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第百九十一話 ここは私にお任せ下さい
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「り、リヒター!あなた、正気!?し、信じられない…!そ、そんな破廉恥な方法で上手くいくはずが…!」
リヒターの考えた作戦にリエルはぱくぱくと口を開けたり閉じたりを繰り返し、真っ赤な顔で狼狽えた。
「いや。そうでもないぞ。女は快楽に弱い生き物だからな。女の口を割らせるなんて案外、簡単だぞ。」
「さすがティエンディール侯爵。経験者はよく分かっておられますね。」
「なっ、なっ…!」
リヒターの言う通り、ゼリウスの言葉には妙な説得力があった。それはそうだ。ゼリウスはゾフィーと出会うまでは女泣かせのプレイボーイとして名を馳せた男なのだから。経験値はきっと、誰よりも高い。
「けど、リヒター。あの女にその気になれるのか?俺としてはそっちの方が心配だ。」
「ご安心を。いざとなったら、薬でも使えば問題ありません。そこまで言うのなら、侯爵がお相手願えますか?あなたが相手でも彼女はきっと諸手を挙げて歓迎することでしょうし。」
「は!?無理に決まっているだろ!ゾフィー以外の女に触るなんて想像しただけで吐き気がする!」
「それは残念です。では、当初の予定通り、私が相手をしましょう。」
「ちょ、ちょっと待って!二人共!」
リヒターもゼリウスも淡々と何の疑問も抱かずに話を進めていく。ちょっと待って欲しい。どうして、ゼリウスも反対しないのだ。
「こ、こんなの駄目!絶対に駄目よ!そもそも、成功する筈ないでしょう!?こんな…、い、色仕掛け作戦なんて!」
リヒターの考えた作戦。それは、ぶっちゃけていえば色仕掛け作戦だ。
というか、そもそもリヒターはソニアに会った時から、その作戦を実行しようと企んでいたらしい。
そして、いつの間にかソニアと親しくなり、昨日、ソニアから告白され、秘密の恋人の座を手に入れたらしい。
それを聞いた時は驚きすぎて目が点になった。
ちょっと待って欲しい。確かリヒターとソニアはここの屋敷に来てから初対面よね?
出会って一週間ちょっとしか経っていないわよね?…進展が早すぎではないだろうか。
「そ、それに、ソニアって確かゼリウスを狙っていたんじゃなかったの!?
毎日のように着飾ってゼリウスに会いに行ってたじゃない!」
ゾフィーがいなくなってから、ソニアは買い物やお茶会、パーティー以外の時間はゼリウスに会いに行っていた。
この屋敷でメイドとして働いている時に目一杯、着飾って派手な格好をして出かけていたソニアを何度も見かけていたから、よく覚えている。声高にゼリウスに会いに行くと言っていたし。
といっても、ゼリウスは仕事とゾフィーの捜索で忙しく、ほとんど家には帰っていなかったし、事前に約束もしていないので会える筈もなく、いつも追い返されていたらしいが。
その対応にソニアは怒り狂い、ソニア専属のメイド達は八つ当たりをされて大変だったらしい。
「それとこれとは別だろ。ああいう女は一人の男じゃ満足できないタイプだ。いつだって男共にチヤホヤされたいって思っているんだからな。大方、お嬢様と使用人という禁断の恋に酔っているんじゃないのか。あの女、顔がいい男が大好物みたいだしな。」
そういえば、リヒターは昔から女性にモテた。新入りのメイドに貴族令嬢、未亡人、町娘や村娘…。
挙げればキリがない。
だからといって、こんなふざけた作戦が成功する訳がない。幾らリヒターが魔性の魅力を持った美形とはいっても、あまりにも単純すぎる作戦だ。そんな見え透いた手に引っ掛かる筈がない。
リエルはそう主張するが二人は違った。
「大丈夫です。彼女は頭の弱い…、いえ。楽観的思考の持ち主ですから。」
「リヒター。誰にも聞かれてないんだし、はっきり言っていいぞ。あの女は頭空っぽだし、自分の都合のいい言葉しか信じないからな。自分は可愛いと本気で自惚れている。ああいう女は適当に甘い言葉を囁いて、チヤホヤすれば簡単に釣れる。何せ、馬鹿だからな。」
リヒターもゼリウスもソニアに対する批評がひどい。
リエルもソニアのことは嫌いだ。とはいえ、さすがにこれだけ叩かれているのを聞いたら少しだけソニアが哀れな気もする。…本当に少しだけだが。
「お嬢様はご存知ありませんか?古くからこの作戦はよく使われているのですよ。
これは、敵の機密情報を得る目的で対象者を誘惑したり、弱味を握るなどして脅迫するという立派な諜報活動です。
まあ、主に女性が男性を誘惑するというのが一般的ではありますが。今回は逆ですね。
単純で古臭い手ではありますが…、それが今も尚、使われているという事はそれだけ効果があるということです。」
「で、でも‥、そんなにうまくいくものかしら…。」
「女ってのは皆が皆、君みたいに頑固で潔癖じゃないんだ。顔のいい男に迫られたらクラッとなるもんだ。」
リヒターもゼリウスも既にこの作戦に乗り気な様子だ。
な、何で…?どうして、二人共、こんなにあっさりと受け入れるの…?
反対しているのはあたしだけ…?
「そういう訳でお嬢様。ここは私にお任せください。ご心配なく。こう見えて、私は女性の扱いを心得ておりますから。」
「リヒター…。だけど、あなたそれでいいの?こんな…、好きでもない人を相手に…、」
リエルはリヒターに無理はしないでと言った。
「好きな人以外に触りたくないと思うのは普通の事だもの。辛かったり、嫌なのは当然だわ。そこまであなたが身体を張る必要はないわ。また別の手を考えて…、」
「いいえ。無理ではありませんよ。心配をして下さり、ありがとうございます。お嬢様。」
リヒターはリエルの言葉を遮ると、首を振り、微笑んだ。
「リヒター…。でも…、」
「お嬢様。目的をお忘れですか?ゾフィー嬢を一刻も早く見つけ出す為にあなたはここにいるのでは?」
リエルはゾフィーの名にピクッと反応した。
「でしたら、執事の私でも使える物は何でも有効に使うべきです。違いますか?」
リエルは迷ったように視線を彷徨わせ、リヒターを見つめた。リヒターは微塵も不安を感じさせず、こちらを安心させるように笑みを湛えている。
それを見て、リエルは決心した。
「…分かった。リヒター。あなたには苦労をかけるけど…、その作戦でいきましょう。」
結局、リヒターの考えた色仕掛け作戦を実行することになった。くれぐれもリヒターには無理をしないように言いつけ、リエルは自分の役目を果たすことにした。
「リヒター…。あの、本当に大丈夫…?」
次の日の夜…。遂に実行の日がやってきた。
リエルはソニアの部屋に向かおうとするリヒターに心配そうに話しかけた。リヒターは振り返り、微笑んだ。
「お嬢様は心配性ですね。何度も言いますが大丈夫ですよ。必ずやゾフィー嬢の居場所を聞き出して見せます。」
「…ごめんなさい。あなたには辛い役目を背負わせてしまって…、」
ゾフィーを一刻も早く助けたい。その気持ちに変わりはない。でも、だからといって、リヒターにここまでさせてしまっていいのだろうか。リエルは未だに迷っていた。
「そんなに思い悩むことではありませんよ。大丈夫です。最後までは致しませんから。」
「え?そ、それってどういう意味…?」
キョトンとするリエルにリヒターは苦笑した。
「お嬢様にはまだ少し早い話でしたね。」
「な…!?私はもう立派な大人だわ!子ども扱いしないで!」
リエルはリヒターの手のかかる子供を見る様な視線にムッとした。
「先程の言葉の意味も分からない様では、お嬢様もまだまだですね。」
「だ、だから…、そうやって子ども扱いはしないでって…!」
フッとどこか小馬鹿にしたように見下ろすリヒターにリエルは思わず声を上げた。
「お嬢様には刺激が強すぎますので詳しくはご説明できませんが…、そんなに深刻に捉えることはありませんよ。色仕掛けといっても軽いスキンシップ程度に触れ合うだけですから。」
「え、そ、そうなの…?」
リエルは目を瞬いた。
「ええ。それに、自白剤も手に入れましたから飲み物にでも淹れてしまえば、簡単に聞き出せます。
後はソニア嬢を油断させるように甘い言葉を囁けばきっと、すぐにでもゾフィー嬢の居場所を吐き出すことでしょう。」
な、何だ…。そうなのか。それなら、良かった…。
リエルはホッとした。
色仕掛けってもっと際どい所までやるのかと思っていた。その、キスをするとか…、裸になってベッドで寝るとか…。うわわ!私ったら何て破廉恥な事を想像しているの!はしたない!
リエルはブンブンと首を横に振った。そんなリエルを見透かすようにリヒターはクスッと笑い、
「ですから、ご安心を。万が一、失敗したとしても、何も問題はありません。どの道、彼らは逃れられませんから。」
そうだ。リヒターの言う通り、ゾフィーの両親とソニアは逃げられない。
ゾフィーの手がかりは見つけられなかったが得るものもあった。ソニアの部屋から見つけた阿片。
あれだけで彼らの身柄を拘束する立派な証拠になる。阿片は所持をしているだけでも犯罪になるのだから。
それと同時にゾフィーの祖母と叔父の不審な死…。時間はかかった調査をした結果、黒だと判明したのだ。
罪状は揃った。これで、ゾフィーの両親とソニアの身柄を拘束できる。
もし、この作戦が失敗しても、彼らが逮捕されるのは最早、決定事項だ。
既に騎士団には連絡を入れているし、今夜にでも騎士団がこの屋敷に乗り込む手筈になっている。
ゾフィー嬢の失踪についての手がかりはなくとも、身柄を拘束して本格的に調査に乗り出せばその証拠も出てくる筈だ。できればソニアの口からゾフィーの居場所を聞き出すのが一番望ましい。
早ければ早い程、ゾフィーを見つけ出すことができるのだから。
「さて…、ティエンディール侯爵もそろそろ持ち場にいる頃でしょう。私もそろそろ行かねばなりません。お嬢様もどうかお気をつけて。」
「ええ。リヒターも気を付けて。」
リエルはそう言って、急いでリヒターに背を向け、ダークの部屋に向かった。
リヒターの考えた作戦にリエルはぱくぱくと口を開けたり閉じたりを繰り返し、真っ赤な顔で狼狽えた。
「いや。そうでもないぞ。女は快楽に弱い生き物だからな。女の口を割らせるなんて案外、簡単だぞ。」
「さすがティエンディール侯爵。経験者はよく分かっておられますね。」
「なっ、なっ…!」
リヒターの言う通り、ゼリウスの言葉には妙な説得力があった。それはそうだ。ゼリウスはゾフィーと出会うまでは女泣かせのプレイボーイとして名を馳せた男なのだから。経験値はきっと、誰よりも高い。
「けど、リヒター。あの女にその気になれるのか?俺としてはそっちの方が心配だ。」
「ご安心を。いざとなったら、薬でも使えば問題ありません。そこまで言うのなら、侯爵がお相手願えますか?あなたが相手でも彼女はきっと諸手を挙げて歓迎することでしょうし。」
「は!?無理に決まっているだろ!ゾフィー以外の女に触るなんて想像しただけで吐き気がする!」
「それは残念です。では、当初の予定通り、私が相手をしましょう。」
「ちょ、ちょっと待って!二人共!」
リヒターもゼリウスも淡々と何の疑問も抱かずに話を進めていく。ちょっと待って欲しい。どうして、ゼリウスも反対しないのだ。
「こ、こんなの駄目!絶対に駄目よ!そもそも、成功する筈ないでしょう!?こんな…、い、色仕掛け作戦なんて!」
リヒターの考えた作戦。それは、ぶっちゃけていえば色仕掛け作戦だ。
というか、そもそもリヒターはソニアに会った時から、その作戦を実行しようと企んでいたらしい。
そして、いつの間にかソニアと親しくなり、昨日、ソニアから告白され、秘密の恋人の座を手に入れたらしい。
それを聞いた時は驚きすぎて目が点になった。
ちょっと待って欲しい。確かリヒターとソニアはここの屋敷に来てから初対面よね?
出会って一週間ちょっとしか経っていないわよね?…進展が早すぎではないだろうか。
「そ、それに、ソニアって確かゼリウスを狙っていたんじゃなかったの!?
毎日のように着飾ってゼリウスに会いに行ってたじゃない!」
ゾフィーがいなくなってから、ソニアは買い物やお茶会、パーティー以外の時間はゼリウスに会いに行っていた。
この屋敷でメイドとして働いている時に目一杯、着飾って派手な格好をして出かけていたソニアを何度も見かけていたから、よく覚えている。声高にゼリウスに会いに行くと言っていたし。
といっても、ゼリウスは仕事とゾフィーの捜索で忙しく、ほとんど家には帰っていなかったし、事前に約束もしていないので会える筈もなく、いつも追い返されていたらしいが。
その対応にソニアは怒り狂い、ソニア専属のメイド達は八つ当たりをされて大変だったらしい。
「それとこれとは別だろ。ああいう女は一人の男じゃ満足できないタイプだ。いつだって男共にチヤホヤされたいって思っているんだからな。大方、お嬢様と使用人という禁断の恋に酔っているんじゃないのか。あの女、顔がいい男が大好物みたいだしな。」
そういえば、リヒターは昔から女性にモテた。新入りのメイドに貴族令嬢、未亡人、町娘や村娘…。
挙げればキリがない。
だからといって、こんなふざけた作戦が成功する訳がない。幾らリヒターが魔性の魅力を持った美形とはいっても、あまりにも単純すぎる作戦だ。そんな見え透いた手に引っ掛かる筈がない。
リエルはそう主張するが二人は違った。
「大丈夫です。彼女は頭の弱い…、いえ。楽観的思考の持ち主ですから。」
「リヒター。誰にも聞かれてないんだし、はっきり言っていいぞ。あの女は頭空っぽだし、自分の都合のいい言葉しか信じないからな。自分は可愛いと本気で自惚れている。ああいう女は適当に甘い言葉を囁いて、チヤホヤすれば簡単に釣れる。何せ、馬鹿だからな。」
リヒターもゼリウスもソニアに対する批評がひどい。
リエルもソニアのことは嫌いだ。とはいえ、さすがにこれだけ叩かれているのを聞いたら少しだけソニアが哀れな気もする。…本当に少しだけだが。
「お嬢様はご存知ありませんか?古くからこの作戦はよく使われているのですよ。
これは、敵の機密情報を得る目的で対象者を誘惑したり、弱味を握るなどして脅迫するという立派な諜報活動です。
まあ、主に女性が男性を誘惑するというのが一般的ではありますが。今回は逆ですね。
単純で古臭い手ではありますが…、それが今も尚、使われているという事はそれだけ効果があるということです。」
「で、でも‥、そんなにうまくいくものかしら…。」
「女ってのは皆が皆、君みたいに頑固で潔癖じゃないんだ。顔のいい男に迫られたらクラッとなるもんだ。」
リヒターもゼリウスも既にこの作戦に乗り気な様子だ。
な、何で…?どうして、二人共、こんなにあっさりと受け入れるの…?
反対しているのはあたしだけ…?
「そういう訳でお嬢様。ここは私にお任せください。ご心配なく。こう見えて、私は女性の扱いを心得ておりますから。」
「リヒター…。だけど、あなたそれでいいの?こんな…、好きでもない人を相手に…、」
リエルはリヒターに無理はしないでと言った。
「好きな人以外に触りたくないと思うのは普通の事だもの。辛かったり、嫌なのは当然だわ。そこまであなたが身体を張る必要はないわ。また別の手を考えて…、」
「いいえ。無理ではありませんよ。心配をして下さり、ありがとうございます。お嬢様。」
リヒターはリエルの言葉を遮ると、首を振り、微笑んだ。
「リヒター…。でも…、」
「お嬢様。目的をお忘れですか?ゾフィー嬢を一刻も早く見つけ出す為にあなたはここにいるのでは?」
リエルはゾフィーの名にピクッと反応した。
「でしたら、執事の私でも使える物は何でも有効に使うべきです。違いますか?」
リエルは迷ったように視線を彷徨わせ、リヒターを見つめた。リヒターは微塵も不安を感じさせず、こちらを安心させるように笑みを湛えている。
それを見て、リエルは決心した。
「…分かった。リヒター。あなたには苦労をかけるけど…、その作戦でいきましょう。」
結局、リヒターの考えた色仕掛け作戦を実行することになった。くれぐれもリヒターには無理をしないように言いつけ、リエルは自分の役目を果たすことにした。
「リヒター…。あの、本当に大丈夫…?」
次の日の夜…。遂に実行の日がやってきた。
リエルはソニアの部屋に向かおうとするリヒターに心配そうに話しかけた。リヒターは振り返り、微笑んだ。
「お嬢様は心配性ですね。何度も言いますが大丈夫ですよ。必ずやゾフィー嬢の居場所を聞き出して見せます。」
「…ごめんなさい。あなたには辛い役目を背負わせてしまって…、」
ゾフィーを一刻も早く助けたい。その気持ちに変わりはない。でも、だからといって、リヒターにここまでさせてしまっていいのだろうか。リエルは未だに迷っていた。
「そんなに思い悩むことではありませんよ。大丈夫です。最後までは致しませんから。」
「え?そ、それってどういう意味…?」
キョトンとするリエルにリヒターは苦笑した。
「お嬢様にはまだ少し早い話でしたね。」
「な…!?私はもう立派な大人だわ!子ども扱いしないで!」
リエルはリヒターの手のかかる子供を見る様な視線にムッとした。
「先程の言葉の意味も分からない様では、お嬢様もまだまだですね。」
「だ、だから…、そうやって子ども扱いはしないでって…!」
フッとどこか小馬鹿にしたように見下ろすリヒターにリエルは思わず声を上げた。
「お嬢様には刺激が強すぎますので詳しくはご説明できませんが…、そんなに深刻に捉えることはありませんよ。色仕掛けといっても軽いスキンシップ程度に触れ合うだけですから。」
「え、そ、そうなの…?」
リエルは目を瞬いた。
「ええ。それに、自白剤も手に入れましたから飲み物にでも淹れてしまえば、簡単に聞き出せます。
後はソニア嬢を油断させるように甘い言葉を囁けばきっと、すぐにでもゾフィー嬢の居場所を吐き出すことでしょう。」
な、何だ…。そうなのか。それなら、良かった…。
リエルはホッとした。
色仕掛けってもっと際どい所までやるのかと思っていた。その、キスをするとか…、裸になってベッドで寝るとか…。うわわ!私ったら何て破廉恥な事を想像しているの!はしたない!
リエルはブンブンと首を横に振った。そんなリエルを見透かすようにリヒターはクスッと笑い、
「ですから、ご安心を。万が一、失敗したとしても、何も問題はありません。どの道、彼らは逃れられませんから。」
そうだ。リヒターの言う通り、ゾフィーの両親とソニアは逃げられない。
ゾフィーの手がかりは見つけられなかったが得るものもあった。ソニアの部屋から見つけた阿片。
あれだけで彼らの身柄を拘束する立派な証拠になる。阿片は所持をしているだけでも犯罪になるのだから。
それと同時にゾフィーの祖母と叔父の不審な死…。時間はかかった調査をした結果、黒だと判明したのだ。
罪状は揃った。これで、ゾフィーの両親とソニアの身柄を拘束できる。
もし、この作戦が失敗しても、彼らが逮捕されるのは最早、決定事項だ。
既に騎士団には連絡を入れているし、今夜にでも騎士団がこの屋敷に乗り込む手筈になっている。
ゾフィー嬢の失踪についての手がかりはなくとも、身柄を拘束して本格的に調査に乗り出せばその証拠も出てくる筈だ。できればソニアの口からゾフィーの居場所を聞き出すのが一番望ましい。
早ければ早い程、ゾフィーを見つけ出すことができるのだから。
「さて…、ティエンディール侯爵もそろそろ持ち場にいる頃でしょう。私もそろそろ行かねばなりません。お嬢様もどうかお気をつけて。」
「ええ。リヒターも気を付けて。」
リエルはそう言って、急いでリヒターに背を向け、ダークの部屋に向かった。
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