辺境伯と悪役令嬢の婚約破棄

六角

文字の大きさ
上 下
6 / 6

結婚式

しおりを挟む
アルベルト伯爵は私の手を取って馬車へと連れて行った。私は抵抗しなかった。私は従順について行った。

私は父親に振り返らなかった。私は父親に別れを告げなかった。私は父親に感謝や謝罪をしなかった。

父親は私を見送ることもなかった。父親は私に声をかけることもなかった。父親は私に涙を流すこともなかった。

二人とも無言で別れた。

馬車に乗り込んだ後、アルベルト伯爵は馬車夫に合図をした。馬車夫は馬に鞭を打って走らせた。

馬車は屋敷の門を出て、王都の街道を走り始めた。

アルベルト伯爵は私の隣に座っていた。彼は私の手を握っていた。彼の手は冷たくて硬くて重かった。

「レイナ、これから貴女と私との結婚式が行われます」

「ええ」

「レイナ、貴女と私との結婚式は簡素なものです」

「ええ」

「レイナ、貴女と私との結婚式は辺境伯領で行われます」

「ええ」

「レイナ、貴女と私との結婚式に参列する人々は少ないです」

「ええ」

「レイナ、貴女と私との結婚式に祝福されることはありません」

「……」

二人とも無言で話した。

馬車は王都から遠ざかっていった。

馬車が辺境伯領に到着するまでに、数日がかかった。

その間、アルベルト伯爵と私はほとんど話さなかった。アルベルト伯爵と私はほとんど触れ合わなかった。アルベルト伯爵と私はほとんど見つめ合わなかった。

二人とも無関心で過ごした。

辺境伯領に到着した後、アルベルト伯爵と私の結婚式が執り行われた。

それは簡素なものだった。それは寂しいものだった。それは冷たいものだった。





…………………………………………………………………………

お気に入りを“ぽちっと”とお願いします(゚゚)(。。)ペコッ
“励みになります!”

…………………………………………………………………………

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をされたのだけど…

深月カナメ
恋愛
学園最後のパーティーで婚約破棄をされました。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

元悪役令嬢の末路

柊原 ゆず
恋愛
『悪役令嬢』と呼ばれた令嬢のお話です。

まあまあよくある人生でしたので、二度目はドアマットやめます。

下菊みこと
恋愛
全然悪役令嬢じゃないのに悪役令嬢扱いされた女の子の、よくあるやり直しのお話。 ご都合主義のハッピーエンドのSS。 アルファポリス様でも投稿しています。

10日後に婚約破棄される公爵令嬢

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
公爵令嬢ミシェル・ローレンは、婚約者である第三王子が「卒業パーティでミシェルとの婚約を破棄するつもりだ」と話しているのを聞いてしまう。 「そんな目に遭わされてたまるもんですか。なんとかパーティまでに手を打って、婚約破棄を阻止してみせるわ!」「まあ頑張れよ。それはそれとして、課題はちゃんとやってきたんだろうな? ミシェル・ローレン」「先生ったら、今それどころじゃないって分からないの? どうしても提出してほしいなら先生も協力してちょうだい」 これは公爵令嬢ミシェル・ローレンが婚約破棄を阻止するために(なぜか学院教師エドガーを巻き込みながら)奮闘した10日間の備忘録である。

夫を捨てる事にしました

東稔 雨紗霧
恋愛
今日は息子ダリルの誕生日だが夫のライネスは帰って来なかった。 息子が生まれて5年、そろそろ愛想も尽きたので捨てようと思います。

悪妻と噂の彼女は、前世を思い出したら吹っ切れた

下菊みこと
恋愛
自分のために生きると決めたら早かった。 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者の浮気を見て倒れたら、王太子から求婚されました

下菊みこと
恋愛
悪役やってないのに悪口を言われる不憫な少女のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...