異世界転生興国記

青井群青

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過保護in王都再び&再会Ⅲ

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   王都への所要時間はバギーでたったの1時間だった。ヒロキが魔石に魔力を込める作業で辟易している日々を過ごしているうちにマイクがトンネルの幅を車が余裕ですれ違えるように広げられていた。相変わらず仕事が早い、しかもご丁寧に崩落防止の補強もしっかり施されていた。さらにトンネル内には動力は魔石だと思うが等間隔に照明とトンネル中央部の天井に換気扇筒が取り付けられていた。

「さて、二度目だけど行きますか」

「お待ちください、ヒロキ様。念の為護身用にこれをお持ちください」

「え?何これ?」

 王都の門の手前100メートル程でシエラがナイフを二本渡してきた。ヒロキは怪訝そうな顔をして受け取ってナイフを抜いてみるとナイフの鍔にあたる部分に不自然な突起がある。更にグリップ部分にはボタンが二つ付いていた。

「これは・・・スペナツナズ・ナイフ?バリスティックナイフとも言うが」

「そうですね。ただそのナイフは鍔の突起を押すとスプリングではなく内蔵された風魔法魔石の力で発射されます。更にワイヤー付きで飛びます発射後もう一度同じ突起を押すと巻き取って刃を回収できます」

「そ、そうなんだ・・・。あと二つのボタンは?」

「上のボタンは刺さった相手に更に電気ショックを与えられます。下のボタンは刃を躱された時に押すと牽制程度ですが火魔法が飛びます。射程は20メートル程ですね」

「ちょっ!何その初見殺しのオンパレード?超怖いんですけど?それに護身用にしては物騒過ぎませんかね?てゆうか誰が作ったの?」

「私が作りました。魔石部分の加工はウィスキーが仕上げました。会心の出来だそうです。因みにサイズも大中小取り揃えています!今お渡ししたのが中サイズです。大サイズも装備しますか?」

「いや・・・大はいらないかな・・・中を1本と小1本でお願いします」

「では、ヒロキ様の腰に装備している銃剣を大に置き換えて中1本と小1本装備してください。ホルスターもあるので小は足首に仕込んでください。それに先程物騒とおっしゃいましたが、武器は装備していることを見せることによって抑止力にもなると認識してください。前回のように売上金目当てで襲われることもあるので」

「わかったよ・・・でもちょっと大げさじゃない?大腿部に拳銃もあるのにさ?」

「この世界ですとまだ拳銃は武器と認識されておりませんので刃物の方がはったりが効きます」

「り、了解しました。では改めて出発しよう。最初は服屋だったよね?」

「ご了承ありがとうございます。はい、行先は服屋で結構です」

 ひと悶着あったが漸く門に車を進めた。一度来たことがあるので門の衛兵も前回と同じだった為、特に不審がられることもなく王都に入ることができた。入都料も前回作った商業ギルド証を見せると払うこともなかった。ただし、車は王都の内部まで乗り入れは控えて欲しいと言われてしまったので入口の城壁に沿って馬車置き場があるのでそこに駐車してシエラに荷物番を頼んだ。今回は町にある程度余裕があるので魚の干物や豆類や小麦と油をそれぞれ樽に入れて持って来ていた。あとで商業ギルドで買い取ってもらう予定である。

 シエラを置いてヒロキは門の衛兵に服屋までの道を聞いて歩き始めた。服屋は今いる南門地区ではなく東門地区の端に3軒程固まっているらしい。3軒固まっているのはありがたい。虱潰しにまわればすぐに見つかるだろうと思われた。20分程歩くと一軒目が見えてきたので早速入って聞いてみることにする。

「すいませーん!どなたかいますか?」

「はいよ?いらっしゃい!何かお探しですか?」

「ええ。人を探しているのですが、最近働き始めた店員さんはいますか?」

「なんだい?探しているのは服じゃなくて人か・・・いや、うちは家族だけで経営しているからいないな。よくわからんが他の店に聞いてくれ」

「わかりました。お邪魔しました」

「また来てくれよな!最近景気が悪くてちょっとでも買ってほしいからな・・・」

「見つかったらまた来ます。その時はお願いします」

「ははっ!期待せず待ってるよ」

 ヒロキは一軒目ははずれだったので次の店で同じやり取りをしたが二軒目も見つからず引きの弱さを実感して少しだけ落ち込んだ。気を取り直して最後の店に入る。最後の店は前の2軒に比べて服のカラーバリエーションが豊富だった。服のディスプレイにもこだわりが感じられ、縫製もしっかりしており品質も良さそうである。ヒロキは同じように声をかけた。

「ごめんください!どなたかいますか?」

「いらっしゃいませ!何をお求めですか?」

「実は人を探していまして・・・。最近働き始めた店員さんはいますか?」

「最近ですか・・・。あ!キタムラっておじさんならいますよ?今呼んできますね」

 ヒロキはキタムラと聞いて心当たりがあった。服と関係があるキタムラという人物は一人しかいない。ただし、該当する人物は自分より先に他界しているはずなのだが何故自分より後からこの世界に来たのかわからなかった。

「お待たせしました。私がキタムラですが・・・あっ!?オダくんじゃないか?やっぱりそうだ懐かしいなあ。元気だった?あ・・・この質問は変だよね?ここにいるってことはさ・・・。それに一緒に飯食いに行く約束果たせなくてごめんよ」

「キタムラさんもお久しぶりです。約束の件は気にしていませんから・・・仕方ないです」

 少し悲しい過去になるが前世でキタムラとヒロキは派遣の仕事で一緒に働いていたことがあった。年齢は一回り近く離れていたがキタムラの人柄の良さと帰りの電車が同じだった縁もありよく仕事の愚痴を語りあった仲であった。その会話の流れで食事に行く約束をしていたのだが、その矢先にキタムラは職場で倒れ救急隊員の懸命な救命措置甲斐無く他界してしまっていた。死因は過労であった。キタムラは当時父親が末期癌になり終末医療で実家に療養することになったため、平日は仕事をして休みは飛行機で実家に帰省を毎週末繰り返していた。その状態が一か月続いた結果であった。

「「でも、また会えて良かった」」


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相変わらず遅筆で申し訳ないです。もう少しペースあげたいですが今はご容赦ください。
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