上 下
135 / 398
第六章

第117話 "召喚魔法"と"契約"

しおりを挟む

▽△▽△▽


 次の日。

 シグルド達と別れた後は、八階層の探索をしていた北条達だったが、今日は朝から次の九階層にまで足を伸ばしていた。
 階層を下るごとに少しずつ出現する魔物も変わる……というより、魔物ごとの出現度合が変化していく。
 無論新しい魔物も出てくるようにはなるが、新しい階層では割合として新しい魔物はそこまで現れない。

 第八階層では新しく、直径数十センチ、全長が人間の身長と同じ位のミミズが出てくるようになったが、八階層では出現頻度はまだ低かった。恐らく九階層からは更に良く出るようになってくるのだろう。
 このミミズの魔物――マイナーワームは、最初地面に潜った状態から突如襲ってくるので、対策が取れてなかったり初見だったりすると危険な相手だ。

 北条達の場合は北条が地中から接近してくる音を拾ったので、不意打ちされる事だけは防ぐことができたが、戦闘中にも地面に潜って来るので戦いにくい相手だった。

 更に頻度は低いが"土魔法"まで使ってくるので、距離が離れているからといっても安心はできない。
 ギルドではこの魔物はFランクとしているが、Fランクの中でも対策が取れないと上位の部類に入るとされている。

 だが――

「おーい、そっち行ったぞぉ」

 九階層の探索途中、マイナーワームと出くわし戦闘をしていた北条達。
 その内二~三匹が地面に潜り、前衛をすり抜け後衛へと迫っていた。
 しかし、地中から後衛へと襲いかかろうとしたマイナーワームは、壁のようなものに阻まれて地中から姿を現す事はできなかった。

「通しは、しないわよ!」

 床部分にも【物理結界】を張り巡らしていた陽子は、体当たりされるような振動を、自身が張り巡らした結界越しに感知する。
 その度に結界を強化しつつ、他の後衛に指示を出して場所を移動させる。
 すると、元々いた場所からにょきっとマイナーワームが姿を現した。

「いい加減にしなさい! 【炎の矢】」

 そこに咲良の"火魔法"が炸裂し、二本・・の炎の矢に貫かれた魔物は、全身を炎に焼かれながら、しおしおと萎れていく。

「うんっ、いい調子ね!」

 Fランクの魔物であるマイナーワームは、通常同ランクの魔術士の魔法一発で倒せるような相手ではない。
 だが、魔物には属性相性というのがあるようで、マイナーワームに関して言えば火属性に弱かった。
 代わりに土属性に対しては強く、おまけにスキルとして"土耐性"を持っているらしく、よほど強力な"土魔法"でない限りダメージは通りにくい。

 ただ、それだけで一発で倒せるかというとまた別で、咲良の場合、ただでさえ天恵スキルの"エレメンタルマスター"で強化されている所を、魔力の拡大消費で矢を二本放った事が効いたのだろう。

 続いてにょきにょきと姿を現した二匹のマイナーワームの片方に、芽衣の"召喚"していた森牙狼フォレストファングウルフが喉元に食らいつく。
 芽衣自身も【雷の矢】をもう片方のマイナーワームに向けて放った後は、杖による近接戦闘をしかける。
 これには他の後衛も参加し、複数の女性らによる叩く突くの暴行が行われ、マイナーワームは再び地中に潜る事なく「キュウゥゥ」という声を上げて倒される。

 もう一匹の方も、ランクが低いとはいえ三匹の森牙狼フォレストファングウルフが相手では分が悪かったようだ。
 "従属強化"のスキルの影響もあったのだろう。
 なお、芽衣は現在魔物を同時に四体まで召喚できるようになっており、残りの一匹は芽衣の護衛として傍に待機している。

 前衛の方も戦闘が終了したようで、何時も通りにドロップの回収を始めた。
 マイナーワームが倒された後には魔石と共に、皮の袋がよく残されている。
 確実にドロップする訳ではないようだが、この袋の中には土のようなものが入っていて、恐らくは肥料かなにかだろうと思われる。

 匂いはそれほどしないのだが、でかいミミズからのドロップだからという理由でそう判断したのだが、実際にその判断は合っていて、畑に適量混ぜて漉きこむ事で作物に栄養を行き渡らせるのだ。


「よおっし、少し休憩を入れるぞぉ」

 ドロップの回収を終えると北条がそう宣言した。
 それから各自水分の補給を取ったり、雑談をしながら過ごしていると、珍しく北条が芽衣へと話しかける。

「なぁ、芽衣。ひとつ思い浮かんだ事があるんだが、試してみないかぁ?」

「んー、なんですか~?」

 ニコニコとした顔でそう聞き返す芽衣だが、最近は由里香以外のメンバーはその笑顔が表面だけのものだという事に気付き始めている。
 由里香に対して向けられる笑顔だけは、裏表のない"本当の笑顔"なのは間違いないのだが……。

「お前さんの使う"召喚魔法"だが、あれから召喚できる数も増えたし、【視覚共有】や【聴覚共有】も使えるようになった。そこで、また新たな魔法追加に挑戦するのはどうかと思ってな」

 "召喚魔法"というのは使い手が非常に少なく、書物にもほとんど情報が残されていない希少な魔法だ。
 それ故、"召喚魔法"で何ができるのか、という事が知られていない。
 初めのうちは、【サモンアニマル】 【サモンインセクト】などの、召喚できる魔物の種類を増やす位しかできなかった。

 だが再びこの《ジャガー村》に帰ってダンジョンに挑戦し始めてからは、"召喚魔法"の研究も進められていて、新たに二つの魔法を覚える事に成功した。
 それが先ほど北条が挙げたふたつの魔法で、その名の通り召喚した魔物の一体と視覚や聴覚を共有するというものだ。

 諜報や索敵などに便利そうなこれらの魔法だが、短所も存在する。
 それは、一定以上魔物との距離が離れると接続が切れてしまう、という問題だ。

 色々と試してみた所、召喚した魔物を一定以上離れた所まで動かすと、そもそも操作そのものが受け付けなくなってしまい、自然と感覚の共有も切れてしまうようだ。

 なので、ダンジョン探索時には北条が敵の感知を行えることもあって、索敵としてより戦闘用に主に使用されていた。

「昨日のディズィーの精霊の話を聞いていて思ったんだがぁ、もしかしたら召喚した魔物でも"契約"って出来るんじゃないかぁ?」

「あああぁ! 確かにっ! それはいけるかも」

 咲良が少し興奮した様子で北条の発想に同意する。

 あの時ディズィーから聞いた話によると、精霊と契約を交わした場合、精霊が休める場所……宿る場所として精霊石などを用意する必要があるらしい。
 もしかしたら魔物との契約でもそういった物が必要になるかもしれないが、試してみるだけなら問題はない。

 そう判断した芽衣は、北条の提案にのって魔物との契約を試してみる事にした。
 対象となるのは、よく召喚している森牙狼フォレストファングウルフだ。

 中でも芽衣の護衛を任せていた森牙狼フォレストファングウルフに試してみる事にしたようで、フサフサとした頭部を撫でながら芽衣は集中を重ねていく。
 それから、休憩予定時間を過ぎた後も、じっと目を閉じて集中している芽衣。
 やがて「あっ……」と小さな声を上げたかと思うと、

「い~い? あなたの名前は『マンジュウ』よ。 【コントラクト】」

 芽衣が魔法を発動させると同時に、芽衣と森牙狼フォレストファングウルフ――マンジュウを繋ぐ、薄っすらと白く光る糸のようなものが一瞬浮かんで消えていく。
 具体的な変化はそれで終わり、珍しく少しドヤ顔をしている芽衣と、その傍に寄りそうマンジュウの姿だけが残される。

「どうやら成功したみたいです~」

「あ、あぁ。それは見てれば分かるがぁ、まんじゅう……」

 北条は名前が気になるのか、小さく「まんじゅう……」と呟いている。
 一方由里香や咲良達は、契約に成功したマンジュウを撫でまわしていた。

「これって、もう時間制限で帰ったりしないのかな?」

「ええっと、そうみたいです~。けど、これからはちゃんとご飯も上げないとだめみたい~」

 咲良の質問に答える芽衣。
 それから、なでなでタイムはほどほどにして、先ほどの【コントラクト】について軽く検証をしたのだが、どうやら契約したとはいえ扱いは召喚された魔物と同じで、一定以上距離が離れると指示が届かなくなるらしい。

 それと、召喚できる枠がひとつ減った……というより、契約した魔物もカウントされるらしく、マンジュウと契約した結果、現在芽衣が追加で召喚できるのは三体までとなった。

「ううん、常時召喚できるようになったけど、枠がその分ひとつ取られて食事もさせないといけないってことね。……あの、もし、だけど死んだらどうなるのかしら?」

「ん~、多分ですけどフィールドの魔物と同じように、ふつうにそのまま死んじゃうと思います~」

「それはダメだよっ! 絶対にマンジュウを死なせたりはしないからね!」

 決然とした顔でそう告げる由里香。
 契約を結んで常時召喚となった事で、可愛い動物に対しての想いが爆発してしまったらしい。

「た、たとえばの話よ。私だってそんなのは御免よ」

 少し慌てた様子の陽子。
 どうやらマンジュウは、すっかりみんなのアイドルになっているようだ。

「はぁ……。まあ一先ず実験は成功という事で、そろそろ探索に戻ろうかぁ」

 北条のその言葉を機に、『サムライトラベラーズ』はダンジョン探索へと戻るのだった。




しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

『付与』して『リセット』!ハズレスキルを駆使し、理不尽な世界で成り上がる!

びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
ハズレスキルも組み合わせ次第!?付与とリセットで成り上がる! 孤児として教会に引き取られたサクシュ村の青年・ノアは10歳と15歳を迎える年に2つのスキルを授かった。 授かったスキルの名は『リセット』と『付与』。 どちらもハズレスキルな上、その日の内にステータスを奪われてしまう。 途方に暮れるノア……しかし、二つのハズレスキルには桁外れの可能性が眠っていた! ハズレスキルを授かった青年・ノアの成り上がりスローライフファンタジー! ここに開幕! ※本作はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

「残念でした~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~ん笑」と女神に言われ異世界転生させられましたが、転移先がレベルアップの実の宝庫でした

御浦祥太
ファンタジー
どこにでもいる高校生、朝比奈結人《あさひなゆいと》は修学旅行で京都を訪れた際に、突然清水寺から落下してしまう。不思議な空間にワープした結人は女神を名乗る女性に会い、自分がこれから異世界転生することを告げられる。 異世界と聞いて結人は、何かチートのような特別なスキルがもらえるのか女神に尋ねるが、返ってきたのは「残念でした~~。レベル1だしチートスキルなんてありませ~~ん(笑)」という強烈な言葉だった。 女神の言葉に落胆しつつも異世界に転生させられる結人。 ――しかし、彼は知らなかった。 転移先がまさかの禁断のレベルアップの実の群生地であり、その実を食べることで自身のレベルが世界最高となることを――

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

異世界転生した俺は平和に暮らしたいと願ったのだが

倉田 フラト
ファンタジー
「異世界に転生か再び地球に転生、  どちらが良い?……ですか。」 「異世界転生で。」  即答。  転生の際に何か能力を上げると提案された彼。強大な力を手に入れ英雄になるのも可能、勇者や英雄、ハーレムなんだって可能だったが、彼は「平和に暮らしたい」と言った。何の力も欲しない彼に神様は『コール』と言った念話の様な能力を授け、彼の願いの通り平和に生活が出来る様に転生をしたのだが……そんな彼の願いとは裏腹に家庭の事情で知らぬ間に最強になり……そんなファンタジー大好きな少年が異世界で平和に暮らして――行けたらいいな。ブラコンの姉をもったり、神様に気に入られたりして今日も一日頑張って生きていく物語です。基本的に主人公は強いです、それよりも姉の方が強いです。難しい話は書けないので書きません。軽い気持ちで呼んでくれたら幸いです。  なろうにも数話遅れてますが投稿しております。 誤字脱字など多いと思うので指摘してくれれば即直します。 自分でも見直しますが、ご協力お願いします。 感想の返信はあまりできませんが、しっかりと目を通してます。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

処理中です...