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第二章

第27話 ジョーディとの話し合い

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 村長の提案に従うことにした北条は、他の三人を連れて最初に入ってきた村の入り口から外へと出る。
 外では相変わらず幾人かの村人が農作業をしており、北条らが村から出てくると好奇の視線を向けてくる。
 ただ、積極的に話しかけてくる事はないようで、妙な注目を浴びるなか北条達は今回の成果について話し合っていた。

「どうにか上手くいったようね」

 陽子のその声にみんなも頷いている。

「最初から"回復魔法"を利用して、上手く丸め込むつもりだったがぁ……。丁度いい事に相手方もヒーラーを求めていたようで助かったなぁ」

 そう北条は口にするものの、何か事件が起きていなくてもケガの治療というのは慢性的なものだ。最悪ギックリ腰やら肩こりなんかでも、治してやれば多少の恩は売れただろう。

「ところで……その依頼料ってどうするの? 私は別に全員で分ける形でもいいと思うんだけど」

 今回の依頼の要の一人である咲良は、気前がいいのかお人よしなのか、気負う事もなくさらっとそう口にした。

「今川がそれでいいんならぁ、後は細川にも確認を取って、了承されれば依頼料は山分けでいいだろぉな。正直、現時点では全員ほぼ素寒貧だから助かるぞぉ」

「ま、この状況なら仕方ないしね」

 少し照れながら答える咲良。
 そうした会話を続けながら歩いていると、すぐに八人が待機してる森の入り口へと到着する。
 向こうでもこちらを確認したのか、芽衣がブンブンと手を振っていた。


▽△▽


 合流を果たした彼らは、早速村での成果についての報告を手短に行う。
 その報告の内容に、待機組は概ね満足しているようで、続きの細かい話は村へと移動しながらすることになった。
 そして、再び畑周辺まで戻ってくると、四人から十二人へと増えた謎の集団に、外で農作業を行っている人からの視線が先ほどまでよりも強く刺さる。
 しかし、そんな視線も気にならないのか龍之介が、

「んー、しっかし異世界人っていっても、髪の色は茶とか金とか普通の色なんだなー」

 なんて事を言っていた。
 確かに村の中にいた人達も、突飛な髪の色の人は見かけなかった。
 というか、見た目も西洋風なコーカソイドの人達とそう変わらず、文明差を除けばそこまで異世界感というものはない。
 獣人も、エルフも、ドワーフも、先ほどこの村を訪れた四人は見かけていない。

 とはいえ、ここにいる十二人は日本で暮らしていた者達なので、周囲が外人風な人だけというこの状況だけでも物珍しい事には変わりないだろう。
 そうした訳で、こんなド田舎な村にも関わらず、一部の者はおのぼりさんのように、きょろきょろと辺りを見回しながら、一行は村へとたどり着いた。

 すると、村の入り口から歩いてすぐの場所にある広場には、すでに村長とジョーディが待ち構えていた。

「あー、あの爺さんがこの村の村長のジャガーで、隣の若いのがジョーディといったかな。なんでもギルド関係の人らしいがぁ、何のギルドかはまだ聞いていない」

 遠目に二人を確認した北条が、待機組へと説明する。

「へー、あれが"じゃがじゃが"言うっていう村長ね」

 何とはなしにそう口にする龍之介に、北条は少し語気を強めながら、

「一応言っておくがぁ、余計な事は言うなよぉ。人の癖や特徴をからかった挙句、交渉が決裂なんてなぁ、ごめんだぁ。それにあのジィさん、お前よりも断然強そうだから、下手に怒らせたらまずいぞぉ」

「あー、わかった。わかったよ」

 叱られた悪ガキのような態度の龍之介だったが、何かしでかしそうになったら、隣で睨みを利かせている咲良が何とかするだろう。


「ほぉほぉ。そちらが残りのメンバーという訳じゃが? ワシはこの村の村長、ジャガー・スパイクマンじゃ。早速じゃが、ヒーラーが一人いると聞いたのじゃが」

 村長が尋ねると、メアリーが一歩前に出て自己紹介をする。

「あ、はい。私がそうです。名前は細川メアリー。メアリーと呼んでください」

「うむ、よろしく頼むぞぃ。既に村にはお触れを出して、軽傷のものは一か所にまとめてある。早速じゃが、先ほどのサクラ殿と一緒に治療に回ってくれんかの?」

 せっかちな村長の質問に、メアリーと咲良は仲間の顔を伺った後、了承の意を伝えた。

「では患者の元へはワシが案内しよう。残りのもんはこっちのジョーディと話すがいいぞぃ。これでも村唯一の『冒険者ギルド』の出張所職員じゃ。お主らの状況も軽く話してあるので、相談に乗ってくれるじゃろう」

 そう言うやいなや、村長はメアリーと咲良を連れていってしまった。
 残された者達は、最後に残ったお菓子を誰が取るのか、といったような感じの妙な空気感の中、口火を切ったのは村長の指名を受けたジョーディだった。

「……えーと、そういう訳で貴方達からは詳しい話をお聞きしたいんですが……。ここではなんですので、村長宅に向かいましょう。許可は取ってありますので」



 村長宅へと向けて歩き出したジョーディを、残りの異邦人の十人が後を追う。
 ほどなく小高い場所に建つ村長宅へとたどりついた一行。
 ジョーディはその村長宅の門扉を開け、勝手知ったる他人の家とばかりに、無造作にあがりこんでいく。

 日本人が持っている習慣のためか、信也達はジョーディのように我が物顔ではなく少し気後れしながら中へとお邪魔すると、最初に北条達が村長と話していた応接間らしき場所へと案内された。

 現在室内にはジョーディ含め十一人もいるが、なんとか全員椅子には座れそうで、各自おずおずと着席していく。
 全員が着席すると、ジョーディが改めて異邦人達をざっと眺めた後に、話しを始める。

「えーと、先ほどの紹介にありました通り、私がこの村にある冒険者ギルド出張所の唯一の職員。ジョーディと申します、皆さんよろしくお願いいたします」

 と、丁寧に頭を下げる。
 その礼儀の正しさに、相対する日本人達も自然と肩の力が抜けたようだ。

「それで、村長の方から貴方達の事について軽くお話は聞いたんですが、もう少し詳しい事をお聞かせもらえませんか?」

「わかったぁ」

 異邦人達のリーダーは現在の所は信也であるが、今回は先に接触をした交渉役である北条がイニシアチブを取る事になっていた。
 二度目の説明なので、村長に説明した時よりも若干上手い感じに作り話を語る北条。

 ジョーディは興味津々といった様子でその話を聞いている。
 最後北条達がこの村へとたどり着いた所まで話し終えると、ジョーディは一旦頭の中で状況を整理しているのか、黙りこくる。
 やがて考えがまとまったのか、

「……えーと、とりあえず皆さんの状況は分かりました。今後の事についてですが、幾つかお話があります」

 と、話を切り出した。

「まずは住む場所ですが、生憎とこの村には宿屋というものがありません。辺境の中でも外れのほうにある村ですからね。ただ、今は誰も住んでいない空き家が幾つかあったはずなので、村長に頼めばそちらに住むことは出来ると思います」

 その言葉に喜びの表情を浮かべる一同。

「そして、この地域の一般知識などは私でも村長でも、どうぞお尋ねください。村長はそこそこ忙しいでしょうが、私は今の所は暇ですので」

 北条達は二回も村を出入りしたという割に、冒険者らしき姿を見ていない。無論村の一部しか見ていないし、依頼で外に出ている可能性もあるが、村に冒険者の数事態が少ない可能性もある。
 ジョーディが暇だというのも恐らくはそのせいだろう。

「それから先立つものに関してですが、とりあえずは貴方達メンバーの二人による村人の治療依頼の報酬がありますね。後は……ダンジョンを抜けてきたのなら、魔物のドロップ品は回収しましたか? 低レベルモンスターのドロップなら、うちの出張所でも買取できますよ」

「あぁ、それなら回収してきている。だがぁ、見ての通りろくに荷物も持てなくてなぁ。森にまとめて隠してあるので、後で取りに戻ろう。スマンがぁ、何か袋なり背嚢なりを貸してくれんかぁ?」

 かたくなに〈魔法の小袋〉の存在を隠し通そうとする北条。
 ジョーディもまさか、そんな物をみんながみんな持っているとは思わないのか、北条の申し出に快く承諾の返事をする。
 それから妙に深刻そうな顔つきになって、続きを話し始めた。

「それでですね……。一番大事なお話があるんですが……」

 そのジョーディの表情と口調から、幾人かは只事ではなさそうだと身構える。

「貴方達の話を統合すると、脱出した洞窟というのはまず間違いなく『ダンジョン』だと思われます。しかし、今までこの辺りにダンジョンが存在したという情報はありません」

 ダンジョンといえば冒険者にとってセットと言ってもいい位、その手の作品では有名だ。
 魔物が襲ってきて、ドロップアイテムを落とす。それを冒険者が売り払い、生計をたてる。
 時には宝箱などから、高価なマジックアイテムや武器などが発見され、一攫千金を夢見る冒険者が集う場所でもある。
 無論夢半ばで力尽きる者もいるだろう。それでも冒険者を引き付けて止まないのがダンジョンというものなのだ。

 しかし、当然ながらいいことだけではなく悪い事もある。
 というか、そもそも魔物の巣窟であるので、本来人間にとっては潰すべき害虫の巣穴のようなものなのだ。 

 その悪い事とは、魔物達がダンジョンから大量に抜け出し、暴走して周囲の人々や村々を襲いまわるという、災害のような出来事だ。
 一概にそういう事態が発生する設定の作品ばかりではないのだが、その可能性を考えると、こうした田舎にあるダンジョンが暴走したらまずい事になるのは目に見えている。
 そんな事を考えていた北条だったが、ジョーディが口にしたのはもっと違う――それでいて、彼らにとって重要な案件となる、別の話であった。


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