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第百七十話 反応があった

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「宝石は手に入れたし、鳥と魚に蛇も無事に捕獲できた。後は…、」

途中、思わぬアクシデントに見舞われ、変態野郎に追い掛け回されたが何とか追っ手を捲き、アルバートは熱帯雨林の奥地を歩いていた。

「密林の王者ってあるけど…、これって虎の事だよな?ったく、もっと分かりやすく書けよ。」

アルバートはじりじりと照り付ける熱さに思わず空を見上げた。暑い。さっさと虎を引っ捕まえて涼しい場所に行きたいものだ。
っていうか…、アルバートはさっきからずっと纏わりつくあるものに意識を向けた。
不意にザザッと音を立てて、黒い影が襲い掛かる。

「さっきから、うぜえんだよ!」

アルバートに向かって黒い影から伸びる鋭い爪が振り下ろさまれる。その爪に引き裂かれるより早くにアルバートは謎の襲撃者を強打し、殴り飛ばした。
大木に打ちつけられた衝撃で気絶した敵は…、鋭い爪と牙を持つ大猿だった。

「何だ。猿か。」

虎だったらよかったのにな。そう簡単にはいかないか。アルバートは残念そうに溜息を吐いた。
さっきから感じる視線はこいつだったのか。ずっとこちらを窺うような視線が木の上から感じていたがまさか、こいつ俺を餌だと認識していたのか?っていうか、猿って人間食うのかよ。
アルバートはそう思いながら、猿をしげしげと見下ろした。

「ん?この猿って…、」

見たことあるな。…図鑑で。
そうだ。確か昔、リエルの所に遊びに行っていた時にいつものようにつまらない遊戯に付き合わされていたセリーナの隙をついてリエルがいた図書室に行ったら、あいつは密林に棲息する動物の図鑑を読んでいたな。
あの時のリエルは異国の動物に興味を持ち始めていて、動物に詳しかった。
その時にこの猿とそっくりの絵柄が載ったページを見せてくれて、楽しそうに話していたっけ。
正直、目をキラキラ輝かせて、興奮気味に話すリエルが可愛すぎて話の内容を全然覚えていなかった。
が、よく思い返してみれば、この種類の猿は凶暴で空腹な時は人間も襲う怖い生き物なのだと力説していた気がする。猿の中には肉食系の猿もいるのだとその時に初めて知った。
そう過去のリエルとの思い出に浸りながら、歩き続けていると、

「ん…?」

アルバートは不意に地面に残された足跡に目を留めた。

「これは…、」

アルバートは目を細めた。虎の足跡だ。
しかも、まだ新しい。ってことは…、近くに虎がいるって事だな!俄然、やる気を出したアルバートは周囲を捜すことにした。しかし、辺りは木が生い茂っていて周囲の様子がよく見えない。山中だから、視界が悪くてどこに虎が潜んでいるか分からない。
空間認識、と呟き、能力を発動させた。
これは、周囲に潜む気配と存在を明確に認識させる力だ。これなら、虎がいればすぐに見つけることができるし、急に飛び掛かられても対処できる。

…反応があった。アルバートは大きな獣が数百メートル先にいると認識できた。
アルバートは足音を立てないように慎重に近づいた。

…いた。アルバートは虎を見つけた。あの個体なら成人した虎で間違いない。
あれなら、ルイも文句はないだろう。虎は獲物を仕留めたばかりなのかそれを咥えてどこかに向かっている。
アルバートは虎に近付いた。
仕留めるのは簡単だが虎は生け捕りにしないといけない。
そうなると、暴れられたら面倒だ。誤って殺してしまったら意味がない。

アルバートは意識遮断の能力を使おうと手を動かした。
虎に手を翳そうとした瞬間、虎が野生の勘で気づいたのかこちらに視線を向けた。途端に虎は獲物から口を離すと、アルバートに凄まじいスピードで襲い掛かった。

「チッ…!」

通常の人間なら速すぎて逃げられなかっただろうが、アルバートは虎がこちらに飛び掛かる前にすぐさま能力を発動させた。
その直後、虎はアルバートの目の前でドサッと倒れ込んだ。死んではいない。意識を失っているだけだ。

「よし!」

虎を生け捕りにすることができて、アルバートは拳を握り締めた。
これでやっと半分の条件はクリアできた。
後はこの虎を拘束して、森の入り口に置いてある荷馬車に積んでいけば…、そう考えながらアルバートは虎の手足と口を縄で縛った。目が覚めた時に暴れられたら面倒だからだ。虎の身体を大きな丸太に括りつけ、肩に担いだ。
大の男数人がかりで運ぶ重さの虎をヒョイ、と軽々と背負ったアルバートは地面に落ちた物に目を留める。
さっき、この虎が仕留めた獲物だ。餌に丁度いい。アルバートはそれも持ち帰ることにした。
そういえば、何で仕留めた獲物をその場で食べずにわざわざ運んでいたんだ?
そう思っていると、ふとアルバートは虎の反応を感じた。ここから、少し近い。
でも、さっきのと違って反応が弱いな。
そう思いながらもアルバートは反応があった方角に足を進めた。

「ここは…、遺跡跡か?」

アルバートは目の前にそびえ立つ建物を見上げた。建物といっても、苔と草が生えていて、朽ち果てている。人は住んでいないだろう。少し壁を触っただけで石がパラパラと音を立てて、崩れ落ちた。
相当、年数が経っているな。きっと、大昔に建てられた物だろう。
さすがに邪魔なのでアルバートは仕留めた虎を入り口に置き、中に入った。
虎の周囲に防御壁を発動させておく。密林の王者と呼ばれる虎を襲う動物なんて、ほとんどいないと思うが念のためだ。アルバートは気配のする方向に向かった。

「ここか?」

奥に行けば、空洞みたいな大きな穴がある。そこを覗き込めば…、三匹の虎の子供がいた。
虎の子供の一匹がアルバートを引っ掻こうと唸り声を上げて、爪で攻撃した。

「うおっ!?危ねえな…。」

アルバートはその攻撃を避け、首根っこを掴むとヒョイ、と目の前に掲げた。
もう一匹がアルバートの足に噛みつこうとしたので噛まれる前にもう一匹も捕まえる。
残りの一匹は気が小さいのか震えたまま動かない。

「こら。落ち着け。」

アルバートは虎を宥めるが虎の子供達はアルバートに唸り声を上げている。かなり、警戒されている。
あの虎、子供がいたのか。
とすると、あの餌はこいつらにあげるものだったんだな。
納得したアルバートはそのまま嫌がる虎の子供達を連れて、遺跡跡の入り口に戻った。
虎の子供達は母虎を見つけるとすぐさま駆け寄り、鳴き声を上げている。

「心配するな。お前らの母親は寝てるだけだ。そんな事より…、ほら、食え。」

虎の子供達に母虎が仕留めた餌を与える。
アルバートの言葉を分かっているのかいないのかじっと数秒見つめる。
やがて、一匹が餌に齧り付いた。すると、残りの子虎達もガツガツとそれに齧り付き、食事を始めた。
よっぽどお腹が空いていたのだろう。物凄い食欲旺盛である。
まさか、子供がいるとは思わなかった。まだ成人してもいない虎の子供をここに置き去りにするわけにもいかないし、母親から引き離すのは酷だろう。
子供ならいずれ成人するだろうし、子供の頃から手懐ける意味でも一緒に連れ帰って、ルイに飼ってもらえばいいか。あいつ、動物保護みたいな団体の会長をしてるみたいだし。
食事も終わったみたいだし、そろそろずらかるか。そう思い、アルバートは立ち上がった。

「ほら、行くぞ。」

アルバートは母虎を担いで、虎の子供達に手を伸ばした。すると、ガサッと音が聞こえた。顔を上げればそこには…、

「貴様、そこで何をしている!」

武装した男達が現れた。
誰だ、こいつら?アルバートは胡乱な目を向ける。

「貴様、密猟者だな!この森での密漁は禁じられているのだぞ!」

「…え、そうなのか?」

知らなかった。愕然とするアルバートに男達が銃を向ける。

「現場を見られたのだから言い逃れはできないぞ!」

「あー。知らなかったとはいえ、悪かった。
じゃあ、こいつら逃がすからそれで見逃してくれ。」

「ふざけるな!密漁した罪は重い!貴様を拘束する!」

アルバートは男達に取り囲まれた。そのまま武器を取り上げられ、両腕を掴まれる。

「ちょ、待て!」

「大人しくしろ!」

アルバートは無難に大人しく拘束されることにした。多分、こいつら軍の人間だ。軍人に逆らうのはまずい。

「…フン!観念したか。」

アルバートは黙ったまま地面に膝をついた。
目の前の一番偉そうな軍人の男はアルバートを見下し、嘲笑っている。にしても、こいつ本当に軍人か?それにしては、体格がよすぎ…、いや。正直に言おう。軍人とは思えない位に太っている。
チラ、と周囲に視線を巡らす。隙だらけだ。幾ら、密猟者を拘束したからといって気を抜きすぎだ。
しかも、戒めているのは縄だけ。これなら、すぐに抜け出せそうだ。この虎たちは残念だが逃げ出したらまた夜の森で虎を捕獲するか。今度はバレないようにやろう。
密漁だと知ってもなお、虎を捕獲することは諦めないアルバートだった。

「おお!今回の虎は随分と大きいな!」

ん?アルバートは違和感を抱いた。さっきの太った軍人はアルバートが捕まえた虎を前にして目を輝かせた。

「これなら、いい値がつきそうだ!金持ちの連中に毛皮として売りつけてもいいし、剥製にしても…、」

「ちょっと待て!」

アルバートは思わず叫んだ。毛皮?剥製?まさか、こいつら…。

「お前、さっき密漁は禁止だって言っただろ!それって、つまりは虎を殺すのは駄目だってことだろ!?それを何でお前らが率先して破ろうとするんだ!」

「ああ。そういえば、お前がいたんだったな。」

太った軍人は面倒臭そうに振り向き、

「我々、軍人が法を犯す訳がないだろう?密漁をしたのは貴様だ。貴様が虎を殺した。そうだろう?」

そう言って、部下に賛同を求めると、部下の軍人たちは口々に肯定する。
もしかして、こいつら…。

「…そういうこと、か。お前ら、今までこうやって密猟者を隠れ蓑にして裏で虎を売り捌いていたのか?」

「黙れ!罪人の分際で!罪人が仕留めた虎を俺がどうしようが自由だ!」

「…その虎、子供がいるんだぞ。」

アルバートは軍人を睨みつけて、三匹の子虎を顎で指した。そこには母虎に寄り添う小さい子供の虎がいた。

「それがどうした!毛皮にするのは無理でも剥製でも見世物にでもすればいいだけの話だ!」

こいつ、とんだ屑野郎だ。相手は軍人だからと揉め事を起こさないように下手に出た自分が馬鹿らしくなった。
アルバートはスッと目を細めた。その時、母虎が気が付いたのか起き出した。
が、先程アルバートが拘束したおかげか身動きができないでいる。しかし、虎が起きたのに気が付いた兵士の一人がヒッ!と怯えた声を上げた。

「と、虎が目を覚ました!た、隊長!ど、どうしましょう!」

「な、何だと!さ、さっさと撃ち殺さんか!馬鹿者!」

部下の悲鳴にさっきまで威張り散らしていた軍人は明らかに狼狽えて距離を取り、顔を引き攣らせた。

「は、はい!」

部下は手を震わせながら、銃を構えた。が、部下が引き金を引いた瞬間、銃が爆発した。

「ぎゃあああああ!?」

銃が爆発したせいで腕が吹き飛んだ部下に周囲の人間は混乱し、どよめきが走る。
破壊能力を発動させたアルバートは周囲が騒然としている間に縄を切断し、虎の元に駆け寄った。

「ほら、逃げるぞ。」

彼らが混乱している隙に先程、取り上げられた武器をいつの間にか取り戻したアルバートはヒョイ、と母虎を担ぎ上げ、子虎達も連れてその場を逃げ出した。

「な、ざ、罪人が逃げたぞ!追え!」

後ろから声が聞こえ、銃を構える気配がした。すると、数秒後にまたしても銃が爆発した音が聞こえた。

「だ、駄目です!銃は使えません!」

「ええい!何故こんな時に限って…、いいから追え!追うんだ!」

「し、しかし、これ以上、行くのは危険では…?」

「あんな見るからに弱そうな男ならすぐに捕まえられるだろう!虎も連れてるのだからそう遠くへはいけない筈だ!」

そんなやり取りが聞こえるがその声も段々遠ざかる。
弱そうで悪かったな。これでも、騎士として鍛えているんだよ。そう内心で吐き捨てながらアルバートは走り続けた。



「ふう…。何とか撒いたな。」

それにしても、俺は何でいつもこんな追い掛け回される羽目になるんだ…。
アルバートはぐったりとした思いでいると、子虎達がアルバートの膝に擦り寄ってきた。

「ん?」

こいつら、さっきまで俺に警戒していたのに、何でいきなりこんな甘えた態度なんか…。
もしかして、さっきので命の恩人だと勘違いしたとか?

「あれは別にお前らの為に助けたんじゃないぞ。俺の獲物を勝手に横取りしようとしたから阻止しただけなんだからな。」

そう言うが子虎達は分かっているのかいないのかゴロゴロと喉を鳴らした。…何だか猫みたいだな。
あ、虎って猫科だったっけ。



少し休憩した後に森を出たアルバートは用意していた檻に行くと、そこに虎達を入れた。

「ちょっと我慢してくれよな。ほら、これは餌だ。大事に食べろよ。」

途中で手に入れた餌や水も入れてやる。

「少しの辛抱だからな。」

そう言って、布を被せた。アルバートは檻を荷馬車で移動し、ある建物の前に辿り着いた。
受付の男に名前と用件を伝えると、すぐに担当の男がやってきた。
アルバートはその男に金と鍵、それから紙を渡す。

「それじゃあ、届け先はここの紙に書いてあるから、ここに届けてくれ。あ。それと届けたら、その屋敷の主にこの手紙も渡しておいてくれ。」

そう言って、アルバートはフォルネーゼ邸に虎達を届ける手筈を整えた。
この業者はギルドを通して雇った連中だし、信頼していいだろう。…万が一を考えて手も打ったし。
そうして、アルバートは次の目的地へと向かった。次は陶芸家捜しだ。
アルバートの旅はまだまだ続きそうだった。
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