上 下
21 / 226

第二十話 わたしは、誰の子供なの?

しおりを挟む
自室に戻ったリエルは手にした鏡を手に取り、そこに映る自分の顔を眺めた。ありふれた焦げ茶色の髪に薄紫色の瞳を持つ平凡な容姿…。その顔は美男美女で知られた両親のどちらにも似ておらず、父と母どちらの特徴もない。父は金髪碧眼の容姿を持つ高貴さと美しさの漂う大人の色気を放つ美青年だった。一方、母は黒髪紫眼の妖艶な美女だ。ルイは父に生き写しの美少年でセリーナは母親譲りの美貌を持っている。フォルネーゼ家に茶色の髪を持つ人間はいない。それに、瞳の色だって母の瞳とリエルの瞳の色は同じ紫でも似ても似つかない。母と姉の瞳はまるで紫水晶のように深く、澄んだ美しい色をしているがリエルの瞳の色は薄紫色で二人のような宝石の如き輝かしい色とは比べ物にならない。リエルの瞳の色は二人の様に深みもないし、どことなくくすんでいて宝石よりも野花の色に近い。リエルの瞳は二人と同じ系統の色をしている。ただそれだけだ。そして、この瞳の色を持つ人間はフォルネーゼ家ではリエルだけだ。それに、リエルとセリーナは一つしか歳が違わない。あまりに歳が近すぎる。それもリエルが出生に疑念を抱く一つの理由だ。リエルは幼い頃から自分が異質であると感じ取っていた。そして、周囲の大人から囁かれる悪意の言葉にも…。もしかしたら、私は両親のどちらの血筋も引いていないからこんなに似ていないのか。だから、母にあれ程、嫌われているのか。幼い頃は分からなかった母の罵声と暴力…。けれど、母はいつもリエルにお前など産まなければ良かったと言っているのだ。母の言葉が正しければ母がリエルを産んだのは紛れもない事実だ。やはり、自分は母の子なのか。けれど、それなら何故自分を産んだのか。もしかして、私は父様の子ではなく、別の男性の…?いや。母が相手にする男性は皆、美しい殿方ばかりだ。母に似ていないリエルは父に似る筈だ。しかし、それなら母がこんな平凡な容姿を持つ男性を相手にしない。

―分からない…。私は一体、誰の子なのか…。

『リエル。誰が何と言おうが…、お前は私の子だ。』

父の言葉を思い出す。初めて噂を耳にした時、リエルは愕然とした。そのまま、父に真実を問いかけた。すると、父は一瞬、悲しそうに目を曇らせ、真剣な表情で今の言葉を言ったのだ。もしかしたら、父は知っていたのかもしれない。リエルの出生の秘密を…。けれど、それは最後までリエルに教えてくれなかった。

「血は繋がらずとも…、私の父様は唯一人…。」

リエルは静かにそう呟いた。それを執事が部屋の扉の隙間から覗いていることに気がつかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

私をもう愛していないなら。

水垣するめ
恋愛
 その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。  空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。  私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。  街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。  見知った女性と一緒に。  私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。 「え?」  思わず私は声をあげた。  なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。  二人に接点は無いはずだ。  会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。  それが、何故?  ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。  結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。  私の胸の内に不安が湧いてくる。 (駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)  その瞬間。  二人は手を繋いで。  キスをした。 「──」  言葉にならない声が漏れた。  胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。  ──アイクは浮気していた。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします

天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。 側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。 それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。

忘れられた妻

毛蟹葵葉
恋愛
結婚初夜、チネロは夫になったセインに抱かれることはなかった。 セインは彼女に積もり積もった怒りをぶつけた。 「浅ましいお前の母のわがままで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」 セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。 「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから飢えない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」 セインはそれだけ言い残してチネロの前からいなくなった。 そして、チネロは、誰もいない別邸へと連れて行かれた。 三人称の練習で書いています。違和感があるかもしれません

処理中です...