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大学生は大学生を主人公にするな
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暗い坂を、ストローを噛み噛み下る。
ゼミ前に買って、飲みきれなかった分を飲んでいる。
大学は、授業中に飲み物を飲めるのがホントに素晴らしい。高校まではクソ。
もっとも、夏の水分補給のつもりが、冷房が効きすぎているせいで今日は尿意を堪えるのが大変だったのだが。
次回以降、飲むペースを気を付けねばならない。
「先輩」
だんっ、だんっ、と弾む足音が追いかけてくる。
「縄田か」
振り向くより先に横に並んだ後輩男子は、俺の肩に手をかけて息を整える。
「はい、縄田です」
「どうした。飯はおごらんぞ」
六面ダイスよりもでかいパンチェッタを買い込んであるのだ。
塩の利きまくったあれと一緒に白飯をかきこむのは、最高にうまい。
外食するよりよほどコスパが高い。
「いや、今日の小説、どうでした?」
「今日はお前発表じゃなかったろ」
「そうですけど。今日のやつ、感想どう書いていいかわっかんなかったんで」
今日の発表作は、三年の屋形まほの「就活ストリップ」とかいう、面接で自分をさらけ出すことで内定を取れたとかいうタイトル負けの話がひとつ。
もう一つは「親友、ティッシュ。栗の花」で、なんでも感染性の性転換病に罹患した友人が股間にストライクで抜いてしまった罪悪感でもっかい抜く話。
揃いも揃って、椎なのか林檎なのかと問い質したくなるタイトルつけやがって、と思った。
「栗の花がまだマシだったな」
もっとも、俺ならラストで主人公は親友から病気を感染(うつ)してもらって、トランスセクシャルレズビアンという終わりに導いたけどな。
「ストリップの方はダメですか?」
「俯瞰が甘いからダメ」
「俯瞰、すか」
「大学生が大学生の話書くのが、まず概念の熟成ができてないから俯瞰が甘いんだよ。あと、大学生がゼミサークルバイト就活しました、って話がまずセンスない。うんち」
「そ、そこまで言いますか」
「言うね! ただでさえつまらない大学生の話を、大学生を俯瞰できてないクソ文系が書いて面白くなるわけねーだろ」
俺の人生が物語だとして、この瞬間を切り取ってるやつは、おそらく書くことがなくて困ってるどうしようもない書き手に違いない。
どうせなら、高校時代に美少女とラブなコメをさせるとか、小学生のときに大学生のお姉さんに可愛がられるとかそういう展開を作れとね。もう、小一時間説教したいですよ。
「だから先輩は、高校生のラブコメみたいな話ばっかなんですね」
「そうだよ」
女連中の書いてくる純文学だのマジックリアリズムだのは、俺には書けない。別にそんな話を書きたいわけでもないから、教授がどれだけ褒めそやしていてもあんまり悔しくない。
女連中もラノベの悪口で盛り上がってるし、まあ、お互い様だし良いと思う。
「じゃあ、どんな話ならいいんですか? 大学生の話」
「知らね。異世界に転移したら勇者と祭り上げられて、でもなんか知らんけど王女の策略で村八分にされるとか? んで必ずや邪智暴虐の王女と王に復讐せんと泥水すすってレベルアップとか?」
「それは大学生の話として紹介できる話なんすか?」
「いいから大学生の話はやめろ。小学生のちいさな冒険でも、高校生のラブコメでも、スーパー店員の怪談でもいいから」
「えー? でも俺、この物語と同時に誕生したんで、それ以前のバックボーンないんですよー」
「黙れ。そうやってすぐにヘタクソなメタフィクションに逃げるくせに高尚でござい、とか気取ってるバカは大嫌いだ」
ふざける縄田に釘を刺す。
俺は知ってるぞ。そういうやつに限って「ドグラ・マグラ」を読みきれなくてドロップアウトしてたりするんだよなぁ。
「じゃあ、どうやったら大学生主人公でも面白くなるんですか」
「しつこいな。じゃあ、あれだ。まず、大学とサークルとバイトと就活に行かすな。アパートでネトゲでもソシャゲでもセックスでもさせとけ」
「クズじゃないですか」
「バカ野郎、真面目な大学生とか物語世界から蹴り出せ」
「そんな。大学生から大学とサークルとバイトと就活取り上げたら、何者でもないじゃないですか」
「それでいいんだよ。「ロッキー」も「E.T.」も主人公は何も持たないクズだ。そう「ハリウッド脚本術」に書いてあった。お前も買ってめくって本棚の肥やしにしろ」
「いや、読んでくださいよ」
「無理矢理読むことはない、ハウツー本なんぞ六割自分に合わない、ということを学べ」
「それで、引き込もって自堕落を極めてる大学生をどうするんですか?」
「まず、そのクズを主人公にしたいか三回真剣に考えろ。それでも大学生を主人公にしたいなら、諦めて向き合え」
「はい! はーい! それでも大学生を主人公にしたいでーす」
こいつ、俺の課題を無視しやがった。
「じゃあ、ゲームかセックスに浸ってる学生ニートをアパートの外の世界へ連れ出すキャラを考えろ」
「は? 主人公固めなくていいんですか?」
「固まってるだろ。アパートに篭ってゲームしてる陰キャか、セックス浸けの猫背でヘラヘラした女顔に無精髭生やした優男だよ。ほかに何がある? うつ病か? ホームシックか? あーん?」
「あー、そっすね、はい。俺が間違ってました」
「わかったな? さぁ、ゲーム浸りの陰キャを外に連れ出せるのは誰だ? 親はダメだぞ」
「彼女?」
「お前は風呂も入らず、部屋に弁当殻、ビールとエナドリの空き缶、使用済みティッシュを散乱させてる男と一年同じ屋根の下で暮らせるのか?」
「そんなん言ったら物語始まらないでしょうが!」
「その通り! だから大学生を主人公にするな! Q.E.D.」
「えー。んでも、高校生以前のこともあんまり印象にないですし、社会人とかよくわかんないですし。あ、ニートは話始まらないか内省的な話になりそうなんで、俺には膨らませられません」
クソ、小癪な予防線張りやがってからに。
「高校生までの経験が記憶にないほど薄っぺらいなら、今は何かに打ち込んでるのか?」
「なんすか先輩。面接すか? 打ち込んでるもの? そんなのキーボードくらいですよ」
「空虚だなぁ。それでよく大学生の話を書きたいなんて言えるな」
「お、俺だって! その、可愛い女の子と仲良くしたりしたいっすよ」
「具体的に行動は?」
「いやぁ、出会いないですし」
「出会いはあるだろ。学年を不問にすれば、うちのゼミに美人は両手分くらいはいるだろ」
「ですけどぉ。ゼミの女子って、怖いじゃないですか」
「そりゃあ、小説を書こうって女だからな」
シャドウ化したら全員ラスボス級だよな、とゼミ同期の男友達と盛り上ったのは一度や二度ではない。
「じゃあ、どんな女子ならいいんだよ」
「えぇ……天下の往来でそんなこと言えませんよ」
「ご町内のみなさまー、縄田くんは性奴隷が欲しいそうでーす!」
「何を言うてるんですか、あなたは!」
殴りやがった。
この野郎、後輩の分際で親父にも殴られたことのない俺の肩を殴りやがった!
「だって、お前がたじろぐの気持ち悪かったから」
「先輩が変なこと訊くからでしょうが! 俺は大学生が主人公の話を書きたいだけなのに!」
「その書き手であるお前の実際的な大学生活が空虚そのものだからだろ。ゆえに! 変化を起こしてくれるヒロインのひととなりを引き出そうとして訊いてるんだよ」
こいつが怖いと言い、俺も同意するゼミの女子だって、好きな男の前ではまったく違う顔をしていることは想像に難くない。
無論、付き合いだしてしばらくすれば俺らの見ている姿になるのだろうがな。
「……優しい子がいいです」
「小学生かよ!」
「ロ、ロリコンちゃうわ!」
「そうは言ってない」
でもこいつロリコンなんだろうな。
安心しろ、細くて身長低くて、ランドセル似合いそうな女子もいるから。
同じサークルに、一浪のそんな女子いるわ。
「優しいだけじゃヒロインたりえんぞ」
優しいにも種類がある。
俺たち陰キャの「優しい」は「俺だけに優しい」だ。
だから俺たちは旅行のお土産を、他人の目があるにも拘わらず「好きな子だけに」買ってきて「好きな子だけに」渡すのだ。
人にされて嬉しいことをしろ、という幼い頃の教育を素直に信じて、俺達は育ってきたのだ。
だがそこに相手の立場、周りから向けられる視線への考慮はない。
どうでもいい人間に遣う金はない。
そんな金があればソシャゲに課金するか漫画でも買う。
オタク的な合理性によって、陰キャの恋路は閉ざされるのだ。
視点がまったく違う、女子という生物と恋愛をするのはこれだから困難なのだ。
女子は「誰にでも」優しくして男を勘違いさせる。
八方美人的な振る舞いをして、周りの評価に心血を注ぐ。
価値観が正反対だから「優しい」ヒロインがいい、というのはリアリティーとの対決に発展する。
無論、読者層を絞るなら問題ない。
いや、人を取って食いそうな女子の巣窟である我らがゼミで男の欲望をこれでもかと塗り込めたヒロイン像をプレゼンするのは、逆に痛快か。
なるべくなら俺はやりたくないが、きっとやってしまっている。
「んで? どういう優しさを持ったヒロインがいいの? ハエとゴキブリの涌いた汚部屋でソシャゲ中毒になった学生ニート主人公を物語という冒険に、その優しさでどう連れ出すわけ?」
「あー、それだと家事能力高い方がいいんですかね?」
「優しさの前にスペックか」
自信満々でトイレ洗剤を混ぜて有毒ガスを発生させたり、メシマズスキルでゲロマズなテロ料理出したりするヒロインも物語的に面白いとは思うけどな。
でもメシマズヒロインって、もう流行りが終わってるような。
あれって、料理男子だの弁当男子だのが流行ったときに発生するアンチテーゼなのかな?
今は男女問わない料理系YouTuberと、インスタに料理載せる女子が流行ってるイメージだ。
見た目全振りでゲロマズ料理作る暗黒錬金術系メシマズヒロインなら、面白そうだ。
「優しさだけでは、どうにもならないんですかね」
そんな春野ムサシみたいな葛藤されましても。
「優しさにもベクトルあるだろ? 俺の出した課題の解答例になるけど、ハエもゴキブリも嫌な顔ひとつせず生きたまま外へ逃がすのも優しさだ。それだって、ゴキブリを集めて遠くの自然に帰すのか、アパート隣人のドアポストに放り込むのかの変化をつけられる」
「後者、サイコすぎません?」
「俺たちの考える「優しいヒロイン」ってのはかなりセカイ系的だ。そこには自覚的であるべきだ。博愛主義に糞を塗り込めろ」
「どうしてですか! 弱き者に慈愛を向けるシスターみたいなヒロインよくないですか?」
「じゃあ、お前はお前の好きなシスターが口が上手くて女の扱いに慣れてるヤリチン強姦殺人常習犯イケメンにも優しくしてたらどうだ? その結果そいつにヤリ捨てられて殺されて、ごみ捨て場に血塗れ全裸で野晒しにされててもいいのか? カラスに啄まれてるのを発見しても平常心を保てるのか?」
「極論! それに、その殺人犯は弱者じゃないでしょ」
「弱き者にも、優しいんだろ? じゃあ、家庭内で汚物扱いされてる汚いハゲデブ親父に無償でシスターが抱かれてるハメ録り動画がお前のLINEに飛んできてもいいのか?」
「俺だけに優しい女子が好きです!」
「わかればよろしい。そこがスタートだ。では、次だ」
「まだヒロインの優しさを掘り下げるんですか?」
「当たり前だ。誰かを救うってことは、誰かを救わないってことだからな」
「「Fate」じゃないですか」
「デートの最中、近所の犬が吠えてきたとしよう。そこでヒロインはおもむろに出刃包丁を取り出し、民家の柵を乗り越えて犬に馬乗りになる。振り上げた出刃包丁で犬を滅多刺しにすると、何事もなかったかのように血塗れの手で主人公の手を握ってくる。とても優しいヒロインだよな?」
「また極論!」
「優しさとは、実に難しい定義の概念なのだよ」
「どうして普通の優しさを持ったヒロインを提示してくれないんですか……」
「普通の女は生ゴミと不快害虫とカビだらけの汚部屋に引きこもったソシャゲ中毒の学生ニートのヒロインにならないからだよ」
「あのー、ラブコメって主人公にも魅力がないと嫌われませんか?」
「嫌われるけど、何の魅力もないのに存在するだけでモテる主人公のアニメが、「なろう」から山と発掘されてるのも事実だろ?」
だいたい、長編でもない限り主人公の魅力よりもヒロインの魅力をプレゼンする方が重要だ。
短い物語で主人公の英雄性に自分を重ねたくて、お前の単発Web小説をクリックするやつはおらんやろ。
最低でもワンクールのアニメ分の分量があるのに主人公の魅力が描かれないなら、嫌われるのも仕方ない。
無論、一万字未満の物語でも主人公の魅力が描けるならそれに越したことはない。
「んー、主人公に割く優しさの総量が偏っていて、それでいて無闇に主人公以外の生命を軽んじたりしない……それって、幼馴染み系のヒロインすかね?」
「幼馴染みだって、主人公に向かって吠える犬を出刃包丁で滅多刺しにするかもしれないだろ」
「それこそ普通の女子は通りすがりの犬を殺しませんから」
「なるほど、一理ある」
「やった、先輩から一本取った!」
「でも優しさが主人公に偏ってることで、幼馴染み系に絞られる理由は弱いな。姉妹やストーカー系のヒロインでもいいはずだ」
「ス、ストーカーすか!? ストーカーとかホラーじゃないですか」
「逆に考えろ。ホラーなら、幽霊だってヒロインにできる」
「まともな愛情表現をしてくれる、まともな女子と付き合いたい! 作品のヒロインだってそういう子がいい!」
「忘れるな。主人公は社会不適合者だ。清潔感の欠片もないキモブサか女の敵だ。それを救済するヒロインだ。ヒロインをまともにすればするだけ、お前に要求されるスキルが高くなるぞ」
「うぅ、俺が弱いばっかりに! ヒロインが異常者の残念娘になっていく!」
「苦しめ苦しめ、お前が苦しめば苦しむほど、読者は得をするのだ」
「そ、そうだ! ヒロインは匂いフェチなんですよ! しかも腐敗臭で興奮する変態キワモノ娘なんです! カビの生えた食べ残しのこびりついた弁当殻の山に頭を突っ込んで悦に入るんですよ!」
「いいぞ、その調子だ! それなら将来は法医昆虫学者になりたいと願っているからウジ虫大好きガールにしよう。違法なルートでカースマルツゥを輸入して、ウジ虫たっぷりのチーズを常食してる奇人にしよう!」
「ウハハハ! なんすかそれ、きっも! ようし、それならトイレに行くのが億劫になってる主人公におしめをはかせ、小便をペットボトルにするときに介助もしてくれることにしましょうよ! 下の世話をしてソシャゲのプレイ効率を爆上げしてくれるとか、これこそが主人公にとって最高の優しさじゃないですか!?」
「うん、それでヒロインはどうやって主人公と物語を始めるんだ?」
「へ?」
「そんな女が彼女になったとして、お前はそいつと腕組んで大学歩けるか? 新鮮な犬猫の糞を見つけたら観察し始めるぞ。おそらく身だしなみにあまり興味もないから、露出度の高い服や惚れ惚れするよなメイクはしないぞ」
「いいんだ……非モテにとっては、ただ狭いアパートの部屋で一緒に堕落してくれれば、それだけでいいんだ。彼女以外の人間関係なんかいらないんだ」
「素晴らしい! よく言った! それでこそ主人公の気持ちに寄り添えたと言える!」
「へへへ、どんなもんです先輩。俺にかかれば先輩の課題なんか、楽勝っすよ」
「ではもう一度訊こう。それでも、大学生を主人公にした物語を書きたいか?」
「あ」
「キラキラな青春とは無縁の、爛れた生活の日記めいた暗い作品を書きたいか?」
「……楽しくなさそう」
「諦めろ。これが大学生の現実だ。大学と大学教育におんぶにだっこ、カリキュラムを青春と勘違いした妄想狂。これが大学生なのだ」
「あああ、そうだったんですね」
「ふっふっふ、小説を書きたい文系大学生が陥る罠はこれだ。理系なら多少は面白い大学生小説を書けるのかもしれないな」
「し、進路選択レベルの失敗!?」
東野圭吾は理系だからな。
大学生の話あるか知らんけど。教授の話は有名だよなー。
ともあれ。
切々と、大学生小説の孕む敗北性を語って聞かせたせいで縄田は今凹んでいる。
しかし、特別に劇的なことが思い出せない高校までの生活と違って、こいつはきっと大学生活を楽しんでいる。
陰キャにとって、高校までは集団生活という針のむしろだからな。
きっと、縄田は部活に入ったこともないだろう。先輩や後輩と交流を持ったことも、一度もないだろう。
だからこそ、大学生を主人公にすべきではないのだ。
魔改造して楽しくする余地がないほどに、イマが楽しければ創作によってそれを乗り越えることができない。
逆に思い出したくもない高校生活に思いを馳せたなら、様々な「こうだったら良かったのに」をモチベーションに創作が可能だ。
ゆえに、面白い話を書きたければ大学生の主人公を避けるべきなのだ。
それでも、と言うなら汚部屋で学生ニートしてる主人公にするか、理系学生コメディか、クローズドサークルか、異世界転生か、デスゲームか、MMOモノか、実話怪談にするべきなのだ。
平凡な大学生がゼミサークルバイト就活するような、万人の手垢を皮膚から血が出るほどなめ尽くしたような工業生産的な無個性話を書いて評価されようなどということは、間違っても大学生はすべきではない。
なお、このやり取りの2ヶ月後に縄田がゼミで小説を発表した。
楽しくなさそう、と宣っていた割りに生活力0なソシャゲオタクと汚部屋を利用して隠れるストーカーヒロインの、奇妙な共同生活を綴った物語を書き上げてきた。
女子からは明らかにドン引きされながらも、教授からは一定の評価を得ていた。
その日も俺は縄田と一緒に帰ったのだが。
「どうです先輩。大学生主人公でやってやりましたよ。まぁ、俺にかかればこんなもんすよ」
そう言って分かれ道で去っていく縄田の背は、いつもより寂しげに見えた。
(了)
──────────
お読みいただきありがとうございます。
感想、絶賛募集中です。えびぞりして喜びます。
他にも、以下のような作品も書いておりますので、よろしければ読んで行ってください。
「陰キャだけど力こそパワーなので悪魔と契約して放縦(すき)に生きることにした~現実世界でスロウスライフ~」
https://alphapolis.co.jp/novel/585561695/778557863
(連載中)(R18)現代ファンタジー、能力バトルものです
「教会が暴政を布くので、悪魔を呼び出して対抗しました~早起きは5000兆円の不徳~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/518448520
(R15)ショートショート。異世界ファンタジーです。
「三匹のヤギとドンガラガッシャーン」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/672448286
(R15)ショートショート。三匹のヤギが冒険する不条理コメディです。道中でおとぎ話の登場人物をぶっ殺したりします。
「ひきゅう――霧山滓美はドッジボールで伝奇する」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/963473588
ショートショート。小学校の体育でのドッヂボールをテーマにした、ナンセンスものです。
「俺の名は。~まさかまさかのゼロ年代転生。前世の知識で無双できたのは小学校だけでした。残念ながら当然の結果です。~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/978453894
ショートショート。未来の戦争に従軍している兵士が、ゼロ年代に転生するファンタジーです。
「薔薇の香のする海」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/523460660
(R18)ショートショート。クトゥルフ神話もののホラーコメディです。ご査収ください。
「ミラージュ~超異能大戦X~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/541472759
(R18)(連載中)現代異能バトル伝奇。異能者が怪獣と戦ったら?をコンセプトに“書き出しました”。
他にも作品がございますので、ご笑覧くだされば幸いです。
では、次回作でお会いしましょう。
ゼミ前に買って、飲みきれなかった分を飲んでいる。
大学は、授業中に飲み物を飲めるのがホントに素晴らしい。高校まではクソ。
もっとも、夏の水分補給のつもりが、冷房が効きすぎているせいで今日は尿意を堪えるのが大変だったのだが。
次回以降、飲むペースを気を付けねばならない。
「先輩」
だんっ、だんっ、と弾む足音が追いかけてくる。
「縄田か」
振り向くより先に横に並んだ後輩男子は、俺の肩に手をかけて息を整える。
「はい、縄田です」
「どうした。飯はおごらんぞ」
六面ダイスよりもでかいパンチェッタを買い込んであるのだ。
塩の利きまくったあれと一緒に白飯をかきこむのは、最高にうまい。
外食するよりよほどコスパが高い。
「いや、今日の小説、どうでした?」
「今日はお前発表じゃなかったろ」
「そうですけど。今日のやつ、感想どう書いていいかわっかんなかったんで」
今日の発表作は、三年の屋形まほの「就活ストリップ」とかいう、面接で自分をさらけ出すことで内定を取れたとかいうタイトル負けの話がひとつ。
もう一つは「親友、ティッシュ。栗の花」で、なんでも感染性の性転換病に罹患した友人が股間にストライクで抜いてしまった罪悪感でもっかい抜く話。
揃いも揃って、椎なのか林檎なのかと問い質したくなるタイトルつけやがって、と思った。
「栗の花がまだマシだったな」
もっとも、俺ならラストで主人公は親友から病気を感染(うつ)してもらって、トランスセクシャルレズビアンという終わりに導いたけどな。
「ストリップの方はダメですか?」
「俯瞰が甘いからダメ」
「俯瞰、すか」
「大学生が大学生の話書くのが、まず概念の熟成ができてないから俯瞰が甘いんだよ。あと、大学生がゼミサークルバイト就活しました、って話がまずセンスない。うんち」
「そ、そこまで言いますか」
「言うね! ただでさえつまらない大学生の話を、大学生を俯瞰できてないクソ文系が書いて面白くなるわけねーだろ」
俺の人生が物語だとして、この瞬間を切り取ってるやつは、おそらく書くことがなくて困ってるどうしようもない書き手に違いない。
どうせなら、高校時代に美少女とラブなコメをさせるとか、小学生のときに大学生のお姉さんに可愛がられるとかそういう展開を作れとね。もう、小一時間説教したいですよ。
「だから先輩は、高校生のラブコメみたいな話ばっかなんですね」
「そうだよ」
女連中の書いてくる純文学だのマジックリアリズムだのは、俺には書けない。別にそんな話を書きたいわけでもないから、教授がどれだけ褒めそやしていてもあんまり悔しくない。
女連中もラノベの悪口で盛り上がってるし、まあ、お互い様だし良いと思う。
「じゃあ、どんな話ならいいんですか? 大学生の話」
「知らね。異世界に転移したら勇者と祭り上げられて、でもなんか知らんけど王女の策略で村八分にされるとか? んで必ずや邪智暴虐の王女と王に復讐せんと泥水すすってレベルアップとか?」
「それは大学生の話として紹介できる話なんすか?」
「いいから大学生の話はやめろ。小学生のちいさな冒険でも、高校生のラブコメでも、スーパー店員の怪談でもいいから」
「えー? でも俺、この物語と同時に誕生したんで、それ以前のバックボーンないんですよー」
「黙れ。そうやってすぐにヘタクソなメタフィクションに逃げるくせに高尚でござい、とか気取ってるバカは大嫌いだ」
ふざける縄田に釘を刺す。
俺は知ってるぞ。そういうやつに限って「ドグラ・マグラ」を読みきれなくてドロップアウトしてたりするんだよなぁ。
「じゃあ、どうやったら大学生主人公でも面白くなるんですか」
「しつこいな。じゃあ、あれだ。まず、大学とサークルとバイトと就活に行かすな。アパートでネトゲでもソシャゲでもセックスでもさせとけ」
「クズじゃないですか」
「バカ野郎、真面目な大学生とか物語世界から蹴り出せ」
「そんな。大学生から大学とサークルとバイトと就活取り上げたら、何者でもないじゃないですか」
「それでいいんだよ。「ロッキー」も「E.T.」も主人公は何も持たないクズだ。そう「ハリウッド脚本術」に書いてあった。お前も買ってめくって本棚の肥やしにしろ」
「いや、読んでくださいよ」
「無理矢理読むことはない、ハウツー本なんぞ六割自分に合わない、ということを学べ」
「それで、引き込もって自堕落を極めてる大学生をどうするんですか?」
「まず、そのクズを主人公にしたいか三回真剣に考えろ。それでも大学生を主人公にしたいなら、諦めて向き合え」
「はい! はーい! それでも大学生を主人公にしたいでーす」
こいつ、俺の課題を無視しやがった。
「じゃあ、ゲームかセックスに浸ってる学生ニートをアパートの外の世界へ連れ出すキャラを考えろ」
「は? 主人公固めなくていいんですか?」
「固まってるだろ。アパートに篭ってゲームしてる陰キャか、セックス浸けの猫背でヘラヘラした女顔に無精髭生やした優男だよ。ほかに何がある? うつ病か? ホームシックか? あーん?」
「あー、そっすね、はい。俺が間違ってました」
「わかったな? さぁ、ゲーム浸りの陰キャを外に連れ出せるのは誰だ? 親はダメだぞ」
「彼女?」
「お前は風呂も入らず、部屋に弁当殻、ビールとエナドリの空き缶、使用済みティッシュを散乱させてる男と一年同じ屋根の下で暮らせるのか?」
「そんなん言ったら物語始まらないでしょうが!」
「その通り! だから大学生を主人公にするな! Q.E.D.」
「えー。んでも、高校生以前のこともあんまり印象にないですし、社会人とかよくわかんないですし。あ、ニートは話始まらないか内省的な話になりそうなんで、俺には膨らませられません」
クソ、小癪な予防線張りやがってからに。
「高校生までの経験が記憶にないほど薄っぺらいなら、今は何かに打ち込んでるのか?」
「なんすか先輩。面接すか? 打ち込んでるもの? そんなのキーボードくらいですよ」
「空虚だなぁ。それでよく大学生の話を書きたいなんて言えるな」
「お、俺だって! その、可愛い女の子と仲良くしたりしたいっすよ」
「具体的に行動は?」
「いやぁ、出会いないですし」
「出会いはあるだろ。学年を不問にすれば、うちのゼミに美人は両手分くらいはいるだろ」
「ですけどぉ。ゼミの女子って、怖いじゃないですか」
「そりゃあ、小説を書こうって女だからな」
シャドウ化したら全員ラスボス級だよな、とゼミ同期の男友達と盛り上ったのは一度や二度ではない。
「じゃあ、どんな女子ならいいんだよ」
「えぇ……天下の往来でそんなこと言えませんよ」
「ご町内のみなさまー、縄田くんは性奴隷が欲しいそうでーす!」
「何を言うてるんですか、あなたは!」
殴りやがった。
この野郎、後輩の分際で親父にも殴られたことのない俺の肩を殴りやがった!
「だって、お前がたじろぐの気持ち悪かったから」
「先輩が変なこと訊くからでしょうが! 俺は大学生が主人公の話を書きたいだけなのに!」
「その書き手であるお前の実際的な大学生活が空虚そのものだからだろ。ゆえに! 変化を起こしてくれるヒロインのひととなりを引き出そうとして訊いてるんだよ」
こいつが怖いと言い、俺も同意するゼミの女子だって、好きな男の前ではまったく違う顔をしていることは想像に難くない。
無論、付き合いだしてしばらくすれば俺らの見ている姿になるのだろうがな。
「……優しい子がいいです」
「小学生かよ!」
「ロ、ロリコンちゃうわ!」
「そうは言ってない」
でもこいつロリコンなんだろうな。
安心しろ、細くて身長低くて、ランドセル似合いそうな女子もいるから。
同じサークルに、一浪のそんな女子いるわ。
「優しいだけじゃヒロインたりえんぞ」
優しいにも種類がある。
俺たち陰キャの「優しい」は「俺だけに優しい」だ。
だから俺たちは旅行のお土産を、他人の目があるにも拘わらず「好きな子だけに」買ってきて「好きな子だけに」渡すのだ。
人にされて嬉しいことをしろ、という幼い頃の教育を素直に信じて、俺達は育ってきたのだ。
だがそこに相手の立場、周りから向けられる視線への考慮はない。
どうでもいい人間に遣う金はない。
そんな金があればソシャゲに課金するか漫画でも買う。
オタク的な合理性によって、陰キャの恋路は閉ざされるのだ。
視点がまったく違う、女子という生物と恋愛をするのはこれだから困難なのだ。
女子は「誰にでも」優しくして男を勘違いさせる。
八方美人的な振る舞いをして、周りの評価に心血を注ぐ。
価値観が正反対だから「優しい」ヒロインがいい、というのはリアリティーとの対決に発展する。
無論、読者層を絞るなら問題ない。
いや、人を取って食いそうな女子の巣窟である我らがゼミで男の欲望をこれでもかと塗り込めたヒロイン像をプレゼンするのは、逆に痛快か。
なるべくなら俺はやりたくないが、きっとやってしまっている。
「んで? どういう優しさを持ったヒロインがいいの? ハエとゴキブリの涌いた汚部屋でソシャゲ中毒になった学生ニート主人公を物語という冒険に、その優しさでどう連れ出すわけ?」
「あー、それだと家事能力高い方がいいんですかね?」
「優しさの前にスペックか」
自信満々でトイレ洗剤を混ぜて有毒ガスを発生させたり、メシマズスキルでゲロマズなテロ料理出したりするヒロインも物語的に面白いとは思うけどな。
でもメシマズヒロインって、もう流行りが終わってるような。
あれって、料理男子だの弁当男子だのが流行ったときに発生するアンチテーゼなのかな?
今は男女問わない料理系YouTuberと、インスタに料理載せる女子が流行ってるイメージだ。
見た目全振りでゲロマズ料理作る暗黒錬金術系メシマズヒロインなら、面白そうだ。
「優しさだけでは、どうにもならないんですかね」
そんな春野ムサシみたいな葛藤されましても。
「優しさにもベクトルあるだろ? 俺の出した課題の解答例になるけど、ハエもゴキブリも嫌な顔ひとつせず生きたまま外へ逃がすのも優しさだ。それだって、ゴキブリを集めて遠くの自然に帰すのか、アパート隣人のドアポストに放り込むのかの変化をつけられる」
「後者、サイコすぎません?」
「俺たちの考える「優しいヒロイン」ってのはかなりセカイ系的だ。そこには自覚的であるべきだ。博愛主義に糞を塗り込めろ」
「どうしてですか! 弱き者に慈愛を向けるシスターみたいなヒロインよくないですか?」
「じゃあ、お前はお前の好きなシスターが口が上手くて女の扱いに慣れてるヤリチン強姦殺人常習犯イケメンにも優しくしてたらどうだ? その結果そいつにヤリ捨てられて殺されて、ごみ捨て場に血塗れ全裸で野晒しにされててもいいのか? カラスに啄まれてるのを発見しても平常心を保てるのか?」
「極論! それに、その殺人犯は弱者じゃないでしょ」
「弱き者にも、優しいんだろ? じゃあ、家庭内で汚物扱いされてる汚いハゲデブ親父に無償でシスターが抱かれてるハメ録り動画がお前のLINEに飛んできてもいいのか?」
「俺だけに優しい女子が好きです!」
「わかればよろしい。そこがスタートだ。では、次だ」
「まだヒロインの優しさを掘り下げるんですか?」
「当たり前だ。誰かを救うってことは、誰かを救わないってことだからな」
「「Fate」じゃないですか」
「デートの最中、近所の犬が吠えてきたとしよう。そこでヒロインはおもむろに出刃包丁を取り出し、民家の柵を乗り越えて犬に馬乗りになる。振り上げた出刃包丁で犬を滅多刺しにすると、何事もなかったかのように血塗れの手で主人公の手を握ってくる。とても優しいヒロインだよな?」
「また極論!」
「優しさとは、実に難しい定義の概念なのだよ」
「どうして普通の優しさを持ったヒロインを提示してくれないんですか……」
「普通の女は生ゴミと不快害虫とカビだらけの汚部屋に引きこもったソシャゲ中毒の学生ニートのヒロインにならないからだよ」
「あのー、ラブコメって主人公にも魅力がないと嫌われませんか?」
「嫌われるけど、何の魅力もないのに存在するだけでモテる主人公のアニメが、「なろう」から山と発掘されてるのも事実だろ?」
だいたい、長編でもない限り主人公の魅力よりもヒロインの魅力をプレゼンする方が重要だ。
短い物語で主人公の英雄性に自分を重ねたくて、お前の単発Web小説をクリックするやつはおらんやろ。
最低でもワンクールのアニメ分の分量があるのに主人公の魅力が描かれないなら、嫌われるのも仕方ない。
無論、一万字未満の物語でも主人公の魅力が描けるならそれに越したことはない。
「んー、主人公に割く優しさの総量が偏っていて、それでいて無闇に主人公以外の生命を軽んじたりしない……それって、幼馴染み系のヒロインすかね?」
「幼馴染みだって、主人公に向かって吠える犬を出刃包丁で滅多刺しにするかもしれないだろ」
「それこそ普通の女子は通りすがりの犬を殺しませんから」
「なるほど、一理ある」
「やった、先輩から一本取った!」
「でも優しさが主人公に偏ってることで、幼馴染み系に絞られる理由は弱いな。姉妹やストーカー系のヒロインでもいいはずだ」
「ス、ストーカーすか!? ストーカーとかホラーじゃないですか」
「逆に考えろ。ホラーなら、幽霊だってヒロインにできる」
「まともな愛情表現をしてくれる、まともな女子と付き合いたい! 作品のヒロインだってそういう子がいい!」
「忘れるな。主人公は社会不適合者だ。清潔感の欠片もないキモブサか女の敵だ。それを救済するヒロインだ。ヒロインをまともにすればするだけ、お前に要求されるスキルが高くなるぞ」
「うぅ、俺が弱いばっかりに! ヒロインが異常者の残念娘になっていく!」
「苦しめ苦しめ、お前が苦しめば苦しむほど、読者は得をするのだ」
「そ、そうだ! ヒロインは匂いフェチなんですよ! しかも腐敗臭で興奮する変態キワモノ娘なんです! カビの生えた食べ残しのこびりついた弁当殻の山に頭を突っ込んで悦に入るんですよ!」
「いいぞ、その調子だ! それなら将来は法医昆虫学者になりたいと願っているからウジ虫大好きガールにしよう。違法なルートでカースマルツゥを輸入して、ウジ虫たっぷりのチーズを常食してる奇人にしよう!」
「ウハハハ! なんすかそれ、きっも! ようし、それならトイレに行くのが億劫になってる主人公におしめをはかせ、小便をペットボトルにするときに介助もしてくれることにしましょうよ! 下の世話をしてソシャゲのプレイ効率を爆上げしてくれるとか、これこそが主人公にとって最高の優しさじゃないですか!?」
「うん、それでヒロインはどうやって主人公と物語を始めるんだ?」
「へ?」
「そんな女が彼女になったとして、お前はそいつと腕組んで大学歩けるか? 新鮮な犬猫の糞を見つけたら観察し始めるぞ。おそらく身だしなみにあまり興味もないから、露出度の高い服や惚れ惚れするよなメイクはしないぞ」
「いいんだ……非モテにとっては、ただ狭いアパートの部屋で一緒に堕落してくれれば、それだけでいいんだ。彼女以外の人間関係なんかいらないんだ」
「素晴らしい! よく言った! それでこそ主人公の気持ちに寄り添えたと言える!」
「へへへ、どんなもんです先輩。俺にかかれば先輩の課題なんか、楽勝っすよ」
「ではもう一度訊こう。それでも、大学生を主人公にした物語を書きたいか?」
「あ」
「キラキラな青春とは無縁の、爛れた生活の日記めいた暗い作品を書きたいか?」
「……楽しくなさそう」
「諦めろ。これが大学生の現実だ。大学と大学教育におんぶにだっこ、カリキュラムを青春と勘違いした妄想狂。これが大学生なのだ」
「あああ、そうだったんですね」
「ふっふっふ、小説を書きたい文系大学生が陥る罠はこれだ。理系なら多少は面白い大学生小説を書けるのかもしれないな」
「し、進路選択レベルの失敗!?」
東野圭吾は理系だからな。
大学生の話あるか知らんけど。教授の話は有名だよなー。
ともあれ。
切々と、大学生小説の孕む敗北性を語って聞かせたせいで縄田は今凹んでいる。
しかし、特別に劇的なことが思い出せない高校までの生活と違って、こいつはきっと大学生活を楽しんでいる。
陰キャにとって、高校までは集団生活という針のむしろだからな。
きっと、縄田は部活に入ったこともないだろう。先輩や後輩と交流を持ったことも、一度もないだろう。
だからこそ、大学生を主人公にすべきではないのだ。
魔改造して楽しくする余地がないほどに、イマが楽しければ創作によってそれを乗り越えることができない。
逆に思い出したくもない高校生活に思いを馳せたなら、様々な「こうだったら良かったのに」をモチベーションに創作が可能だ。
ゆえに、面白い話を書きたければ大学生の主人公を避けるべきなのだ。
それでも、と言うなら汚部屋で学生ニートしてる主人公にするか、理系学生コメディか、クローズドサークルか、異世界転生か、デスゲームか、MMOモノか、実話怪談にするべきなのだ。
平凡な大学生がゼミサークルバイト就活するような、万人の手垢を皮膚から血が出るほどなめ尽くしたような工業生産的な無個性話を書いて評価されようなどということは、間違っても大学生はすべきではない。
なお、このやり取りの2ヶ月後に縄田がゼミで小説を発表した。
楽しくなさそう、と宣っていた割りに生活力0なソシャゲオタクと汚部屋を利用して隠れるストーカーヒロインの、奇妙な共同生活を綴った物語を書き上げてきた。
女子からは明らかにドン引きされながらも、教授からは一定の評価を得ていた。
その日も俺は縄田と一緒に帰ったのだが。
「どうです先輩。大学生主人公でやってやりましたよ。まぁ、俺にかかればこんなもんすよ」
そう言って分かれ道で去っていく縄田の背は、いつもより寂しげに見えた。
(了)
──────────
お読みいただきありがとうございます。
感想、絶賛募集中です。えびぞりして喜びます。
他にも、以下のような作品も書いておりますので、よろしければ読んで行ってください。
「陰キャだけど力こそパワーなので悪魔と契約して放縦(すき)に生きることにした~現実世界でスロウスライフ~」
https://alphapolis.co.jp/novel/585561695/778557863
(連載中)(R18)現代ファンタジー、能力バトルものです
「教会が暴政を布くので、悪魔を呼び出して対抗しました~早起きは5000兆円の不徳~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/518448520
(R15)ショートショート。異世界ファンタジーです。
「三匹のヤギとドンガラガッシャーン」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/672448286
(R15)ショートショート。三匹のヤギが冒険する不条理コメディです。道中でおとぎ話の登場人物をぶっ殺したりします。
「ひきゅう――霧山滓美はドッジボールで伝奇する」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/963473588
ショートショート。小学校の体育でのドッヂボールをテーマにした、ナンセンスものです。
「俺の名は。~まさかまさかのゼロ年代転生。前世の知識で無双できたのは小学校だけでした。残念ながら当然の結果です。~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/978453894
ショートショート。未来の戦争に従軍している兵士が、ゼロ年代に転生するファンタジーです。
「薔薇の香のする海」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/523460660
(R18)ショートショート。クトゥルフ神話もののホラーコメディです。ご査収ください。
「ミラージュ~超異能大戦X~」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/585561695/541472759
(R18)(連載中)現代異能バトル伝奇。異能者が怪獣と戦ったら?をコンセプトに“書き出しました”。
他にも作品がございますので、ご笑覧くだされば幸いです。
では、次回作でお会いしましょう。
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