すずしろの浅漬け

言葉の変遷

「貴様！」
と、いきなり言われたとしたら、どう思いますか?
見下されている、喧嘩売られている、罵られている。
そう思いませんか?

元々は敬意を持って使われる言葉であった「貴様」
その文字通り、貴(たっとい・とうとい) 様。

「貴様」という言葉が使われ始めたのは、室町時代末の様です。
武家の書簡に用いられており、文字通り相手への敬意を表す二人称だったとされています。

しかし、時代が進み、遊女が客に対して、いわゆる廓言葉として使い始めたことにより「貴様」が庶民にも知れ渡ると、何故かそこに含まれていた敬意は地に落ちていきます。
そして江戸時代後期にはもう、現在の目下の者に対して使われる言葉と言う認識にまで下がったそうです。

ちなみに、今はあまり丁寧でないとされる「お前」も、もともとは敬語の一種でした。
漢字で書くと「御前」
静御前、巴御前などの「御前（ごぜん）」と同じです。

しかしこれも「貴様」同様、江戸時代後期には同等～目下の相手に使う二人称として定着てしまいました。

でも、私、美内すずえ先生のガラスの仮面で、紅天女が愛しい恋人・一真に呼びかけた
「お前さま」
が、深い愛情と信頼を表していて、とても好きだったんだけどなあ。
あ、ただの「お前」じゃなくて「さま」が付いたから柔らかく感じたのかな?



子供の頃からお世話になっていた歯医者さんから、以前聞いたのが、戦前、軍隊に入ったお兄様が休暇で帰宅すると、彼女の事を「貴様」と呼んでいたというお話。

ある時、思い切ってお兄様に、「そういう呼ばれ方は嫌です」と言った所。
「何を言うか、貴様と言うのは『とおといさま』と書く。つまりは相手に敬意を払っているという事だ。」
と叱られたとか。

「違うと思うんだけれどなあ。と、釈然としない気分だったのよね。でもあれが兄と会話した最後だったなあ、私はその後東京の歯科大学に入るため、家を出たし、兄は軍務で殉職しちゃったから。」
懐かしそうにかの日を思い出して話してくれた先生の脳裏には、きりっと軍服を着て姿勢を正した凛々しいお兄様の姿があったのでしょう。

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ネット小説でよく見るタグ『ざまあ』
あれ漢字で書くと『様』なんですよね。

「様見やがれ」
うん、読めたとしてもしっくりこないし、誤変換?と思ってしまいそう。
「ざまあみやがれ」
これの方がしっくりきます。
漢字は意味合いを知るには便利ですが、ひらがなの方が良い場合もあるといういい例だと思います。

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「オタク」
意味は言わずもがなですが、これそもそも「お宅」と書き、相手の家や家庭を指す敬称の二人称代名詞でした。
「お宅様では如何なさっておられますの?」
とか
「宅の主人が・・・。」
等と母世代の奥様方は通常会話で使っていましたね。

今使われている「オタク」は、1983年にコラムニストの中森明夫氏がコミックマーケットに集う若い子達がお互いを「おたく」と呼び合っていた現象を揶揄して、彼らを「おたく」として分類したのが起源と言われています。

中森氏がコラムとして書く以前は、「あなた」や「きみ」と比べてちょっと距離をおいた呼びかけとして使われており、私の知る限りでは学習院大学などでは普通に使われていました。

『御宅様』から『オタク』又は『ヲタク』
当初の使い方から外れて、まるっきり別物となった言葉です。