わたしはいない

白川 朔

文字の大きさ
上 下
48 / 70
あなたがいれば

35.

しおりを挟む
 早く1人の時間が過ぎて欲しい。そう思えるようになっていた。ハルキが作ってくれた居場所はとても居心地の良いものになって、こうしてハルキと過ごす時間はずっと続いて欲しかった。
「ハルキはどんな学生だった。」
記憶の中のハルキは今よりも真面目そうな学生だったけど、学校に通っているハルキを知りたくなった。
「大人しい生徒だったよ。」
「部活とかしてたの。」
お茶を一口含んで考える素振りをする。
「してたよ。中学の頃はサッカー部で高校は生徒会役員をしてたよ。」
ハルキがサッカーをしてる姿を想像してみた。ボールを追いかけるよりもベンチで作戦の指示を出す方が向いている気がする。それにいつも優しいから、どうやって勝つかよりもチームメイトの心配ばかりしていそうだ。
「生徒会長とかしてた。」
聞いて見るとハルキは笑って答える。
「あの時は必死だったから。父さんが厳しくて兄さんがやりたいことが出来たらしくて後継を僕にするか、兄にするか迷ってた時期で僕に菅野家の息子はこれくらいできて当然と言うように、いろんな期待を押し付けたんだよ。」
今でこそ、笑い話にして話しているけど、当時はすごく辛かったと思う。
「学校楽しかった。」
「まあそこそこね。」
「友達は多かったの。」
「多くはなかったけど、仲のいい友達はいたよ。今もたまに連絡も来るし。」
ハルキの言葉が意外だった。違うのかもしれないと始めて思った。
「めぐりちゃんは友達いっぱいいる。」
「友達はいない。」
どこからが友達なのかもわからないから、どこから友達と数えていいかわからない。
「いない。」
コップを両手で持ったハルキがこちらを覗き込んでいる。
「近づいてくる人は、だいたいお父様の仕事の関係者の子どもなの。他の子は始めから関わって来ようとしないの。」
お父様は気が短いことが有名で、子供同士も仲良くさせておこうということで、形だけの友達付きあいが続いていた。
「でも仲良くなって友達になったんじゃないの。家にも泊まりに行ったりしてたでしょ。」
「それは、お父様のことで仲良くしてくれてると分かったあとにその子たちにお願いしたことだったの。」
お父様が帰りの遅い日に限って近くにいる誰かに頼んでた。家に居たくない日はお父様のことを話題にしてから、泊めて欲しいと頼むと大体は泊めてもらえた。
「ハルキはそんな友達いたの。」
「何人かはいたよ。でもうちはその頃はもう落ち目になっていたし県外の私立に通っていたから周りもあまり知らなかったと思う。」
「いいな。」
羨ましかった。何をしても、白井家の娘だったからお父様のことが嫌いだったし、そんな自分も嫌になっていた。誰にも自分の存在をわかってもらえていないような気がしていた。
 ふわりと暖かい物が頭の上に乗った。撫でられていると思った時、失うのが怖いと思った。ハルキは失いたくない。何か機嫌を取るための慰めの言葉が欲しかったわけじゃなく、ただ心からの同調と共感が欲しかっただけだと気付いて涙が溢れた。誰かが捕まえにくるのを待つのではなく、いつか自分から家に戻ろう。この人を罪を背負わせたくない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その愛、お断りします。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った…… 彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。 邪魔なのは、私だ。 そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。 「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。 冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない! *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

新・八百万の学校

浅井 ことは
キャラ文芸
八百万の学校 其の弐とはまた違うお話となっております。 十七代目当主の17歳、佐野翔平と火の神様である火之迦具土神、そして翔平の家族が神様の教育? ほんわか現代ファンタジー! ※こちらの作品の八百万の学校は、神様の学校 八百万ご指南いたしますとして、壱巻・弐巻が書籍として発売されております。 その続編と思っていただければと。

婚約破棄を受け入れたのは、この日の為に準備していたからです

天宮有
恋愛
 子爵令嬢の私シーラは、伯爵令息レヴォクに婚約破棄を言い渡されてしまう。  レヴォクは私の妹ソフィーを好きになったみたいだけど、それは前から知っていた。  知っていて、許せなかったからこそ――私はこの日の為に準備していた。  私は婚約破棄を言い渡されてしまうけど、すぐに受け入れる。  そして――レヴォクの後悔が、始まろうとしていた。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

祖父に聞いた、ある場所について。

一宮琴梨
ホラー
 私の祖父母は、とある自然豊かな場所に住んでいます。私は小中学生の頃、毎年祖父母の元へ訪れていました。  その時必ず寄るのが、今は別のことに使われている山奥のひいおばあちゃんの家です。  今回、皆様に聞いていただきたいのは祖父母の家から元ひいおばあちゃんの家の間にある、ある場所についてのお話です。

山縣藍子のくすぐりシリーズ

藍子
大衆娯楽
くすぐり掲示板したらばの【君の考えたくすぐりシーン】スレで連載していた大人気?(笑)シリーズの藍子のくすぐり小説です。

傍若無人な姉の代わりに働かされていた妹、辺境領地に左遷されたと思ったら待っていたのは王子様でした!? ~無自覚天才錬金術師の辺境街づくり~

日之影ソラ
恋愛
【新作連載スタート!!】 https://ncode.syosetu.com/n1741iq/ https://www.alphapolis.co.jp/novel/516811515/430858199 【小説家になろうで先行公開中】 https://ncode.syosetu.com/n0091ip/ 働かずパーティーに参加したり、男と遊んでばかりいる姉の代わりに宮廷で錬金術師として働き続けていた妹のルミナ。両親も、姉も、婚約者すら頼れない。一人で孤独に耐えながら、日夜働いていた彼女に対して、婚約者から突然の婚約破棄と、辺境への転属を告げられる。 地位も婚約者も失ってさぞ悲しむと期待した彼らが見たのは、あっさりと受け入れて荷造りを始めるルミナの姿で……?

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

処理中です...