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第172話 精霊化

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ミゲル地下にある研究所で、
魔族のミューズを追撃しようと走る。
しかし俺の攻撃を阻止しようと、
サリーが魔法障壁を展開した……


「サリー!!」


「無駄だよ……
 既に人族の遺伝子を入れた……
 これでも自我が崩壊しないのは、
 よほど今の人生に未練があるのかもな」


憎たらしい笑みを浮かべながら、
挑発するように声を発する。
その言葉が俺の感情を更に奮い立たせた……


「いい加減にしろよ……
 ミューズ……」


サリーもミゲルの人々も、
道具のように扱われるために生まれてきたわけじゃない……


怒りが覇王の力を更に増幅させる。
それだけでなくマリアとユーリから届いた魔力を聖剣に流し込んだ……


「反応できない速度で攻撃すれば良い」


サリーが魔力障壁を張る前に、
神速スキルでミューズの懐に入り、
一撃で倒そうと考える。
しかしミューズは既にスキルの指示を終えていた。


「魔界でも有名だったんだよ……
 奴隷術使いが四天王に操られていたからな」


突如、サリーの奴隷術が発動して、
カプセルの中から被験者達が現れる。
しかし、そのスキルを使う度にサリーは、悲鳴をあげて抵抗しているように見えた……


「サリー!!!」


初めて出会った時は、自分の復讐のために合理的に行動していた。
しかし一緒に暮らしていて、
徐々に変わっていくのに気付いたんだ……


沢山の人々と触れ合って、
きっとサリーの心は変わっている。
特にリリスと話していた時の笑顔は、
輝き溢れていた……


完全には自我を失ってはいない。
今もこうして苦しみながら、
ミゲルの人々を守ろうと必死に戦っている……


「オリジン……
 俺に力を貸してくれ!」


精霊界で聞いた言葉を忘れていない。
オリジンだけが、サリーを助ける唯一の方法を知っている。


「自我が残っているのが条件だが、
 まだ微かにある……
 それを引き寄せられるかは、お前次第だ」


まだ救える可能性があるのなら、
俺は全てをかけて臨みたい……
みんながサリーを助けようと必死なのだから……


「覚悟を決めたか……
 ならば、私と仮契約しろ!
 少しでも成功率を上げられる」


精霊石が無ければ精霊契約は出来ない。
その場合は、仮契約を行い、
一時的に精霊の力を使用できると説明を受けた。


「その意志を、どこまでも貫いてみせろ……」


オリジンが言葉を発した途端に、お互いの光が重なり精霊契約を開始する。
扉に取り込んだ時よりも遥かに強力な力を感じていた。


そして仮契約を済ませて、辺りを見回すと、
母上、マリアやユーリが俺を囲むように守っている。


「クリス……
 成功したか?」


力強く頷き不安そうに見つめる母上を安心させた。
仮契約を済ませてから、オリジンの指示でシャルロットも共に行動するよう言われている……
シャルロットは、既にエアリーとの精霊契約を終えていた。


「お前達二人の力で、精霊側に引き寄せろ」


オリジンの声を聞いた瞬間、
俺達は、サリーに向かって歩く……


サリーは、今も涙を流しながら苦しんでいた。
その苦しみから解放するために、
聖域スキルを発動する。


「こ、この光は……な、んだ」


俺達の周りに温かな光が溢れて包み込んだ……
その光の中であれば、スキルは吸収されて俺の魔力に変換される。


「これで、奴隷術を封じたぞ!」


周りの被験者達の攻撃が停止して、
研究室を彷徨い始める。


「オリジン!!」


全ての準備が整ったところで、
オリジンが、一時的に上空に現れた。
そして精霊化スキルを発動する。


杖から放たれた青い光が直撃して、
サリーは少しずつ光の粒子に変わる……


「完全に消える前に、
 精霊として再構築しろ!」


このまま精霊化に失敗すると、
サリーの存在は消えてしまう。
本能的に今が正念場だと悟った。



「サリー!戻ってこい!!」



魔族の勝手な都合に、
今まで散々苦しんできた……



これからは、
自分の意志で生きても良いはずだ……



「お前が魔族だからなんて関係ない!」



家族を殺されて……


エレノアに操られて……


最後がこんな終わり方なんて、
絶対に認めない……


幸せになる権利が、
サリーにもあるはずだ……



「俺達には……」



今は仮そめの関係じゃない。
もう既に俺達は……



「お前が必要なんだよ!!!」



決して俺だけではない。
みんながサリーが帰ってくるのを祈っている。



そして喉が枯れても、
必死にサリーの名を叫び続けた……




きっとその想いが伝わったのだろう。
奇跡が起きたのだ。




光の粒子が少しずつ姿を形成して、
その美しい姿が見える……



「サリー!!!」



生まれ変わった後も、
たとえその存在が変わってしまっても……
俺達には関係ない……





「サリー、おかえり……」




何故なら、サリーは、
俺達にとって大切な家族なのだから……
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