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第七章

第135話 要塞化?

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◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 信也達が全員Fランクへと昇格し、ダンジョンへと潜っていってから数日が経過した。
 今回も先に帰ってきたのは北条達『サムライトラベラーズ』の方だった。
 着実に地図を埋めながら進むその足取りは決して早いものではなかったが、地図さえしっかりしておけば次回以降の探索に大いに役立つ。

 今回は『リノイの果てなき地平』から聞いていた、十一階層の鉱山エリアまで歩を進めてからの帰還となった。
 相変わらず出現する魔物は彼らにとっては大した脅威とはならず、Fランクの魔物までしか見かける事がない。

 すでにFランクへと昇格し、実力だけならEランク以上と思われる北条達にとっては物足りない相手ばかりだ。


「今回はリノイの人達もまだ戻っていないのね」

 ダンジョンから帰ってきた北条は、報告を兼ねた簡単な情報収集の為に、先にナイルズの元を訪れていた。
 その時のナイルズの話によると、現在リノイの連中も信也達も……それから『青き血の集い』も未だダンジョンに篭っているらしい。

「なんか毎回アタシ達がいちばん早いね!」

「う~~ん。それはわたし達の目線から見てるだけじゃないかな~?」

「んー?」

 芽衣の言っている事をいまいち理解できていない由里香が、小首を傾げる。

「それより、今日はこれからどうするんですか? またいつも通りココ・・で訓練と土木作業?」

 彼らが今いるのは大分基礎工事も進んできた感のある、森との境目付近にある拠点予定地の敷地だ。
 調子にのってかなり広範囲の土地を確保した結果、キロ単位の面積になってしまったが、スーパーマジックパワーで既に敷地を囲う土壁と空堀は完成している。

 堀の深さだけでも五メートルはあり、土壁の高さも併せたら堀の底面からの高さはかなりのものだ。
 同じ作業を元の世界でやるとしたら、この何十倍もの時間が必要だったことだろう。

「ん? まあ、別に自由時間だから好きにしてもいいとは思うがぁ……結局他にすることがあんまないんだよなぁ」

 のんびり読書して過ごすとか、テレビや映画を見て過ごすといった、インドアで時間を潰せる娯楽が乏しいこの世界。
 その結果、魔法の練習だとかもっと強くなるために修行するだとか、そういった方面についつい考えが向いてしまう。
 それはつまり、肉体に蓄積する疲労を余り感じていないという事なのかもしれない。

「えーと、でもとりあえず敷地内の整地と壁回りは終わったし……あとは何をするんですか?」

「いやぁ、壁回りはマダマダだぁ。これからこの土壁を石壁・・にしていくぅ」

「うえぇ。それって【土を石へ】の魔法でやるんですよね?」

 張り巡らされた土壁の長さを見て、ゲンナリとした様子になる咲良。

「その通りだぁ。ついでに壁の内側には、上に上る階段を所々に設置したい」

 高さ十メートル近くもあるこの土壁は、上部が幅四メートル程の通路としても移動できるようになっている。
 ただし、その通路に移動するための階段がないので、これから作っていく必要があった。

「まるで要塞みたいね」

 完成図を思い浮かべたのか、陽子がそんな感想を漏らす。

「森に近いからなぁ。ある程度防御力を持たせた方がいいと思うぞぉ」

「って言ったって、この辺の森に住む魔物なんて大した奴はいないと思うけど」

 ぶつくさ言っている陽子だが、自分が直接作っている訳でもないし、頑丈なら頑丈でそれはいいことなので、別に反対意見を述べている訳ではない。
 ただ過剰な防衛設備に若干呆れているだけだ。

「ほらほら、じゃあ早速各自行動開始するぞぉ」

「はーーーい!」

 元気な由里香の声が響き渡る。
 こうしてダンジョンから帰ってきたばかりの彼らは、早速行動を開始した。



 由里香は、新しく取得した必殺技・・・である闘技-奥義スキルの"炎拳"を、長い休憩時間を挟みつつ放っている。
 現状では負担が大きすぎて連発が厳しいこの大技。
 少しでも使い慣れて負担を減らそうというのだろう。

 一方相方の芽衣は、"召喚魔法"の練習をしているようで、ダンジョンで出会った魔物を色々と召喚しては消していた。
 どうやら召喚できる魔物は術者のレベル、或いは"召喚魔法"の熟練度が関係してくるらしく、今では十一階層までに出てくる通常の魔物は大体召喚することが出来るようになっていた。

 その中にはゴブリン系統も含まれていて、召喚するには【妖魔召喚】という魔法で呼び出せる事が判明した。
 ちなみに話に聞いただけの魔物や、書物で読んだだけの魔物は召喚できないようだ。
 一度実際に遭遇するか、或いは倒した経験が必要なのかもしれない。
 もしかしたら単に実力不足なだけかもしれないが。

 実際これまで見たことも聞いたこともなかった「ガスマッシュルーム」というキノコの魔物は、前回の探索で何度も対峙して倒しているせいか、スンナリと召喚できた。
 その時に用いたのは【サモンプラント】で、どうやら見た目はキノコの魔物だが、"召喚魔法"の分類としては植物扱いのようだ。

 召喚を繰り返してMPが減ってきてからは、召喚する魔物の構成について、芽衣は考えを巡らせる。
 契約したマンジュウを除き、現在召喚出来る数は残り四枠。
 ゴブリンメイジを四体召喚して遠距離での支援に特化させたり、回復役にプリースト一体を付けた魔物パーティーを考えてみたり……。
 見た目や性質は嫌われているゴブリンだが、使い捨ての駒として考えると役割が分かれている分使いやすい。


「ふううぅ。一体後どんだけ【土を石へ】の魔法を使えばいいのよ……」


 その頃壁際では、咲良がそう言いながらも終わりの見えない単純作業を繰り返していた。
 咲良のMP――この世界の人は魔力と呼んでいる――はなかなか尽きそうにはない。
 ゼロから土を生み出す【クリエイトダート】に比べて消費MPが低いというのも原因のひとつだが、実は咲良のMPは同レベルの者からすると飛びぬけていた。

 咲良のMPが高い理由。それは、取得した魔法の種類の多さ、熟練度の高さにあった。
 この知識は秘密という程のものではなく、魔術師を目指すものならどこかで耳にする程度の情報だ。新しい魔法スキルをキッチリと習得すると、マナの器が広がるという事になっている。
 つまり五つもの魔法スキルを持つ咲良は、それだけで相当最大MPが高いという訳だ。

 だからといって、魔術師がやたらと他属性に手を出さないのは、人にはそれぞれ生まれ持った「属性相性」というものがあるからだ。
 火属性はガンガン使えるけど土属性はダメ……という人は、何年かけても"土魔法"を取得できない。

 そんな属性相性だが、調べる方法が余り知られておらず、幾つかの流派では独自の属性診断法が伝わっていたりする。
 その中には各種の属性を持つ魔法道具を使い、適正を見るという方法が存在する。発想としてはすぐ浮かぶ類のものなので、属性診断法の中では知名度が高い。
 しかし、それら有象無象の診断法も、確実にその人の属性相性を診断できる訳ではなく、未だに多くの魔術士が研究を続けている。

「えいやっとぉ。【土を石へ】」

 ブツクサ言いながらも地道に作業を続けている咲良同様に、北条もひたすら土壁を石壁に変えるだけの単純作業を繰り返していた。
 こちらもMPが尽きる様子もなく、淡々と作業をしている。なんだかんだで四属性の魔法スキルを使える北条も、最大MPが相当高いのだろう。


「さって、ちょいと試してみるかぁ」

 作業を続けていた北条は突然ポツリとそう呟くと、これまでの【土を石へ】とは違う別の"土魔法"を行使しはじめた。
 その魔法は土壁にではなく、【土を石へ】の魔法で石壁と化した部分に対して使われていた。
 魔法が発動した瞬間、僅かに空気の流れが生じたが、見た目には特にこれといった変化が見られない。

「あとは……」

 それから北条は〈魔法の小袋〉から炎のハルバードを取り出し、石突の部分で思いっきり先ほど魔法を使用した石壁を突く。
 すると、ガギイイィインという金属質の大きな音が周囲に響き渡る。
 見ると、突かれた部分はまったく凹んだ様子も欠けた様子もない。

「おお、これは」

 先ほどの結果に満足したようで、北条は少し前の位置に戻り今まで石壁にしてきた場所に、次々と先ほどの魔法を掛けていく。
 その様子が気になった咲良は、自分の作業を中断して北条の所まで駆け寄っていく。

「北条さん、今は何してるんですか? なんか新しい魔法の匂い・・がするんですケド……」

「咲良は新しい魔法となると、すぐに駆け付けてくるなぁ。えーとだなぁ、"土魔法"には【ステファンアース】という、土や砂などに対して使う魔法がある。部分的に密度を高めることで、その部分の硬度が増すという魔法なんだがぁ、さっきから使ってるのはそれの上位版の【アースダンス】という魔法だぁ」

「【ステファンアース】なら私も知ってますけど……」

 咲良の知る【ステファンアース】の魔法は、石などの元々固いモノに対しては使用出来なかった。
 なので、この魔法は一体どんな使い道があるのかと、咲良は疑問に思ったものだった。

「なら大体はわかるだろう? 岩石に対しても使用できる【アースダンス】は、このように石壁の密度をひたすら凝縮して、金属のように頑丈にすることができる。恐らく重量も大分増しているハズだぁ」

 一体北条はこの地に何を作るつもりなのか? どんな相手を想定しているのか? それについては本人に尋ねないと分からないが、拠点予定地はまさに鉄壁の要塞へと変貌しつつあった。

「でだなぁ。この魔法は見える範囲だけじゃなく……」

「はぁ……。作業にもどります」

 更に続けて北条が説明をしようとするのを遮って、咲良は元の場所に戻り始める。
 どうやら陽子と同じく、北条のロマン溢れる建築志向が咲良にも理解がされなかったらしい。


 こうして、拠点予定地のレベルがアップした。


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