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第十四話 薔薇は愛でるばかりでなく、育てるもの

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「できた!クレメンス、できました!」



「お嬢様は博識ですな。さすがはエドゥアルト様の娘です。」



「えへへ…。」



「まだこんなに小さいのにこれだけの難しい問題を解けた生徒はお嬢様位ですよ。将来が楽しみです。」



「本当に?凄いことなの?それって?」



「勿論ですよ。」



「それって、褒められることなの?」



「はい。」



リエルは顔を輝かせた。幼いリエルと教育係のクレメンス…。そんな二人の元に…、



「あ、お母様!」



リエルは母の姿を認めるとその駆け寄った。母はリエルの姿を見ると、嫌悪に顔を歪めた。



「お母様!あのね、今お勉強をしていたのですけど…、クレメンスに褒められました。この問題全部解くことができたのです。ッ…!」



「奥様!」



バシン、と乾いた音を立て、リエルの頬を叩くオーレリア。クレメンスがリエルに駆け寄る。



「穢らわしい…。私に触らないで!醜いあなたに触れられると私も穢れるではないの!」



「お母様…?」



「勉強など…、女に書物など必要ないの!レディは美しさが全てなの!あんたには、レディの資格など一欠片もないわ!」



母はとにかく、リエルを嫌っていた。何もしていないのにいきなり叩かれることもあった。その時は訳が分からなかった。それでも、母に認められたかった。けれど、同時に母が怖かった。母の前に立つと震えが止まらない。今では母を前にして臆することなく対峙できるのは父とルイのおかげだ。父は母に辛く当たられているリエルを事の他可愛がった。だが、母はそれが気に入らなかった。母にとって父は第一であり、例え子供であっても父を独占するリエルが許せなかったのだ。だが、あの時はどうしようもなかった。そして、母が自分を嫌悪するのが何故か当時のリエルにはその理由が分からなかった。だが、今ならば分かる。何故ならば…、リエルは…。



―ニャア



麦わら帽子を被り、手袋をして薔薇の手入れをしているとクローネが擦り寄ってきた。リエルが買ってあげた赤いリボンを首元に巻いている。



「よしよし…。クローネ…。いい子で待っていてね。」



「五大貴族の娘でありながら土いじりとは…、変わっているな。」



「!?…セイアス様。」



いきなり背後から声を掛けられ、リエルは驚いた。しゃがみこんだ状態では失礼だと思い直し、クローネを地面に下ろし、リエルは立ち上がった。



「お見苦しいところを申し訳ありません。ご機嫌よう。セイアス様。」



麦わら帽子に作業着を着ているがリエルは完璧な動作で淑女の礼を取った。



「この薔薇はあなたが?」



「いえ。これは、庭師が…。私は、お手伝いをしている程度です。昔から、薔薇が好きなもので。」



「薔薇を愛でる令嬢はよくいるが、手入れをそこまで丹念にしている令嬢はあなたが初めてだ。」



「そうでしょうね。」



貴族の娘が、花を愛でるのはよくあるが、本格的に育てることはあまりない。土いじりなど貴族の娘にとっては、ふさわしくないとされているのだ。それに、花を育てる上では虫の駆除もしている。虫を触るなど貴族の娘にとっては卒倒することだろう。が、リエルは素手で虫を触っても動じない。だから、土いじりの作業も平気で行っていた。



「セイアス様。本日は、どうされました?宜しければ、お茶でも如何です?丁度、休憩を挟もうと思っていた所なのです。」



「では…、ご一緒させて頂こう。」



「ええ。是非ともおいでください。私、着替えて参りますね。それまで、薔薇園でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?…メリル。セイアス様をご案内して差し上げて。」



メリルにセイアスのもてなしを任せ、リエルは引き上げた。さすがに、この格好でお茶会はふさわしくないと判断したのでリエルは一度着替えに戻った。
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