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第百二十三話 良かったね。リエル

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「リエル。あそこにいるの、ゾフィー嬢じゃないか?」

「え!?ゾフィーが?」

リエルはダンスが終わった後、アルバートが指さした先にゾフィーがいた。リエルは急いでそちらに近付いた。

「ゾフィー!ここにいたんだね。良かった。あのね、実は私、あなたに話が…、」

だが、ゾフィーはリエルが話しかけても反応がない。何だか、ぼんやりしている様子だった。

「ゾフィー?どうしたの?」

「え!?あ…、リエル!?ど、どうしてここに!?アルバート様と一緒だったんじゃ…、」

今、気が付いたとばかりの反応をするゾフィーにリエルは首を傾げた。そして、ゾフィーはリエルの後ろにいるアルバートの姿を目にした。

「あ…、」

「うん。今までずっとアルバートと一緒だったんだけど…、今ゾフィーを見つけたから…、」

「そ、そうだったんだ…。…あの…、じゃあ、もしかして二人は…、」

「…えっと、その…、」

ゾフィーの言葉にリエルは何となく言いづらくて頬を染めて俯いた。だが、その反応でゾフィーは理解したのか嬉しそうに笑うと、

「良かったね。リエル。」

「…ありがとう。」

ゾフィーの言葉にリエルも嬉しそうに笑った。

「ゾフィー嬢。」

リエルの背後にいたアルバートが不意にゾフィーに話しかけた。

「…その…、感謝する。君の一言がなかったら俺はずっとリエルに何も言えなかったと思う。
俺は君に嫌な思いしかさせなかったのに…、」

「いいのです。私はただ大切な友達であるリエルの為に動いただけ。
お礼なら、この先、リエルを幸せにしてくれたらそれで十分です。」

「…ありがとう。」

「ゾフィー…。」

リエルはゾフィーの言葉に胸がじんわりと熱くなった。リエルも改めてお礼をしたいと思い、口を開いたが

「ゾフィー。お待たせ。これだろ?君が欲しがっていた…、」

その時、聞き覚えのある声が聞こえた。振り返れば獅子の仮面を被った男の姿があった。手には、猫のぬいぐるみを手にしている。

「あれ?リエル?…って、アルバート!?」

リエルを見てそのすぐ近くにいたアルバートにゼリウスは引き攣った声を上げた。

「もしかして、ゼリウス?」

リエルがそう問いかけるがゼリウスは腰が引けた様子でじりじりと後退り、

「ゾフィー!君が好きそうな店をさっき見つけたんだ!ということで、俺達はこれで!」

「え?」

そう言って、サッとゾフィーの手を取り、そのまま逃げる様に背を向けるゼリウスの姿にリエルは唖然とした。が、そんなゼリウスの目前を遮るようにアルバートが立ちはだかった。そのままガシッとゼリウスの肩を掴んだ。

「…そんなに急いでどこに行くんだ?ゼリウス。丁度良かった。お前に聞きたいことが幾つかあるんだ。」

アルバートは一見、優しげだがどことなく不穏な空気を感じさせる声にゼリウスは焦ったように叫んだ。

「は、話なら、この間に全部終わっただろう!?」

「ああ。そうだな。…けど、その話とはまた別で聞きたいことが加わったんだ。
…少しだけ、時間をくれるよな?」

「それ、絶対話だけじゃないよな!?」

「それは、お前次第だ。」

「絶対嘘だろ!?そんな殺気立っておいて…!
っていうか、何で剣に手をかけているんだよ!?」

「たまたまだ。気にするな。」

「気にするに決まっているだろ!?俺の生死がかかっているんだから!」

そんなアルバートとゼリウスのやり取りを見ながら、ゾフィーとリエルは

「…もしかして、またリエルに何かまずいことをしていたの?」

「あー…、そういえば、さっきアルバートと話した時にゼリウスが私に誤解されるようにアルバートが派手に女遊びしていたって嘘の話をしたからそれで怒っているのかも…。」

「…それは、仕方ないかもね。
それにしても…、さっきまでアルバート様。リエルの隣にいたのにいつの間にあそこまで移動したんだろ?全然、見えなかったわ。」

「加速の力を使ったんじゃないかな?確か、薔薇騎士の能力の一つにそういうのがあるって聞いたことあるし。」

「へえ。すごいのね。」

…と呑気に談笑していた。

「そもそも、罰ならこの前のアレで十分だろ!?俺、お前のせいで暫くは痛みと腫れが引かなかったんだぞ!?」

「安心しろ。今度は反対の顔にしてやる。」

「それのどこが安心できるんだよ!
大体、あれはアルバートだって悪いんだぞ!
そもそも、お前が最初っからリエルに気持ちを伝えていたらこんな拗れたことにはならなかったんだから!」

「それとこれは話は別だ!」

「理不尽すぎる!」

ぎゃあぎゃあ、と騒ぎまくる男二人の姿にゾフィーとリエルは顔を見合わせ、何となくおかしくて笑ってしまった。



「…あいつ、やっぱりぶん殴ってやればよかった…。」

「アルバートったら…。ゼリウスだって、反省しているんだからもう許してあげなよ。」

あの後、さすがにゼリウスが可哀想だったのでアルバートを止めたリエルに彼は渋々ながらも従った。
物凄く不服そうだったが。
結局、あの後、ゼリウスはゾフィーを、アルバートはリエルを送ってくれることになり、リエルはアルバートに馬車で屋敷まで送ってもらう事になった。

「ゼリウスだって、謝ってくれたんだし。」

そう。ゼリウスはあの後、きちんとリエルに謝ってくれたのだ。二人を見ていると、どうしても苛々してしまい、その仲を壊したくなってしまったと。そのせいでわざとリエルにアルバートとの会話を聞かせ、アルバートの根も葉もない噂を誇張して聞かせ、二人の仲が擦れ違うように仕向けたことを。
リエルを友人として見ていた反面、アルバートに恋をしているリエルを見ているとどうしても母親を思い出してしまったのだと話し、謝罪してくれた。

いつも飄々としている彼からは信じられない位に真摯な態度を見てリエルは彼を許すことにした。
色々思う所はあるがそれでも最終的にアルバートと和解して想いを通わせることができたのだ。
だから、ゼリウスの事も許そうと思った。縁を切られても仕方がないと言っていたゼリウスは驚いていたがリエルの言葉にホッとした様子だった。ゼリウスは最後にリエルの手を握り、ありがとう。とお礼を言ってくれた。その時のゼリウスの表情は本物だったように見えた。リエルも笑って頷いた。
…そんなゼリウスの手は即座にアルバートによって叩き落とされていたが。

それにしても…、リエルはふとゾフィーとゼリウスの姿を思い出した。
あの二人、何だかいつもと雰囲気が違った。ゾフィーは前よりゼリウスを毛嫌いしている様子がなかった。いつもゾフィーはゼリウスを警戒して、ピリピリした空気があったのにそれが和らいでいた気がする。
それに…、ゼリウスがゾフィーを見る目は今までの女性達を見ていた目と明らかに違った。
ゾフィーを見る目は熱くて、優しい色が含まれていた。
何となくぎこちない感じはあったが今までと比べると雰囲気が全然違った。
一体、何が二人の間にあったのだろうか。

「ねえ、アルバート。ゼリウスとゾフィーって何かあったのかな?あの二人、いつもと空気が違ってなかった?」

「そうだったか?」

「そうだよ。だって、ゾフィーなんか、いつもゼリウスを拒絶するようなオーラを放っていたのに今日はそれがなかった気がするし…、」

「正直、俺はお前にしか興味ないから、あの二人がどうだったかなんて、覚えてない。」

「え…、」

真顔でアルバートにそう言われ、リエルは固まった。
言われた意味を理解すると、ボッと顔が赤くなった。

「あのさ…、リエル。俺達…、その…、これからはこ、恋人同士ってことでいいんだよな?」

「こ、恋人!?」

「え…、違うのか!?」

戸惑いがちに言われた彼の言葉にリエルはつい驚いてしまった。そんなリエルにアルバートはガーン!とショックを受けたように顔色を悪くした。リエルは慌てて首を振った。

「あ、ううん!違うの!そうじゃなくて…、その…、何だかまだ実感が沸かなくて…、」

「…嫌じゃないんだよな?」

「まさか!ただ、驚いただけで‥、あなたと恋人同士になれるなんてそんな夢みたいな事、有り得ないって思っていたから…。だから、嬉しいわ。とても…。」

「そ、そうか。良かった…。」

ホッと安堵したように息を吐くアルバートの姿にリエルは笑った。
彼とこんなに穏やかな一時を過ごせる日が来るなんて思ってもいなかった。
アルバートと恋人…。何て甘い響きなんだろう。リエルは胸の中がじんわりと温かい気持ちが広がるのを感じた。



「送ってくれて、ありがとう。アルバート。」

「ああ。」

リエルは屋敷まで送ってくれたアルバートを見上げてお礼を言った。そんなリエルをアルバートはじっと見下ろすと、スッとリエルに顔を近づけると、そのまま額の上に唇を落とした。突然の事にリエルは固まった。

「…お休み。」

アルバートはそのまま背を向けると、馬車に乗り込んだ。背を向けた状態なのでアルバートの顔は見えなかったが髪の間から覗く耳が僅かに赤くなっていた。リエルは彼にキスをされた額を抑え、暫く動くことができなかった。



ゾフィーはその夜、鏡の前で髪を梳かしながらぼんやりとゼリウスの事を思い出していた。
鏡台の上に置いている彼から貰った髪飾りにそっと手で触れる。ずっとこの髪色が嫌いだった。
妹やリエルのような柔らかい色の髪に憧れていた。
なのに…、今日の祭りで彼に…、ゼリウスに髪を褒められ、その髪の一筋にキスをされただけでこんなにも嬉しいだなんて…。
こんなにも温かい気持ちになるだなんて…。自分は何て単純なのだろう。
あれだけで自分の髪色が好きになってしまうのだから。
それに…、何だか彼はいつもと様子は違った。ゼリウスの目はあの無機質な目じゃなくて…、優しくて温かい目をしていた。かああ、と頬を赤く染めてゾフィーは顔を手で覆った。

「う、嘘…?何であたし…、こんな…、」

何があってもあんな女たらしなんか好きになるものか。そう思っていたのに…、頑なに心を閉ざして彼を拒絶していたのに…。どうして、こんな気持ちになるのだ。こんなの、知らない。ゾフィーは自分の芽生えた気持ちに動揺した。



その頃、ティエンディール侯爵邸の一室では…、ゼリウスが意味深に呟いていた。

「女神様…、か。」

ふと、花瓶に飾られた花に目を留める。リコリスの花…。その赤い色はゾフィーを連想させる。

「君にとって、リエルは女神かもしれないが…、俺にとっての女神は君だ。」

そう呟いて、ゼリウスは優しい眼差しでリコリスの花にそっと優しく触れた。

リエルの知らない所でもう一つの恋物語が始まろうとしていた。
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