96 / 398
第五章
第83話 拠点予定地決定
しおりを挟むその日の夕食後、『女寮』に全員集合してから、いつもの会議が行われていた。
といっても毎回きちっとした議題がある訳でもなく、近頃はただの雑談の場と化している事も少なくない。
しかし今回は村長宅で聞いた話を全員に伝える為、冒頭で早速その話題を打ち出した。
「へぇ、建築費用がかかるのは当然だけど、土地代とかそういうのがかからないのはいいわね」
「それなら土地を多めにもらっちゃおうぜ!」
「まあ、待て。土地といっても柵の外側なら自由ってだけだ。それも現在村の周囲の畑のある場所には建てられんし、まずは建設予定地を決めるのが先だ」
《ジャガー村》の西と東には、一般的な馬車一台が少し余裕を持って通れるくらいの門が、設置されている。
門といっても、かろうじてその機能を有しているというだけで、防御力とかそういったものは期待できない代物だ。
そもそも村の周囲を覆う木柵も、ただ丸太を縦に積み上げていっただけだ。
丸太の端っこの部分に、積み上げた丸太が崩れないように、杭を両脇に打ち付けて挟み込むようにしただけの、簡素な作りになっている。
高さも子供の背丈よりは上だが、大人なら上部から村の外を見回す事が出来る位の高さでしかない。
その村の東西にある門を出ると、畑が広がっている訳だが、その広がり方はやはり門のある東西方面の方が、移動の便の関係上広くなっている。
村の周囲部では、南北方面にも畑は作られている。が、村の中心点から距離的にどこまで農地が広がってるかを調べたとしたら、間違いなく南北より左右に伸びているだろう。
「んー、村の南か北にするか? でも結局見た目の距離が遠くなるだけで、別に東西方面でも歩く距離はかわんねー気もするしな」
色々と頭の中でシミュレートしているのか、ブツブツと龍之介がつぶやく。
「あの、村の北か南に門を作ってもらうってできないんですか?」
最近は周囲の大人に負けないようにか、こういった会議の場でも発言するように意識している慶介が、意見を述べる。
「無理という訳ではないだろうが、それをやれるなら既にやっているだろうな。防犯的に考えても門を増やすのは余りよくはないんだろう」
しかしその意見は信也によって却下されてしまう。
少し落ちこんだ様子を見せる慶介に、すかさず慰めを入れる陽子。
その後も特にこれといった意見が出てくる事はなく、会議は紛糾した。
だがこの話は別に今すぐに決める必要がある類のものではない。
とりあえず今日はこの件に関する話はここまでにして、他の事について話がないかと、会議を先に進めようと信也が思った矢先。
それまで特に意見を述べることなく沈黙していた北条が、重い口を開いた。
「家の建設予定地だがぁ、なにも村の周囲に拘る必要もないだろぅ」
唐突の発言に、それまであーだこーだ言っていた者達の視線が北条へと集まる。
「え、もしかしてあのダンジョン前の、泉の傍にでも建てるつもり?」
その視線の中でも最初に北条に質問を返したのは、慶介につきまとって話しをしていた陽子だった。
「いやぁ、ダンジョンの傍は危険があるようだから、そこはとりあえず無しだぁ。そこまでいかずに、この村から東に三キロほど進んだ先にある、森との境界線辺りだぁ」
この《ジャガー村》からダンジョンに向かうには、村の東門から少し歩いた先にある森を抜けていく必要がある。
ダンジョンから脱出した後、一番最初に村へと向かったルートとほぼ同じだ。
ここまで離れれば、建設予定地をかなり広く設定する事もできるし、すぐ近くの森では人目に付きたくない、"召喚魔法"の練習場所なども確保出来て便利だ。
村からも遠すぎず、若干ではあるがダンジョンまでの距離も縮まるし、土地を確保する際に森から木材を伐採して、建築素材とすることもできるだろう。
そしてその件についても北条は既に村長と確約をしており、伐採した木材の四割を納めないといけないが、残りは自由にしても構わない。
なお基本的に、辺境であるこのグリークの地は、そういった所が全体的に甘めに設定されている。
場所によっては、領主が領民から税を搾り取っているような所もあるのだ。
これは辺境だからというだけでなく、領主の方針による所も大きく、そのおかげか辺境であるにも関わらず、《鉱山都市グリーク》は『ロディニア王国』の中でも都市人口は多く栄えている。
「あの辺りか……。そうだな、確かに悪くないのかもしれない」
信也も北条の意見に賛成のようで、他にも特に反対の声が上がることはなかった。
「あとは家を建てるためのお金を、ダンジョンで稼がないとね」
懸念であった住環境改善の目安が出来たせいか、明るい表情の陽子。
他の面子も、どんな家を建てようかなどを楽しそうに話している。
「あー、ひとつ提案があるぅ」
そこへ北条の声が響き渡った。
突然のその改まったような北条の発言に、興味を惹かれたのか幾人かが続きを促すような視線を送る。
その視線を確認した北条が続きを話し始めた。
「こないだ取得した"土魔法"だがなぁ。これを活用してダンジョンに潜らない日、或いは空いてる時間などに徐々に基礎工事のようなものを進めていこうと思う」
"風魔法"で木材を伐採し"土魔法"で堀や壁を作っていく。
この世界では戦闘以外の事に魔法が使用されている事も多く、特に"土魔法"と"水魔法"は戦闘方面よりも、他の使い方の方で求められる事も多かったりする魔法だ。
もしかしたら攻撃系が多い"火魔法"よりも、この世界に於ける使用頻度が高いのかもしれない。
その後の北条の話によると、すでにグリークにいる時に土の基本魔法については習得済みだそうで、十分拠点づくりにも使えるだろうとの事だった。
「えー、オッサン、それで確か三種類目の魔法だよな? なんでそうポンポン魔法が使えるようになるんだ?」
「私もその辺気になるなぁ。何かコツとかあるんですか?」
恨みがましい声で妬みの声を上げる龍之介と、純粋に好奇心と自分ももっと魔法が使えるようになりたいと、咲良が質問を北条へと投げかける。
「んー、そうだなぁ。まずは俺の天恵スキルである"成長"の効果が関係してるとは思うんだがぁ、職業の方も関係してるんだろうなぁ」
「というと?」
「俺ぁ最初自分の職業の"混魔槍士"というのは"魔剣使い"とか"魔槍使い"みたいな、魔法の武器を扱う職業かと思っていたんだがぁ、こうも魔法を覚えていくとなると"魔法剣士"の槍版みたいなものかもしれん」
グリークに滞在中、ギルドの資料室で調べた限りでは"混魔槍士"という職業の情報は見つからなかったが、"魔法剣士"ならばそこそこ知名度も高く情報も載っていた。
簡単に言えば、魔法も剣も使えるのが"魔法剣士"ということだ。
「とはいえ、ただの"魔法槍士"ではなく"混魔槍士"というよく分からない言葉が頭についてる辺り、普通の"魔法槍士"とは別モンってことだろぅ。ぶっちゃけ俺もその辺よくわからん」
この世界には数多くの『職業』が存在しており、中にはレアな職業も存在する。
といっても、効果が凄いとかそういったものだけではなく、特殊すぎて成り手が少ないといったものも多い。
例えば"奴隷剣士"などという職業は、奴隷身分のものでないとなれない。
それが"奴隷魔法剣士"となれば、態々魔法を使えるような者が奴隷身分に落ちる事も少ないので、必然的に"奴隷魔法剣士"の職業を持つ者も少なくなる。
"奴隷神官戦士"なども似たような理由で数は少ないだろう。
なお"魔法剣士"と"奴隷魔法剣士"では、職業的には大きな違いがある訳でもなく、単純にその者の身分の違いでしかない。
職業の中には勿論レアで強力な職業というものも存在しているが、レアなだけあって適正の幅が狭いのか、或いは特殊な条件が必要なのか。
レア職業に就いている人の数は、驚くほど少ない。
とはいえ、北条を含む異邦人達には、そうしたレアな職業の割合は多い。
当人たちはいまいち実感が薄いようだが、咲良の"四大魔術士"も実は条件として火・土・風・水の各魔法適正がある程度以上必要な職業だ。
咲良の場合、"エレメンタルマスター"のスキルだけで、一発合格になってしまったが、基本属性と呼ばれている魔法とはいえ、四種全てを使える者はそうそう存在していないのだ。
「魔法のコツについては……丁度今川が使えそうでまだ覚えていない、"風魔法"と"土魔法"を俺が覚えたから、空いた時間にでも教えるとするかぁ」
「やった! 約束ね」
よほど嬉しかったのか、笑顔でガッツポーズを取る咲良。
そんな咲良の様子を、龍之介はつまらなそうに見ていた。
それからは特に議題もなかったので、いつものフリートークの時間となっていく。
長井や石田などはとっとと解散して散っていったのだが、主に若い衆は次から次へと、よく話題が尽きないものだなと呆れるほど、話がやむことがない。
そんな若い衆の一人である咲良に、魔法の使い方をせがまれている北条は、早速先ほどの自分の言葉を軽く後悔しながらも、自分が魔法を使う時の感覚などを説明している。
素直に耳を傾ける咲良のそばでは、自分も魔法を使えるようになりたいのか、龍之介がこっそり聞き耳を立てていたりもした。
こうして、騒がしい夜は過ぎていくのだった。
0
お気に入りに追加
45
あなたにおすすめの小説
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜
平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。
『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。
この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。
その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。
一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。
アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
転異世界のアウトサイダー 神達が仲間なので、最強です
びーぜろ@転移世界のアウトサイダー発売中
ファンタジー
告知となりますが、2022年8月下旬に『転異世界のアウトサイダー』の3巻が発売となります。
それに伴い、第三巻収録部分を改稿しました。
高校生の佐藤悠斗は、ある日、カツアゲしてきた不良二人とともに異世界に転移してしまう。彼らを召喚したマデイラ王国の王や宰相によると、転移者は高いステータスや強力なユニークスキルを持っているとのことだったが……悠斗のステータスはほとんど一般人以下で、スキルも影を動かすだけだと判明する。後日、迷宮に不良達と潜った際、無能だからという理由で囮として捨てられてしまった悠斗。しかし、密かに自身の能力を進化させていた彼は、そのスキル『影魔法』を駆使して、ピンチを乗り切る。さらには、道中で偶然『召喚』スキルをゲットすると、なんと大天使や神様を仲間にしていくのだった――規格外の仲間と能力で、どんな迷宮も手軽に攻略!? お騒がせ影使いの異世界放浪記、開幕!
いつも応援やご感想ありがとうございます!!
誤字脱字指摘やコメントを頂き本当に感謝しております。
更新につきましては、更新頻度は落とさず今まで通り朝7時更新のままでいこうと思っています。
書籍化に伴い、タイトルを微変更。ペンネームも変更しております。
ここまで辿り着けたのも、みなさんの応援のおかげと思っております。
イラストについても本作には勿体ない程の素敵なイラストもご用意頂きました。
引き続き本作をよろしくお願い致します。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる