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第六十二話 肖像画の女性
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「それは…?」
「エドゥアルト様の妹の肖像画だ。お前にとっては、叔母に当たるな。」
この布に覆われた肖像画の女性が…、自分に瓜二つという女性。どんな方なんだろう。アルバートが布を取り外した。
「この人が…、私の叔母様…?」
リエルは肖像画の女性を呆然と見つめた。そっと肖像画の女性に手を触れる。
「まあ、驚くよな。無理もない。エドゥアルト様もリエルは妹に生き写しだって言っていたし…、俺もその肖像画を見た時は驚いた。」
リエルはまじまじと肖像画を見つめた。茶色い髪に薄紫の瞳…。そこには、自分自身が描かれたのかと思う程に瓜二つの容姿の女性が儚げな微笑みを浮かべて映っている。唯一、違う点を挙げれば肖像画の女性は隻眼ではなく、両眼があることと車椅子に座っているという位だろう。それ位にリエルの容姿と酷似していた。
「ミュリエル・ド・フォルネーゼ。それが叔母の名前だ。」
「ミュリエル…?もしかして、私の名前って…、」
「エドゥアルト様が叔母の名前にちなんでつけた名前だよ。年の離れた妹をエドゥアルト様は溺愛していたらしいからな。生まれたばかりのお前を見て、エドゥアルト様は凄い喜んでいたらしいぞ。何せ、生まれたばかりのお前とミュリエル様がそっくりだったらしいから。」
「そうだったんですか…。全然知らなかった。でも、どうして、私はミュリエルおばさまの存在を知らないのでしょうか?叔母様なら少なくとも交流があってもおかしくないのに…、」
「ミュリエル様はもう亡くなられているんだ。お前が産まれる数か月前にな。」
「え!?」
「元々、生まれつき心臓が弱くて二十歳まで生きられないだろうと言われていたみたいなんだ。外出したり、移動するにも心臓に負担がかかるから車椅子生活を余儀なくされていたらしい。」
「あ…、だから、車椅子に座っていたんですね。じゃあ、叔母様はその心臓の病が原因で?」
「ああ。一番の原因は心臓の病だが彼女の場合、出産をしたのが大きな原因だったみたいだ。」
「出産?叔母様は結婚をされていたのですか?」
「エドゥアルト様の友人であるレイシュヴァーン伯爵と結婚したらしい。」
「レイシュヴァーン伯爵?聞いたことのない家名ですけど…、」
「ミュリエル様が亡くなられてから、異国の地に渡ったらしいからな。それから、伯爵はずっとこの国に戻ってきていない。」
「そう、なんですね…。でも、叔母様は心臓が悪かったのでしょう?」
「ああ。心臓が弱い上に長く生きられない身体だから結婚は難しいと言われていたらしい。でも、ミュリエル様は最終的に伯爵と結婚をした。しかも、出産まで…、本当は妊娠した段階で医者の診たてではミュリエル様は出産には耐えられないと言われていたそうだ。それに生まれてくる子供は高い確率で死産の可能性が高いと。医者もここは母体を優先するべきだと勧めていた。夫である伯爵もミュリエル様の命を優先しようとしていた。けど、ミュリエル様は頑なにそれを拒んだらしい。例え、自分の命を引き換えにしてでもお腹の子供を産みたいと言って…。最終的にミュリエル様の意思を尊重する形で出産の道をとることにしたらしい。出産は無事に終えて、嫡男を産んだが難産だったらしくて…、ミュリエル様はそのまま酷い高熱が続いて…、一時期は回復したらしいが突然、急変してそのまま亡くなったそうだ。」
「そんな…、」
リエルはあまりにも悲しすぎる叔母の死に目を伏せた。父や伯爵はどんな思いだったのだろう。
「その悲しみのあまり…、父は誰にも叔母の存在を明かさなかったのですか?」
「それもあるだろうが…、一番の理由はお前を母親から守る為だった。」
「お母様から?」
ハッとリエルは思い出した。母がリエルに罵声を浴びせた中によく出てくる女の存在…。
「近寄らないで!」
「奥様!」
ガシャーンとガラスが割れる。控えていた使用人が慌てて駆けつける。リエルは自分に投げつけられ、床に割れたグラスを呆然と眺めた。
「どうして、あんたがここにいるの!どこまで私を馬鹿にすれば気が済むの!」
「お母様…?」
「私を母と呼ぶな!忌々しい…!その耳障りな声で私を母と呼ばないで!」
リエルは愕然とした。どうして…、と母を見上げる。自分はただ母に贈り物を届けようとしただけだ。手作りのオルゴールを母に手渡そうと思ったのだ。だが、そのオルゴールは母が床に叩きつけ、踏みつけられ、無残な形になっている。そして、母はそれだけでは飽き足らずリエルに向かってグラスを投げつけたのだ。
「ああ…!その目…!あの女と同じ…、何故あいつは…、どこまで私の邪魔をすれば気が済むの!あいつさえ、あいつさえいなければ…!私は…、」
母は狂ったように叫んだ。そして、リエルを睨みつけた。リエルは母の憎々しい目を見て、凍りついた。
「何故…、お前なの…。どうして、どうして…!お前なんか、お前なんか産まれてこなければ良かったのに…!」
リエルは怖くて、動けない。母がリエルに手を振り上げた。が、そんな母を複数の使用人たちが抑えつけた。
「放しなさい!この…、無礼者が!私を誰だと…!」
「お嬢様!こちらへ!」
使用人たちが母を抑えつけている間にクレメンスが急いでリエルをその場から避難させた。背後から母の怒り狂った叫び声が耳にこびりついて離れなかった。リエルが振り向くと、母の憎悪の篭った視線と目が合う。リエルはそれにゾッとした。
「エドゥアルト様の妹の肖像画だ。お前にとっては、叔母に当たるな。」
この布に覆われた肖像画の女性が…、自分に瓜二つという女性。どんな方なんだろう。アルバートが布を取り外した。
「この人が…、私の叔母様…?」
リエルは肖像画の女性を呆然と見つめた。そっと肖像画の女性に手を触れる。
「まあ、驚くよな。無理もない。エドゥアルト様もリエルは妹に生き写しだって言っていたし…、俺もその肖像画を見た時は驚いた。」
リエルはまじまじと肖像画を見つめた。茶色い髪に薄紫の瞳…。そこには、自分自身が描かれたのかと思う程に瓜二つの容姿の女性が儚げな微笑みを浮かべて映っている。唯一、違う点を挙げれば肖像画の女性は隻眼ではなく、両眼があることと車椅子に座っているという位だろう。それ位にリエルの容姿と酷似していた。
「ミュリエル・ド・フォルネーゼ。それが叔母の名前だ。」
「ミュリエル…?もしかして、私の名前って…、」
「エドゥアルト様が叔母の名前にちなんでつけた名前だよ。年の離れた妹をエドゥアルト様は溺愛していたらしいからな。生まれたばかりのお前を見て、エドゥアルト様は凄い喜んでいたらしいぞ。何せ、生まれたばかりのお前とミュリエル様がそっくりだったらしいから。」
「そうだったんですか…。全然知らなかった。でも、どうして、私はミュリエルおばさまの存在を知らないのでしょうか?叔母様なら少なくとも交流があってもおかしくないのに…、」
「ミュリエル様はもう亡くなられているんだ。お前が産まれる数か月前にな。」
「え!?」
「元々、生まれつき心臓が弱くて二十歳まで生きられないだろうと言われていたみたいなんだ。外出したり、移動するにも心臓に負担がかかるから車椅子生活を余儀なくされていたらしい。」
「あ…、だから、車椅子に座っていたんですね。じゃあ、叔母様はその心臓の病が原因で?」
「ああ。一番の原因は心臓の病だが彼女の場合、出産をしたのが大きな原因だったみたいだ。」
「出産?叔母様は結婚をされていたのですか?」
「エドゥアルト様の友人であるレイシュヴァーン伯爵と結婚したらしい。」
「レイシュヴァーン伯爵?聞いたことのない家名ですけど…、」
「ミュリエル様が亡くなられてから、異国の地に渡ったらしいからな。それから、伯爵はずっとこの国に戻ってきていない。」
「そう、なんですね…。でも、叔母様は心臓が悪かったのでしょう?」
「ああ。心臓が弱い上に長く生きられない身体だから結婚は難しいと言われていたらしい。でも、ミュリエル様は最終的に伯爵と結婚をした。しかも、出産まで…、本当は妊娠した段階で医者の診たてではミュリエル様は出産には耐えられないと言われていたそうだ。それに生まれてくる子供は高い確率で死産の可能性が高いと。医者もここは母体を優先するべきだと勧めていた。夫である伯爵もミュリエル様の命を優先しようとしていた。けど、ミュリエル様は頑なにそれを拒んだらしい。例え、自分の命を引き換えにしてでもお腹の子供を産みたいと言って…。最終的にミュリエル様の意思を尊重する形で出産の道をとることにしたらしい。出産は無事に終えて、嫡男を産んだが難産だったらしくて…、ミュリエル様はそのまま酷い高熱が続いて…、一時期は回復したらしいが突然、急変してそのまま亡くなったそうだ。」
「そんな…、」
リエルはあまりにも悲しすぎる叔母の死に目を伏せた。父や伯爵はどんな思いだったのだろう。
「その悲しみのあまり…、父は誰にも叔母の存在を明かさなかったのですか?」
「それもあるだろうが…、一番の理由はお前を母親から守る為だった。」
「お母様から?」
ハッとリエルは思い出した。母がリエルに罵声を浴びせた中によく出てくる女の存在…。
「近寄らないで!」
「奥様!」
ガシャーンとガラスが割れる。控えていた使用人が慌てて駆けつける。リエルは自分に投げつけられ、床に割れたグラスを呆然と眺めた。
「どうして、あんたがここにいるの!どこまで私を馬鹿にすれば気が済むの!」
「お母様…?」
「私を母と呼ぶな!忌々しい…!その耳障りな声で私を母と呼ばないで!」
リエルは愕然とした。どうして…、と母を見上げる。自分はただ母に贈り物を届けようとしただけだ。手作りのオルゴールを母に手渡そうと思ったのだ。だが、そのオルゴールは母が床に叩きつけ、踏みつけられ、無残な形になっている。そして、母はそれだけでは飽き足らずリエルに向かってグラスを投げつけたのだ。
「ああ…!その目…!あの女と同じ…、何故あいつは…、どこまで私の邪魔をすれば気が済むの!あいつさえ、あいつさえいなければ…!私は…、」
母は狂ったように叫んだ。そして、リエルを睨みつけた。リエルは母の憎々しい目を見て、凍りついた。
「何故…、お前なの…。どうして、どうして…!お前なんか、お前なんか産まれてこなければ良かったのに…!」
リエルは怖くて、動けない。母がリエルに手を振り上げた。が、そんな母を複数の使用人たちが抑えつけた。
「放しなさい!この…、無礼者が!私を誰だと…!」
「お嬢様!こちらへ!」
使用人たちが母を抑えつけている間にクレメンスが急いでリエルをその場から避難させた。背後から母の怒り狂った叫び声が耳にこびりついて離れなかった。リエルが振り向くと、母の憎悪の篭った視線と目が合う。リエルはそれにゾッとした。
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