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あのひのように
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しばらくは忙しい日が続く、自分が選挙に出馬しないからといって仕事がなくなるわけではない。春樹がまとめてくれた資料に目を通し、間違いがないかの確認をしていく。仕事とその引き継ぎの関係で、今日は春樹と別々の仕事だった。
「なぁ、探さなくていいってどういうことだよ。」
めぐりの捜索願の件で山口と話をするために、一緒に呑んでいた。もうめぐりは探さなくて良い。それだけ話して帰るつもりだったが山口引き下がらなかった。
「白井、お前は何がしたいんだ。」
「なんでもないさ。私は、めぐりが自分から帰って来たいと思うまで待とうと思ってな。」
納得がいっていない様子の山口はまだ私に質問を続けている。
「お前の娘は、あの菅野とかいうやつが誘拐したんだぞ、あと少しで連れ戻せるかもしれないってのに。」
「そうだな。」
山口は苛立ちが隠せないように声が大きくなり、早口になっている。
「どうして探さなくていいとかいいだしたんだ。」
なぜかと、改めて聞かれても明確な理由があるわけではない。ただ、春樹と話していて自分の過去のことを思い出したんだ。
私が、子供の頃も親は仕事でいなかった。ただ、私には祖父が家にいてくれた。祖父は病に臥せってい他ので、家で寝込んではいたが、よく私に構ってくれていた。寝込む父と一緒に将棋をしたり、学校どのことや友人の話をしたり調子のいい日には車椅子に乗せて散歩に行ったりしていた。大したことをしていたつもりはなっかたが、祖父が亡くなった時はぽっかり穴が空いて、家の中が知らない場所みたいになった。もしもあの時祖父がいなければ、私はずっと家の中で一人だった。つい先日、仕事が早く終わって帰った時に、家に帰ると祖父が亡くなった時のような虚無感に襲われた。家は単なる建物ではなく、家に誰かがいてその人たちも含めて帰りたい家になるんだと思った。多分、めぐりはずっと知らない家にいる気分だっただろうな。だから、友人の家など知ってる人がいる知っている場所に行きたくなっていたんだろう。
「めぐりがいない時間を家で過ごして、この家に無理やり連れ戻すのは私の役目ではないような気がしたんだ。」
「そうか。」
山口は昔から私の家のことに深入りしてこない。私の言葉を聞いて、山口は落ち着きを取り戻していた。それから、拳にした手を顎に当てるようにして、息を深くはいた。
「白井、俺は警察だ。だから、お前が許していようと俺は菅野を捕まえようと思う。」
「お前は、固いな。」
「前からだよ。お前こそ、菅野を秘書として雇い続けるつもりなのか。爆弾を抱えるようなもんだろう。」
「春樹は、やめてもらうつもりだ。だから、めぐりが帰ってきたら捕まえてもらって構わない。それに、あいつは自首すると思うがな。」
その覚悟はできているようだった。春樹は私のことを嫌っていたと思うがあいつだって寂しかっただけなんじゃないかと思えてきた。
「菅野の家とはどうするつもりなんだよ。」
酒を口に運びながら、冗談めかして聞いたきた。
「お前には、関係ないだろう。」
確かに考えなくてはいけない。和恵の剣にしても春樹にしても菅野家とは何かとうまくいっていない。特に春樹の件で菅野家とは溝が深まりそうだ。
「そうだ、今日はお前が誘ったんだからお前のおごりだよな。」
「そのつもりだが、どうした。」
山口は先程までの話をもう区切って、改めて注文を始めた。
「お前も、なんか頼めば。」
「もう少し遠慮したらどうだ。」
楽しく飲んだのはいつぶりだろう。ずっと仕事のことばかり考えていたから、周りが見えていなかった。グラスの中の氷がカラリと鳴った。
「なぁ、探さなくていいってどういうことだよ。」
めぐりの捜索願の件で山口と話をするために、一緒に呑んでいた。もうめぐりは探さなくて良い。それだけ話して帰るつもりだったが山口引き下がらなかった。
「白井、お前は何がしたいんだ。」
「なんでもないさ。私は、めぐりが自分から帰って来たいと思うまで待とうと思ってな。」
納得がいっていない様子の山口はまだ私に質問を続けている。
「お前の娘は、あの菅野とかいうやつが誘拐したんだぞ、あと少しで連れ戻せるかもしれないってのに。」
「そうだな。」
山口は苛立ちが隠せないように声が大きくなり、早口になっている。
「どうして探さなくていいとかいいだしたんだ。」
なぜかと、改めて聞かれても明確な理由があるわけではない。ただ、春樹と話していて自分の過去のことを思い出したんだ。
私が、子供の頃も親は仕事でいなかった。ただ、私には祖父が家にいてくれた。祖父は病に臥せってい他ので、家で寝込んではいたが、よく私に構ってくれていた。寝込む父と一緒に将棋をしたり、学校どのことや友人の話をしたり調子のいい日には車椅子に乗せて散歩に行ったりしていた。大したことをしていたつもりはなっかたが、祖父が亡くなった時はぽっかり穴が空いて、家の中が知らない場所みたいになった。もしもあの時祖父がいなければ、私はずっと家の中で一人だった。つい先日、仕事が早く終わって帰った時に、家に帰ると祖父が亡くなった時のような虚無感に襲われた。家は単なる建物ではなく、家に誰かがいてその人たちも含めて帰りたい家になるんだと思った。多分、めぐりはずっと知らない家にいる気分だっただろうな。だから、友人の家など知ってる人がいる知っている場所に行きたくなっていたんだろう。
「めぐりがいない時間を家で過ごして、この家に無理やり連れ戻すのは私の役目ではないような気がしたんだ。」
「そうか。」
山口は昔から私の家のことに深入りしてこない。私の言葉を聞いて、山口は落ち着きを取り戻していた。それから、拳にした手を顎に当てるようにして、息を深くはいた。
「白井、俺は警察だ。だから、お前が許していようと俺は菅野を捕まえようと思う。」
「お前は、固いな。」
「前からだよ。お前こそ、菅野を秘書として雇い続けるつもりなのか。爆弾を抱えるようなもんだろう。」
「春樹は、やめてもらうつもりだ。だから、めぐりが帰ってきたら捕まえてもらって構わない。それに、あいつは自首すると思うがな。」
その覚悟はできているようだった。春樹は私のことを嫌っていたと思うがあいつだって寂しかっただけなんじゃないかと思えてきた。
「菅野の家とはどうするつもりなんだよ。」
酒を口に運びながら、冗談めかして聞いたきた。
「お前には、関係ないだろう。」
確かに考えなくてはいけない。和恵の剣にしても春樹にしても菅野家とは何かとうまくいっていない。特に春樹の件で菅野家とは溝が深まりそうだ。
「そうだ、今日はお前が誘ったんだからお前のおごりだよな。」
「そのつもりだが、どうした。」
山口は先程までの話をもう区切って、改めて注文を始めた。
「お前も、なんか頼めば。」
「もう少し遠慮したらどうだ。」
楽しく飲んだのはいつぶりだろう。ずっと仕事のことばかり考えていたから、周りが見えていなかった。グラスの中の氷がカラリと鳴った。
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