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第173話 精霊化(2)

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魔人化処置を施されたサリーに、
オリジンのスキルを使い救うことができた。
精霊化スキルを使用して、サリーは以前よりも更に美しく生まれ変わっている。
その姿は元魔族とは思えないほど清らかだ……
赤い髪はそのままだが、肌は透き通るほどに白い。


「サリー!!!」


母上とユーリがすぐさま駆け寄り、
サリーに抱きついた。
二人とも心配で堪らなかったのか、
涙を流しながら喜び合っている。
サリーもこれ程心配されると思わなかっただろう。
泣きながら抱きつく二人を見て、
優しく微笑んでいた……


「サリーよ、身体に異常はないか?」


精霊化によって重大な欠陥が出ないとも限らない。
オリジンは真剣な表情で問いかけた。


「大丈夫……
 凄く爽快で晴れやか……」


美しく微笑む姿に思わず見惚れてしまう。
存在が変わったとはいえ、
いきなり変わりすぎて驚いたのだ。

そしてサリーの答えを聞き、無事に救えたと安堵したが、やり取りを見ていたミューズが口を開く。


「存在を精霊に変えた……だと?」


サリーを見て、事実を受け入れられないでいる。
常識を逸脱したスキルを見て、
更に好奇心を掻き立ててしまった。


「素晴らしい、素晴らしいぞ!
 人族を精霊にも変化できる!
 スキルはどう変わった?」


血眼になりながら、変化が気になって仕方ない。
次の研究材料を見つけて、
ミューズは、興奮が冷めない様子だ……


「見てみれば精霊の契約者が二人……
 器になり得るかもしれない素材まで集まるとは」


サリーだけでなく契約者を前にして目を輝かせた。
研究材料が自分の元に集まり歓喜している。


「ミューズ……
 お前は、危険だ!
 ここで必ず仕留める!」


賢者が言葉を発した後、そのまま高速で接近して、強化格闘術の蹴りを繰り出した。


「ロゼ!!」


ミューズは魔力障壁で賢者の攻撃を凌ぐ。
しかし、お返しとばかりにミューズが、
暗黒魔法を発動すると、賢者も魔力障壁で防いだ。


その攻防の最中、ミューズは不敵な笑みを浮かべながら言葉を発する。


「魔人計画はもう最終段階まできたのだよ……
 後はその器だけだ!」


圧倒的な戦力を前にしても、
ミューズはその表情を崩さない。


「アデルに不死を与えたのは私だよ……
 このカプセルの命を犠牲にしてな」


魔族は合理的に考えて手段を計算する。
確かにサリーのように、魔界に住む全ての者達が悪では無いだろう。
しかし、自分が助かるために、
ミゲルの人々を犠牲にするのを許せない……


「ミューズ、これ以上……
 お前の思い通りにはさせない」


俺は神速スキルを使い、
ミューズとの距離を詰めていく。


「私を攻撃すればするほど、
 お前が人間を殺すことになる!」


「さっきも見ただろう?
 このスキルを……」


聖域スキルを発動させて、
神々しい光が俺とミューズを囲むと、
不死の効果が徐々に消えていく……


「な、何!これは!」


「女神から貰ったスキルだよ」


話していなかった事実に目を見開き驚いている。
更に自身から不死の力が抜けていくのを信じられないでいた。


「スキルを吸収しているだと?
 そんな……そんな馬鹿なことが……」


聖域スキルは魔力消費が著しく激しい。
マリアとユーリから魔力を送って貰い、
何とか聖域を維持出来ていた。


「母上!殿下!」


聖域を展開している間、俺は攻撃ができない。
この場で攻撃手段のある二人に頼むと、
母上の光の剣とシャルロットの精霊魔法がミューズに直撃する……
そして徐々に光の粒子に変わり始めた。


「私が、この私が死ぬだと!
 ありえない!」


「これでお前を倒せば、
 魔人計画は食い止められる!」


俺がその言葉を発した瞬間、
ミューズは不敵な笑みを浮かべながら、
光の粒子となり消えていく……


ミューズの笑みは、決して計画を阻止出来ないと言っているように見えた。


そして今もサリーを囲みながら、
泣き続ける母上やユーリを見て、
改めて心に誓う……


今の幸せを守るために、
魔族の思い通りにはさせない。


心の中で一人決意を固めていると、
俺の手をマリアが握る。


「みんなが、クリスを支えるよ……」


そうだ……
決して俺は一人ではない……
協力して乗り越えれば良いじゃないか。


「宜しく頼むよ……
 マリア……」


そしてマリアと一緒に手を繋ぎ、
サリーの元に向かう。


「サリー、
 また会えて嬉しいよ」


「また貴方に助けられたわね……」


サリーとはいつも長話をしない。
例え短い会話だとしても、
それでも信頼を感じていた……


「そうね……
 今度はお返ししてあげないとね」



「へ?」



「私、精霊になったし……」



奴隷術は、強力なスキルだが気軽に使えなかった。
その歯痒さがあったのかもしれない。
精霊化で新たな力を得て、
サリーは力を貸すと言った。
そして俺の聖域スキルと、サリーの存在が今後の運命を大きく変えるとは思いもしないのであった。
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