15 / 226
第十四話 薔薇は愛でるばかりでなく、育てるもの
しおりを挟む
「できた!クレメンス、できました!」
「お嬢様は博識ですな。さすがはエドゥアルト様の娘です。」
「えへへ…。」
「まだこんなに小さいのにこれだけの難しい問題を解けた生徒はお嬢様位ですよ。将来が楽しみです。」
「本当に?凄いことなの?それって?」
「勿論ですよ。」
「それって、褒められることなの?」
「はい。」
リエルは顔を輝かせた。幼いリエルと教育係のクレメンス…。そんな二人の元に…、
「あ、お母様!」
リエルは母の姿を認めるとその駆け寄った。母はリエルの姿を見ると、嫌悪に顔を歪めた。
「お母様!あのね、今お勉強をしていたのですけど…、クレメンスに褒められました。この問題全部解くことができたのです。ッ…!」
「奥様!」
バシン、と乾いた音を立て、リエルの頬を叩くオーレリア。クレメンスがリエルに駆け寄る。
「穢らわしい…。私に触らないで!醜いあなたに触れられると私も穢れるではないの!」
「お母様…?」
「勉強など…、女に書物など必要ないの!レディは美しさが全てなの!あんたには、レディの資格など一欠片もないわ!」
母はとにかく、リエルを嫌っていた。何もしていないのにいきなり叩かれることもあった。その時は訳が分からなかった。それでも、母に認められたかった。けれど、同時に母が怖かった。母の前に立つと震えが止まらない。今では母を前にして臆することなく対峙できるのは父とルイのおかげだ。父は母に辛く当たられているリエルを事の他可愛がった。だが、母はそれが気に入らなかった。母にとって父は第一であり、例え子供であっても父を独占するリエルが許せなかったのだ。だが、あの時はどうしようもなかった。そして、母が自分を嫌悪するのが何故か当時のリエルにはその理由が分からなかった。だが、今ならば分かる。何故ならば…、リエルは…。
―ニャア
麦わら帽子を被り、手袋をして薔薇の手入れをしているとクローネが擦り寄ってきた。リエルが買ってあげた赤いリボンを首元に巻いている。
「よしよし…。クローネ…。いい子で待っていてね。」
「五大貴族の娘でありながら土いじりとは…、変わっているな。」
「!?…セイアス様。」
いきなり背後から声を掛けられ、リエルは驚いた。しゃがみこんだ状態では失礼だと思い直し、クローネを地面に下ろし、リエルは立ち上がった。
「お見苦しいところを申し訳ありません。ご機嫌よう。セイアス様。」
麦わら帽子に作業着を着ているがリエルは完璧な動作で淑女の礼を取った。
「この薔薇はあなたが?」
「いえ。これは、庭師が…。私は、お手伝いをしている程度です。昔から、薔薇が好きなもので。」
「薔薇を愛でる令嬢はよくいるが、手入れをそこまで丹念にしている令嬢はあなたが初めてだ。」
「そうでしょうね。」
貴族の娘が、花を愛でるのはよくあるが、本格的に育てることはあまりない。土いじりなど貴族の娘にとっては、ふさわしくないとされているのだ。それに、花を育てる上では虫の駆除もしている。虫を触るなど貴族の娘にとっては卒倒することだろう。が、リエルは素手で虫を触っても動じない。だから、土いじりの作業も平気で行っていた。
「セイアス様。本日は、どうされました?宜しければ、お茶でも如何です?丁度、休憩を挟もうと思っていた所なのです。」
「では…、ご一緒させて頂こう。」
「ええ。是非ともおいでください。私、着替えて参りますね。それまで、薔薇園でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?…メリル。セイアス様をご案内して差し上げて。」
メリルにセイアスのもてなしを任せ、リエルは引き上げた。さすがに、この格好でお茶会はふさわしくないと判断したのでリエルは一度着替えに戻った。
「お嬢様は博識ですな。さすがはエドゥアルト様の娘です。」
「えへへ…。」
「まだこんなに小さいのにこれだけの難しい問題を解けた生徒はお嬢様位ですよ。将来が楽しみです。」
「本当に?凄いことなの?それって?」
「勿論ですよ。」
「それって、褒められることなの?」
「はい。」
リエルは顔を輝かせた。幼いリエルと教育係のクレメンス…。そんな二人の元に…、
「あ、お母様!」
リエルは母の姿を認めるとその駆け寄った。母はリエルの姿を見ると、嫌悪に顔を歪めた。
「お母様!あのね、今お勉強をしていたのですけど…、クレメンスに褒められました。この問題全部解くことができたのです。ッ…!」
「奥様!」
バシン、と乾いた音を立て、リエルの頬を叩くオーレリア。クレメンスがリエルに駆け寄る。
「穢らわしい…。私に触らないで!醜いあなたに触れられると私も穢れるではないの!」
「お母様…?」
「勉強など…、女に書物など必要ないの!レディは美しさが全てなの!あんたには、レディの資格など一欠片もないわ!」
母はとにかく、リエルを嫌っていた。何もしていないのにいきなり叩かれることもあった。その時は訳が分からなかった。それでも、母に認められたかった。けれど、同時に母が怖かった。母の前に立つと震えが止まらない。今では母を前にして臆することなく対峙できるのは父とルイのおかげだ。父は母に辛く当たられているリエルを事の他可愛がった。だが、母はそれが気に入らなかった。母にとって父は第一であり、例え子供であっても父を独占するリエルが許せなかったのだ。だが、あの時はどうしようもなかった。そして、母が自分を嫌悪するのが何故か当時のリエルにはその理由が分からなかった。だが、今ならば分かる。何故ならば…、リエルは…。
―ニャア
麦わら帽子を被り、手袋をして薔薇の手入れをしているとクローネが擦り寄ってきた。リエルが買ってあげた赤いリボンを首元に巻いている。
「よしよし…。クローネ…。いい子で待っていてね。」
「五大貴族の娘でありながら土いじりとは…、変わっているな。」
「!?…セイアス様。」
いきなり背後から声を掛けられ、リエルは驚いた。しゃがみこんだ状態では失礼だと思い直し、クローネを地面に下ろし、リエルは立ち上がった。
「お見苦しいところを申し訳ありません。ご機嫌よう。セイアス様。」
麦わら帽子に作業着を着ているがリエルは完璧な動作で淑女の礼を取った。
「この薔薇はあなたが?」
「いえ。これは、庭師が…。私は、お手伝いをしている程度です。昔から、薔薇が好きなもので。」
「薔薇を愛でる令嬢はよくいるが、手入れをそこまで丹念にしている令嬢はあなたが初めてだ。」
「そうでしょうね。」
貴族の娘が、花を愛でるのはよくあるが、本格的に育てることはあまりない。土いじりなど貴族の娘にとっては、ふさわしくないとされているのだ。それに、花を育てる上では虫の駆除もしている。虫を触るなど貴族の娘にとっては卒倒することだろう。が、リエルは素手で虫を触っても動じない。だから、土いじりの作業も平気で行っていた。
「セイアス様。本日は、どうされました?宜しければ、お茶でも如何です?丁度、休憩を挟もうと思っていた所なのです。」
「では…、ご一緒させて頂こう。」
「ええ。是非ともおいでください。私、着替えて参りますね。それまで、薔薇園でお待ちいただいてもよろしいでしょうか?…メリル。セイアス様をご案内して差し上げて。」
メリルにセイアスのもてなしを任せ、リエルは引き上げた。さすがに、この格好でお茶会はふさわしくないと判断したのでリエルは一度着替えに戻った。
0
お気に入りに追加
1,093
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。
香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。
疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。
そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?
何もできない王妃と言うのなら、出て行くことにします
天宮有
恋愛
国王ドスラは、王妃の私エルノアの魔法により国が守られていると信じていなかった。
側妃の発言を聞き「何もできない王妃」と言い出すようになり、私は城の人達から蔑まれてしまう。
それなら国から出て行くことにして――その後ドスラは、後悔するようになっていた。
どうやら婚約者が私と婚約したくなかったようなので婚約解消させて頂きます。後、うちを金蔓にしようとした事はゆるしません
しげむろ ゆうき
恋愛
ある日、婚約者アルバン様が私の事を悪く言ってる場面に遭遇してしまい、ショックで落ち込んでしまう。
しかもアルバン様が悪口を言っている時に側にいたのは、美しき銀狼、又は冷酷な牙とあだ名が付けられ恐れられている、この国の第三王子ランドール・ウルフイット様だったのだ。
だから、問い詰めようにもきっと関わってくるであろう第三王子が怖くて、私は誰にも相談できずにいたのだがなぜか第三王子が……。
○○sideあり
全20話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる