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第一章 五里霧中の異世界転移

第二十四話 状況整理

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 翌朝、目覚めた香澄かすみは、ベッドの裾に黒い毛玉を見つけて飛びついた。香澄の真の癒し担当は、この黒いモフモフだ。
 子猫の皓輝こうきが無抵抗なのを良いことに、散々撫で繰りまわしてしまった。ふわもこの毛玉の体が、グッタリと伸びて、皓輝は疲れ果ててしまった様だが、香澄の体調は、全く問題ないようだった。

「ごめんね、皓輝。つい、モフり過ぎました」
『 …… うにゃあ』
「皓輝、その姿だと喋れないの?」
『うみゃあ、にゃあ、みゃあ』

 香澄は、子猫バージョンの皓輝に大変満足していた。だが、会話が一方通行になってしまうのは、かなり不自由だった。皓輝に聞きたい事が、まだまだ沢山あるので、一先ずお願いしてみる。

「皓輝、答えてもらいたい質問があるんだけど、話せる姿になれる?」

 子猫の姿がブワッと黒い霧に包まれて、少年の姿が現れる。全身、黒装束だった服装は、シャツだけ白に変わっていた。

『 …… 香澄様、如何いかがでしょうか?』
「うん。その姿も可愛いね」
『香澄様が、ご所望なら、どんな姿にでもなります。どうぞ、撫でまわして下さい。お好きにして下さいませ』

 皓輝は、ベッドの上で膝立ちになり、腕を広げて香澄に撫でまわされる準備をしている。はあ、はあ、若干、息が荒いのは、気のせいだと思いたかった。

「うん、それ以上はいいから! そんなつもりは無いから! 落ち着こう! 猫の姿とはいえ、撫でまわし過ぎました! ごめんなさい!」

 香澄は、頬を上気させ、紅い瞳を潤ませて見上げてくる皓輝に心から謝罪した。そして、感謝した。

「昨日は、助けてくれてありがとう」
『いいえ。もっと早くに、香澄様の危機を察知出来なかった、愚かなしもべをお叱りください。それと、香澄様をお助けしたのは、丸二日前です』
「ああ、そうなんだ。記憶にないのは丸一日以上は眠っていたんだね」

 香澄が、この世界に転移してから、普通に毎日を過ごせてないのは気のせいではない。香澄は、この数日間の出来事を整理してみた。

「まず、濃霧の朝、歩道橋から何故かダイブして、異世界転移したでしょう。それで、その時負った大怪我と魔素に適応するために、最低でも三日間は昏倒していたはずだよね。そして、深夜に目が覚めると、目の前にキラキラ王子様のアレクシリスさんがいたでしょう。翌日、遊帆ゆうほさんとメリラビアさんに出会って、間もなく藍白あいじろに管理小屋から拐われて、気絶したんだった。目覚めたら魔霧の森で、藍白とアレクシリスさんと杜若かきつばたさんと、森を脱出したらキプトの街で、竜族の長の蘇芳すおうさんや黄檗きはださん達と出会ったよね。翌日、皓輝にもキプトで出会ったんだよね。それから、『主従の誓約』で『誓約の女神』と『誓約の精霊』達に会ったね。今も、リーフレッドさんは近くにいるはずだよね  …… うん、ちょと遠くに感じるけどいた!」

 そして、ランスグレイル。と、記憶の中のリングネイリア …… 。

「ダメだぁ! 混乱して何日経ってるのさえわからない。多分、十日間ぐらいの出来事だよね。ハードだ! 精神的にとってもハードだ! 肉体的には超ハードだ!」
『香澄様、大丈夫ですか?あの、さっきから …… 』
すさむ、心が荒む …… 皓輝に心の癒しを求めても仕方ないよね!」

 香澄様は、膝の上に皓輝を乗せて抱きしめた。柔らかな茶髪の髪を撫でまわした。ほほを寄せ、グリグリと頭を擦りつけた。

『香澄様、あの …… 』
「香澄ちゃん、癒されたいなら、僕が癒してあげるよ。だから、それ、捨ててこよう!」

 藍白が、不穏な台詞を吐き出して、皓輝の首根っこを掴んで、コテンとベッドの端へ転がした。皓輝への扱いが、雑でひどい気がする。藍白は、爽やかな笑顔だ。しかし、目が全く笑っていない。
 香澄は、部屋に藍白が居るとは思ってなかったのと、皓輝とのやり取りを、どこまで見られていたのかと考えて悲鳴をあげた。

「ひゃあっ?! 藍白、いつ来たの?」
「ノックしても返事がないから、勝手に入ってきちゃった。ごめんね」

 藍白は、それだけ言って、神妙な顔をして押し黙ってしまった。

「藍白? どうしたの?」
「香澄ちゃん、ごめんなさい。治療するつもりが、重症にして、 …… 痛かったよね」
「藍白が助けてくれなかったら、それどころじゃなかったよ。助けに来てくれて、ありがとう!」

  藍白は、くしゃりと顔をしかめた。

「 …… 冷静に対応してれば、すぐに治療魔法が魔力の反発を起こしているの、わかったのに、その、どんどん傷が増えて、 …… 血が流れてきて、パニックになって、本当に、ごめんなさい」

 香澄は、ぽろぽろと涙を流す藍白を、最初から責める気は毛頭なかった。話しながら、泣きはじめた藍白の頭をポンポンした。香澄の膝の上には、戻ってきた皓輝が抱きつきうなっていた。

「藍白は、泣き虫さんだね。大丈夫だよ。もう、痛くないし、藍白は、わたしを助けてくれたんだよ。ありがとう。 …… こら、皓輝も威嚇しないの」
「香澄ちゃん、許してくれてありがとう」

 藍白は、素直に泣いたり、笑ったりして、身も心も美し過ぎる、この青年の事を身内認定していた。香澄の中で、年の離れた弟か甥っ子のようなポジションだと言ったら、藍白は怒るだろうか?

「藍白、アレクシリスさんは?」
「ファルザルク王国に戻って、女王陛下に直に報告するって、僕と入れ替わりに出発したよ。去り際に、意味のない反省は止めて、私が留守の間は、香澄を守れだなんて、アレクシリスのやつ、何様のつもりなんだよね」
「『落ち人』の『管理者』かな?」

 香澄は、冗談ぽくふざけて言ったつもりだった。それなのに、藍白はとても真面目な顔をして言った。

「香澄ちゃんは、『落ち人』ではないよ。おそらく、リングネイリアにこの世界に召喚されたんだ」
「わたしを、召喚した?」
「うん」
「藍白は、世界の為の『鍵』って、なんのことか分かる?」
「それは、竜族の竜王だけが行える『禁断の秘術』って事しか知らない」
「そう、 …… 蘇芳さんなら知っているかな? すぐにでも会えないかな?」
「後にしよう? 蘇芳も会いたいって言っていたから伝えておくよ。香澄ちゃんは、まず朝食を食べて、お風呂だよね。食欲はある? 体調は大丈夫?」
「そういえば、お腹すいた!」

 香澄は、藍白の用意した朝食をしっかり食べた。そして、次はお風呂だと準備して入ろうとして、藍白に呼び止められた。

「香澄ちゃんの体調が心配だから、お風呂は、一緒に入ろう?」
「ふっ、やっと藍白らしくなってきて良かった。皓輝、藍白と外で待っててね。洗面所の扉を死守して下さいね」
「え~?! じゃあ、もしも具合が悪くなったら、すぐに呼んでね」
『香澄様、不埒な白トカゲの監視は、お任せ下さい』
「誰が、トカゲだ!」
『さあ、来い! 香澄様のお邪魔をするな、白馬鹿トカゲ!』

 香澄は、言い争いをする二人を見ながら、藍白と皓輝は、案外仲良しかもしれないと思った。







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