異世界転生興国記

青井群青

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集落滞在1日目その1

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 ヒロキはべリルを待つ間に小屋でくつろぐことにした。小屋の中は広さは六畳間くらいでむき出しの木製ベッドに机と円椅子があるだけだった。一応掃除はされているようで部屋はそこそこ綺麗に感じた。ただ、建物自体は安普請で所々に隙間があり、かなり造り自体は適当である。しかし昨晩の野宿に比べれば快適そうではあった。ヒロキはとりあえず編上靴を脱ぎ靴下も放り出しベッドに身を投げ出し横になった。数分後気持ち良くなりうとうとしかけた頃に壁の隙間から風と一緒に悪臭がした。鼻が曲がりそうになり思わず飛び起きて叫ぶ。

「く、くっさ!臭い!!」それは強烈な糞尿の臭いであった。
「どうした!?何があったんだ?」勢いよくドアが開きべリルが入って来る。
「いや、ちょっと余りにも強烈な悪臭がしたのでびっくりしてしまって・・・。」
ヒロキは申し訳なさそうに答えた。
「?。なんだそんなことか。10日に一度各家の糞尿が入った瓶を荷車に積んで捨てに行くんだよ。それが近くを通っただけだろ?何事かと思ったぞ。」
「念のために聞きますけど、何処に捨てるんですか?」
「川に決まっているだろう?あっとゆう間に流れて臭いもしない。昔からやっていることだ。それにこの集落の下流に流しているから問題あるまい?そんなことより少し遅いが飯にしよう。量は少ないがお前の分もあるぞ?」そう言うとべリルはバスケットを机に置く、中には固そうな黒いパンが4個蒸かした芋が2個、姫林檎のような果物が2個入っていた。ヒロキは先程の悪臭で食欲が減退していたが、気を取り直し食べることにした。二人はそれぞれの食べ物を半分ずつ食べた。

「オイシカッタデス・・・。ゴチソウサマデシタ。」
「無理しなくていいぞ?顔に出てるし。・・・俺だってうまいとは思っていない。無いよりはましだとは思うがな。」
 べリルは苦笑しながらそう言ったあと、しまったとゆう顔をして懐から小さな土瓶を取り出して申し訳なさそうにヒロキに言った。
「すまん・・・。塩があったのを忘れてた。」
 ヒロキはじと目でべリルを見る。べリルは目を逸らしながらこう続けた。
「塩も最近では貴重品だからな・・・。まあ・・・その・・・なんだ。悪かったよ!では親父の所に向かうぞ!」べリルは恥ずかしそうに矢継ぎ早にそう告げると立ち上がって小屋を出て行ったのでヒロキは慌ててあとに続いた。
 歩きながらヒロキはべリルに話しかけもうひとつ頼みごとをする。

「実はもうひとつ頼みごとがあるのですがいいですか?」
「なんだ?まだあるのか?呆れた奴め、一応言ってみろ。」
「この集落で魔法の使い方をできれば教わりたいのですが?」
 べリルは少し考る仕草を見せたが答える。
「魔法か・・・。初歩的なものなら俺でも教えられるが適任ではないな。そもそも見張りの仕事もあるしな。今日はたまたま滅多に人が通らない場所を見張ってただけだからな。そうだな、俺の両親の隣に住んでいるライルという老人が住んでいるがその人が昔、町で基礎魔法を教える塾のようなものをしていたな。あとで聞いてみると良い。」そう話しているうちに二人は一軒の家の前に着いた。丸太を組んだログハウスのような建物だ。よく見ると集落の建物はほとんどがログハウス風だった。べリルは家の戸を叩き返事も待たずに開けるとヒロキに入るように促した。ヒロキが家に入ると、そこには人の良さそうな初老の老夫婦がいた。

「はじめまして、いきなりお邪魔してすいません。旅人のヒロキと申します。」
ヒロキは努めて丁寧にあいさつした。
「どうもはじめまして、べリルの父カールと申します。こちらは家内のメレルです。何もない集落ですがゆっくりしていってください。話は息子から伺っております。まずはお掛けください。」
穏やかにあいさつを返すとカールは食卓テーブルにヒロキを招く。それと同時にべリルは家を辞していた。おそらく職務に戻ったのだろう。ヒロキは椅子に座るとまずは昼食のお礼を述べた。それに対してカールは申し訳なさそうに答えた。
「困っている旅人を助けるのは当然のことだと思っております。ただ粗末な物しか用意できなくて心苦しいくらいです。さて、あいさつはこれぐらいにして本題に入りましょう。私供が町にいたころの病について、とのことでしたかな?」
カールはゆっくりとそう述べた。ヒロキはそれに対して聞き返した。
「そうですね。町の方々が祭りの後に3分の1も亡くなったと聞きました。私は医者ではないのですが、少し気になりまして、これからの旅に役立てればとお伺いした次第です。どのような症状だったのですか?」
カールは悲しげに遠い目をしながら答える。
「当時のことは思い出すと少々辛いのですが、病も祭りの直後ではなく2~3日後に流行りだしました。症状は一番多かった者で下痢が止まらない、次に嘔吐、最後に両方でした。亡くなった者はいずれも体の水分が失われた状態になってしまいました。当時の領主様も下痢と嘔吐が特にひどかったそうです。祭り自体も特に変わった食べ物が出された訳でもなく、川で獲れた魚を焼いた物や生野菜や果物でした。酒も出されましたが悪酔いする程飲んだ者もいませんでした。私共は幸い祭りの運営や裏方をしておりましたので難を逃れましたが、今思い出しても悲しく恐ろしい出来事でした。病になった者は熱も無く、医者も何人かいましたが原因がわからず頭を抱えておりました。私が知っている事は以上です。」
カールは言い終わると少し疲れた表情をしていた。隣に控えているメレルの表情も暗い。
 ヒロキはカールの話を聞いて考えてみる。どこかで聞いたような病気である。仮に原因が食べ物ならば寄生虫か細菌である可能性が高いと推測される。実にもどかしい、思い出せるようで思い出せない。何とかしてあげたい。話を聞く限りでは、目の前の老夫婦はもとより町の人間がかわいそうである。
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