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6.騎士と魔女の契約
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僕の覚悟を決めて放った言葉に、銀髪青眼の女性エイリアスは目を丸くしている。驚かせるつもりはなかったし、意外なことを言ったつもりもなかった。
「君と結婚したい」
「2回言わなくても分かってる! でも、本気……なの……?」
反応が薄かったから復唱しただけだけれど。彼女は顔を伏せて、伺うように上目遣いでこちらを見ている。
「僕は冗談でこんなことを言うような人間じゃないよ」
「し、信じられるかっ。昨日は勝手に帰ったくせに、お前に……やり逃げされたと思ったんだからなっ!」
「やり……いくらなんでも言葉が悪いよ。君は僕のことをどんな男だと思っているんだ……」
いまさらだけど、大貴族の令嬢が使っていい言葉じゃない。昨日今日初めて会った間柄というわけではないのに、信用がないみたいだ。
「どんなって……女を優しく送りとどけると見せかけて、隙を見せたら強引に押し倒すような男だ! そして、やる事ヤったら無責任に帰るんだろうっ!」
「いや、それに関しては……」
よくない兆候だ。話が蒸し返されようとしている。この際、僕の責任が100対0でなければ妥協することはまんざらでもない。
「君のことが好きだ」
蒸し返される前に、結論と本心を伝えておこう。
なんで……と彼女は呟いた。
「私のこと……本当に好きか? 昨日のことだけで、形だけ責任を取ろうとしてるなら……そんなの、ありがた迷惑だぞっ……」
彼女はモジモジと自信なさげに言った。いつも相手の眼を睨みつけながら喋る勝気な彼女らしくない。
「クソみたいな大貴族の命令に、眉一つ動かさず従ってきた僕の忍耐力は君の想像よりも上だよ。君が好きだから、昨日はあんな安い挑発に苛ついたんだと思う」
「そ、そう」
短く答えた彼女が少し嬉しそうに見えるのは、僕の希望的観測が見せる幻想だろうか。彼女につられるように僕の口も少し悪くなってしまった。
「……君の返事が聞きたいんだけど」
僕は改めて彼女を見据えて言った。彼女はまた驚いて、しどろもどろになりながらも言葉を発する。ビクビクとする彼女も珍しい。
「ほ、他の男よりはちょっとだけマシなのは認める……。昨日のコトには、1ミリくらい私の責任もあるし……お前が、どうしてもって言うなら……考えてやらないことはない」
「どうしても、君と結婚したい」
「じ、じゃあ、仕方なく! お前と結婚してやってもいい……この私と結婚できることを神に感謝するんだな。その……嫌になったらすぐ離婚してやるからな! 勘違いするなよ、お前がどうしてもって言うから仕方なく結婚してやるだけなんだからなっ」
貴族同士の結婚がそんなに簡単に解消できるものではない事は彼女もおそらく分かっているはず。婚約破棄なら……稀によくある。
僕は少しだけ意地悪がしたくなった。
僕としては明確にハッキリと気持ちを伝えているつもりなのに、彼女はゴニョゴニョと言い訳じみたことを言っているからだ。
「仕方なくなら、諦めるよ」
「!……この私の初めてを強引に奪っておいて、そんな事が許されると思うなよっ……私とあんなことが出来たことを神に感謝して、頭を垂れてお願いしろっ! そうしたら、特別にお前との関係を考えてやらないことはないんだからなっ!」
「はっきり言ってほしい」
僕は痺れを切らして、彼女に促した。
くっ……と彼女は呟いた。耐えがたい屈辱でも受けたかのように、拳を握りしめてプルプルと震えている。それから覚悟でも決めたように唇を結んでから、口を開く。
「私もお前と結婚したいっ!」
オンボロ倉庫に再び声が響いた。
叫んだ彼女はキッと僕を睨みつけて、これで満足か! とでも言いたげな反抗的な目を向けている。顔を真っ赤にしているけれど、怒りなのか照れなのかも分からない。
「2人きりなんだから素直になってくれても損はないと思うけど……」
「うるさい! 1度身体を許したからって調子に乗るなよっ」
そう言って、彼女のパンチが飛んできた。僕はパシッと彼女の小さな拳を受け止める。照れ隠しの暴力をくらう趣味はない。
いずれにしても、これで彼女と口頭での合意は取り付けた。まだまだ問題は山積みなのだけど、今のところはこれで満足だと思う僕である。ほっと胸を撫で下ろした。
素直じゃないし、高慢にも見える態度。それに、これから分かることだけど、彼女は筋金入りのナイトメイル狂いだ。僕にとって鉄くずとしか思えないモノを彼女は心血を注いで研究している、愛していると言ってもいい。鉄くずに嫉妬する気はないけど……。
……仕方ない、これが『惚れた弱み』というやつだろう。
「僕はアレン・クロスロードだ」
「そ、それくらい知ってる」
本当だろうか。
僕は可笑しくなって自然と口もとが緩んだ。昨晩の出来事が起こるまで『君とお前』で呼び合っていたのだ。初めて名乗ったような不思議な気分さえ感じる。
だから彼女に一つ提案があった。
「君のことエリスって呼んでいいかな」
「な、なんで……」
彼女は驚いた様子を見せた。変なことでも言ったのだろうか?
「エイリアスもヴァルトシュタインも長すぎると思うんだ。嫌かな?」
「……勝手にしろ、特別に許可してやる」
「わかった。あと、気が向いたら僕の名前を呼んでもいいよ」
「気が向いたらなっ」
ツンとそう言った彼女と目が合った。
……僕は彼女の肩を抱き寄せて、唇を重ねようと思った。抵抗しないところを見ると、特別に許可してやるっ! ってことなのだろう。
「んっ……」
ガラガラ!と音がして扉が開いた。
「お師匠さまー! おはようございます」
僕とエリスは飛び上がるほど驚いた。
「君と結婚したい」
「2回言わなくても分かってる! でも、本気……なの……?」
反応が薄かったから復唱しただけだけれど。彼女は顔を伏せて、伺うように上目遣いでこちらを見ている。
「僕は冗談でこんなことを言うような人間じゃないよ」
「し、信じられるかっ。昨日は勝手に帰ったくせに、お前に……やり逃げされたと思ったんだからなっ!」
「やり……いくらなんでも言葉が悪いよ。君は僕のことをどんな男だと思っているんだ……」
いまさらだけど、大貴族の令嬢が使っていい言葉じゃない。昨日今日初めて会った間柄というわけではないのに、信用がないみたいだ。
「どんなって……女を優しく送りとどけると見せかけて、隙を見せたら強引に押し倒すような男だ! そして、やる事ヤったら無責任に帰るんだろうっ!」
「いや、それに関しては……」
よくない兆候だ。話が蒸し返されようとしている。この際、僕の責任が100対0でなければ妥協することはまんざらでもない。
「君のことが好きだ」
蒸し返される前に、結論と本心を伝えておこう。
なんで……と彼女は呟いた。
「私のこと……本当に好きか? 昨日のことだけで、形だけ責任を取ろうとしてるなら……そんなの、ありがた迷惑だぞっ……」
彼女はモジモジと自信なさげに言った。いつも相手の眼を睨みつけながら喋る勝気な彼女らしくない。
「クソみたいな大貴族の命令に、眉一つ動かさず従ってきた僕の忍耐力は君の想像よりも上だよ。君が好きだから、昨日はあんな安い挑発に苛ついたんだと思う」
「そ、そう」
短く答えた彼女が少し嬉しそうに見えるのは、僕の希望的観測が見せる幻想だろうか。彼女につられるように僕の口も少し悪くなってしまった。
「……君の返事が聞きたいんだけど」
僕は改めて彼女を見据えて言った。彼女はまた驚いて、しどろもどろになりながらも言葉を発する。ビクビクとする彼女も珍しい。
「ほ、他の男よりはちょっとだけマシなのは認める……。昨日のコトには、1ミリくらい私の責任もあるし……お前が、どうしてもって言うなら……考えてやらないことはない」
「どうしても、君と結婚したい」
「じ、じゃあ、仕方なく! お前と結婚してやってもいい……この私と結婚できることを神に感謝するんだな。その……嫌になったらすぐ離婚してやるからな! 勘違いするなよ、お前がどうしてもって言うから仕方なく結婚してやるだけなんだからなっ」
貴族同士の結婚がそんなに簡単に解消できるものではない事は彼女もおそらく分かっているはず。婚約破棄なら……稀によくある。
僕は少しだけ意地悪がしたくなった。
僕としては明確にハッキリと気持ちを伝えているつもりなのに、彼女はゴニョゴニョと言い訳じみたことを言っているからだ。
「仕方なくなら、諦めるよ」
「!……この私の初めてを強引に奪っておいて、そんな事が許されると思うなよっ……私とあんなことが出来たことを神に感謝して、頭を垂れてお願いしろっ! そうしたら、特別にお前との関係を考えてやらないことはないんだからなっ!」
「はっきり言ってほしい」
僕は痺れを切らして、彼女に促した。
くっ……と彼女は呟いた。耐えがたい屈辱でも受けたかのように、拳を握りしめてプルプルと震えている。それから覚悟でも決めたように唇を結んでから、口を開く。
「私もお前と結婚したいっ!」
オンボロ倉庫に再び声が響いた。
叫んだ彼女はキッと僕を睨みつけて、これで満足か! とでも言いたげな反抗的な目を向けている。顔を真っ赤にしているけれど、怒りなのか照れなのかも分からない。
「2人きりなんだから素直になってくれても損はないと思うけど……」
「うるさい! 1度身体を許したからって調子に乗るなよっ」
そう言って、彼女のパンチが飛んできた。僕はパシッと彼女の小さな拳を受け止める。照れ隠しの暴力をくらう趣味はない。
いずれにしても、これで彼女と口頭での合意は取り付けた。まだまだ問題は山積みなのだけど、今のところはこれで満足だと思う僕である。ほっと胸を撫で下ろした。
素直じゃないし、高慢にも見える態度。それに、これから分かることだけど、彼女は筋金入りのナイトメイル狂いだ。僕にとって鉄くずとしか思えないモノを彼女は心血を注いで研究している、愛していると言ってもいい。鉄くずに嫉妬する気はないけど……。
……仕方ない、これが『惚れた弱み』というやつだろう。
「僕はアレン・クロスロードだ」
「そ、それくらい知ってる」
本当だろうか。
僕は可笑しくなって自然と口もとが緩んだ。昨晩の出来事が起こるまで『君とお前』で呼び合っていたのだ。初めて名乗ったような不思議な気分さえ感じる。
だから彼女に一つ提案があった。
「君のことエリスって呼んでいいかな」
「な、なんで……」
彼女は驚いた様子を見せた。変なことでも言ったのだろうか?
「エイリアスもヴァルトシュタインも長すぎると思うんだ。嫌かな?」
「……勝手にしろ、特別に許可してやる」
「わかった。あと、気が向いたら僕の名前を呼んでもいいよ」
「気が向いたらなっ」
ツンとそう言った彼女と目が合った。
……僕は彼女の肩を抱き寄せて、唇を重ねようと思った。抵抗しないところを見ると、特別に許可してやるっ! ってことなのだろう。
「んっ……」
ガラガラ!と音がして扉が開いた。
「お師匠さまー! おはようございます」
僕とエリスは飛び上がるほど驚いた。
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