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第八話 青薔薇騎士との邂逅

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「ふう…。」

リエルは溜息をついた。少し人に酔ってしまったので外の空気を吸おうと思い、庭園まで足を運んだ。

―あ…、今日は満月なのね。

ふと見上げれば月が満ちている。綺麗…。と感心しながらリエルは呟いた。すると、一陣の風が吹いた。その風とともにふわりと甘い強い匂いがする。この香りは…、薔薇だ。この先には薔薇園がある。それに、新しく品種改良したばかりの青薔薇も咲き乱れている筈だ。あれは、月の光で照らされるとその輝きは一層美しい。せっかくなので青薔薇も見に行ってみようとリエルは足を進める。

「わあ…。」

目的地に着くとその神秘的な美しさにリエルは見とれた。月光と青薔薇の組み合わせにリエルは感嘆した。

「綺麗…。」

思わず見とれてしまい、リエルは青薔薇に優しく触れた。

―青薔薇…。お母様は気に入ってくれるかしら?

一輪だけ摘み、それを眺めていると…、がさりと背後で草を踏みしめる音がした。振り向くと、そこには一匹の黒猫がいた。艶やかな毛並みに琥珀色の瞳をした愛らしい猫だ。

「まあ…。可愛い。フフッ…、こちらへおいで。」

リエルは地べたに膝をつき猫を見た。

「大丈夫よ…。ほら…。こっちへおいで。いい物をあげるわ。」

くすねてきたビスケットを取り出し、リエルはそれを猫にあげた。猫は初め、警戒していたがヒクヒクと鼻を利かせ、やがて猫はそれを食べ始めた。

「フフッ…、美味しい?」

撫でてやると猫はニャーと鳴いた。それに微笑みリエルは猫を暫く見つめた。

「どこから来たのかしら?捨て猫ではないわよね?こんなに毛並みが綺麗だし…、」

にゃあと愛らしく鳴くと猫は首をかしげた。二枚目のビスケットを割ってリエルはそれを猫にあげつつ、

「もしかして、あなたも薔薇の香りに当てられてこちらに?私と一緒ね。」

リエルは猫を抱いてその喉元を撫でた。猫はもう抵抗せずにゴロゴロと喉を鳴らした。そうしていると、不意に黒い影が差した。見上げれば雲が月を覆い、辺りが暗くなっていた。

「何だか不気味…。」

リエルがそう呟くと猫がピクン、と反応し、いきなりリエルの腕から抜け出した。あっという間もなく猫は凄い速さで駆け出した。

「あ…、待って!」

慌てて猫の後を追おうとするリエルだったが途中で男性にぶつかった。

「っ!あ、も、申し訳ありません…。」

額を押さえるリエルだったが雲が通り過ぎたせいで月の光が現れ、光に照らされた目の前の人物を見て呆然とした。

―あ、この人…。

「レディ。お怪我は?」

「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですわ。」

青薔薇セイアス・レノアだ。間近で見ると確かに完璧な美貌だ。感心していると、セイアスは不意に腰を屈めた。

「あ、すみません!」

セイアスはリエルの落とした薔薇を拾い上げた。

「これを…、」

「ありがとうございます。」

薔薇を受け取り、微笑むリエル。

―良かった…。形が崩れていなくて。

「青薔薇…。それが最近フォルネーゼ家が成功したという新しい薔薇の改良種ですか?」

「ええ。その通りです。…あ、申し遅れました。私、リエル・フォルネーゼと申します。初めまして。青薔薇騎士様。」

「私をご存知で?」

「はい。勿論です。薔薇騎士の一人を知らぬはずはございません。」

「そうか…。別に青薔薇騎士などと他人行儀で呼ばずとも名で呼んでくれて構わない。」

「…では、セイアス様。私のことも好きなように呼んでくださいね。セイアス様はこちらで何を?」

青薔薇騎士がこんな人気のない所にいるなど驚きだ。母や姉は探し回っているのではないだろうか。いや、母や姉だけでなく女性たちは皆、探し回っていそうだ。リエルはそう思った。

―もしかして、どなたかと逢引?十分に有り得る。だとしたら、邪魔にならない内に早く立ち去らないと…、

そう考えていたリエルだがセイアスは意外な言葉を放った。

「あまりにも息苦しかったので外の空気を吸いに。それに…、」

セイアスは舞踏会の方に目を向ける。笑い声や話し声がする賑やかな様子にセイアスは辟易とした表情で

「あそこは息が詰まる。せっかくなので、フォルネーゼ家の庭園を眺めていこうと思いまして。」

「よろしければご案内致しましょうか?当家の薔薇は多種多様の種類の薔薇があるのでお楽しみいただけると思いますよ。」

「では…、お願いしよう。」

リエルはセイアスを薔薇園にまで案内した。普段から薔薇の手入れをしているのでリエルは薔薇の知識が豊富だ。一つ一つ説明しながらリエルはセイアスを見た。

―意外だな…。セイアス様って、薔薇好きなのね。あんまり、花が好きって風には見えないけど人は見かけによらないというし…、それに、薔薇を背にすると嫌味なくらい似合っている。一枚の絵になりそう。でも…、

リエルはセイアスの横顔を眺めながら思った。

―あまり笑わない方なのね。お母様と一緒にいる時もほとんど表情が変わらないし…。せっかく王子様のような美形なのに纏う空気が冷たすぎる…。勿体無い方だな。笑えば魅力的だろうに。ああ。でも、そこがいいと女性たちからは人気なのだっけ?ご婦人がたがそう噂していたし…。

ぼんやりとそう考えていると「レディ。」とセイアスに声をかけられた。

「そろそろ戻りましょう。あまり夜風に当たると身体を壊してしまう。」

「あ、はい…。そうですね。」
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