上 下
45 / 226

第四十四話 リーリアの狙い

しおりを挟む
「ごめんなさい。アルバート様。迷惑かけちゃって…。」
「いや。俺のせいで気分が悪くなったんだ。謝るのは俺の方だ。」
リーリアはアルバートの怪我の手当てに付き添い、手当てが終わった直後に血を見たせいで気分が悪くなってしまい、どこかで休みたいと言い出したため、アルバートはリーリアに手を貸し、休憩室へと向かった。
「アルバート様。私、奥の部屋がいいです。あそこの休憩室は他にも人が来るかもしれないから…、」
断る理由もなかったため、アルバートはリーリアが休みたいといった別室に向かった。リーリアはアルバートに凭れながら、彼に見えない角度でうっすらと歪んだ笑みを浮かべていた。
「ん…?鍵が…。」
部屋に着いたが扉を開けようとすると鍵がかかっていた。訝しむアルバートにリーリアは不思議そうに首を傾げた。
「もしかして、中に誰かいるんでしょうか?」
アルバートは眉を顰めた。また、どこかの貴族が一夜限りのアバンチュールを楽しんでいるのだろう。アルバートは溜息を吐いた。
「逢引きの最中なのかもな。他を当たるとしよう。」
「で、でも…、何だか音がしませんか?もしかして、何かあったんじゃ…、」
中からは男女の言い争う声が聞こえる。痴話喧嘩だろうか?
「あたし、心配です。もしかしたら、発作か何かで苦しんでいるのかも…、あたし、騎士の方を呼んできます!」
「待て。リーリア。…俺が開けるから、下がっていろ。」
アルバートは扉に近付くと、手を翳した。一瞬目を瞑る。次に目を開けた時には…、彼の瞳は淡く光っていた。
「解除。」
短く、それだけを告げた。すると、鍵がカチリ、と音がし、ひとりでに扉が開いた。扉が開いた時にはアルバートの目は普段通りの色に戻っていた。アルバートは飛び込んだ光景に目を見開いた。


リエルは扉が開かれた音に視線を向けた。そこに立っていたのは、アルバートと彼の腕に自分の腕を絡ませているリーリア嬢だった。
「アル、バート様…?」
リエルは呆然と呟いた。
「こ、これは一体…?リエル様?何しているのです?そんな格好で…、」
リーリアはわなわなと震えながら驚愕したと言わんばかりに問い詰めた。
「し、信じられない!婚約者でもない方とそんないかがわしい真似をなさるなんて!まるで、娼婦みたい…!」
リエルは表情を強張らせた。彼女の狙いはこれだった。リエルが見ず知らずの男と関係を持っていると周囲に知らしめ、自分の評判を落とす為にわざわざこんな手の込んだ真似をしたのだ。その為にアルバートを連れてきたのだろう。これでリエルの評判は地に落ちた。元より、評判は最悪だったがそれに加えて男にふしだらな女としての悪い噂も広まる事だろう。あれだけ、リヒターに忠告されていたのに…。後悔しても遅い。これは、リエルのミスだった。まさか、リーリアが男を使って襲わせるなんて過激な手段をとるとは想像もつかなかった。
「これはこれは…、白薔薇騎士殿とリーリア嬢。お見苦しい所を…、何せ、彼女があまりにもしつこいものでして…、」
この二人はグルだったんだ。これもあらかじめ考えていたシナリオなのだろう。リエルはギュッと手を握り締めた。じわり、と涙がこみ上げる。駄目だ。ここで泣いては駄目。でも…、怖くて顔が上げられない。アルバートが無言でいるのが怖い。どんな目で私を見ているのだろう。失望、嫌悪、落胆?どちらにしろ、アルバートはリエルに幻滅したことだろう。これで決定的に嫌われた。元から、好かれてもいなかったが。
「アルバート様…!聞きました?リエル様ったら、あたしにはああ言っておきながら、裏ではこんな事をしていただなんて…、人って見かけによらないんですね。きっと、アルバート様と婚約していた間だって…、」
リーリアの言葉が何処か遠くに聞こえる。


「ねえ。アルバート。青い薔薇って見たことある?」
庭に咲いていた薔薇を見ながら、リエルはアルバートに青い薔薇について話した。青い薔薇は現実には存在しないと言う幼馴染にリエルは青い薔薇の挿絵が乗った絵本を掲げて見せた。
「知ってる?アルバート。青薔薇はね、『神の祝福』『奇跡』という花言葉があるらしいの。とっても素敵だと思わない?」
青い薔薇は昔から、幻の薔薇と言われている。昔から青い薔薇を生み出す研究が続けられているが誰も実現したことはない。
「お父様がね、今青薔薇の研究を進めているの。もし、成功したら一番に私に見せてくれるって約束してくれたの!」
「良かったな。」
「もし、青薔薇ができたら、アルバートにも見せるね。約束する!」
「お前は本当に薔薇が好きなんだな。」
「うん!大好き。」
「そんなに好きなら、俺が大きくなったら、薔薇騎士になってやるよ。リエルは騎士も好きだろ?俺が青薔薇騎士になったら、騎士章を賜ることができるからそれをお前に見せてやるよ。」
「騎士章?」
「騎士の証みたいなものらしいぞ。この前、父上が教えてくれたんだ。薔薇騎士の騎士章はそれぞれの色の薔薇をイメージして作られたものらしい。だから、俺が青薔薇騎士になったら、特別にお前に見せてやる。」
「本当?見たい!約束だよ!アルバート!」
「ああ。約束だ。」
「そうだ!薔薇騎士になったらお馬にも乗せて欲しいな。黒いお馬がいい!」
「そこは白馬じゃないのか?女の子って大体、白馬に憧れているのに。」
「だって、黒い馬の方がかっこいいから!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

継母の心得

トール
恋愛
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 4巻発売中☆ コミカライズ連載中、2024/08/23よりコミックシーモアにて先行販売開始】 ※継母というテーマですが、ドロドロではありません。ほっこり可愛いを中心に展開されるお話ですので、ドロドロが苦手の方にもお読みいただけます。 山崎 美咲(35)は、癌治療で子供の作れない身体となった。生涯独身だと諦めていたが、やはり子供は欲しかったとじわじわ後悔が募っていく。 治療の甲斐なくこの世を去った美咲が目を覚ますと、なんと生前読んでいたマンガの世界に転生していた。 不遇な幼少期を過ごした主人公が、ライバルである皇太子とヒロインを巡り争い、最後は見事ヒロインを射止めるというテンプレもののマンガ。その不遇な幼少期で主人公を虐待する悪辣な継母がまさかの私!? 前世の記憶を取り戻したのは、主人公の父親との結婚式前日だった! 突然3才児の母親になった主人公が、良い継母になれるよう子育てに奮闘していたら、いつの間にか父子に溺愛されて……。 オタクの知識を使って、子育て頑張ります!! 子育てに関する道具が揃っていない世界で、玩具や食器、子供用品を作り出していく、オタクが行う異世界育児ファンタジー開幕です! 番外編は10/7〜別ページに移動いたしました。

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

Bグループの少年

櫻井春輝
青春
 クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

私とお母さんとお好み焼き

white love it
経済・企業
義理の母と二人暮らしの垣谷操。貧しいと思っていたが、義母、京子の経営手腕はなかなかのものだった。 シングルマザーの織りなす経営方法とは?

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

処理中です...