190 / 226
第百八十八話 必ずこの償いはさせるから
しおりを挟む
この家はあまりにも異常だ。
ロンディ夫妻はソニアやダークに対しては溺愛し、あれ程可愛がっているのにどうして、ゾフィーだけをあそこまで虐げてきたのだろうか。
ソニア嬢やダークを甘やかすのなら、ゾフィーだって同じ娘なんだから、同じように甘やかすものではないだろうか?
でも、あの家族の中で何故かゾフィーだけ扱いが極端に違う。
メイド達から話を聞いた時も不審に思ったけど、あの家族の中でゾフィーだけが異様に嫌われてる。
単純にゾフィーが長女だから?ゾフィーが優秀だったから?
初めはゾフィーの妹、ソニアがゾフィーを陥れる為にゾフィーを悪者に仕立て上げて家族から嫌われるように仕向けたのだと思っていた。でも…、それだけではないのだとリヒターは言っていた。
「ソニア嬢は姉であるゾフィー嬢に対して、強い劣等感を抱いている様です。だからこそ、今までゾフィー嬢の物を奪い取ってきたのでしょう。ですが、これだけが理由ではないようです。
ゾフィー嬢があそこまで家族から疎まれていたのはもっと別の理由があるようです。」
リヒターの話によると、ゾフィーが祖母似であることが大きな理由であると言っていた。
そういえば、ゾフィーは両親どちらにも似ていないし、ダークはゾフィーは祖母似だと言っていた。
でも、それがどうしてゾフィーが家族から嫌われる理由になるのだろうか?
そう思っていると、リヒターは神妙な表情を浮かべて語った。
ゾフィーの祖母とゾフィーの母、ミアは不仲であった。
嫁姑の関係だからとかそんな理由ではない。
姑が嫁を嫌ったそもそもの原因は元を辿ればゾフィーの父親が婚約者である伯爵令嬢に対して、婚約破棄をしたのが原因だ。しかも、親に何の相談もなく、独断で勝手に婚約破棄したらしい。
当人同士の話し合いならともかく、よりにもよって公衆の面前で婚約破棄を突き付けたせいでその醜聞は瞬く間に社交界に広まり、子爵家の名誉は地に落ちてしまった。そんな醜聞を起こした息子と息子を誑かした嫁を嫌うなという方が難しいだろう。
よく、それで結婚を許したなと思うがその婚約破棄騒動のせいでそれ以来、嫁の貰い手が見つからなかったため、子爵家は渋々、ミアとの婚約を認めた。
が、諸悪の根源であるミアを姑がいい感情を抱くわけもない。特に姑は元婚約者の伯爵令嬢をとても可愛がっていたのでミアを子爵家の嫁として認めず、歓迎することはなかった。
それでも、ゾフィーの祖母は公平な人だったので私情は挟まずにミアを子爵家の嫁として、立派に育て上げようと尽力した。
が、元々、サボり癖のあるミアは姑の教育にすぐに音を上げてしまい、終いには姑が意地悪をする!と騒ぎ立てる始末。そのせいで嫁姑の関係は益々、険悪になってしまう。
ゾフィーの祖母は厳格で優秀な女性だったと聞くし、対してミアは自由奔放で我儘な性格だったから反りが合わないのも当然だろう。
結局、ゾフィーの祖母はゾフィーが生まれる前に亡くなったがミアは姑を嫌っていたため、姑と同じ髪を持って生まれたゾフィーを疎み、自分とよく似たソニアや跡取りのダークばかりを可愛がった。
ゾフィーの父親であるロンディ子爵も厳格な母親が苦手だったのかゾフィーに辛く当たった。
勤勉で努力家で優秀なゾフィーの性格が祖母を彷彿とさせるのも一つの要因だったかもしれない。
ゾフィーは頑張れば両親に褒められると思って精一杯やっただけなのに、酷い話である。
つまりは、ゾフィーがここまで家族から虐げられていたのはただ単に祖母に似ているからという身勝手な理由によるもの…。
ゾフィーの親は碌でもない非常識な人だと思っていたがここまで腐り切った大人だとは思わなかった。
そんな下らない理由でゾフィーを虐待していたのかと思うと怒りがこみ上げる。
同時に自分もゾフィーと似たような理由でずっと母に嫌われていたという事実を思い出した。
リエルも叔母に似ているという理由でずっと母から疎まれていた。
自分の何がいけないのかとずっと葛藤していたのにただ顔が叔母に似ているというだけであそこまで虐げられていたのだと聞き、愕然とした。
ゾフィーも…、私と同じような理由でずっと苦しめられてきたんだ…。
リエルはギュッと胸が苦しくなった。
そういえば、リヒターはもう一つ気になる事を言っていた。
ゾフィーの祖母の死は不審な点が多く残されていたらしいと。
前当主は病気で亡くなったがその直後に後追い自殺をしたとされている祖母だが自殺に見せかけた他殺の可能性があるとリヒターは言ったのだ。また、ロンディ子爵の弟の死にもリヒターは疑念を抱いた。
子爵の弟。つまりは、ゾフィーの叔父は兄よりも優秀だったが控えめで常に兄を立てるそんな好青年であったと聞く。だが、その弟は両親が死んだ後、隣国との小競り合いで起きた戦場に赴き、そこで戦死してしまった。
両親と弟が立て続けに亡くなる。確かに怪しい。ただの偶然とは思えない。何か陰謀の匂いがする。
「ゾフィー嬢の件だけでなく、そちらの方ももう少し探ってみます。上手くいけば、ロンディ子爵を捕縛する為のいい材料になるかもしれません。」
リヒターに任せておけば安心だろう。
今回の話を聞いて、リエルは直感した。
ゾフィーが行方不明になったのはロンディ家の仕業だ。
証拠もないが、確信めいた思いがあった。
「ゾフィー…。待ってて。必ずこの償いはさせるから…。」
あの母と同じような人間なら、ゾフィーに何かしらの危害を加えてもおかしくない。
大切な親友であるゾフィーに手を出したのだ。全てを暴いたら、あのロンディ家には然るべき報いを与えてみせる。リエルはそう決意した。
「だ、ダーク様?」
「…何だよ。」
「い、いえ!申し訳ありません!一瞬、目の錯覚かと…!」
沈んだ表情で入室した家庭教師はこの家の跡取り息子であるダークの姿を見て、ぽかんとしていた。
訝し気に名前を呼ぶと、家庭教師はブンブンと首を横に振り、ゴシゴシと何度も目を擦ってダークを見つめた。
「ほ、本物…!あ、あのダーク様が…、ダーク様が時間通りにきちんと机に座って待っていて下さるなんて…!」
感激です!と叫ぶ教師にダークは少し気まずそうに目を逸らした。
そう。勉強が大の苦手のダークはいつも勉強の時間をサボっていたのだ。
普通は家庭教師が来る頃には自分の部屋で勉強をする為に家庭教師を待っていないといけないのにダークはいつも家庭教師が来る前に部屋を抜け出して遊び呆けていた。
家庭教師は何とかダークに勉強をさせようとするがクビにするぞと脅して黙らせていた。
両親もダークの行動を叱ることなく、家庭教師の教え方が悪いと教師を叱っていた。
が、ゾフィーはそんなダークを叱りつけ、嫌がるダークを引きずってまで勉強机に座らせて、強制的に授業を受けさせた。姉が行方不明になってから、それもなくなっていたが。
ゾフィーがいなくなった今、ダークが授業を受けることはないだろうと暗い気持ちでいた家庭教師からすれば仰天するのも無理はない。今までのダークの行動が全てを物語っている。
「い、いいから、さっさと始めろ!」
「は、はい!」
教えてもらう癖に相変わらず上から目線な態度だがこれでも、ダークの態度はかなり改善したといっていい。家庭教師は慌てて、参考書を開いた。勉強が嫌いなサボり癖のあるダークが何故、急に真面目に授業を受ける気になったのか。それは…、知りたいことがあったからだ。
「で、では…、まずは歴史の授業から始めましょうか。」
「…それなら、ヴェルーティア王国の歴史について知りたい。」
「え!?」
あのダークが自主的に学ぼうとしている。家庭教師はびっくり過ぎて本を取り落としそうになった。
「リーゼ。本当にいいの?」
「うん。任せて!ちゃんと隅から隅まで掃除しておくから!」
「ありがとうー!助かるー!」
メイドに感謝をされつつ、リーゼは気にしないでと笑顔で答える。
むしろ、こっちがお礼を言いたい位だ。リエルはよし!と掃除用具を持って、息込んだ。
やっと、ソニアの部屋の掃除をするという名目で部屋に入ることができる。
リヒターに頼んで裏工作をしてもらったお蔭で本来、ソニアの部屋を掃除するメイドの仕事をいつもより倍に増やして貰った。そうして、忙しくて、手が空かない様子のメイドにリエルが手伝いを申し出たのだ。こうして、問題なく、リエルはソニアの部屋の掃除をするという仕事を勝ち取った。
メイドには大層、感謝をされてしまい、罪悪感で一杯になった。
ごめんね。元はといえば、私のせいなの。終わったら、ちゃんと他の仕事も手伝うから!
そう心の中で謝りながら、リエルはソニアの部屋に向かった。
部屋には誰もいない。早速掃除をしながらも部屋の中に手がかりはないか探した。
「あれ…?この、髪飾り…。」
リエルはソニアの部屋から出てきた髪飾りに目を留めた。葉と花の形をした銀の髪飾り…。
それはリエルがゾフィーへあげた物だった。リエルはゾフィーの妹に怒りが沸き上がった。
ゾフィーにあげた物がどうして、ここにあるのかなど明白だ。きっと、ゾフィーが行方不明になったことでゾフィーの物を取り上げて、自分の物にしたんだ。
これは私がゾフィーにあげた物だ。それを…、勝手にこんな…!
リエルは思わず怒りで震える拳を握り締めた。よく考えたら、あの妹はゾフィーから婚約者を横取りした事がある位だ。ゾフィーの私物を取る位、簡単にやってのけるだろう。
もしかしたら、他にもゾフィーの物が取られているのじゃないだろうか?
リエルはごそごそとソニアの部屋中を漁った。そして、ソニアの宝石箱から見覚えのある物を見つけた。
「…この、指輪…。ゾフィーの…!?」
それはエメラルドの指輪だった。求婚の証にゼリウスから贈られたその指輪をゾフィーはいつも指に嵌めていた。見間違いない。確かにあの指輪だ。指輪の裏にはちゃんとゾフィーとゼリウスの名前の頭文字が彫られている。
ソニアへの怒りが先程よりも更に強い怒りへと変わる。
彼女には聞きたいことが山ほどある。でも、今はその時期じゃない。リエルは怒りを押し隠し、深く深呼吸をした。
「ここの引き出し…、鍵がかかっている。」
リエルは引き出しを開けようとするが鍵がかかっているのであらかじめ持っていたピッキングの道具で鍵をこじ開けた。引き出しを開けると、中から出てきたのは…、黒っぽい焦げ茶色をした固形物と煙管だった。
「これって…、阿片!?」
リエルは思わずギョッとした。まさか、ソニア嬢は…、阿片に手を染めているというの!?
リエルはその事実に愕然とした。
ロンディ夫妻はソニアやダークに対しては溺愛し、あれ程可愛がっているのにどうして、ゾフィーだけをあそこまで虐げてきたのだろうか。
ソニア嬢やダークを甘やかすのなら、ゾフィーだって同じ娘なんだから、同じように甘やかすものではないだろうか?
でも、あの家族の中で何故かゾフィーだけ扱いが極端に違う。
メイド達から話を聞いた時も不審に思ったけど、あの家族の中でゾフィーだけが異様に嫌われてる。
単純にゾフィーが長女だから?ゾフィーが優秀だったから?
初めはゾフィーの妹、ソニアがゾフィーを陥れる為にゾフィーを悪者に仕立て上げて家族から嫌われるように仕向けたのだと思っていた。でも…、それだけではないのだとリヒターは言っていた。
「ソニア嬢は姉であるゾフィー嬢に対して、強い劣等感を抱いている様です。だからこそ、今までゾフィー嬢の物を奪い取ってきたのでしょう。ですが、これだけが理由ではないようです。
ゾフィー嬢があそこまで家族から疎まれていたのはもっと別の理由があるようです。」
リヒターの話によると、ゾフィーが祖母似であることが大きな理由であると言っていた。
そういえば、ゾフィーは両親どちらにも似ていないし、ダークはゾフィーは祖母似だと言っていた。
でも、それがどうしてゾフィーが家族から嫌われる理由になるのだろうか?
そう思っていると、リヒターは神妙な表情を浮かべて語った。
ゾフィーの祖母とゾフィーの母、ミアは不仲であった。
嫁姑の関係だからとかそんな理由ではない。
姑が嫁を嫌ったそもそもの原因は元を辿ればゾフィーの父親が婚約者である伯爵令嬢に対して、婚約破棄をしたのが原因だ。しかも、親に何の相談もなく、独断で勝手に婚約破棄したらしい。
当人同士の話し合いならともかく、よりにもよって公衆の面前で婚約破棄を突き付けたせいでその醜聞は瞬く間に社交界に広まり、子爵家の名誉は地に落ちてしまった。そんな醜聞を起こした息子と息子を誑かした嫁を嫌うなという方が難しいだろう。
よく、それで結婚を許したなと思うがその婚約破棄騒動のせいでそれ以来、嫁の貰い手が見つからなかったため、子爵家は渋々、ミアとの婚約を認めた。
が、諸悪の根源であるミアを姑がいい感情を抱くわけもない。特に姑は元婚約者の伯爵令嬢をとても可愛がっていたのでミアを子爵家の嫁として認めず、歓迎することはなかった。
それでも、ゾフィーの祖母は公平な人だったので私情は挟まずにミアを子爵家の嫁として、立派に育て上げようと尽力した。
が、元々、サボり癖のあるミアは姑の教育にすぐに音を上げてしまい、終いには姑が意地悪をする!と騒ぎ立てる始末。そのせいで嫁姑の関係は益々、険悪になってしまう。
ゾフィーの祖母は厳格で優秀な女性だったと聞くし、対してミアは自由奔放で我儘な性格だったから反りが合わないのも当然だろう。
結局、ゾフィーの祖母はゾフィーが生まれる前に亡くなったがミアは姑を嫌っていたため、姑と同じ髪を持って生まれたゾフィーを疎み、自分とよく似たソニアや跡取りのダークばかりを可愛がった。
ゾフィーの父親であるロンディ子爵も厳格な母親が苦手だったのかゾフィーに辛く当たった。
勤勉で努力家で優秀なゾフィーの性格が祖母を彷彿とさせるのも一つの要因だったかもしれない。
ゾフィーは頑張れば両親に褒められると思って精一杯やっただけなのに、酷い話である。
つまりは、ゾフィーがここまで家族から虐げられていたのはただ単に祖母に似ているからという身勝手な理由によるもの…。
ゾフィーの親は碌でもない非常識な人だと思っていたがここまで腐り切った大人だとは思わなかった。
そんな下らない理由でゾフィーを虐待していたのかと思うと怒りがこみ上げる。
同時に自分もゾフィーと似たような理由でずっと母に嫌われていたという事実を思い出した。
リエルも叔母に似ているという理由でずっと母から疎まれていた。
自分の何がいけないのかとずっと葛藤していたのにただ顔が叔母に似ているというだけであそこまで虐げられていたのだと聞き、愕然とした。
ゾフィーも…、私と同じような理由でずっと苦しめられてきたんだ…。
リエルはギュッと胸が苦しくなった。
そういえば、リヒターはもう一つ気になる事を言っていた。
ゾフィーの祖母の死は不審な点が多く残されていたらしいと。
前当主は病気で亡くなったがその直後に後追い自殺をしたとされている祖母だが自殺に見せかけた他殺の可能性があるとリヒターは言ったのだ。また、ロンディ子爵の弟の死にもリヒターは疑念を抱いた。
子爵の弟。つまりは、ゾフィーの叔父は兄よりも優秀だったが控えめで常に兄を立てるそんな好青年であったと聞く。だが、その弟は両親が死んだ後、隣国との小競り合いで起きた戦場に赴き、そこで戦死してしまった。
両親と弟が立て続けに亡くなる。確かに怪しい。ただの偶然とは思えない。何か陰謀の匂いがする。
「ゾフィー嬢の件だけでなく、そちらの方ももう少し探ってみます。上手くいけば、ロンディ子爵を捕縛する為のいい材料になるかもしれません。」
リヒターに任せておけば安心だろう。
今回の話を聞いて、リエルは直感した。
ゾフィーが行方不明になったのはロンディ家の仕業だ。
証拠もないが、確信めいた思いがあった。
「ゾフィー…。待ってて。必ずこの償いはさせるから…。」
あの母と同じような人間なら、ゾフィーに何かしらの危害を加えてもおかしくない。
大切な親友であるゾフィーに手を出したのだ。全てを暴いたら、あのロンディ家には然るべき報いを与えてみせる。リエルはそう決意した。
「だ、ダーク様?」
「…何だよ。」
「い、いえ!申し訳ありません!一瞬、目の錯覚かと…!」
沈んだ表情で入室した家庭教師はこの家の跡取り息子であるダークの姿を見て、ぽかんとしていた。
訝し気に名前を呼ぶと、家庭教師はブンブンと首を横に振り、ゴシゴシと何度も目を擦ってダークを見つめた。
「ほ、本物…!あ、あのダーク様が…、ダーク様が時間通りにきちんと机に座って待っていて下さるなんて…!」
感激です!と叫ぶ教師にダークは少し気まずそうに目を逸らした。
そう。勉強が大の苦手のダークはいつも勉強の時間をサボっていたのだ。
普通は家庭教師が来る頃には自分の部屋で勉強をする為に家庭教師を待っていないといけないのにダークはいつも家庭教師が来る前に部屋を抜け出して遊び呆けていた。
家庭教師は何とかダークに勉強をさせようとするがクビにするぞと脅して黙らせていた。
両親もダークの行動を叱ることなく、家庭教師の教え方が悪いと教師を叱っていた。
が、ゾフィーはそんなダークを叱りつけ、嫌がるダークを引きずってまで勉強机に座らせて、強制的に授業を受けさせた。姉が行方不明になってから、それもなくなっていたが。
ゾフィーがいなくなった今、ダークが授業を受けることはないだろうと暗い気持ちでいた家庭教師からすれば仰天するのも無理はない。今までのダークの行動が全てを物語っている。
「い、いいから、さっさと始めろ!」
「は、はい!」
教えてもらう癖に相変わらず上から目線な態度だがこれでも、ダークの態度はかなり改善したといっていい。家庭教師は慌てて、参考書を開いた。勉強が嫌いなサボり癖のあるダークが何故、急に真面目に授業を受ける気になったのか。それは…、知りたいことがあったからだ。
「で、では…、まずは歴史の授業から始めましょうか。」
「…それなら、ヴェルーティア王国の歴史について知りたい。」
「え!?」
あのダークが自主的に学ぼうとしている。家庭教師はびっくり過ぎて本を取り落としそうになった。
「リーゼ。本当にいいの?」
「うん。任せて!ちゃんと隅から隅まで掃除しておくから!」
「ありがとうー!助かるー!」
メイドに感謝をされつつ、リーゼは気にしないでと笑顔で答える。
むしろ、こっちがお礼を言いたい位だ。リエルはよし!と掃除用具を持って、息込んだ。
やっと、ソニアの部屋の掃除をするという名目で部屋に入ることができる。
リヒターに頼んで裏工作をしてもらったお蔭で本来、ソニアの部屋を掃除するメイドの仕事をいつもより倍に増やして貰った。そうして、忙しくて、手が空かない様子のメイドにリエルが手伝いを申し出たのだ。こうして、問題なく、リエルはソニアの部屋の掃除をするという仕事を勝ち取った。
メイドには大層、感謝をされてしまい、罪悪感で一杯になった。
ごめんね。元はといえば、私のせいなの。終わったら、ちゃんと他の仕事も手伝うから!
そう心の中で謝りながら、リエルはソニアの部屋に向かった。
部屋には誰もいない。早速掃除をしながらも部屋の中に手がかりはないか探した。
「あれ…?この、髪飾り…。」
リエルはソニアの部屋から出てきた髪飾りに目を留めた。葉と花の形をした銀の髪飾り…。
それはリエルがゾフィーへあげた物だった。リエルはゾフィーの妹に怒りが沸き上がった。
ゾフィーにあげた物がどうして、ここにあるのかなど明白だ。きっと、ゾフィーが行方不明になったことでゾフィーの物を取り上げて、自分の物にしたんだ。
これは私がゾフィーにあげた物だ。それを…、勝手にこんな…!
リエルは思わず怒りで震える拳を握り締めた。よく考えたら、あの妹はゾフィーから婚約者を横取りした事がある位だ。ゾフィーの私物を取る位、簡単にやってのけるだろう。
もしかしたら、他にもゾフィーの物が取られているのじゃないだろうか?
リエルはごそごそとソニアの部屋中を漁った。そして、ソニアの宝石箱から見覚えのある物を見つけた。
「…この、指輪…。ゾフィーの…!?」
それはエメラルドの指輪だった。求婚の証にゼリウスから贈られたその指輪をゾフィーはいつも指に嵌めていた。見間違いない。確かにあの指輪だ。指輪の裏にはちゃんとゾフィーとゼリウスの名前の頭文字が彫られている。
ソニアへの怒りが先程よりも更に強い怒りへと変わる。
彼女には聞きたいことが山ほどある。でも、今はその時期じゃない。リエルは怒りを押し隠し、深く深呼吸をした。
「ここの引き出し…、鍵がかかっている。」
リエルは引き出しを開けようとするが鍵がかかっているのであらかじめ持っていたピッキングの道具で鍵をこじ開けた。引き出しを開けると、中から出てきたのは…、黒っぽい焦げ茶色をした固形物と煙管だった。
「これって…、阿片!?」
リエルは思わずギョッとした。まさか、ソニア嬢は…、阿片に手を染めているというの!?
リエルはその事実に愕然とした。
0
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です
堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」
申し訳なさそうに眉を下げながら。
でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、
「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」
別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。
獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。
『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』
『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』
――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。
だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。
夫であるジョイを愛しているから。
必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。
アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。
顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。
夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる