、背中のコレサラマンダルは、今んとこ俺のメイン武器だぁ。ダンジョン産のもので、中々の逸品だぞぉ」

 そういって背負っていた〈サラマンダル〉を取り外し、構えてみせる北条。

「これは、確かに凄そうだね。この要塞……じゃなくて拠点作りには直接関係なさそうだけど……。あ、でもそれで木を伐採したってことかな?」

「いやぁ、違うぞぉ。この拠点開拓はまず――」

 こうして北条が拠点づくりについて語りだすと、興味を持ったのかシクルムやディランも近くに寄ってきて、北条の話に耳を澄ませ始める。
 時折ツヴァイらから質問が飛んできたりして、盛り上がっているようだ。

 その様子を少し離れた場所で何とはなしに見ていた陽子は、同じようにしている楓に気づいた。
 彼女は訝し気というか、食べた肉の筋の部分が噛み切れないといった顔をしている。
 その様子が気になった陽子は、楓に話しかける。

「楓ちゃん、どうしたの? 何か気になることでも?」

「あ、え、その……」

 突然話しかけられた楓はしどろもどろになる。
 それでも最近は徐々に態度も変わってきており、萎縮した様子もなく言いたいことは言えるようになってきていた。

「あの人……。どっかで見た、気が、するんです……」

 そう言ってツヴァイの方に顔を向ける楓。

「あー、そうねえ。彼、結構アジア系の顔立ちしてるし、ルックスもいいからどっかの芸能人に似てる、とか?」

「そ、そーゆー感じではないんですけど……。その、声が……」

「ふーん。ま、さわやか系なイケメンボイスよね。それこそアイドルにもいそうなもんだけど」

 いまいち楓の言いたいことが伝わらずに、空回りした感じの会話になってしまう二人。
 楓も何かひっかかる部分があるのだが、それが何かまでは思い至らない。


(でも、どこかで……)


 しかし、結局楓が心当たりにたどり着くことはなく、じっと北条達の様子を伺い続ける楓であった。




▽△▽△




 北条達が合流してからは話をするだけでなく、遅れてきた北条達も含めて模擬戦も行われていた。
 その結果、信也たちと北条達では力の差が開きつつあることがより明らかになった。
 龍之介とムルーダほどの差はないのだが、北条達は軒並み一段階上のステージにいるような感じだ。

 同じダンジョンに潜るパーティー同士ではあったが、鉱山エリアを突き進んでいた北条達は、途中からEランクの魔物が主流となっていた。
 それに対し、フィールドタイプの《フロンティア》の探索を一旦諦めて、別のルートを進んでいた信也たちが、主に相手をしていたのはFランクの魔物だった。

 その差が、今の模擬戦の結果となって表れたのだろう。
 この後、北条達もギルドでギルド証の更新をする予定だが、信也達とはレベル差が生まれているものと思われる。


「じゃあ、遅くまでわりーな。紹介された鍛冶士んとこには、明日にでも行ってみるわ」

 そう言って去っていくシクルム。
 すでに一行は拠点予定地からは退去しており、現在地はギルドの入り口付近だ。
 他のムスカの面々もその後に続いて、すでに設置完了しているテントへと戻る……前に、ふと思い出したかのようにツヴァイが声を上げる。

「あ、北条さん。ちょっと俺の戦い方についてアドバイスもらいたいんで、あとで時間とってもらっても構わないかな?」

 ツヴァイは『バトルヒーラー』という職に就いている通り、"神聖魔法"だけでなく槌を使った戦闘をもこなす。
 今日の模擬戦では北条とも戦り合っており、その際には大分こてんぱんにのされていた。

「ああ、構わんぞぉ」

 気安く答えた北条の声を聞いて、安心した様子で四人は去っていった。

「それじゃあ、あたし達もギルド証の更新しにいこっ!」

 普通は朝や夕方が一番冒険者ギルドが込み合う時間帯なのだが、まだまだギルドも冒険者たちも本格的に活動をしていないせいか、夕暮れ時のこの時間の割にギルドの中は空いている。

 なので、ほとんど待つこともなく受付の番が回ってきて、ギルド証の更新をしたい旨を告げると、これまたすぐに奥の間へと通される。
 その際、たまたま通りがかったナイルズが興味深そうに後をつけてきており、そのまま一緒に更新部屋にまで入り込んできた。

「ちょ、ジジィ。どこまで付いてくるんだよ」

 思わず口が悪くなってしまった龍之介がそう問い詰めると、

「ん? いや、なになに。これでも私はギルド職員の一員なので構わないだろう? そこのキミは元の業務に戻ってくれて構わないから」

 そう言って案内していた職員を追い出すナイルズ。
 期待の新人という事で、特に異邦人達のパーティーに注目していたナイルズ。
 北条達も別に見せたくないスキルは非表示にできるので、強く拒む理由はない。
 龍之介も癖の強い人物であるナイルズの行動に、咄嗟に言葉が出てしまっただけだった。

 こうして、ナイルズが魔法装置の設置された更新部屋まで案内を引き継ぎ、北条達を引き連れて部屋の中に入ると、早速魔法装置の起動に入るのだった。




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