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第九十一話 何であいつら一緒にいるんだ⁉︎

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「坊ちゃま。明日はティエンディール侯爵主催のお茶会でございますね。さぞや、お楽しみであることでしょうな。」

「楽しみなわけあるか。あんなの、ただの貴族同士のしょうもない集まりじゃないか。五大貴族の付き合いでなければ誰があんな茶会に参加するか。」

そう言って、アルバートは本を読みながら吐き捨てるように言った。

「ですが、ご友人のゼリウス様に会えるのは楽しみではありませんか?」

「どこがだよ。また、あいつの下らない女の武勇伝やら自慢話を聞かされると思うと、気が滅入る。おまけにこっちが頼んでもないのに次々から次へと女を紹介してくるから女共に纏わりつかれるしであいつのせいで散々な目に遭ったんだぞ。文句を言ったら、男なら火遊びは男の嗜みだなんてドヤ顔で言ってきて…、何度あいつの顔面をぶん殴ってやりたいと思ったことか…。」

思い出しただけで腹が立ったのか剣呑な目つきになるアルバート。

「お茶会にはセリーナ様も出席予定だとか。」

「ふうん。」

パラリ、と本のページを捲るアルバート。

「そういえば、リヒター様が急遽、リエルお嬢様も参加することになったと…、」

「は!?リエルが!?熱ッ!」

ガタン、と音を立てて勢いよく立ち上がり、その反動で紅茶が指に零れてしまい、アルバートは熱さに顔を顰めた。その様子をウォルターが生暖かい目を注いだ。

「な、何だよ?その目は?い、言っておくけどな!これは、あれだ。普段、茶会に参加しないリエルが来るって聞いて驚いただけだ!」

「ええ。分かっておりますよ。坊ちゃん。」

誰がどう見ても動揺したのが丸わかりだ。ゼリウスやセリーナの名を出しても無反応だったのにリエルの名を出した途端にこの反応。彼が誰を意識しているのかなどバレバレである。
だが、ウォルターはそれをあえて指摘せずににこにこと微笑んだ。

「折角の機会ですし…、坊ちゃん。リエルお嬢様とお茶を楽しんできては如何です?
きっと、旦那様と奥様も喜ばれます。」

「…気が向いたらな。」

そんな会話を茶会の前日に交わしたのを思い出しつつ、リエルと連れ立って広間に戻ったアルバートはリエルにチラッと視線を向け、ゼリウスに視線を移した。
奴はいつの間にか大勢の女共に取り囲まれ、へらへらと軽薄な笑みを浮かべている。
あの女たらしが近くにいれば暫くは女共をひきつけてくれるだろう。
だから、今しかないのだ。アルバートはコホン、と咳ばらいをしつつ、

「リ…、」

名を呼ぼうとした瞬間、その反対側から現れた人物に声を掛けられ、リエルの意識はそちらに向けられてしまった。
あの派手な銀髪頭に気持ち悪い位の猫撫で声と笑い…。見覚えがある。というか、見間違える筈がない。

ーな、何であいつがここに!?いっつも、こういう場は男が言い寄ってきて女のやっかみがうざいから行かないって言ってた癖に…!

ふと、シルヴィと目が合った。リエルはこちらに背を向けているので気が付かない。
シルヴィはアルバートと目が合うと、フッと笑った。
その色香の笑みに当てられた男性の何人かが頬を染めたのが目の端に止まった。

だが、アルバートは知っている。
あのナルシストは今、確実に自分を見て鼻で笑い、勝ち誇ったように笑っていた。
さっき、リエルに話しかけたタイミングも絶対わざとだ。あの憎たらしい表情を見れば分かる。

―あんの性悪…!

アルバートは握り締めた拳をわなわなと震わせた。



「シルヴィ嬢。お久しぶりでございます。」

「相変わらず、お美しい。」

「本日は体調はよろしいのですか?もし、気分が優れないのであれば…、」

―シルヴィ、モテモテだなあ。

リエルが離れた途端、次々と男性達がシルヴィに話しかけている光景にリエルは感心した。
リエルは会場の隅の方に座り、静かにお茶を飲みながら傍観した。シルヴィはこの状況を嫌がることなく、むしろ楽しんでいる様子だ。

―でも…、シルヴィの秘密を知ったら、あの人達どんな反応するんだろう。多分、絶叫するだろうな。

そう考えながらリエルはお茶を口にした。

「リエル!ここにいたんだね。探したよ。」

「ぜ、ゼリウス…。」

背後から掛けられた声に思わず紅茶を吹き出しそうになった。

「あなた…、さっきの女性達は?」

「彼女達にはちゃんと言い聞かせておいたから大丈夫。リエルと大事な話があるから、邪魔をしないように言っておいたから。」

思わず眩暈がした。この男は何でいつもそう女達に誤解されるような言動をするのだ。
お蔭でこっちはいつもそのとばっちりを受けて散々な目に遭っているというのに。

「私は話なんて…、ちょっと!どうして、私の目の前に座るの!?」

「大事な話があるって言っただろ?ちょっと相談に乗って欲しくてさ…、」

「相談って…、あの手紙で言っていた事?…本当にちゃんとした相談なの?」

「勿論だよ。今までとは比べ物にならない位に重大な相談なんだから。」

リエルは胡乱げな目でゼリウスを見ながら聞いた。



「ねえ…、ご覧になって。アルバート様、先程から随分と熱心にお菓子を見つめていらっしゃるわ。甘いものが好きなのかしら。」

「まあ…、意外ですわ。でも、それはそれで…、」

令嬢達は遠巻きにアルバートを見つめ、キャッキャッとはしゃいだ。白薔薇騎士の新たな一面を知れて興奮しているのだ。が、残念ながらアルバートは別に甘い物が好きというわけじゃない。
そんな令嬢達の熱視線に気付かず、甘い菓子が並べられたテーブルの前でアルバートは視線を走らせていた。

ーあいつは昔から、林檎が好きだったな。アップルパイか林檎のタルト…、
いや。待て。確か大人になると味覚が変わるって聞いたことがあるしな。
ここはチョコレート菓子か?あいつの家に行った時にチョコレートのタルトが出されたし…、

そう思い、フォンダンショコラに手を伸ばす。

「何、あれ…。五大貴族の娘だからって何て図々しい!」

「ゼリウス様ったら、あんな地味な女にまで優しくするなんて…、」

令嬢達の陰口にアルバートは思わず視線をやった。
そこには、リエルとゼリウスが向かい合って座り、和やかにお茶をしている所だった。

―なっ!?な、何であいつら一緒にお茶何て…、
っていうか、あいつシルヴィと一緒にいたんじゃ…、
それより!まさか、あの下半身の節操なし野郎、リエルまで狙って…!?

アルバートが一歩踏み出そうとしたその時だった。

「アルバート。ここにいたのね。」

いつの間にかやってきたセリーナにスイーツが載った皿を持っていない方の片腕を取られ、両腕で抱き着かれた。

「…セリーナ。」

「もう!酷いじゃないの。気が付いたら、あなた姿が見当たらないんだもの。」

「…ごめん。ちょっと外の空気を吸いに行ってて…、あのさ。セリーナ。悪いけど、俺今は…、」

「あら、アルバート。私の為にスイーツを持ってきてくれたの?嬉しいわ。」

「は?あ、いや…。これは違くて…、」

「皆様、良かったら、一緒に召し上がりません?
彼が私の為に持ってきてくれたんですけど私、少食ですから一人では食べきれなくて…、」

セリーナは戸惑っているアルバートの手からサッと皿を受け取ると、近くにいた取り巻きの令嬢達にそう言った。

「まあ!セリーナ様は愛されていらっしゃるのですわね!」

「羨ましいですわ。でも、セリーナ様なら、納得です。このお美しさに気品溢れるお姿!
アルバート様が夢中になるのも当然ですわ!」

「ええ。本当にお似合いですわ。」

次々に絶賛する令嬢達にセリーナは自信に満ち溢れた微笑みを浮かべながら、

「そんな事ありませんわ。」

と言った。

「いや、だから、違…、」

アルバートが否定しようと口を開くがその言葉は取り巻きの令嬢達の声に掻き消されてしまうのだった。
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