少年・少女A

白川 朔

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中学2年生

13.

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 長谷川に電話をかけるべきなのだろうか。卓人に相談するか迷ってやめた。部屋に戻ってベッドに倒れ込む。
 成績が上がって来てからは母から怒られる事は減ってる。お母さんから見えてる私はきっと良い子なんだ。お母さんは私を知らない。
 ここは風が無くて気持ちが悪い。部屋の外、1階から母が食器を洗っているみたいな音がする。暖房もつけずに目を瞑って考える。
 今日、私はどう答えるのが良かったのかな。特に気持ちもないのについ答えを先延ばしにしてしまった。長谷川は、部活のみんなに背中を押されて休憩時間にわざわざ教室にもどて来たのかな。だとしたら、明日はやっぱりクラスのみんなが知ってるのかな。
 生粋の人気者と私では肌に合わない。最近は明るく振る舞っているけど、どうしたってボロが出てしまうかもしれない。私がやろうとしている事を知られるわけにはいかないのだ。私には恋にうつつを抜かして過ごす時間はない。
 椅子に掛けていたコートに手を伸ばしてポケットに仕舞い込んだ紙切れを引っ張り出して広げる。私の気持ちを伝えるなんてことしないけれど、私と付き合って何がしたいのだろうか。私よりも可愛い子もいい子もクラスには何人もいる。私じゃ無くてもいいのに。
 愛佳だって私より快活だし、裏表のない子だから友達としても気楽に付き合えるだろうに。勉強を教えている時は楽しかった。教えていると少し賢くなったような気がしてたし、長谷川は裏表が無いから正直楽だった。さっきの長谷川は緊張してたのか、赤くなっていたような気がする。
 長谷川は私に勉強を教えて欲しいと言った次の火曜日から毎週放課後に聞きに来た。勉強を見ていると、それ程頭が悪い印象は無かった。分からないところは解っているし、何より理解は早かった。応用が苦手で自分で溶けるようになるまで時間がかかったけど、学校のテストでは真ん中くらいの成績を取っていた。最初の日は彼の裏表の無さに凄く驚いた。
放課後私がどうして良いのか分から無くて、教室で長谷川が聞きに来るのを待っていた。長谷川は他のクラスメイトと話していて、すぐに聞きに来る様子も帰る様子も無かった。
 勉強をする気が無いなら私はもう帰ろうかなと思った頃。
「じゃあなー。」
長谷川の声が聞こえて、顔を上げるとさっきまで話してた子達を見送ってた。
「なぁ、篠原先週のここやっぱ分かんねー。」
それから机の引き出しの中からノートと問題集を取り出して言ってきた。勉強に対してやる気はあるみたいで、解いた後がきちんと残されていた。
「ここは、教科書のこっちの式を使うと解きやすいと思う。」
「あー、なるほど!」
「ちょっと解いてみれば、見とくし。」
人を教えることには慣れて無かったけど、塾で勉強してるから基本的な解き方のコツくらいは伝えようと思う。
「なぁー篠原来週やるときさ、どっか別の教室でやらね?」
最初の時は教室でやるのかと思ったけど、クラスメイトに勉強を頑張ってるのバレるの嫌だからとか言って最初以外は勉強するからと先生に行って面談室を借りた。
 まぁ、たしかに長谷川は他のクラスメイトからも人気がある。私も他の人に見られるのとか嫌だし、卓人に気づかれるのもなんか嫌だったからその案に乗った。
「ありがとう。篠原の解説めっちゃわかりやすかった。」
 笑顔が眩しいすぎると思ったのは愛佳を除いて初めてだった。それに、朝練のあるサッカー部は一日中体操ジャージでいる事が多く制服の長谷川をちゃんと見るのはこの時がはじめてだったかもしれない。
 それからも、同じようにそれぞれの科目を教えている。今思えば、教室を借りてまで勉強したのは、同じサッカー部のメンバーに冷やかされるのが嫌だったのかも。
 そういえば、2学期の中間テストが初めて帰って来た時も凄くお礼を言われたっけ。
「篠原~、今日の放課後なんか予定ある?」
今日も塾の授業があって面倒だと思っていたところだった。
「テスト返しで分かんないとこでもあった?」
「いやそうじゃ無くて、」
言い淀んでから、長谷川は次の勉強会の時で良いやと勝手に決めている。2学期中間までだと勝手に思い込んでいたけれど、断りきれずに曖昧な返事をしてしまった。
 勝手な人だと思っていたけれど、次の火曜日の約束を取り付ける時、は体操ジャージだったから彼もあの日は部活だったはず。裏表がないと思っていたのは私の思い込みだったのかも知れない。暖かくならない部屋で急に寒気を感じた。
 「冬花ー、お風呂入ってしまいなさい。」
お母さんの声は未だに尖っていて聞くたびにチクっとするから驚いてしまった。お母さんに呼ばれたらすぐに行かないと怒られてしまう。
 2枚の紙切れは誰にも知られちゃいけないような気がして今度はポケットに仕舞い込んだ。



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