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第百六十二話 何か変わったことでもありましたか?
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どうして、急にあんな事を聞いたりしたんだろう?
リエルは先程のセイアスの様子を思い出しながら、そんな疑問を抱いていた。
「おや?リエル嬢ではありませんか?」
振り返ると、にこやかに微笑みながら近づいてくる一人の騎士がいた。華やかな美貌と色気に溢れた美男子は‥、サミュエルだった。
「サミュエル様!お久しぶりです。」
リエルも微笑んで挨拶を返した。
「ああ。やはり、リエル嬢でしたか。
その艶やかで深みのある髪色を見て、もしやと思いましたが‥、」
サミュエルはそう言いながら、リエルの目の前までやってくると、手の甲にキスを落とした。
「リエル嬢の髪はまるでチョコレートのように甘くて芳しい‥。きっと触れたら、溶けてしまう程に‥、」
「あの‥、サミュエル様。そろそろ手を離して頂きたいのですが‥、」
サミュエルの歯の浮くような甘いセリフにリエルは引きつった笑みを浮かべながら、やんわりと早く手を離して欲しいと催促した。
「ああ。申し訳ない。あなたの肌は柔らかく、滑らかでつい、いつまでも触っていたいと思ってしまい‥、」
そう言いながら、名残惜しそうに手を離すサミュエルにリエルは苦笑する。
相変わらずだな。
リエルみたいな地味な女相手にもこうやって口説き文句がでてくるなんて、感心してしまう。
まあ、これも彼にとっては、挨拶なんだろうけど。
「そういえば、リエル嬢はどうしてこちらに?」
「あ、少し用事があって‥、でも、もう用事は済んだのでこれから帰る所です。」
「そうでしたか。では、馬車までお送りしますよ。美しいレディーの身に何かあっては大変ですから。」
「え、でも‥、サミュエル様はお仕事中なのでは?」
「大丈夫です。今は休憩中ですから。さ、行きましょうか。」
サミュエルはそう言って、リエルを帰りの馬車まで同行することにした。
リエルはいいのだろうか?と思いながらも、断る理由もないので頷いた。
「そういえば、先程も思ったのですが以前よりどことなく雰囲気が変わりましたね。
最近、何か変わったことでもありましたか?」
サミュエルの言葉にリエルは驚いて、目を瞠った。
「そ、そうでしょうか?」
「ええ。何だか雰囲気が柔らかくなった気がします。それに、以前よりもお美しくなられて…、一層魅力的だ。これはあくまでもわたしの経験に基づく予想なのですが…、恋の進展でもありましたか?」
「!?」
リエルはサミュエルの言葉に頬を染めた。す、鋭い。さすがは恋のエキスパートと名高い貴公子だ。
「ああ。そういえば、アルバートも最近は機嫌がいいことが多いのですよ。表向き用の顔以外ではいつも仏頂面で部下を怖がらせていた男が珍しいこともあるものだと思ったものです。」
「そ、そうなんですか…。あ、あの…、でも、どうして今その話題を?」
リエルはいきなりアルバートの話題を振られて、内心、ドキッとした。サミュエルは二人の関係を知らない筈だ。いや。もしかして、アルバートが話しているのかな?そう思っていると、
「どうしても何も…、リエル嬢はアルバートと恋人同士になったのでしょう?」
「え!?し、知っていたんですか?」
「ああ。やはり、そうでしたか。いえ。確信はなかったのですが、何となくそうなのかなと思っただけです。」
つまり、カマをかけられただけだったと。リエルはまんまとそれに乗せられてしまい、恥ずかしくなり、俯いた。
「あ、あの…、サミュエル様。この事はどうかご内密に…、」
「ええ。勿論です。アルバートは無駄に色とりどりの花に人気がありますからね。あなたのような純粋で可憐な花が踏みにじられるのはあまりにも忍びない。」
「ありがとうございます。」
やはり、優しい人だ。根っからのフェミニストであるサミュエルはリエルの身を案じてくれている。
確かにアルバートと交際しているのが他のご令嬢達に知られればリエルは彼女達の嫉妬を買い、集中攻撃を受ける事だろう。それを考慮してくれての発言だった。
「あの、でも、サミュエル様はよく分かりましたね。私、そんなに分かりやすかったでしょうか?」
個人的にはアルバートの好意は隠しているつもりだったのに周りから見たら、やはりバレバレだったのだろうか?自分の演技も大したことはないなと落ち込んだリエルだったが…、
「ああ。違いますよ。リエル嬢はよく見ていれば気付けるといったものですが…、アルバートを見ていれば一発で分かりますからね。」
サミュエルはそう言って、おかしそうに笑った。
「アルバートが?」
「ええ。この際だから白状しますが、私があなたに近付いたのは、あの女嫌いと有名なフォルネーゼ伯爵が溺愛する姉に興味を持ったのもありますが…、一番の理由はあのアルバートがあそこまで意識する女性は一体どんな方なのだろうと気になったからなのです。」
「それは…、どういう…、」
リエルの言葉にサミュエルは微笑んで言った。
「私がアルバートに出会った時は彼はまだ成人して間もない年齢でして…、初めて見た時、その美しさに驚愕したと同時にとても悔しい思いをしたものです。」
「悔しい思い、ですか?」
「ええ。何故、彼は男に生まれたのだろう。女性に生まれていれば、迷うことなく求婚をしただろうにと。」
「…。」
リエルは何と返答していいのか迷ってしまった。確かにアルバートは小さい頃は少女と見紛う程の美少年だった。実際、同い年の少年や幼女趣味の変態貴族に言い寄られていたこともある。
その度に俺は男だ!と怒鳴り、時には相手を引っ叩いてしまったこともあったものだ。
「そうは思ったものの、性別は変えられません。ですが、彼が女性だったらさぞや魅力的な花に育っていただろうと思える位には私はアルバートの美しさを評価したものです。」
それ、多分、アルバートは絶対嬉しくない。リエルは心の中でそう思った。
何せ、アルバートは昔から女顔がコンプレックスだった。そのせいか、小さい頃から男らしい振る舞いや口調で少しでも女に見られないようにとしていた。
「美しい花の蜜にはたくさんの蝶が群がるもの。これは、雄と雌どちらにも同じ現象が起こる。
ですから、アルバートはその容姿ゆえに多くの美女に言い寄られることだろうと思いました。
きっと、私のように美しいレディーたちに求められることだろうと。それが彼にとって吉とでるか凶とでるか…。私は美しい花を愛でるのは幸運でしかないので苦ではありませんが果たして、彼はどうなのかと興味がありました。」
サミュエルは続けて話した。
「アルバートはその家柄と容姿からはたくさんのご令嬢達に人気がありました。
そして、言い寄ってくる令嬢達相手をアルバートはいつも嫌がることなく、笑顔で接していました。
令嬢達に囲まれているアルバートを見て、周りの貴族達はアルバートを女好きだと噂していましたが…、私にはそうは見えませんでした。よく見れば、アルバートはいつも同じ笑顔で同じような反応を返すだけ。平等といえば聞こえはいいのですがそれは裏を返せば誰にも興味や関心がない証拠。そこに温度や熱はなく、感情が籠っていないかのよう…。少なくとも、私にはそう見えました。だから、彼は表面上だけを取り繕ってその実、心は誰にも許しておらず、誰かを愛することもないのだと思っていました。ですが…、」
サミュエルは一度リエルを見つめると、フッと笑って言った。
「君と…、リエル嬢と一緒にいる時だけは違いました。他の女性には決して向けない乱暴な態度に嫌味と皮肉交じりの言葉…。ですが、それはリエル嬢ただ一人にしか向けていなかった。それが彼の特別を示しているかのようで…。まるで好きな子を虐める幼い男の子のように見えたのです。」
そうだ。アルバートは私にだけは意地悪だった。でも、今ならそれが愛情の裏返しだったのだと分かる気がする。だって、アルバートはとても不器用な人だったから。
「それに、リエル嬢を見ている時だけ、アルバートは他の女とは違う目で見ていた。表情では隠していても目線やその目に浮かぶ熱は隠しきれていなかった。それだけで私の考えは間違っていたことを思い知らされました。アルバートは誰も愛さないのではない。彼は既に心に決めた女がいて、その人しか目に映っていないのだと。」
アルバート…。リエルはトクン、と胸がときめいた。
「それだけ一途で純粋な恋心を持っているにも関わらず、ここまで拗らせてしまったのは彼自身の難儀な性格が一番の原因ですが。」
「そんな事は…、それにしても、サミュエル様はすごいですね。見ているだけでそこまで気づくことができるなんて…、」
「私は人間観察が趣味なのですよ。それに、アルバートは観察していて中々、面白かったですし。」
このちょっと悪だくみをしていそうな笑い方…。やっぱり、サミュエル様はリヒターに似ている。
リエルはそう痛感した。やはり、気のせいじゃなかった。彼とは知り合って間もないがどことなく既視感を抱いていた。きっと、それはリヒターに似ていたからなのだろう。
そういえば…、とリエルはニコラスの言われたことを思い出し、気になっていたことを訊ねた。
「あの、サミュエル様。サミュエル様は…、二年前にアルバートが謹慎処分を受けた件を覚えているでしょうか?」
「ええ。勿論。ある伯爵子息を殴り、怪我をさせた事件は当時、社交界でも有名でしたし…、その現場に私も居合わせましたからね。あれは、忘れられません。」
「あの時、アルバートを止めてくれたのはサミュエル様だと聞きました。それで、その…、」
「やはり、気になりますか?」
リエルはコクン、と頷いた。
「アルバートには…、直接聞けなくて…、」
「そうでしょうね。アルバートはあなたには話さないことでしょう。本来なら、後輩であるアルバートの顔を立てて、黙っているべきなのですが…、私は美しい女性の頼みには弱い。ですから、特別に私が知っていることをあなたにお話ししましょう。」
サミュエルはそう言って、爽やかに微笑んだ。
リエルは先程のセイアスの様子を思い出しながら、そんな疑問を抱いていた。
「おや?リエル嬢ではありませんか?」
振り返ると、にこやかに微笑みながら近づいてくる一人の騎士がいた。華やかな美貌と色気に溢れた美男子は‥、サミュエルだった。
「サミュエル様!お久しぶりです。」
リエルも微笑んで挨拶を返した。
「ああ。やはり、リエル嬢でしたか。
その艶やかで深みのある髪色を見て、もしやと思いましたが‥、」
サミュエルはそう言いながら、リエルの目の前までやってくると、手の甲にキスを落とした。
「リエル嬢の髪はまるでチョコレートのように甘くて芳しい‥。きっと触れたら、溶けてしまう程に‥、」
「あの‥、サミュエル様。そろそろ手を離して頂きたいのですが‥、」
サミュエルの歯の浮くような甘いセリフにリエルは引きつった笑みを浮かべながら、やんわりと早く手を離して欲しいと催促した。
「ああ。申し訳ない。あなたの肌は柔らかく、滑らかでつい、いつまでも触っていたいと思ってしまい‥、」
そう言いながら、名残惜しそうに手を離すサミュエルにリエルは苦笑する。
相変わらずだな。
リエルみたいな地味な女相手にもこうやって口説き文句がでてくるなんて、感心してしまう。
まあ、これも彼にとっては、挨拶なんだろうけど。
「そういえば、リエル嬢はどうしてこちらに?」
「あ、少し用事があって‥、でも、もう用事は済んだのでこれから帰る所です。」
「そうでしたか。では、馬車までお送りしますよ。美しいレディーの身に何かあっては大変ですから。」
「え、でも‥、サミュエル様はお仕事中なのでは?」
「大丈夫です。今は休憩中ですから。さ、行きましょうか。」
サミュエルはそう言って、リエルを帰りの馬車まで同行することにした。
リエルはいいのだろうか?と思いながらも、断る理由もないので頷いた。
「そういえば、先程も思ったのですが以前よりどことなく雰囲気が変わりましたね。
最近、何か変わったことでもありましたか?」
サミュエルの言葉にリエルは驚いて、目を瞠った。
「そ、そうでしょうか?」
「ええ。何だか雰囲気が柔らかくなった気がします。それに、以前よりもお美しくなられて…、一層魅力的だ。これはあくまでもわたしの経験に基づく予想なのですが…、恋の進展でもありましたか?」
「!?」
リエルはサミュエルの言葉に頬を染めた。す、鋭い。さすがは恋のエキスパートと名高い貴公子だ。
「ああ。そういえば、アルバートも最近は機嫌がいいことが多いのですよ。表向き用の顔以外ではいつも仏頂面で部下を怖がらせていた男が珍しいこともあるものだと思ったものです。」
「そ、そうなんですか…。あ、あの…、でも、どうして今その話題を?」
リエルはいきなりアルバートの話題を振られて、内心、ドキッとした。サミュエルは二人の関係を知らない筈だ。いや。もしかして、アルバートが話しているのかな?そう思っていると、
「どうしても何も…、リエル嬢はアルバートと恋人同士になったのでしょう?」
「え!?し、知っていたんですか?」
「ああ。やはり、そうでしたか。いえ。確信はなかったのですが、何となくそうなのかなと思っただけです。」
つまり、カマをかけられただけだったと。リエルはまんまとそれに乗せられてしまい、恥ずかしくなり、俯いた。
「あ、あの…、サミュエル様。この事はどうかご内密に…、」
「ええ。勿論です。アルバートは無駄に色とりどりの花に人気がありますからね。あなたのような純粋で可憐な花が踏みにじられるのはあまりにも忍びない。」
「ありがとうございます。」
やはり、優しい人だ。根っからのフェミニストであるサミュエルはリエルの身を案じてくれている。
確かにアルバートと交際しているのが他のご令嬢達に知られればリエルは彼女達の嫉妬を買い、集中攻撃を受ける事だろう。それを考慮してくれての発言だった。
「あの、でも、サミュエル様はよく分かりましたね。私、そんなに分かりやすかったでしょうか?」
個人的にはアルバートの好意は隠しているつもりだったのに周りから見たら、やはりバレバレだったのだろうか?自分の演技も大したことはないなと落ち込んだリエルだったが…、
「ああ。違いますよ。リエル嬢はよく見ていれば気付けるといったものですが…、アルバートを見ていれば一発で分かりますからね。」
サミュエルはそう言って、おかしそうに笑った。
「アルバートが?」
「ええ。この際だから白状しますが、私があなたに近付いたのは、あの女嫌いと有名なフォルネーゼ伯爵が溺愛する姉に興味を持ったのもありますが…、一番の理由はあのアルバートがあそこまで意識する女性は一体どんな方なのだろうと気になったからなのです。」
「それは…、どういう…、」
リエルの言葉にサミュエルは微笑んで言った。
「私がアルバートに出会った時は彼はまだ成人して間もない年齢でして…、初めて見た時、その美しさに驚愕したと同時にとても悔しい思いをしたものです。」
「悔しい思い、ですか?」
「ええ。何故、彼は男に生まれたのだろう。女性に生まれていれば、迷うことなく求婚をしただろうにと。」
「…。」
リエルは何と返答していいのか迷ってしまった。確かにアルバートは小さい頃は少女と見紛う程の美少年だった。実際、同い年の少年や幼女趣味の変態貴族に言い寄られていたこともある。
その度に俺は男だ!と怒鳴り、時には相手を引っ叩いてしまったこともあったものだ。
「そうは思ったものの、性別は変えられません。ですが、彼が女性だったらさぞや魅力的な花に育っていただろうと思える位には私はアルバートの美しさを評価したものです。」
それ、多分、アルバートは絶対嬉しくない。リエルは心の中でそう思った。
何せ、アルバートは昔から女顔がコンプレックスだった。そのせいか、小さい頃から男らしい振る舞いや口調で少しでも女に見られないようにとしていた。
「美しい花の蜜にはたくさんの蝶が群がるもの。これは、雄と雌どちらにも同じ現象が起こる。
ですから、アルバートはその容姿ゆえに多くの美女に言い寄られることだろうと思いました。
きっと、私のように美しいレディーたちに求められることだろうと。それが彼にとって吉とでるか凶とでるか…。私は美しい花を愛でるのは幸運でしかないので苦ではありませんが果たして、彼はどうなのかと興味がありました。」
サミュエルは続けて話した。
「アルバートはその家柄と容姿からはたくさんのご令嬢達に人気がありました。
そして、言い寄ってくる令嬢達相手をアルバートはいつも嫌がることなく、笑顔で接していました。
令嬢達に囲まれているアルバートを見て、周りの貴族達はアルバートを女好きだと噂していましたが…、私にはそうは見えませんでした。よく見れば、アルバートはいつも同じ笑顔で同じような反応を返すだけ。平等といえば聞こえはいいのですがそれは裏を返せば誰にも興味や関心がない証拠。そこに温度や熱はなく、感情が籠っていないかのよう…。少なくとも、私にはそう見えました。だから、彼は表面上だけを取り繕ってその実、心は誰にも許しておらず、誰かを愛することもないのだと思っていました。ですが…、」
サミュエルは一度リエルを見つめると、フッと笑って言った。
「君と…、リエル嬢と一緒にいる時だけは違いました。他の女性には決して向けない乱暴な態度に嫌味と皮肉交じりの言葉…。ですが、それはリエル嬢ただ一人にしか向けていなかった。それが彼の特別を示しているかのようで…。まるで好きな子を虐める幼い男の子のように見えたのです。」
そうだ。アルバートは私にだけは意地悪だった。でも、今ならそれが愛情の裏返しだったのだと分かる気がする。だって、アルバートはとても不器用な人だったから。
「それに、リエル嬢を見ている時だけ、アルバートは他の女とは違う目で見ていた。表情では隠していても目線やその目に浮かぶ熱は隠しきれていなかった。それだけで私の考えは間違っていたことを思い知らされました。アルバートは誰も愛さないのではない。彼は既に心に決めた女がいて、その人しか目に映っていないのだと。」
アルバート…。リエルはトクン、と胸がときめいた。
「それだけ一途で純粋な恋心を持っているにも関わらず、ここまで拗らせてしまったのは彼自身の難儀な性格が一番の原因ですが。」
「そんな事は…、それにしても、サミュエル様はすごいですね。見ているだけでそこまで気づくことができるなんて…、」
「私は人間観察が趣味なのですよ。それに、アルバートは観察していて中々、面白かったですし。」
このちょっと悪だくみをしていそうな笑い方…。やっぱり、サミュエル様はリヒターに似ている。
リエルはそう痛感した。やはり、気のせいじゃなかった。彼とは知り合って間もないがどことなく既視感を抱いていた。きっと、それはリヒターに似ていたからなのだろう。
そういえば…、とリエルはニコラスの言われたことを思い出し、気になっていたことを訊ねた。
「あの、サミュエル様。サミュエル様は…、二年前にアルバートが謹慎処分を受けた件を覚えているでしょうか?」
「ええ。勿論。ある伯爵子息を殴り、怪我をさせた事件は当時、社交界でも有名でしたし…、その現場に私も居合わせましたからね。あれは、忘れられません。」
「あの時、アルバートを止めてくれたのはサミュエル様だと聞きました。それで、その…、」
「やはり、気になりますか?」
リエルはコクン、と頷いた。
「アルバートには…、直接聞けなくて…、」
「そうでしょうね。アルバートはあなたには話さないことでしょう。本来なら、後輩であるアルバートの顔を立てて、黙っているべきなのですが…、私は美しい女性の頼みには弱い。ですから、特別に私が知っていることをあなたにお話ししましょう。」
サミュエルはそう言って、爽やかに微笑んだ。
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