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第166話 叫び

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精霊界の長老オリジンの話を聞き、
母上はリールで既に捕まっていたと知る。
俺達が精霊界に辿り着いたのも、
預言者エメリの言葉によって動かされたからだ。


「エメリの予言には、
 もしかすると未来に行動させる力も、
 あるのかもしれないな……」


賢者の推測を聞き、エメリの対策を練っていく。
アデルだけではなく、エメリも襲ってくる可能性は0ではないからだ。


「転移陣の守りも固めてあります」


長老は、アウラに転移陣を守るよう指示している。
襲撃まで間もないと言われており、
精霊達の特徴やスキルを把握して、作戦を立てていた。


「一通り精霊達のスキルを把握したが、
 本当にこのスキルを使って良いんだな?」


「はい……元よりこのままでは、
 殺されてしまうでしょう……
 それであれば、賢者様の作戦に賭けます」


「多分成功するだろうが、
 確証はないから駄目でも恨むなよ」


精霊界に住む全ての者が賢者の作戦に同意した。
イフリートを除き、外の世界を知らない精霊が多く、殺されてしまう可能性が高い。
賢者の提案した方法は奇抜だが、
確実に精霊達を守る手段なのは間違いなかった。


「それでは、作戦に移るぞ……
 クリス……スキルを使え」


賢者の指示に従い、
俺はスキルを発動していく……
精霊界にそのスキルが広がり、
俺自身のレベルが上昇した……




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




精霊界の転移陣から、
魔族の一人が姿を表す……
アウラの使用していた魔導具の効果を打ち消して、瘴気を浄化したのだ。
その人物は四天王アデル。
長い金髪にツノが生えた魔族で、
目は赤色をしている。


「ようやく精霊界に入り込めた……
 魔王城に連れ帰って、沢山実験してあげる」


そしてアデルの次に続々と魔族達が転移陣から侵入してくる。
そのうちの一人に銀髪に赤目をした女性がいた。


「光の勇者も精霊を捕らえなさい……
 でも、殺しちゃダメよ」


「……」


隷属の首輪を付けられており、
その自我を失ってしまっている。
クレアの瞳は、正気が失ったように、
色が沈んでしまった……


「アデル様!精霊達が見当たらないのですが」


「何よ!ちゃんと探しなさい!」


魔族達が手当たり次第に探すが見つからない。
このままでは、大人数を従えて、
大渓谷を渡ってきた意味がなくなってしまう。


「静かすぎる……
 逃げ出したなんて情報は密偵からは、
 聞いていないけど……」


アデル達が手当たり次第に探しても、
精霊達は出てこなかった……
業を煮やした魔族達は破壊行動に出るが、それでも一向に現れない。


「っち!一足遅かったか……」


そしてアデルが舌打ちをして、
諦めようと転移陣に歩き出した瞬間、
転移陣の輝きが消えていく……


「な、何よ?」


「アデル様!転移陣が機能しなくなりました!」



転移陣の魔力が遮断され、
魔族達は精霊界に閉じ込められてしまう。
そしてその瞬間に魔族達の影に、
闇魔法の影が伸びる……


「う、動けない!」


「な、何だこれは!」


魔族達は慌てふためくが、
クレアは神速スキルで回避してから、
更にアデルを回収して、古民家の屋根裏に避難した。


「助かったわ……
 でも、これは何?」


侵入した魔族1000体のうち、
半数が闇魔法によって縛られた。
そして操られていない魔族に向かって攻撃を始めた。


「や、止めなさい!貴方達!」


魔族達の悲鳴が精霊界に響き渡り、
操られた魔族達の動きは止まることがない。
しかし、合理的な種族である魔族は、
仲間達が使えなくなったと知った瞬間、切り捨てようと考える。


「仕方がないわ……
 光の勇者よ、やりなさい!」


「……」



クレアは、操られている魔族達に、
光の剣を浴びせて、一瞬で葬り去った。


「仕方のない犠牲だわ……
 でもあれだけ苦労したのに、許さないわ」


残りは150体程となってしまい、
アデルは苛立ちを隠せない。
これだけの準備をしてきたが、
何者かの策略に見事に嵌められてしまった。


「ふふふ、私を馬鹿にしてくれたわね!
 出てきなさいよ!殺してあげるわ!」


優秀な科学者であり、頭がキレるアデルがここまで後手に回ることはない。
屈辱を味わい、ヒステリックを起こしている。


「まあ、少し落ち着いたらどうだ……
 それとも冷静に敗北を受け入れられないか?」


アデルの性格を予測して、より怒り出すような言葉を選び揺さぶっている。
その言葉を発したのは、賢者だ。


「き、貴様は!」


「久しぶりだな、アデル……
 お前、確かエレノアの娘だったか?」


その言葉を発した瞬間に、
アデルは嫌悪感を露わにする。
賢者が発した通り、どことなくエレノアの面影があるのだ。


「あの人は魔法の才能はあったけれど、
 頭が弱かったの……
 だから、人間なんかに負けたのよ」


「そうだな……
 人間ごときに負けるのは弱いよな」


アデルの真横までクリスが移動して、
その言葉を発したと共に、強化格闘術の蹴りを喰らわせる。

アデルをその蹴りによって弾き飛ばすと、更にクリスは追いかける……

しかし、即座にクレアが光の剣で応戦して、クリスの追撃を阻止した……



「母上!」



「……」



クリスは、目の前で母親と対峙するが、
その瞳は自分の息子を認識できないでいる……
それでもクリスは、必死に母親を叫び続けていた……
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