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第百十一話 あの日の真相

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「セリーナ。」

「アルバート…。来てくれたのね。」

「具合が悪いって聞いたけど…、大丈夫か?」

手紙でセリーナに呼び出され、アルバートはセリーナの元を訪れた。
手紙では朝から具合が悪く、心細いので見舞いに来て欲しいとのことだった。
アルバートが見舞いに行くと、セリーナは薄いネグリジェ姿で寝台の上に座っていた。

「セリーナ。仮にも未婚の令嬢の君が男の前でそんな格好をするのは誤解を招くぞ。
俺と君は幼馴染とはいえ…、」

「…ごめんなさい。何だか、着替えるのも億劫で…、」

「ああ。悪い。責めているんじゃないんだ。
ただ、今後の君の評判に関わるからと思って…。
俺が相手でよかったが今後はこんな格好で男の前に出るなよ。
セリーナはただでさえ綺麗なのにそんな露出した格好を見せたら男達がどんな反応をするかなど想像がつくだろう?」

セリーナは身体の線が浮き出た作りの夜着を纏っていた。
セリーナは子供の頃から早熟な女だったのでその艶めかしい体つきは男の劣情を煽るだろう。
実際、同じ年頃の貴族令息達がセリーナをそういった下心満載の目で見て下世話な話をして盛り上がっている場面を見たこともある。
…生憎、自分には彼らの気持ちが全く分からなかったが。

「そんな格好だと風邪を引くぞ。何かかけるものでも…、」

そう言って、アルバートはショールか何かないかと辺りを見回した。
すると、突然セリーナはアルバートに抱き着いた。

「セリーナ?どうしたんだ?」

「…い。」

「え?」

「苦しい…。胸が…、苦しいの…。」

「え、大丈夫かよ!?おい!誰かいないのか!?」

アルバートは慌てて侍女を呼ぼうと声を張り上げるが何故か誰も来ない。

「待ってろ。すぐに人を…、!?」

急いで部屋を出ようとするアルバートだがセリーナに手を掴まれる。

「アルバート…。お願い…。ここを摩って?苦しいの…。」

「は?いや。それは…、」

セリーナはアルバートの手を握り、自分の胸にその手を押し付けた。
アルバートは躊躇した。
幾ら幼馴染とはいえ、ここまでするのは問題だ。
そもそも、婚約者でもない女の胸を触るなんて…、断ろうとするアルバートだったが…、

「うっ…!ああ…!く、苦しい…!」

「セリーナ!?」

胸を抑えるセリーナにアルバートは慌てて声を掛けた。

「う…、ね、ねえ…。お願い。アルバート…。少しだけでいいの。ここを摩ってくれるだけで…、」

「…分かった。」

仕方ない。介抱の為だ。
アルバートはあまりにも苦しそうなセリーナを見てられず、請われるがままに胸に触れた。
勿論、できるだけ素肌に触れないように服の上からだが。そのままセリーナの胸を摩っていく。

「あ…、ああ…。そこ…、そこがいいわ…。」

「こうか?…少しは楽になったか?」

「ええ…。あなたに触られると…、とてもいいわ…。」

「そっか。それなら良かった。」

「ねえ…。もっと触って。」

「は?え、セリーナ?」

セリーナはアルバートの手を握り、そのまま服の隙間に手を入れて直に触らせようとした。

「あ…、アル、バート…!」

「セリーナ!さすがにそれは…、ッ!?」

ギョッとして、慌てて彼女から離れようとしたがそれより早くにセリーナにグイ、と襟元を引っ張られた。
その次の瞬間…、唇に何かが重なった。
いつの間にかセリーナの手が自分の肩や胸に手を添えられていた。
セリーナはそのままアルバートに濃厚な深いキスをした。舌がぬるり、と口の中に入り込んだ。
アルバートは顔を顰めた。気持ち悪い。
その時、背後で扉が開く音がした。
誰だと振り返ればそこには…、リエルが立っていた。
真っ青な顔で愕然とした表情でこちらを見つめている。震える唇が小さく何かを呟いていた。

「!?り、リエル!?な、何でここに…?」

呆然と呟くと、リエルはそのまま弾かれたように背を向け、走り出した。

「ま、待て!リエル!」

慌てて追おうとしたアルバートだったが後ろからセリーナに抱き着かれた。

「な、セリーナ!?おい!ちょっと離れ…、」

「…て。」

「は?ごめん。よく聞き取れなかっ、」

「お願い…。私を抱いて。アルバート…。」

アルバートは一瞬、何を言われたのか分からなかった。

「セリーナ?」

「お願いよ!アルバート!」

そのままセリーナはアルバートの首に腕を回し、唇を重ねた。
アルバートは先程のキスを思い出してぞわり、と鳥肌が立ち、思わずセリーナを突き飛ばした。
セリーナはそのままベッドに倒れ込んだ。

「あ…、」

ハッと我に返るとアルバートは慌ててセリーナに駆け寄った。

「わ、悪い!つい…、だ、大丈夫か?どこも怪我してないか?」

「…どうしてよ。」

セリーナはむくりと起き上がると静かに言った。

「どうして、私じゃ駄目なの?」

「おい。どうしたんだよ?セリーナ。何だか今日変だぞ。」

「私は正気よ!」

セリーナはキッとアルバートを睨みつけて叫んだ。

「どうして、私を拒否するの!?そんなに、私は魅力がないの!?
あなた、私に言ったじゃない!
私の事を綺麗だって美しいって!まるで薔薇のように艶やかだって!
なのに…、なのに…、どうして私を欲しがってくれないの!?」

アルバートの胸蔵を掴み、セリーナは詰め寄った。

「あなた、言ってくれたわよね?私と結婚した男は幸せ者だって。
なら…、私と結婚して!あの子じゃなくて、私を選んでよ!
あなただって、私がいいわよね!?
だって、あなた言ってくれたもの。あいつは何考えているのか分からない。
いつもニコニコしてそれが逆にイライラするって。
ねえ…、そんな義務で決められたリエルよりも私がいいわよね?
私の方があの子よりも美しい。あの子より、ダンスだってできる。社交だって得意だわ。
それに、あの子みたいに出しゃばったりしないし、夫を立てるいい妻になるわ。だから…!」

「セリーナ…。」

そっとアルバートはセリーナの手を解いた。

「悪いけど…、俺はその気持には答えられない。俺はリエルの婚約者だ。
あいつとの婚約は親が決めたものだし、貴族に生まれた義務だ。
だから、仕方ないんだ。けど、幾ら何でも婚約者の姉に手を出すなんて真似はできない。」

「なら!婚約を破棄すればいいじゃない!それで私と婚約してくれれば…!」

「婚約は両家の間で交わされた重要な契約だ。そんな軽々しく破棄なんてできる訳ないだろう。」

「そんなの…!破棄する為の理由を作ればいいじゃない!」

「セリーナ。貴族の結婚では婚前交渉は禁じられているんだ。
勿論、貴族の中にはそうじゃないやつもいるが…。俺達五大貴族は国の筆頭貴族なんだ。
俺達が見本にならずしてどうするんだ。
何より…、婚約者の姉に手を出すなんて、そんな不実を犯す真似は貴族としても人としても恥じる行為だ。
俺はリエルとの婚約を破棄するつもりはない。…これは、貴族としての義務だからな。」

「何で!何で何で何で!どうして、あなたはいつもそうなの!どうして、私を求めてくれないのよ!」

「セリーナ。君がここまでするのは俺が五大貴族だからだろう?
君の周りにいる男達の中では確かに俺が一番地位が高い。
だけど、妹の婚約者に言い寄るのはさすがに…、」

そう言って、説得しようとしたアルバートだったが不意に衣擦れの音に目を向ければ…、セリーナが服を脱ぎかけていた。

「せ、セリーナ!?ちょ、何しているんだよ!?着替えるなら、俺が出てからに…、」

ぱさり、とそのまま床にネグリジェが落とされた。

「最後のお願いよ…。アルバート。私を…、あなたの物にして…。」

そう言って、セリーナはアルバートにスッと手を伸ばした。

「アルバート…。」

「いい加減にしろよ!セリーナ!」

アルバートは思わず叫んだ。

「悪ふざけが過ぎるぞ!幾ら気心が知れた幼馴染だからってやっていいことと悪いことがあるだろ!」

そう言って、アルバートはセリーナにシーツを投げつけた。
そのままアルバートはセリーナを置いてリエルを追った。
が、リエルの元に辿り着く前にリヒターにいい笑顔で肩を掴まれ、そのまま問答無用で迎えの馬車に押し込められてしまい、強制的に追い出されてしまったのだった。
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